トラックは拘束時間について、1年、1カ月ともに現行の時間数から縮減
 ――厚生労働省が「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の在り方について(報告)」を公表

スペシャルトピック

「貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(トラックの改善基準告示)のあり方についての議論がまとまったことをうけ、厚生労働省の「労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会」(座長:藤村博之・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)は9月27日、先行して議論が終了していたバス、ハイヤー・タクシーの新たな改善基準告示案も含む最終報告(「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の在り方について」)を労働条件分科会長に報告した。トラック運転者の年間の総拘束時間は、現行では最大3,516時間だが、年間3,300時間を超えないことを原則とする。1カ月の拘束時間についても、現行の「293時間を超えない」から「284時間を超えない」に、規制を強化する内容となっている。

トラック作業部会の結論がまとまる

改善基準告示は1989年の大臣告示、1997年の改正を経て、トラックなどの自動車運転者等の拘束時間、休息期間等の基準が設定され、その遵守を図ってきたが、近年の運輸業などの長時間・過重労働の問題や、働き方改革関連法の成立などを背景として、見直しが求められてきた。

これを受け、労働政策審議会労働条件分科会の専門委員会では、ハイヤー・タクシー作業部会、トラック作業部会、バス作業部会を設置し、それぞれの改善基準告示の見直しの方向性を議論。ハイヤー・タクシーとバスについては、先んじて新基準案を整理できたことから、その内容を「中間とりまとめ」として今年3月に公表した(本誌2022年5月号スペシャルトピックにて詳報)。残されていたトラック作業部会でも9月8日にようやく方向性がまとまり、同27日の専門委員会で正式に了承されたことから、同日、3作業部会合わせての報告として公表した。

1カ月の拘束時間は現行より短縮して284時間未満が基本に

トラックの改善基準告示は、現行では、1カ月の拘束時間について「293時間を超えないものとする」としており、労使協定を締結すれば、「年間6カ月までは、年間の総拘束時間が3,516時間を超えない範囲内において、1カ月の拘束時間を320時間まで延長することができる」との内容になっている。

新基準案では、年間の拘束時間が3,300時間、かつ、1カ月の拘束時間が284時間を超えないものとすることを原則とする()。

表:トラックの「改善基準告示」見直しのポイント
画像:表
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(審議会の参考資料(厚生労働省ホームページ上で公開)から編集部で作成)

ただし、例外を設け、労使協定により、「年間6カ月までは、年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1カ月の拘束時間を310時間まで延長することができるもの」とした。なお、この場合は「1カ月の拘束時間が284時間を超える月が3カ月を超えて連続しないもの」としたうえで、1カ月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努めることを促している。

1日の拘束時間は延長する場合でも最大15時間までにとどめる

1日の拘束時間については、現行では「13時間を超えないもの」とし、延長する場合でも、最大拘束時間を16時間と設定している。

新基準案は、「13時間を超えないもの」とすることは維持しつつ、延長する場合の最大拘束時間を、現行よりも1時間短い15時間とするよう提示している。

ただし、例外を設ける。1週間における運行がすべて長距離貨物運送(事業場を出発してから帰着するまでの走行距離が450km以上となる貨物運送)であり、同時に休息期間が住所地以外の場所である場合は、この1週間について2回に限り、「最大拘束時間を16時間とすることができる」としている。

原則、例外のどちらの場合でも、「1日についての拘束時間が14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努めること」もあわせて提起した。

休息期間は継続11時間以上与えることを基本に

1日の休息期間については、現行では「勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与える」としている。新基準案では、「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないもの」とすることを示している。

例外も設ける。1週間における運行がすべて長距離貨物運送であり、かつ、休息期間が住所地以外の場所である場合は、この1週間について2回に限り、「継続8時間以上とすることができる」ようにする。この場合、運行終了後の休息期間は「継続12時間以上」を与えるとしている。

連続運転は現行の4時間以内を継続しつつ運転中断時は「休憩」を原則に

運転時間については、「2日を平均し1日当たり9時間、2週間を平均し1週間当たり44時間を超えないもの」との現行の内容を維持するとしたが、連続運転時間については見直し案を示している。

連続運転時間(1回がおおむね連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間)は、現行どおり「4時間を超えないもの」としたものの、運転の中断は、「原則休憩とする」ことを新たに明記する。また、例外も設け、サービスエリア、パーキングエリア等に駐車または停車できないことで「やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、30分まで延長することができる」とする。

事故など通常予期し得ない事象への対応を新設

事故、故障、災害などの通常予期し得ない事象に遭遇した場合の例外的な取り扱いを新設するとしている。こうした事象に遭遇して、一定の遅延が生じた場合は、客観的な記録が認められる場合に限り、「1日の拘束時間、運転時間(2日平均)、連続運転時間の規制の適用に当たっては、その対応に要した時間を除くことができることとする」としている。

また、この場合においても、勤務終了後には、通常どおりの休息期間(継続11時間以上を基本として継続9時間を下回らない期間)を与えるとしている。

なお、予期し得ない事象における具体的な事由として、以下4点に整理している。

①運転中に乗務している車両が予期せず故障した場合②運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航した場合③運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖された場合、道路が渋滞した場合④異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となった場合。

(調査部)

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