コロナ禍で失われた一体感ある組合活動を取り戻そうとする動きも
 ――【産別】定期大会のハイライト

ビジネス・レーバー・モニター産別・単組調査

会議・行事の対面開催を基本とすることなどにより、コロナ禍で失われた組合活動の一体感を取り戻そうとしたり、アフターコロナの環境下での労働運動の構築を検討する動きがみられる――JILPTが産別労組モニターを対象に実施した調査では、2023年に決定した運動方針・補強方針の特徴として、こんな傾向がみてとれた。また、電機や生保、ゴムといった産別は、リスキリング、副業・兼業、育児・介護との両立といった、キャリア形成や多様な働き方に対する支援や模索の動きを方針の主な内容として報告。建設や運輸の産別からは、時間外労働の上限規制が改正される「2024年問題」への対応に関する言及があった。

今調査ではモニターの産別と単組に対し、定期大会で決定、または補強した運動方針の内容について尋ねた。調査票は産別24組織、単組27組織に配布し、産別12組織、単組11組織から回答を得た。単組はほぼ大手企業の労組が対象。調査期間は2023年10月31日~11月16日。

企業内最賃締結率向上の取り組みを強化/電機連合

電機メーカーの労働組合で構成する電機連合(組合員56万5,000人)は、運動方針の柱に「産業別最低賃金(18歳見合い)、年齢別最低賃金の水準改善、協定締結、適用拡大」「一人ひとりのキャリア形成支援に向けた取り組み」「副業・兼業に関する取り組み」「2022・2023年政党・省庁との政策協議」「『政治活動の日常化』の取り組み」「ジェンダー平等の推進」を掲げた。

「産業別最低賃金(18歳見合い)、年齢別最低賃金の水準改善、協定締結、適用拡大」については、企業内最低賃金協定の直加盟組合における協定締結率が2022年は50.3%(2021年54.3%)、一括加盟構成組合を含む直加盟組合の協定締結率が60.2%(同70.2%)といずれも2021年比で低下しており、「他産別と比較しても見劣りしている」。このため、特定(産業別)最低賃金の金額改正の取り組みにつなげる観点などから、企業内最低賃金協定の協定締結率向上に向けた取り組みを強化する。

リスキリングなどの教育訓練の機会提供が必要

「一人ひとりのキャリア形成支援に向けた取り組み」については、「企業・労働者を取り巻く環境が広範に変化するなか、企業は、持続的な発展に向け事業としてめざす方向性を示し、労働者に求められるスキルを明確にしたうえで、リスキリングを含む教育訓練の機会を提供することが必要」との考え方から、「働く一人ひとりのキャリア形成に向け、技術・技能の向上を目的とするこれまでのアップスキリングに加え、リスキリングや自己啓発を行うことができる職場環境づくりに取り組む」とした。

産別としての副業・兼業の考え方の周知と取り組みの徹底を

「副業・兼業に関する取り組み」では、加盟組合企業で副業・兼業制度の導入や見直しが進められていることから、「副業・兼業に対する電機連合の考え方と留意点」を周知するとともに、取り組みの徹底を図る。

「政党・省庁との政策協議」については、時々の産業・社会・労働課題や国会審議の動向に応じて重点的に実現に向けて取り組む政策を選定し、政党・省庁との政策協議のテーマなどに設定。選定したテーマを中心に職場での理解促進を図り、政策への意見・要望につなげることで政策立案力を高める。

「政治活動の日常化」の取り組みでは、加盟組織におけるさらなる推進と電機連合全体への波及を目的に、政治委員会において「政治活動日常化プロジェクト(仮称)」を設置し、相互コミュニケーションの充実に向けた政治担当者会議などの企画・運営を行う。

「ジェンダー平等の推進」では、2022年に策定した「ジェンダー平等推進計画」における2024年の目標項目の達成につなげるべく、内容の共有を図るとともに、電機連合一体となった取り組みを推進する。

産業・労働政策中期ビジョンを6年ぶりに見直し/基幹労連

鉄鋼や造船重機、非鉄金属などの労組を組織しており、結成から20年を迎える基幹労連(組合員26万8,000人)は、2年サイクルでの労働条件改善に取り組むことを基本としている。2023年9月の定期大会で決定した運動の基軸は、「2年サイクル運動の推進と環境変化への対応力磨き」「人をど真ん中に据えた運動の展開」としている。

運動方針は従来どおり、「安全最優先」をトップに掲げ、「組織強化と組織拡大の取り組み」「労働政策の推進」「産業政策、政策・制度、自然災害に関する政策の推進」「政策実現に向けた取り組み」「産業別労働組合としての運動の推進と強化」で構成している。これまでの運動・活動方針を踏襲しつつ、「ベースとしてはウイズ・アフターコロナを見据えた環境下のもと、より一層労働運動をどの様に構築していくのか」といった視点での方針となっている。

また、10年先を見据えた中期的な産業・労働政策のあり方を6年ごとに見直しており、今回、特別報告として「産業・労働政策中期ビジョン(2023年改)」を確認した。

そのほか政策実現の取り組みとして、2022年の参議院議員選挙で誕生した組織内議員について、「より一層の連携やフォローは当然」としたうえで、協力関係にある産別労組JAMが擁立する組織内候補者と政策協定が締結できたことから、次の参議院議員選挙における基幹労連の比例代表候補者として推薦し、組織一丸となって政策実現活動の完遂をめざすことを決定した。

方針に統一闘争のより積極的な推進を明記/生保労連

生命保険会社の労組を束ねる生保労連(組合員23万8,000人)は、2023年度の運動方針で、「総合的な労働条件の改善・向上」として、①総合的な労働条件の改善・向上に向けた統一闘争のより積極的な推進②営業職員の労働条件や働き方の魅力度向上③内勤職員の能力・スキルの向上に向けた「学び・学び直し」の支援④「『職場におけるジェンダー平等』および『ワーク・ライフ・バランス』の着実な前進に向けた中期取組み方針<2021.1-2025.8>」のさらなる推進――を盛り込んでいる。

会議・行事は対面開催を基本に

「組織の強化・拡大」では、未組織労働者の組織化(組織拡大)を推進することに加え、オブザーバー加盟組織の正式加盟に向けた継続的なフォローなどを実施。諸会議・行事等については、対面開催を基本に、各組合のニーズや組合員の価値観・生活様式の変化、デジタル化の進展に加え、SDGsの観点などをふまえ、適時適切なテーマ設定や効果的・効率的な運営に努める姿勢を示している。

総合生活改善闘争の枠組みを整理

2023年の定期大会では、2022年度に設置した「今後の総合生活改善闘争に関する研究会」の特別報告を行った。報告は、「人への投資」に関するさらなる理論補強、総合生活改善闘争の枠組みの見直し、営業職員・内勤職員に関する諸取り組みの充実など幅広い視点から検討を行い、具体的な取り組み課題として、賃金関係の取り組みとともに、学び・学び直しへの支援にも重点を置くことを提起。総合生活改善闘争の枠組みについては、取り組みの呼称変更や重複課題の解消など、多岐にわたる方針・取り組み課題について、各組合にとってより分かりやすく整理したほか、取り巻く情勢などをふまえ、各取り組みメニューなどの充実を図るとした。

「2025年20万労連」の必達に向けて「結果を出す」取り組みを/情報労連

NTTやKDDIなどの労働組合でつくる情報労連(組合員19万3,000人)は、①25万労連の実現に向けた取り組みの追求②加盟組合活動の充実に向けた取り組みの強化③産別政策の深化と実現に向けた取り組みの強化④「暮らしやすい社会」の実現に向けた政治活動の推進⑤社会的価値ある産別運動の展開――の5点を「運動の重点」とした。

このうち25万労連の追求については、中期目標として掲げた「2025年20万労連」の必達に向けて、すべての組織において組織拡大の基盤整備や推進体制を構築し、「結果を出す」取り組みを強化する。

加盟組合に寄り添う活動を

加盟組合活動の充実に向けた取り組みは、加盟組合の課題や組織実態に応じたきめ細かな支援や集団的労使関係の充実に向けたサポートを強化。あわせて、加盟組合の組織強化や活動の活性化等につなげるべく、ICTツールやオンラインセミナーなども活用しながら、加盟組合に寄り添った活動を展開する。

産業政策については、日本における社会的・経済的な課題解決に向けたICT利活用の推進をはじめ、デジタル社会における諸課題や将来的な変化に伴う労働課題等について、現場の実態調査・把握などをふまえた具体的政策を策定するとともに、その実現に向けた取り組みを追求する。

取り巻く状況改善のために国政対応や行政への働きかけを推進/運輸労連

トラック運輸などの輸送分野の労組を組織する運輸労連(組合員15万5,000人)は、多くの課題を抱えている。深刻なドライバー不足や燃料価格の高止まりに加え、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応も迫られている。労働時間を巡っては2024年4月から、トラックドライバーへの時間外労働上限規制(年960時間)が適用(いわゆる「2024年問題」)。トラック運転手の労働時間等の基準を定める厚生労働省の「改善基準告示」が2024年4月から改正され、1カ月の拘束時間は「原則284時間(最大310時間)」となり、1日の休息期間は「継続11時間与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない」となる。

こうしたなか運輸労連は、「産別運動の前進、取り巻く状況の改善を図るためには、『運輸労連政策推進議員懇談会』との連携をより強化し、政府・与党を含めた国政への対応、行政への働きかけを進めていくことが必要」としている。

行動制限で失われかけた一体感を取り戻す/JEC連合

化学・エネルギー関連の労組で構成するJEC連合(組合員11万6,000人)は運動方針で、「この数年間、新型コロナウイルス感染症により様々な行動に制限を強いられてきた」としたうえで、「新型コロナウイルスは、完全には消滅しませんが、『コロナ禍』は徐々に収束してきている」と認識。「これまでの行動制限で、失われかけた一体感を取り戻し、さらに強固な『絆』で前へ進んでいく」ことを訴えている。

そして、誰もが公正な労働条件のもと、多様な働き方を通じて参画できる社会にするため、「持続可能性」と「包摂」を基本に労働組合が果たすべき社会的役割をふまえ、労働運動に取り組むとした。

育児・介護との両立など多様な働き方の先進事例を情報収集/ゴム連合

タイヤ、履き物、工業用品などの業種の組合で構成するゴム連合(組合員4万4,000人)は、定期大会で決定した運動方針の特徴として、①雇用を維持するために有益な情報の提供および相談対応を行う②労働組合役員の安全に関する研修会を実施する③加盟単組が取り組みに関する情報共有を強化し一体となる春季生活改善の取り組みを展開する④育児・介護と仕事の両立などの先進事例の情報収集・展開を実施する⑤災害発生時に補償を受けられない組合員を減らす取り組みを推進する⑥男女共同参画の取り組みを推進する⑦組織拡大の取り組み状況の集約と学習会を実施する――ことなどをあげた。

時間外労働の上限規制適用後の状況把握と丁寧な対応に努める/日建協

建設産業の労働組合で組織する日建協(組合員3万9,000人)は、「前年から大きく強化した運動はない」としつつも、2024年4月からの建設業における時間外労働の上限規制適用が「建設産業として大きな状況変化になる」とみて、「状況把握や、対応などについて丁寧に行う」としている。

短期的な解決が困難な課題に計画性をもって取り組む/紙パ連合

紙パルプ・紙加工産業で構成する紙パ連合(組合員2万6,000人)は、定期大会で「中期ビジョンの策定の検討」の補強案を確認した。

それによると、「これまでも魅力ある産業・企業と魅力ある紙パ連合をめざし、時代の変化に即応しながら運動を進めてきた」一方で、「社会・経済・産業構造などが大きな変貌を遂げてきたなか、産別運動に求められている役割は多様化」してきているとした。なかでも、「産業内における人材不足対策や男女平等参画をはじめとする一人ひとりが尊重された労働環境づくり、カーボンニュートラル実現などの産業政策課題、被災者が高年齢化している労働災害対策」などの課題については、「短期間での解決が困難」であることから、「計画性をもって段階的に対策を講じていく取り組みが求められている」としている。

こうした背景のもと、引き続き魅力ある産業・企業と魅力ある組織をめざして、「組織拡大」「安全衛生」「産業政策」「男女平等参画」を基軸とした中期ビジョン(5カ年計画)案の作成を各専門部が中心となって検討してきており、今後も「2024年度からの実施に向けて論議をかさねていく」とした。

方針に「男女平等参画・ジェンダー平等の推進」を明記/印刷労連

印刷・情報・メディア産業の組合で構成する印刷労連(組合員2万2,000人)は、運動方針に「男女平等参画・ジェンダー平等の推進」を明記した。現状、男女平等参画・ジェンダー平等への理解は、「推進会議の継続的な開催や連合主催の各種セミナー等への派遣を通じて浸透してきている」という。一方で、「印刷労連を構成する加盟組合の運動方針への明記は途上にある」ことから、今後もこれまでの取り組みを継続し、運動方針への明記の必要性について理解と共感を得る取り組みを進める。

組合役員向け教育資料を作成/セラミックス連合

セラミックス産業の労組で構成するセラミックス連合(組合員1万9,000人)は、2022年に掲げた運動方針に沿って取り組むなかで、組織強化をより重視する考え。「各単組が組合員から更に必要とされる労働組合に成長するために、産別として加盟組合強化のサポートをする」「その方策として組合役員向け教育資料を作成する」などと報告した。

物価上昇を上回る大幅な賃金や労務単価引き上げに取り組む/全建総連

大工・左官などの建設業に従事する労働者・職人、一人親方などが加入する全建総連(組合員58万5,000人)は、「物価上昇を上回る大幅な賃金・単価引き上げ」「働き方改革への対策・対応」「雇用と請負の明確化」「労働協約の締結」「公契約法・条例の制定」「建設キャリアアップシステムの普及促進等」「持続可能な建設業に向けた100万人国会請願署名」などに取り組む。

2024年1・2月号 ビジネス・レーバー・モニター産別・単組調査の記事一覧

【①外国人組合員や外国人従業員への対応・取り組み】

【②2023年定期大会で決定・補強した運動方針や大会の特徴】