他社の勤務経験がある人材の取り込みによって、新たな改善などの効果も
 ――森永乳業の「リターンジョブ制度」と「キャリア採用」による多彩な人材の積極的な獲得の取り組み

企業取材

乳製品大手の森永乳業(東京・港区)は、多彩な人材を取り込み、社内の活性化を図るため、退職した社員に復帰して活躍してもらう「リターンジョブ制度」を導入するとともに、「キャリア採用」を2016年から本格的に実施している。いまでは年間の採用者の2割程度は、これらの制度による採用者だ。キャリア採用では、他社での勤務経験がある人が入ることで、新たな改善ができたり、良い意味で「社内の当たり前」を崩すなどの効果も表れている。

<リターンジョブ制度>

2008年の制度刷新で退職理由などの条件を撤廃

同社は2007年5月に、退職した社員が復帰できる再雇用制度を導入。ただ、この制度では、復帰できる社員が退職したときの理由について「出産、育児、配偶者の転勤など」と限定し、これ以外にも、5年以上の勤務経験があることや、退職してから6年以内の人であること、といった条件を設けていた。自分が復帰の可能性があると思っている社員には、退職時に、登録票を会社に提出してもらっていた。

だが、導入から2年もたたない2008年10月に、①社外で培った技術や知識などを自社の業務に活かし、社内の活性化につなげる②自社での経験からノウハウ、文化を熟知している退職者の再雇用により即戦力を確保する③多様な価値観を尊重する社内風土の情勢を図る――ことを理由に、制度の内容を刷新。「リターンジョブ制度」(以下、RJ制度)という新たな制度名とするとともに、「正規社員として3年以上の勤務」との条件は付したものの、退職時の理由や退職からの期間などの条件はすべて撤廃。登録するかどうかについても、退職時に決める必要はなく、Web上でいつでも登録できるようにした。

一般的なキャリア採用も、当時は必要に応じて行っていたが、同社としては、RJ制度のほうも重視していたという。「働き方も含めて、森永乳業という会社を知ってくれている人に、社外のことも経験して戻ってきてもらったほうが、より社内の活性化につながると考えた」と同社のコーポレート戦略本部人財部人財戦略グループは説明する。

これまでに戻ってきた社員は9人で、ほとんどが他社経験あり

RJ制度では、これまで9人が復帰して再び活躍している。結婚や育児で退職した女性が多いということはなく、男性も3人含まれ、ほとんどが他社での勤務経験のある人だ。年代は、30代後半~40代が中心となっている。

配属されている職種は、「営業、本社機能、製造、海外事業などと様々」(人財戦略グループ)。なお、同社社員の職種としては、営業、マーケティング、海外事業、管理などの「事務系」、研究・開発や生産技術などの「技術系」に分かれる。復帰後、かつて担当していた職種と同じ職種に就くことが多いのかどうかについては、製造系は同じ職種に就くことが多いものの、それ以外の職種だった人については「退職期間中に就いていた仕事や経験、また本人の希望も聞いて決める。人によって結構ばらばら」だという。

最初に再雇用制度をつくったときは、退職時に登録するかどうかを決めてもらっていたため、「いつ本人が戻りたいのかなどが分からず、オファーするタイミングが難しかった」という課題があった。そのため、RJ制度ができてからは、Web上の専用ホームページで登録をしてもらうようにし、「登録があった人は戻りたいという意思があるんだろうな、と確認できる形にした」。

人材が必要なポストが発生したときの、登録している人への声かけはどのように行っているのか。「このポジションでこういう経験がある人が必要だ、となったときに、人材紹介会社を通したり、キャリア採用で募集したりすることと同時に、登録者の状況も確認する。登録者については、社内経験、就いていた職種、転職先まで把握するようにしているので、それらを確認して、本人の意思と入社時期が合えばお声がけする」。

<キャリア採用>

希望者は事前に自分のキャリアを登録しておくことができる

同社は2016年から、新卒採用に加え、キャリア採用も本格的に運用している。「キャリア登録」という制度も設けており、同社ホームページの求人欄に希望する職種がなかったとしても、自分のキャリアを登録しておくことができる。後日、スキルや経験にマッチした職種の求人が出たときに、同社から登録者に連絡するというものだ。

キャリア採用を本格的に実施することにした狙いについて、人財戦略グループはこう話す。

「ポイントは2点ある。1つは即戦力となる人材の確保。いろいろな部門から、専門知識が必要な仕事をこなせる人材に対するニーズが出てくるようになってきている。また、制度開始当時は、工場でも、新たなラインの増産や新設備の投資を控えており、即戦力となる人材を確保する必要が出ていた。もう1つは、リターンジョブの狙いとつながるところがあるが、多様な価値観を尊重できる社内風土をつくりたかった」

毎年、20~30人程度を採用

同社は毎年、新卒採用で100人程度を採用。キャリア採用では、20~30人程度を採用している。キャリア採用した人の職種は、ここ3年くらいは生産技術系のほうが多く、それ以外では営業管理などが多い。生産現場で他社の生産工場で勤務経験がある人が入ったときには、新たな改善点が見えてくるといった効果があるという。

キャリア採用は、新卒採用も含めた5年程度の採用計画に基づいて行っているが、急な増産対応や計画の前倒しなどに応じて追加で実施することもある。同社の社員区分には、全国に転勤する可能性がある「全国型総合職」(ナショナル社員=N社員)と、勤務地が地域限定で転勤がない「地域型総合職」(エリア社員=A社員)がある。キャリア採用で入社した人の社員区分は、「そのときの職種、募集案件によって変わる」ものの、これまではN社員での募集が多くなっている。

キャリア採用の選考で重視する項目などはあるのか。「業界や業種にこだわりがあるわけではないが、乳製品に近い業界、たとえば食品や消費財メーカーなどの経験者が多い」(人財戦略グループ)。採用者の年齢は、20代後半~30代前半が多く、生産技術では若い人が採用されることが多いという。

定着を促すために入社3年目まで毎年面談を実施

キャリア採用で入社した人の定着のための取り組みとしては、まず、面談をこまめに実施している。「キャリア採用担当者や人事の研修担当が、入社後、2年目、3年目など、定期的に追いかけて話を聞き、何か困ったことはないか、どういう仕事の状況かなどを確認してきた」。

また当初は、ある程度、社風に合いそうな人、たとえば似たような業界で働いていた人を優先的に採用するなど、現場が戸惑わないように配慮した。いまでは、各事業所で、キャリア採用された人が配属されることで違和感をもたれるようなことはなくなってきている。工場に配属予定の場合は、工場の社員も選考の段階から加わってもらい、「人の関係を先につくってから入社してもらう」工夫も行っている。

条件面についても丁寧に説明

キャリア採用された人の給料など処遇は、「キャリア採用された人のための給料の体系などはないので、プロパー社員と同じところに乗せていく形」。福利厚生なども含めて、条件面談もしっかり行い、それらも納得して入社してもらっている。

<両制度を運営してきて感じる課題と効果>

当初はどのタイミングでオファーしたらよいかわからず

RJ制度、キャリア採用それぞれについての課題を聞くと、RJ制度では、すでに少し触れたが、「当初の制度で、退職時に登録してもらっていたことで、どのタイミングでオファーをかけていいのか分からなかったところ」だといい、それがなかなか採用に至らない要因だった。ただ、Web上からいつでも登録できるようにしたことで、いまはこの課題は解決している。今後は、「リターンジョブの登録者に対して、定期的に連絡をとるようにして、登録内容の更新をお願いしたり、当社に戻りたいという人をすぐに発見できるような形にしたい」という。

また、いまは、あるポジションで人材が必要になったときに、どちらかというとその職種の経験者のなかで、厳選して声かけしているような状況だが、「本来であれば、経験はないけれども強く希望している人も見逃すべきではない」と考えている。そのため、「登録者に対して情報がよりオープンになるよう、情報開示の強化もしていきたい」と話す。

キャリア採用では、求人を出すと「応募自体はありがたいことにたくさん来る」ものの、やはり、そのなかから当社にマッチする人材を選ぶのは大変だという。「やはり入社するからには活躍してほしいし、楽しんで仕事をしてほしい。条件面談では、そういったことも意識して話をするように努めている」。

他社の経験を持ち込み、社内の当たり前を崩してくれる

では、プラスの効果としては、どんなことがあるのだろうか。人財戦略グループによると、「リターンジョブ、キャリア採用ともに、採用された人は、上司や周りの従業員から高く評価されている」という。

「他業界、他業種で経験を積み、当社の当たり前を崩してくれているようなところが散見されるので、そういったところは非常に良い効果となっている。受け入れている上司たちも、『これが森永の文化なんだ、やり方なんだ』といった強要をすることもなく、『そういう考え方もあるなら、こうしてみよう』などと、自分たちにも変化が出てきている」。

<今後の両採用制度の展望>

今後は新卒採用とキャリア採用の適切なバランスを見極めたい

今後の新卒採用とキャリア採用とのバランスについて、人財戦略グループは「今、そのあたりのバランスを模索中だ」と話す。

「今までは新卒採用率の高い会社だったと認識しているので、おそらく、その数字を一気に変えてしまうと、ハレーションや悪い側面も出てくる可能性もある。25%程度はまだ高いとは思っていないので、徐々に高めていきながら、このあたりが適当だという比率をしっかり見極めたい」

RJ制度とキャリア採用のバランスについては、異文化の受け入れのほうを重視すると、キャリア採用をより重視すべきとなるが、「リターンジョブで戻ってきた人は本当にハイブリットな人材」と評価している。まだRJ制度の実績は9人と、けっして多くないことから、「リターンジョブでもう少し多く戻ってきてもらえるような機会を提供していきたい」と話す。

企業プロフィール

森永乳業株式会社新しいウィンドウ

本社所在地:
東京都港区芝五丁目33番1号
従業員数:
単体:3,349人<男子2,681人 女子668人>
連結:6,839人<男子5,091人 女子1,748人>(2022年3月31日現在)
事業内容:
牛乳、乳製品、アイスクリーム、飲料その他の食品等の製造、販売

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