約半数の企業が指導を丁寧に行うことを意識、育成には時間や指導者不足に加え早期離職の課題も
――企業の新入社員・若手社員に対する期待や指導等について東京商工会議所がアンケート調査
国内トピックス
東京商工会議所(小林健会頭)は4月22日、「企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員に対する意識調査」の集計結果を発表した。それによると、新入社員を指導する社員は、仕事を丁寧に教えることを最重要視しており、部下の声に真摯に耳を傾け、明確なビジョンを持ってコミュニケーションを図っている。いわゆる「Z世代」には、ITやデジタルスキルが高く効率的な発想を持っているとの認識を持つ半面、精神面の弱さや価値観の違いなどを心配する傾向がみられ、育成に必要な時間や指導者の不足、早期離職に悩まされている企業も少なくない。なお、同日に発表した「2024年度新入社員意識調査」結果では、就職先の会社でいつまで働きたいかの問いに対し、人手不足等を背景に「チャンスがあれば転職」と答えた人が「定年まで」と回答した人を上回った。
調査は今年3月、企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員に対する期待や指導・成長に関する事項を把握する目的で実施。過去5年間に東商の研修講座を利用した企業5,603社のうち427社から得た回答を集計した。回答率は7.6%。回答者は主に企業の人材育成および研修・教育訓練の担当者。
仕事を丁寧に教えることや部下の意見を真摯に聞くことを重視
調査結果によると、新入社員の指導にあたる上司が「特に大事にすべきこと・心がけるべきこと」(最大3つまで回答)は、「仕事の指導を丁寧に行うこと」が48.0%でトップ。次いで、「部下の意見や考えを真摯に聞くこと」(37.9%)、「明確な理念や考えを持っていること」(36.1%)、「部下との仕事上のコミュニケーションを重視すること」(34.9%)などをあげる企業が多かった。仕事を丁寧に教えることを重視しているほか、部下の意見を尊重し、明確なビジョンを持ってコミュニケーションを図ることも大切にしている様子がうかがえる。
7割超が新卒者の受講する研修講座を手配
今春、企業が行った人材育成や教育訓練に関する取り組み(複数回答)は、「新卒者が受講する研修講座の手配」が73.7%で最も多く、以下、「新卒者の育成計画(研修計画等)の作成」(58.3%)、「メンターやOJTの指導役となる社員の選定」(42.9%)、「新卒者を対象とした研修制度や人材育成に向けた取組内容の見直し」(24.0%)など、総じて新入社員を対象とする内容が目立つ。その一方で、「上司となる社員のハラスメント研修の受講」や「指導役となる社員への指導法に関する研修の受講」「新卒者以外の社員を対象とした研修制度や人材育成に向けた取組内容の見直し」などの新入社員以外の社員を対象とする取り組みはいずれも20%未満にとどまっている。
働くうえで大事にして欲しいのは「主体性」「規律性」「実行力」
また、経済産業省が提唱している「社会人基礎力」を構成する能力要素(3つの能力、12の能力要素)に照らして、新入社員が仕事をするうえで特に大事にして欲しいこと(最大3つまで回答)を尋ねると、「主体性」(73.5%)が突出しているほか、「規律性」(33.7%)や「実行力」(32.3%)をあげる企業も少なくなかった。
新入社員には「規律性」の重要性の理解促進を
なお、東商は、同所が実施した新入社員研修の受講者1,021人を対象にWebアンケートシステムを利用して実施した「2024年度新入社員意識調査」結果(957人の回答を集計)を同日発表している。この調査にも「社会人基礎力」の問を設けており、その結果と企業向け調査結果との比較を試みている。
それをみると、「仕事をする上で特に大事にしたいこと」(最大3つまで回答)は、新入社員向け調査では「主体性」(56.6%)、「実行力」(37.5%)、「計画力」(26.1%)などの順。「主体性」や「実行力」が多かったのは企業向け調査と同じだが、企業向け調査で2番目に多かった「規律性」(33.7%)をあげた新入社員の割合は6.8%にとどまった。この結果について東商では、「企業がこうしたギャップを埋めるためには、入社前研修や新入社員研修等において『規律性』に関する内容を取り扱い、新入社員に『規律性』の重要性に関する理解を促進することが考えられる」としている。
デジタルスキルが高く効率的な発想を持つが精神面の弱さや価値観の違いも
今回の企業向けの調査では、1990年代中期から2010年代初頭の間に生まれた世代を「Z世代」と定義して、この世代を指導・育成する際の意識についても調べている。いわゆるZ世代の若手社員が他の世代の社員と比較して優れている点や特徴だと感じる点(複数回答)は、「ITやデジタル関連のスキルがある」が最も多く53.9%。以下、「効率性を重視した発想ができる」(26.5%)や「自己成長に対する意欲が高い」(25.3%)が目立つ。
他方、指導・育成時に困っていることは、「(ストレスやトラブル等に対して)打たれ弱い」(37.5%)や「価値観や勤労観が分からない」(34.4%)、「仕事よりもプライベートを重視しすぎる」(20.8%)をあげる企業が多い。調査結果をみる限り、企業はいわゆるZ世代とされる若手社員について、ITやデジタルスキルが高く効率的な発想を持って自らの成長に積極的な印象を持つ一方、精神的な脆弱さや価値観の違いなどを不安視する傾向がうかがえる。
直面する課題は若手の育成に必要な時間や指導者不足
そんなイメージのある若手社員の指導・育成に関する企業としての課題(複数回答)で多くあげられたのは、「業務繁忙等により、若手社員の指導・育成にかけられる時間が不足している」(38.2%)、「若手社員が気軽に相談できるメンターやOJTの指導役となる社員がいない(不足している)」(34.7%)、「若手社員を指導・育成しても会社をやめてしまう」(32.8%)など。多くの企業が、若手の育成に必要な時間・指導者が不足していることや早期離職などに悩まされている実態が浮かび上がっている。
転職希望が「定年まで働く」を上回る
参考までに、先述の「2024年新入社員意識調査」で就職先の会社でいつまで働きたいかを聞いた問いでは、「定年まで」が21.1%となり、10年前の2014年度調査(35.1%)より14.0ポイント減少。また、「チャンスがあれば転職」は26.4%で、10年前の2014年度調査(11.9%)と比べて14.5ポイント増加した。新入社員は「長期勤続志向」が低下し「転職志向」が高まる傾向にあるようだ。
そこで、「社会人生活で不安に感じること」を聞くと、「仕事が自分の能力や適性に合っているか」(48.9%)を筆頭に、「上司・先輩・同僚とうまくやっていけるか」(42.8%)や「仕事と私生活のバランスがとれるか」(40.2%)が上位となった。
就職先の決定要因は「処遇」がトップ
なお、「就職先の会社を決める際に重視したこと」をみると、「処遇面(初任給、賃金、賞与、手当など)」が56.0%でトップ。2位は「社風、職場の雰囲気」で54.3%、3位は「福利厚生」で45.4%となっている。
(調査部)
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