物価上昇への対応などを理由に、中小企業の6割で賃上げを実施予定
 ――日本商工会議所・東京商工会議所の「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」

国内トピックス

日本商工会議所と東京商工会議所がさきごろ発表した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」(共同調査)の結果によると、2023年度の賃上げについて、中小企業の6割が実施を予定していると回答した。賃上げを予定する理由として、「物価上昇への対応」の回答割合が約5割に及び、前年同時期より27ポイント近く増加した。2023年度の最低賃金について、4割以上の企業が額を引き上げるべきと答えた。

調査は、中小企業における人手不足や賃上げの状況・対応や最低賃金引上げの影響、人材育成・研修の状況・対応について、中小企業の実態を把握することを目的に、全国47都道府県の商工会議所を通じて、中小企業6,013社を対象に2023年2月1日~28日にかけて実施されたもの。3,308社(55.0%)から回答を得た。

賃上げ率の見通しでは6割近くが「2%以上」と回答

2023年度の賃上げ予定を尋ねると、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定(前向きな賃上げ)」が22.0%、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定(防衛的な賃上げ)」が36.2%で、両者を合わせた「賃上げの実施を予定している企業」の割合は58.2%となり、2022年2月調査(以下、前年同時期)(45.8%)を12.4ポイント上回った。

賃上げ実施予定企業(「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」もしくは「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」と回答した企業)を100とした場合の「前向きな賃上げ」と「防衛的な賃上げ」の割合をみると、「前向きな賃上げ」が37.8%なのに対し、「防衛的な賃上げ」は前年同時期より7.2ポイント減少したものの62.2%を占めており、中小企業の苦しい経営状況がうかがえる結果となっている。

賃上げの実施を予定している企業における2023年度の賃上げ率見通しをみると、近年の中小企業賃上げ率(2%弱)を上回る「2%以上」と答えた企業が6割近く(58.6%)に達し、足元の消費者物価上昇率(総合指数の前年同月比。2023年1月は4.3%、2月は3.3%)をおおむねカバーする「4%以上」と回答した企業も18.7%と2割近くにのぼった(図表1)。

図表1:賃上げの実施を予定している企業における2023年度の賃上げ率の見通し
画像:図表1
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(公表資料をもとに編集部で作成)

賃上げ実施予定の従業員の属性をみると(複数回答)、「正社員」の97.2%に対し、「パートタイム労働者」は38.6%、「フルタイム・有期契約労働者」は27.2%だった。

予定している賃上げの内容は(複数回答)、「定期昇給」が76.1%と前年同時期(79.7%)から3.6ポイント低下した一方、「ベースアップ」は40.8%で前年同時期(34.1%)から6.7ポイント上昇した。「賞与・一時金の増額」は30.2%で、前年同時期(26.4%)から3.8ポイント上昇している。

賃上げ予定の理由のトップは従業員のモチベーションの向上

賃上げを予定している理由をみると(複数回答)、「従業員のモチベーション向上」が77.7%で最も割合が高く、次いで「人材の確保・採用」(58.8%)、「物価上昇への対応」(51.6%)などとなっている。「物価上昇への対応」は前年同時期(24.9%)からの大幅増となった(26.7ポイント上昇)。

一方、賃上げを見送る予定と回答した企業の理由をみると(複数回答)、「自社の業績低迷、手元資金の不足」(68.4%)が最も高く、「人件費増や原材料価格上昇等の負担増」(50.0%)が次いで高かった。

賃上げ原資を確保するために取り組んでいる内容をみると(複数回答)、「既存の商品・サービスの値上げ、価格適正化」が37.0%で最も高く、「売上増に向けた新たな販路の拡大」(35.2%)が次いで高かった。

中小企業が自発的・持続的に賃上げできる環境整備のための支援策についても聞いており(複数回答)、「景気対策を通じた企業業績の向上」(43.5%)に次いで「取引価格の適正化・円滑な価格転嫁」(41.1%)が高かった。

2022年の最賃引き上げの直接的な影響を受けた企業は4割弱

最低賃金引上げによる影響についての結果をみると、2022年10月の最低賃金引上げ(全国加重平均31円:930円→961円)を受けての対応状況では、「最低賃金を下回ったため、最低賃金額まで賃金を引き上げた」が20.5%、「最低賃金を下回ったため、最低賃金額を超えて賃金を引き上げた」が18.3%で、両者を合わせた、「最低賃金を下回ったために賃金を引き上げた企業」(直接的な影響を受けた企業)の割合は38.8%となり、前年同時期(40.3%)から1.5ポイント低下したものの、4割弱に及んだ。

また、「最低賃金を上回っていたが、賃金を引上げた」と回答した企業は24.6%で、前年同時期(15.9%)より8.7ポイント高かった。

直接的な影響を受けた企業の割合を業種別にみると、「宿泊・飲食業」(60.3%)、「小売業」(52.1%)の回答割合が5割を超えている。

4割超が2023年度の最賃は引き上げるべきと回答

また、全回答企業に対し、2023年度の最低賃金額の改定に対する考えを尋ねたところ、「引き下げるべき」が2.2%、「引き上げはせずに、現状の金額を維持すべき」が31.5%となり、両者を合わせた合計は33.7%と、前年(39.9%)を6.2ポイント下回った。一方、「引き上げるべき」とした割合は42.4%となっており、そのうち、2022年度の引き上げ率(3.3%)相当である、「3%超の引き上げ」とする企業は12.3%に及んでいる。

「引き上げるべき」とした企業にその理由を尋ねたところ(複数回答)、「物価が上がっており、引き上げはやむを得ないから」が89.3%と突出して高く、次いで「景気回復への効果を期待するから」(22.9%)、「企業の賃上げが進んでいるから」(21.0%)などとなっている。

一方、「引き下げるべき」または「引き上げはせずに、現状の金額を維持すべき」と回答した企業にその理由を尋ねた結果では(複数回答)、「景気が回復せず、企業の支払い能力が厳しい状況にあるから」が60.3%で最も高く、次いで「現行の最低賃金額が適正と考えるから」が26.9%などとなった。

前年から続いて、中小企業の6割以上が人手不足を実感

人手不足の状況についてみると、人手が「不足している」と回答した企業は64.3%となっており、前年同時期(60.7%)を3.6ポイント上回っている(図表2)。両商工会議所が過去に実施した他の調査における同設問の回答結果も合わせてみると、「不足している」割合は、2020年2月~3月調査(60.5%)から同年7月~8月調査(36.4%)にかけて大幅に低下したものの、それ以降は上昇傾向に転じており、前年同時期からは6割台が続いている。

図表2:人材が「不足している」と回答した企業割合
画像:図表2

(公表資料をもとに編集部で作成)

業種別にみると、「不足している」と回答した企業割合は「建設業」が78.2%で最も高く、「情報通信・情報サービス業」(76.3%)、「運輸業」(74.4%)、「介護・看護業」(73.3%)、「宿泊・飲食業」(72.2%)でも7割を超えている。

人手が「不足している」と回答した企業に対して、人手不足への対応方法を尋ねると(複数回答)、「正社員を増やす」が80.7%で突出して高く、次いで「非正規社員を増やす」(33.1%)が続いている。「IT化、設備投資による業務効率化・自動化」(30.5%)、「業務プロセスの改善による効率化」(29.4%)、「従業員の能力開発による生産性向上」(29.0%)など、業務効率化や生産性向上の取り組みは3割前後の回答割合となった。

また、全回答企業に対し、働く人にとって魅力ある企業・職場となるために実施・検討している取り組みは何かと尋ねたところ(複数回答)、「賃上げの実施、募集賃金の引き上げ」が66.3%となり、2022年7月~8月調査(57.0%)よりも9.3ポイント高い割合となった。次いで割合が高いのは「福利厚生の充実」(38.2%)で、「人材育成・研修制度の充実」(36.4%)が続いた。

(調査部)

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