先端技術に精通した人材ニーズが高まるなか、内部人材を育成するとの方針は変わらず
 ――デジタル化の進展に対応するための企業の人材開発の取り組みは、この3年間でどう変わったか<過去3年分の調査結果から>

JILPT調査

JILPTでは2019年~2021年まで、3年続けて、ものづくり企業のデジタル化への対応状況と、デジタル化に伴う人材の確保や育成、能力開発の取り組みに焦点を当てて、企業アンケート調査を行った。3年(もしくは2年)続けてほぼ同じ内容で盛り込んだ設問も多くあることから、本稿では、比較可能な項目に絞り込んで、デジタル化への対応がどれだけ進んだのか、企業の対応状況がどう変わってきたのかなどについて、客観的に眺める機会としたい。ものづくり企業ではデジタル技術の活用が急速に進んでおり、AIなど先端技術に精通した人材ニーズも高まってきている様子がみられる。一方、デジタル技術の活用を担う人材として内部人材を教育していく方針に変化はみられない。人材育成・能力開発がセットになったデジタル化への取り組みが重要であるという視点は今後ますます重要になると言えそうだ。

<比較した3年分の調査の概要>

3調査とも対象業種、対象従業員規模は同じ

今回、紹介するのは図表1にある3つの調査の結果。毎回、調査対象を無作為抽出しているため、回答している企業は完全に同一ではないが、対象業種と対象企業の従業員規模は3調査とも同じ。また、調査対象(各回2万社)は、当該の業種・従業員規模区分に実際に存在する企業数の9割以上にあたるため、調査カバー率も高い(経済センサス活動調査(2016年版)の確報集計における対象該当企業数は2万1,773社)。

図表1:3調査の概要(調査対象など)
画像:図表1
画像クリックで拡大表示

選択肢がまったく同じ設問や、一部は異なるがほぼ同じ設問もあることから、3年間の状況の推移が見て取れるような設問をピックアップし、紹介していく。なお、3調査において、回答企業に提示した「デジタル技術」の定義は共通であり、その内容は以下のとおり。

〈デジタル技術の定義〉

ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット化)、AI(人工知能)周辺技術(画像・音声認識など)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、製造現場で使われる新技術(これらの技術を使って収集したデータを分析し、活用することも含む)。

<デジタル化への対応の状況>

1.デジタル活用の状況

すべての工程・活動で導入割合が上昇

まず、デジタル技術の活用状況の推移からみていく。

図表2は、ものづくりの工程や活動別に、デジタル技術を導入しているかどうかを尋ね、「活用している」と答えた企業の割合を表わしたものである(当該の工程・活動がない企業と無回答企業を除いて集計)。図表からわかるように、3年間で、すべての工程・活動において、活用している企業の割合が上昇していることがわかる。

図表2:デジタル技術を活用している企業の割合
画像:図表2
画像クリックで拡大表示

注1:当該の工程・活動がない企業と無回答企業は除いて集計している。

注2:2019年調査では「j.生産現場の安全衛生管理」について尋ねていない。

注3:「a.開発・設計・試作・実験」について、2019年と2020年の調査では「試作」という文言は入ってなかった。

特に上昇幅が目立つのは、「a.開発・設計・試作・実験」「b.製造」「c.生産管理」「f.受・発注管理」といったものづくりの主要な工程・活動で、3年間で20ポイント程度かそれ以上、割合が上昇している。なおかつ、これらの工程・活動でのデジタル技術導入割合は、5割を超える状況となっている。

中小企業でも活用企業の割合が明らかに上昇

デジタル技術を活用している工程・活動が1つでもある企業を『デジタル技術活用企業』と位置づけることにして、その割合(回答企業全体に占める割合)の推移をみたのが図表3である。これをみると、2019年では49.3%とまだ5割を下回る状況であったが、2020年は54.0%、2021年では67.2%と、全体的な活用度も着実に進んでいる様子が把握できる。

図表3:『デジタル技術活用企業』の割合の推移(単位:%)
画像:図表3

注:デジタル技術を活用している工程・活動が1つでもある企業を「デジタル技術活用企業」として集計したもの。企業数は、2019年が2,151社、2020年が1,988社、2021年が2,472社。

よく中小企業のデジタル化対応の遅さが指摘されることがあるが、企業規模別の『デジタル技術活用企業』の割合の推移をみると、割合の高さでは大企業と差があるものの、100人未満の中小企業でも、割合の上昇傾向は著しく、上昇ペースには中小と大手に大きな違いはない(図表4)。規模が大きい企業ほどデジタル化が先行して進んでおり、300人以上の企業では、同割合はすでに8割を超える状況に来ている。

図表4:「デジタル技術活用企業」の割合の推移(企業規模別)
画像:図表4

電機、通信以外の機械器具製造業でも活用割合が高水準に

『デジタル技術活用企業』の割合の推移を業種別でもみていくことにする。

図表5のとおり、各業種とも、割合は3年間で上昇しているものの、「鉄鋼業」「非鉄金属製造業」は、他業種に比べると高まり具合が劣る様子が見て取れる(この2業種だけが2021年でも6割に達していない)。ともに、素材関連業種であることが関連している可能性がある。

図表5:「デジタル技術活用企業」の割合の推移(業種別)
画像:図表5
画像クリックで拡大表示

一方、「はん用機械器具製造業」「生産用機械器具製造業」「業務用機械器具製造業」といった機械器具製造業が比較的、3年間でのデジタル化割合の上昇幅が大きくなっており、3年前は電機や通信関連の製造業での活用がやや先行している状況がうかがえたが、2021年調査ではほとんど差が見られない状況となっている。

2.デジタル技術を活用する理由・狙い

製造効率化や品質向上に活かそうとする企業が増える傾向に

デジタル技術を活用する理由や狙いで、変わってきた点はあるのだろうか。図表6は、各年での、回答割合が高かった上位15位の理由・狙い(複数回答)を並べたものである(『デジタル技術活用企業』の回答。これ以降の図表も断りがない限り同様)。

図表6:デジタル技術を活用する理由・狙い(複数回答)(単位:%)
(デジタル技術活用企業で集計 N=2019年2,151、2020年1,988、2021年2,472) 画像:図表6
画像クリックで拡大表示

注1:2019年、2020年は活用する理由として尋ね、2021年では活用の狙いとして尋ねた結果である。

注2:回答割合が高い上位15項目だけを表示している。

注3:選択肢は3調査共通ではない。同じことを表わす選択肢でも年によって文言が異なるものがある。

注4:2021年で最も割合の高い「生産性の向上」は、2019年、2020年では選択肢に含まれていない。

これをみると、まず確認できるのは、(人の)作業負担の軽減をあげる割合が一貫して高い点であり、2019年が1位、2020年が2位、2021年は3位という割合の高さとなっている。在庫管理の効率化についても、同じ傾向が指摘できる。

一方、「開発・製造等のリードタイムの削減」をあげる割合は、2019年48.0%→2020年55.3%→2021年59.0%と上昇傾向にある。「高品質のものの製造」も、2019年40.5%→2020年46.0%→2021年45.2%とほぼ上昇傾向にあると言える。デジタル技術の活用が進むにつれ、良いものを早くつくるという狙いが強まってきているとの見方もできるかもしれない。

3.デジタル技術を活用するために取り組んでいること

社員の意識改革、経営層の理解、方針明確化が上位で不変

『デジタル技術活用企業』のデジタル技術を活用するための取り組みについては、2019年が「現在の取り組み」、2020年が「重要だと考えるもの」、2021年が「強化した取り組み」、と聞き方が異なるため、回答割合の推移を観察することができないが、参考までにそれぞれの結果を眺めてみることにする。

図表7図表9が表わすように、気づくのは、聞き方は違えども、割合の上位の順位は変わらないという点だ。どの年もほぼ、①会社全体または社員のデジタル技術活用促進に向けた意識改革②経営層のデジタル技術活用促進に向けた理解促進③デジタル技術を活用する方針の明確化――が上位を固める結果となっている。

図表7:デジタル技術を活用するための取り組み 2021年(単位:%)
デジタル技術の活用を進めるために、どのような取り組みを強化しましたか。(1)経営・人事施策の取り組みについてお答えください(複数回答) 画像:図表7

図表8:デジタル技術を活用するための取り組み 2020年(単位:%)
デジタル技術の活用を進めていくための社内での取り組みとして、重要なものはどれだと思いますか(複数回答) 画像:図表8
画像クリックで拡大表示

図表9:デジタル技術を活用するための取り組み 2019年(単位:%)
デジタル技術の活用を進めていくにあたって、現在どのような取り組みを行っていますか(複数回答) 画像:図表9
画像クリックで拡大表示

4.デジタル技術の活用による人材配置面での変化

人員配置はそのままで業務効率が上がったとする割合がトップで変わらず

デジタル技術を活用した工程・活動において、ものづくりに携わる人材の配置や異動の面で何か変化があったかどうか、3年続けて聞いている(複数回答)。2019年調査の選択肢の数が2020年、2021年とは大きく異なるものの、結果を並べてみると、いずれの年も「そのままの人員配置で、業務効率や成果が上がった」とする回答割合が最も高く、その割合は5割以上に及ぶ(図表10図表12)。一方、人員削減を行ったとする割合はいずれも極めて低くなっており(いずれの年も10%以下)、これらの調査結果をみる限りは、デジタル活用による雇用へのマイナス影響は見て取れない。

図表10:デジタル技術を活用した工程・活動において、ものづくりに携わる人材の配置や異動の面で何か変化があったか(複数回答) 2021年
画像:図表10
画像クリックで拡大表示

図表11:デジタル技術を活用した工程・活動において、ものづくりに携わる人材の配置や異動の面で何か変化があったか(複数回答) 2020年
画像:図表11
画像クリックで拡大表示

図表12:デジタル技術を活用した工程・活動において、ものづくりに携わる人材の配置や異動の面で何か変化があったか(複数回答) 2019年
画像:図表12

<デジタル技術活用を担う人材>

1.デジタル技術の活用で先導的役割を果たした人材

先導的人材は「経営トップ」と「精通した社員」という傾向

デジタル技術の活用で先導的な役割を果たしたのはどのような社員層なのだろうか。図表13は、デジタル技術の活用を進めるにあたり、どういった社員が先導的な役割を果たしたかを尋ねた結果を3年分みたものである。

2020年と2021年は複数回答方式としたが、2019年は単一回答(最も当てはまるものを1つ回答)で尋ねた割合であることから、2020年と2021年に着目すると、「経営トップ」と「社内で特にデジタル技術に精通した社員」の割合の高さがともに双璧で、この2年間では、回答傾向に大きな変化はない。

図表13:デジタル技術の活用を進めるにあたり、どういった社員が先導的な役割を果たしたか(複数回答)
画像:図表13

注:2019年は最も当てはまるもの1つを回答してもらった。2020年、2021年は複数回答。

2.デジタル技術を活用できる人材の配置が求められる工程・活動

300人以上の企業で開発・設計人材ニーズが上昇

デジタル技術を活用できる人材の配置が求められているのはどの工程・活動か、という設問を2020年と2021年の調査で設けた(複数回答)。企業規模別に、両年の結果を比べてみると、300人以上の企業では、「開発・設計・試作・実験」の回答割合が2021年のほうが15ポイント程度も高い(60.8%→75.3%)(図表14)。300人未満でも、2021年のほうが割合が高い結果が出ているが(49.0%→55.5%)、上昇幅は300人以上ほどではない。

図表14:デジタル技術を活用できる人材の配置が求められているのはどの工程・活動か(複数回答) 企業規模別
画像:図表14

<デジタル技術の活用に向けた人材確保・育成、能力開発>

1.人材の確保方法

変わらない内部人材を育成・訓練していく企業の姿勢

では、ものづくり企業はデジタル技術の活用に向け、人材をどういった方法で確保していく考えなのだろうか。図表15は、2020年と2021年の回答結果を並べたものである。なお、2019年は今後について尋ねていることから、2019年結果については参考的にみていただきたい。これをみると、自社にいる人材を研修したり、教育訓練していくという方法が主流であり、その傾向に変化はないことがわかる。

図表15:デジタル技術の活用に向けたものづくり人材の確保方法(複数回答)
画像:図表15

注:一部の選択肢は図表から割愛している。

2.社内の既存人材に対する研修・教育訓練の方法

2020年~2021年にかけては社内研修実施企業が増加

2020年と2021年では、人材の確保方法として、既存の人材に対して研修・教育訓練を行うと回答した企業に対し、研修・教育訓練の方法についてさらに尋ねた(複数回答)。その結果をみると、「社内での研修・セミナーの実施」の回答割合が上昇し、「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」が低下した(図表16)。ただ、これは、新型コロナウイルスの感染流行による社外活動の停滞が影響している可能性もあるので留意が必要だ。

図表16:社内の既存人材に対する研修・教育訓練の方法(複数回答)
画像:図表16

注1:「その他」など一部の選択肢は図表から割愛している。

注2:回答企業数(N)は2020年が966社、2021年が1,200社。

3.どのようなデジタル技術の分野に精通した人材を重点的に確保したいか

300人以上の企業ではAIに精通した人材ニーズ高まる

2020年と2021年ではまた、人材の確保方法として、既存の人材を研修・教育訓練したり、新卒・中途採用、出向受け入れすると回答した企業に対し、どのようなデジタル技術の分野に精通した人材を重点的に確保したいかについても聞いた(複数回答)。図表17は企業規模別の結果も含めてみたものであるが、300人以上の企業で、AI(35.9%→48.0%)、RPA(26.2%→45.3%)の回答割合の上昇幅が大きい点が目立つ。300人未満では、CAD/CAM(コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造)の回答割合が約4割から約5割に上昇し、割合自体は低いがRPAの上昇幅が比較的大きいことがわかる。

図表17:どのようなデジタル技術の分野に精通した人材を重点的に確保したいか(複数回答)(単位:%)
画像:図表17

注1:「その他」など一部の選択肢は図表から割愛している。

注2:網掛けは、その年の調査では選択肢になかったもの。

注3:回答企業数(N)は2020年が1,426社、2021年が1,812社。

4.どのようなレベルの人材を重点的に確保したいと考えているか

高度な技術レベルを持つ人材を求める割合がやや上昇

既存の人材を研修・教育訓練したり、新卒・中途採用、出向受け入れすると回答した企業にはまた、どのようなレベルの人材を重点的に確保したいと考えるかについても聞いた(複数回答)。結果をみると、大きな変化とは言えないが、「社内で高度な技術を持っていると評価されるレベル」の回答割合が上昇している点が目を引く(20.2%→24.5%)(図表18)。今後は少しずつ、より高いレベルの人材ニーズが高まってくる可能性も考えられる。

図表18:どのようなレベルの人材を重点的に確保したいか(複数回答)
画像:図表18

注:回答企業数(N)は2020年が1,426社、2021年が1,812社。

5.デジタル技術を活用したり、導入において先導的な役割を果たすことができる人材に必要なこと

先導人材に必要なことでは大きな変化なし

『デジタル技術活用企業』に、デジタル技術を活用したり、導入において先導的な役割を果たすことができる人材に必要なことを尋ねる質問を、2019年の調査から連続して設けている(複数回答)。2019年と2020年以降では選択肢が異なるものの、図表19のとおりそれぞれの結果を並べると、自社が保有する設備や担当工程の仕事を熟知していることや、自社技術や製品を熟知していることなどの割合が、ほぼ変わらずに高くなっている。この傾向は今後もそう大きくは変化しないものと思われる。

図表19:デジタル技術を活用したり、導入において先導的な役割を果たすことが
できる人材に必要なこと(複数回答)
(単位:%)
画像:図表19

注1:「その他」など一部の選択肢は図表から割愛している。

注2:網掛けは、その年の調査では選択肢になかったもの。

6.デジタル技術に特化したOFF-JTの実施状況

デジタル技術に特化したOFF-JTを実施した企業割合は2年間で上昇

2020年と2021年の調査では、『デジタル技術活用企業』のなかから、デジタル技術に特化したOFF-JT(Off the Job Training)を実施した企業を絞り込むことができる。その割合は2020年が47.6%、2021年が56.0%で、2021年のほうが8.4ポイント高い結果となった(図表20)。

図表20:デジタル技術に特化したOFF-JTの実施状況(複数回答)(単位:%)
画像:図表20
画像クリックで拡大表示

注1:一部の選択肢は図表から割愛している。

注2:デジタル技術に特化したOFF-JTを実施している企業数は、2020年が746社、2021年が891社。

注3:絞り込み方は以下のとおり。〈2020年〉ものづくり人材の育成・能力開発を目的とした取り組みの実施状況を質問→OFF-JTの実施をあげた企業に、デジタル技術に特化したOFF-JTを実施しているどうかを質問〈2021年〉デジタル技術の活用を進めるために人材育成・能力開発の取り組みで強化したものを質問→OFF-JTの実施をあげた企業に、デジタル技術に特化したOFF-JTを実施しているどうかを質問。

どういった内容のOFF-JTを実施したかをみると、「他社で開発されたデジタル技術を応用した製品・サービスをつかいこなす」の割合が、2020年に比べて最も大きく上昇した(14.2%→20.7%)。

<デジタル技術の活用に向けた課題>

活用企業も、非活用企業もノウハウ不足の状況は3年間変わらず

最後に、デジタル技術の活用に向けた課題についての結果をみていこう。

『デジタル技術活用企業』が回答したデジタル技術活用に向けての課題では、①導入にかかるノウハウ不足②先導的役割を果たせる人材の不足③導入予算の不足――という上位3位の回答の顔ぶれが、3年間変わらない結果となっている(図表21)。

図表21:デジタル技術の活用に向けた課題(複数回答)
デジタル技術活用企業の回答結果(単位:%)
画像:図表21
画像クリックで拡大表示

注:回答割合の上位5位までの結果だけを図表にした。

デジタル技術を活用していない企業(『デジタル技術活用企業』以外の企業、ただし、活用状況が不明は含まない)での回答をみると、『デジタル技術活用企業』の結果と同じように、「導入にかかるノウハウ不足」「先導的役割を果たせる人材の不足」「導入予算の不足」が上位3位にのぼっているが、「デジタル技術の導入の効果がわからない」との割合も高く、かつ、この選択肢の回答割合は2021年で大きく上昇したことがわかる(図表22)。

図表22:デジタル技術の活用に向けた課題(複数回答)
デジタル技術を活用していない企業の回答結果(単位:%)
画像:図表22
画像クリックで拡大表示

注:回答割合の上位5位までの結果だけを図表にした。

(荒川 創太)