社員のクチコミを提供することで、透明性あるジョブマーケットの構築を目指す
 ――オープンワークによる転職・就職のための情報プラットフォーム事業

企業取材

国内最大級の社員クチコミを有する転職・就職のための情報プラットフォーム『OpenWork』を提供するオープンワーク(東京・渋谷区)では、転職・就職希望者に対し、社員や元社員から得た企業に関するクチコミを提供することで、ミスマッチの少ないジョブマーケットの構築を目指している。同社の調べでは、同社のプラットフォームを利用して転職した人のほうが、転職先企業に対する転職前後のイメージのギャップが小さい。同社では、転職リスクを減らせば、労働者がキャリアを主体的に選択・構築できるようになり、労働生産性の向上につながると強調する。

<『OpenWork』が目指すもの>

転職リスクを減らして、自分のキャリアを歩んでほしい

就職や転職を希望する人が同社の情報プラットフォーム『OpenWork』に登録すると、現役社員や元社員からの企業についてのクチコミを読むことができる。噂などではなく、投稿されたクチコミは独自のガイドラインを用いて「全件目視審査」を行っているため、登録者は信頼して就職先・転職先選びの参考にできる。

同社の調べによると、社会人で約70%、学生で64%弱が、『OpenWork』に掲載されているクチコミを読んだ経験があるという。最近は、現職の他の社員の評価や、就職・転職時の応募・内定企業などの確認に使われることも多い。

どうして同社はこのようなサービスを始めたのか。大澤陽樹・代表取締役社長は、「日本では生き生きと働いている人が少ないという問題意識からスタートした」と話す。

「政府の働き方改革などもあり、労働参加率は上がってきたが、働きがいという点では世界最低のレベルにある。米国ギャラップ社の調査の2021年版によると、調査対象141カ国中139位で最下位タイだ。そういうなかで、一人ひとりが会社に縛られている。転勤や仕事内容などの関係で本当は辞めたいと思っても、退職金や年功賃金といった制度・慣行があるがゆえに辞めづらい。一方、転職しようとすると、転職先の会社がどんな会社かが分からない。そういうリスクを少しでも減らしていきたい。いま勤めている会社の外には、実はもっとあなたを活かしてくれる機会や、すばらしい会社があるということを知ってもらい、転職の不安をなくす。それによって、自分のキャリアを自分で歩む人が増えていく。そうした状態をつくることが、日本の生産性を上げていくことにつながると考え、この事業を立ち上げた」

クチコミがあるから、ミスマッチな採用・転職を減らすことができる

大澤氏によると、年間の転職者は労働人口の5%にすぎないという。「自分が今の仕事に合っていなかったり、モチベーションが低い理由が仕事内容や職場環境にあるのであれば、一般的には転職すべきと考えるが、日本だとそれを我慢してしまう傾向があり、転職の決意ができている人しか動けていない」。転職が、今よりも気軽な人生の選択肢の1つになればよいと考えている。

同社が2021年11月に公表した独自の調査データ(調査対象は登録者に限らない)によると、転職を考えるにあたって感じる懸念や不安は何かとの質問に対して、「収入が下がるかもしれない」「希望にあった仕事が見つからないかもしれない」といった「転職時の不安」をあらわす回答の割合が35%以上にのぼった。同時に、「転職先の社風や風土が自分に合わないかもしれない」などの回答割合も30%~35%あり、労働条件と同じくらい、会社の風土など「転職後の不安」によって転職に踏み切れない人が多いということもデータで確認できた。

「こうした人材流動性のボトルネックを考慮し、『OpenWork』をつくった。『OpenWork』のクチコミ情報は企業と個人のどちらにとっても利害関係のない中立な情報。それによって、ミスマッチの少ない転職や就職が実現でき、失敗のないキャリア形成ができる」

<『OpenWork』はどんな仕組みなのか>

500万人以上の登録者数、2,000社以上の企業が求人サービスを活用

情報プラットフォーム『OpenWork』の仕組みを詳しくみていく。登録者は2022年9月時点で500万人以上にのぼる。登録し、クチコミを閲覧するにあたっての条件が4通りある。

1つは、『OpenWork』を通して他社の転職サービスに登録する。2つ目が、履歴書を登録してもらって、優良企業からのスカウトを待つ。3つ目が、自分が所属している会社、もしくは過去に所属していた会社に関するクチコミを書く。4つ目が、毎月1,100円の利用料を払うという方法だ。

一方、『OpenWork』に求人を掲載し、スカウトを送ることができる「法人契約」をしている企業は2,000社以上にのぼる(2022年9月時点)。求人を掲載するだけなら、企業からは一切、料金をもらわない。ただ、採用が決まったときに、1人あたり80万円のマッチング料が発生する。「一般的な人材紹介企業に比べると、価格は2分の1~3分の1程度なので、非常に安価なサービスであるところが、多くの企業に登録してもらっている主な理由となっている」(大澤氏)。

利用者層は、若いデジタルネイティブといわれる層が多く使っており、20代が50%近くを占め、30代が約30%を占める。経験職種は幅広く、特定の職種に偏っていることはない。

クチコミの内容は一つひとつ目視でもチェックする

クチコミの確認などはどのように行っているのだろうか。当然のことながら、「いわゆるいたずらや誹謗中傷、意図的な投稿によって特定の会社の評価を高める(または下げる)行為はできる限り防ぐようにしている」(大澤氏)。

防ぐ手法は企業秘密なので詳しく説明することができないが、「機械的に判断できることもあるし、たとえば同じ人が自分を偽って複数回投稿するというのは、IT技術を使えば判別することは非常に容易」と大澤氏は言う。また、情報入力者に対し、プライバシー侵害や誹謗中傷をしないことや、経験に基づかない内容は書かないなどは事前に注意書きで示すが、書いてしまう人もなかにはいるので、「最終的には全クチコミを一つひとつ、目視でチェックをしている」。

投稿条件を厳しくすることでも規制をかけている。書く対象の企業に1年以上勤務している(していた)ことや、正社員か契約社員である(あった)ことが条件となっている。また、必ず500文字以上、書かなければならない。もちろん、どこかの情報からのコピー&ペーストは禁止だ。「他の人の役に立ちたいという人や、他の人のクチコミが役に立ったから、自分もきちんとクチコミを書こうという人しか投稿できないような条件になっていることで、クチコミの信頼性は非常に高い」と大澤氏は胸を張って語る。

掲載後も、クチコミの信頼性を担保するための対応策をとっている。「このクチコミは不適切である」と思ったユーザーからの報告を受け付ける報告機能を設けており、同社の再審査によって不適切であると判断できた場合は非公開となる。目視審査のガイドラインも、法改正や時流に沿って随時見直しを行い更新されていくことにより、クチコミの質がさらに高いものになっていく。

<クチコミを公開することに対する企業からの反応は?>

クチコミの評価が投資の判断にも使われる時代に

『OpenWork』に投稿されたクチコミ・評価スコアと、当該の上場企業の企業業績や株価に強い相関性があることを表す論文がある(※)。海外のヘッジファンドからの問い合わせも増えており、実際に同社のデータを、投資の判断に使うファンドもあるという。

(※)西家宏典・津田博史(2018) 「従業員口コミを用いた企業の組織文化と業績パフォーマンスとの関係」日本証券アナリスト協会

悪い内容のクチコミが書かれた企業からの反応などはないのだろうか。大澤氏は、「このクチコミを消してほしいなどという依頼は、2007年の創業時からずっとつきまとっている」と話す。ただ、時代が随分変わってきたと実感するという。

「昔は本当に目の敵にされることが多かった。求人を『OpenWork』に載せてくださいと営業すると、人事や経営者の方が、『とんでもない、こんな悪口が書かれているところに載せるメリットがどうしてあるんだ』と、全く相手にしてもらえなかった時代もあったが、求人を出す企業の数がこの2年で急増しており、市民権を得られてきたなと感じる」

YouTubeでブラック企業であることを明かされる動画が流されるより、『OpenWork』できちんとした情報や、社員や元社員からの評価を公開してくれるほうがいいと考える企業は多くなっている。また、同社が法律に則り、コンプライアンスなどを徹底した運営を行っている点も、企業に認められている大きな要因だと考えている。

クチコミを意識して、社内の働き方改革に取り組む企業もみられるという。「やはり株主や投資家が見ているという観点から、企業はクチコミを注目している。ある企業は、海外の投資家から『OpenWorkのスコアが低いのはどうしてだ、それが低かったら投資できない』と言われたようだ。IRの投資家向けの情報に、『OpenWork』のスコアを載せている会社も増えている」と大澤氏は言う。

<利用者からの評判・評価>

転職した後も利用を続けてくれる人が多い

一般的な転職サイトと違い、『OpenWork』で転職を実現させた人は、転職後も閲覧を続けている人が多いという。「転職した後にまた、クチコミを書いてくれる人が多い。実は、自分たちで調査してとても面白かった結果は、『OpenWork』を使って転職した人の満足度が、他の一般的な転職者と比べて高かったということ。転職した後にギャップを感じた人の割合は、一般的な転職者では53%だったが、『OpenWork』を使って転職した人では9%しかいなかった」。

また、厳しいことが書かれている企業でも、転職者はあらかじめクチコミで読んで、覚悟ができている状態で入社してくることから、「『OpenWork』を読み込んで入社した人は活躍する人が多い」と、受け入れ側の企業の担当者に言われることがあるという。

<今後に向けての展望>

ミスマッチをもっと社会課題化させたい

今後に向けて、大澤氏は、「ミスマッチの課題をもっと顕在化、社会課題化させていきたい」と強調する。「思っている以上に、転職して失敗したという人が世の中に多いと思っている。そのほとんどが、『聞いていた話と違う』『そんなはずじゃなかった』というケース。その結果、転職することが億劫になってしまい、ますます、新卒のときにどれだけいい会社に入るかという『新卒一括採用ゲーム』にまた戻っていってしまう。すると人材流動化は起きない。やはり良いことだけを訴求して採用したり、ミスマッチを多く生み出している会社はもっと露呈されるべき」。

ただその一方で、「企業からすれば、まだまだ、クチコミと求人は相反するもの。クチコミでは企業の良いことも悪いことも書かれているなか、求人では求職者を魅了しなければならない。実際には、採用のネックになることもある」ことも認める。大澤氏が望むのは、単純に「企業の実態をオープンにしていくこと」。「オープンにしていくことが、むしろ当たり前のことなんだ、それをやっていない会社のほうが危ないよね、という社会を作っていくことに、今後、当社は取り組んでいかなくてはいけない」と話す。

豊富なスキルデータも転職支援に活用できる

もう1つ、進めていきたいと考えているのが、リスキリングの啓発による転職支援だ。同社は、サービスユーザーのキャリアに関する豊富なデータも抱える。そのため、「この資格を持っていると、こういった仕事に就ける」「こうした経験を持っていると、このぐらいの年収の仕事に就ける」といったデータも出すことが可能だという。

大澤氏は、海外に比べて、日本でリスキリングが進んでいない理由として、それがキャリアアップや年収アップにつながらないケースが多いことをあげる。「当社のワーキングデータをうまく使いながら、どんなリスキリングをすれば、キャリアが今後どうなっていくかを示したい。リスキリングの領域の取り組みでも、働く人が自分のキャリアを変えていけるという世の中をつくることができる」。

最後に、これからの転職市場を大澤氏に展望してもらった。まず、企業と労働者の関係は、「相互拘束型」から「相互選択型」に変わっていくと話す。企業が体力以上に人材を抱える余裕がなくなっており、その一方で、若い人でも優秀な人を適切に待遇しないと外資系企業などに奪われてしまう。「会社は個人を選ぶし、個人もどこの会社に行くか、選び合う時代になってきている」とみる。

そのうえで、DX推進など若手のスペシャリストの獲得競争が過熱するとみる。だからこそ、転職市場やリスキリングは今以上に活性化していく可能性が高い。同社が調査したところ、スペシャリストを求める企業が増えているせいか、スペシャリストは同業種に限らず業種外へ転職するケースも増えている。

大澤氏は「実は、今いる環境を捨てれば、もっとあなたを求めている会社に移ることができる場合がある。地方にある中小企業で、スペシャリストが1人入るだけで売り上げが2倍、3倍に増えるかもしれない、というようなポジションは意外にあるもの。しかし、中小企業の経営者はそんな人を採れるわけがないと思っているし、一方、ベテラン社員は、ずっとエスカレーターで来たので『そんな会社にわざわざ行きたくない』『今のポジションを捨ててまで地方に行きたくない』と思っている。そういう生き方やニーズも実はあるんだという啓発は、社会的にもっとやってもいい」と話す。

企業プロフィール

オープンワーク株式会社新しいウィンドウ

所在地:
東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア39階
設立:
2007年6月
資本金:
6億4934万円
従業員数:
82人(2022年5月)
事業内容:
転職・就職のための情報プラットフォーム「OpenWork」の開発・運用業務