男性育休取得に向けた施策を行う企業のほうが高い育休取得率
 ――大企業での男性育休公表義務付け前に厚生労働省がイベントを開催

国内トピックス

男性の育児休業の取得に向けた施策を行っている企業のほうが、男性育休取得率が高く、働き方改革を実施している企業は取得率、取得日数ともに高レベルにある――改正育児・介護休業法により、2023年4月から常用労働者1,000人以上の企業で男性の育児休業取得率などの公表が義務付けられることになったが、これに先立ち、厚生労働省は3月に記者会見イベントを開催し、厚生労働省イクメンプロジェクトが実施した「男性育休推進企業実態調査2022」の調査結果を発表した。

WEBで調査を実施し、大手を中心に約140社が回答

イクメンプロジェクトは、社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こすさまざまな活動を行っている。各分野の有識者らで構成される推進委員会を設置し、情報発信やイベントを開催している。厚生労働省は3月15日、イクメンプロジェクトが実施した「男性育休推進企業実態調査2022」(実施協力:株式会社ワーク・ライフバランス、認定NPO法人フローレンス)の結果を記者会見で発表。会見には、イクメンプロジェクト推進委員会委員である駒崎弘樹氏(認定NPO法人フローレンス会長)と小室淑恵氏(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)も参加した。

調査は、2022年12月1日~2023年1月31日に、インターネット上で実施したもの。調査協力の呼びかけに応じた141社から回答を得た。企業の内訳は、1,000人以上規模が51.8%を占め、300人以上規模が全体の約7割を占める。

男性育休取得率は約77%で、2年間で約25ポイント上昇

調査結果によると、回答企業平均の男性育休取得率は2020年度が52.0%、2021年度が59.7%、2022年度が76.9%で、直近2年間で約25ポイント上昇した(データは、過去3年間のデータがある企業・団体のみを集計したもの)。なお、厚生労働省が発表している男性育児休業取得率は、2021年度で13.97%となっている。

平均取得日数は、2020年度が42.2日、2021年度が35.4日、2022年度は40.7日となっている。

働き方改革を実施している企業別に、男性の育休取得率と取得日数の状況(2022年度)をみると、「実施していない」ではそれぞれ66.7%、18.3日だったのに対し、「実施している」では77.5%、33.4日で、取得日数では、実施している企業のほうが2倍近く多かった()。

図:働き方改革を実施している企業別 育休取得状況(2022年度)
画像:図

(公表資料から編集部で作成)

平均取得率が最も高い業種は「金融・保険」(97.9%)で、「医療・介護・福祉」(91.7%)も9割を超え、平均取得日数では、「官公庁・自治体」(59.9日)が最も多く、「IT・メディア」(53.3日)も50日に達している。

取得しない傾向を把握し、課題解決の仕組みがある企業では約85%の取得率

男性育休の取得率・取得日数(2022年度)について、男性の育休取得に向けた各施策を実施しているかどうかでクロス集計を行ったところ、総じて施策を実施している企業ほど取得率が高くなっていた。

具体的には、「男性育休の対象者本人に対する個別周知と意向確認について、推進担当部署と対象者本人の上司が情報共有できる仕組みがある」(取得率は、はい:78.4%、いいえ:69.6%、以下同じ)、「取得を希望しない対象者がなぜ取得しないのかや所属・業務等の傾向を把握し、課題の解決につなげる仕組みがある」(はい:85.1%、いいえ:66.7%)、「男性育休の重要性や制度・方針についての管理職研修を実施し、全管理職が受講完了した」(はい:82.0%、いいえ:72.2%)、「休業・復帰後・その他のキャリアについて多様な選択肢を提示したり、相談に乗れる仕組みがある」(はい:79.9%、いいえ:59.5%)を行っている企業で、行っていない企業での取得率を大幅に上回った。

このほか、「男性育休の重要性や制度・方針についてトップメッセージを社内に発信している」(はい:84.1%、いいえ:61.5%)、「会社として自社が積極的に男性育休を推進していることを発信している」(はい:81.2%、いいえ:61.9%)、「男性育休の重要性や制度・方針について、当事者以外の従業員も情報を入手できる方法があり、周知されている」(はい:79.8%、いいえ:57.6%)を実施している企業の取得率も軒並み80%以上で、実施していない企業と差がついた。

一方、取得日数では、取得率ほど大きな差は見られなかったものの、一部の施策については顕著に高くなっていた。取得日数、取得率ともに差が見られた施策は、「社内に向けて、取得者の事例を収集・発信している」(はい:81.6%、36.7日、いいえ:64.6%、18.9日)や、「社外に向けて、取得者の事例を収集・発信している」(はい:82.0%、37.9日、いいえ:73.7%、25.9日)、「男性育休についてのKPIを定めている」(はい:84.5%、35.8日、いいえ:67.2%、25.7日)だった。

イクメンプロジェクト座長の駒崎弘樹氏は記者会見で、当事者以外への情報提供も大切だとし、「男性育休への職場の理解や風土醸成が、取得日数を上げる鍵となっている」などと指摘した。

男性育休で妻の産後うつを回避できる

記者発表では調査結果の発表とともに、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏が、男性育休の取得日数を伸ばし、本質的な育休にするには、というテーマで講演した。

小室氏は、いまなぜ男性育休が重要なのかについて、「産後の妻の死因1位は自殺で、主な原因の産後うつのピークは2週間~1カ月となっている。少なくともこの期間に男性が育休を取得できれば、妻がまとまった睡眠をとることができ、妻子2人の命を救う重要な役割がある」と強調。また、男性が育休を取得すると家事時間が15分伸びるというカナダの研究結果や、第1子が産まれた時の夫の家事育児時間が長いほど第2子が産まれているというデータを紹介し、「男性の育休取得が、家事育児時間の増加、そして第2子以降の出生増加につながり、少子化対策の大きな鍵になる」と述べた。

厚生労働省・職業生活両立課長の平岡宏一氏が、厚生労働省の「雇用均等基本調査」のデータを紹介した。データによると、2021年の男性の育児休業取得率は13.97%と、5年前に比べ10ポイント以上上昇しているものの、その取得期間をみると、5日未満が25.0%、5日~13日が26.5%と、半数以上が2週間未満となっている。

平岡氏は、2023年4月から1,000人以上企業に男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務付けされるにあたり、公表の時期は、インターネット利用などで一般の人が閲覧できるよう、事業年度終了後、速やか(おおむね3カ月以内)に行う必要があることなどを説明した。

なお、公表内容は、①育児休業等の取得割合(育児休業等をした男性労働者の数/配偶者が出産した男性労働者の数)か②育児休業等と育児目的休暇の取得割合(①分子に「小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数」を加えたもの)、のいずれかの割合を公表することとしている。また、常時雇用する労働者1,000人以上とは、雇用契約の形態を問わず、期間の定めなく雇用されている労働者を指す。

(調査部)