「工作物」についても、解体・改修時の事前調査者の要件を新設へ
 ――厚生労働省「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会報告書」

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厚生労働省の「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会」(座長:梅崎重夫・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長)はさきごろ、石綿(アスベスト)を含むおそれが高い「工作物」の解体・改修の事前調査でも、「建築物」「船舶」と同じように、調査実施者の要件新設を求める報告書を公表した。要件としては「建築物」などと同様、一定の講習を修了することなどを盛り込んでいる。

建築物などを解体する際には石綿の使用有無の事前調査を義務づけ

石綿などが使用されている建築物や船舶、工作物の老朽化によって、今後、これらを解体する工事が増加していくことが予想されている。石綿は、肺がんや中皮腫などの原因となることから、技術的知見などもふまえて、石綿ばく露防止対策を一層充実させることが求められている。

事業者が、建築物や船舶、工作物を解体したり、改修作業を行うにあたっては、石綿障害予防規則(厚生労働省令)に則って進める必要がある。具体的には、事業者が建築物などの解体・改修を行うときには、その工事の規模や請負金額に関係なく、石綿などの使用の有無を事前に調査することや、作業計画を作成することが義務づけられており、一定規模以上の解体・改修工事では、調査結果の労働基準監督署への届出なども定められている。

調査が不十分なまま工事が行われることを防ぐため

「事前調査」では、建築物と船舶の解体作業などについては2023年10月から、それを実施できるのは、定められた講習を受けて試験に合格するなど一定の要件を満たした者に限定されることになっている。かつて、建築物や石綿含有材料に関する十分な知識のない者が調査を行ったり、調査方法に関する認識が不足していることなどを要因として、調査が不十分なまま解体などの工事が行われている事案が指摘されたことがあるからだ(総務省勧告)。

工作物についても、2020年4月に出された「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会報告書」(厚生労働省労働基準局安全衛生部)が、「工作物及び船舶の事前調査についても、その適切な実施を確保するため、調査を実施する者に一定の知識等を付与するための仕組みや、付与すべき知識の内容等については、さらに検討を深める必要がある」と提言。そのため厚生労働省では、2022年7月から「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会工作物ワーキンググループ」のなかで事前調査者の要件などに関する議論をスタートさせた。

ワーキンググループが10月に結論を整理して報告をまとめると、厚生労働省労働基準局安全衛生部は11月9日、ワーキンググループ報告のとおり石綿障害予防規則の改正を含む必要な対応を行うべきだと提言する報告書を公表した。

特定工作物については工作物石綿事前調査者が行う

労働政策審議会安全衛生分科会は12月14日、報告書の内容をふまえた省令改正案を妥当と答申。2026年1月1日が施行期日となっている。

報告によると、建築物、船舶に対する石綿事前調査に加え、工作物に関する石綿事前調査についても、事前調査を行う者は、「一定の講習を修了した者又はそれと同等以上の知識・経験を有する者でなければならない」とする。

報告対象とする工作物について、石綿を含むおそれが高い「特定工作物」と、「その他の工作物」に分けたうえで、「特定工作物」について事前調査を「工作物石綿事前調査者が行うとすべき」としている。

「特定工作物」は、具体的には、炉設備(反応槽、加熱炉、ボイラー・圧力容器、焼却設備)、電気設備(発電設備、配電設備、変電設備、送電設備)、配管・貯蔵設備、煙突、トンネルの天井板、プラットホームの上家、遮音壁、軽量盛り土保護パネル、鉄道の駅の地下式構造部分の壁および天井板――が該当する。一方、「その他の工作物」は、エレベーター、エスカレーター、コンクリート擁壁、電柱、公園遊具、鳥居、仮設構造物、遊戯施設等が該当するが、これらは石綿を含むおそれが低いことをふまえ、「事前調査について、特に資格を要しないこととすべき」としている。

事前調査の資格を必要とする工作物については、「特定工作物」と「特定工作物以外の工作物の解体等の作業のうち、石綿にばく露するおそれが比較的高い作業」とした。

事前調査者講習は学科講習と試験で行う

事前調査者に対する講習の実施体制について、報告は、建築物石綿含有建材調査者講習も参考にしながら、科目を建築物石綿含有建材調査者講習と基本的に同じ構成とするなどの方針に則り、「工作物石綿事前調査者講習(仮称)は、学科講習及び試験によって行うこととする」としている。学科講習は「基礎知識」(2時間)、「図面調査」(4時間)、「現場調査の実際と留意点」(4時間)、「事前調査報告書の作成」(1時間)の計11時間の内容で構成する。

講習の受講資格は、建築物石綿含有建材調査者講習の「受講資格」と同じように、学歴等に応じて一定の実務経験を求めるとの考え方を踏襲する。すでに石綿作業主任者技能講習を修了した者については、一定の科目の受講を免除する。建築物石綿含有建材調査者講習を受講した者は、重複する科目の受講が免除される。

公布後少なくとも2年から2年半程度の準備期間を確保すべき

講習の登録制について、工作物石綿事前調査者の必要人数が「約6~8万人程度と相当の数が見込まれる」ことから、建築物石綿含有建材調査者講習と同様、登録講習機関による講習とすべきと提言した。

(調査部)