医師、看護師、介護分野の職員など10の職種について、今後の人材確保の方向性などを提言
 ――2022年版厚生労働白書

スペシャルトピック

厚生労働省は9月16日、2022年版厚生労働白書を公表した。今年は、「社会保障を支える人材の確保」をテーマに、現役世代が急速に減少し、高齢化がさらに進む人口構造のなか、社会のセーフティネットである社会保障を支える人々の人材確保について分析した。これまで重点的に人材確保の取り組みを行ってきた看護師など10の個別職種・分野について、その成果を分析するとともに、今後も不足が見込まれる「医療・福祉分野」の人材確保の方向性などについて提言している。

・ 現役世代が急激に減少していく時代への準備は喫緊の課題と強調
・ 国民の「安心」や生活の「安定」を支える社会保障制度に焦点あてる

白書によると、2022年、いわゆる団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳を迎え始め、2025年までに毎年約200万人が75歳以上となると見込まれている。健康上の問題の制限なく生活できる期間を指す「健康寿命」は、2019年に女性は75.4歳、男性は72.7歳と延びてきているものの、今後も、介護や医療を必要とする人の増加が予想されるとの見方を提示。高齢化が進む一方で、現役世代が急激に減少していく時代への準備は、喫緊の課題となっていると白書は強調している 。

こうした状況をふまえ、今年は 、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットである社会保障制度にあらためて焦点をあてた。医療・福祉サービスを持続可能な制度としていくために、サービス提供の担い手である「人」の確保にどのように取り組むべきか、特に重点課題として取り組んできた10の職種・分野について、その成果を詳細に検討・分析 。

そのうえで 、今後の医療・福祉サービスの提供のあり方や 人材確保の方向性についてとりまとめ、将来の担い手不足の克服に向けて 提言した 。ここでは、第1章の「社会保障を支える人材を取り巻く状況」を中心にその内容を紹介する。

・ 医療・福祉分野の就業者数は、約20年間で410万人増加
・だが2040年には医療・福祉分野の就業者数が96万人不足すると推計

第1章では、現役世代の急減による担い手不足の加速化と今後必要となる医療・福祉分野の就業者数の見通しを整理。そのうえで、医療・福祉分野の人材について、個別具体的に、これまでの取り組みの成果を紹介している。

内容を詳しくみていくと、 まず、現役世代の急減による担い手不足の加速化と、医療・福祉の就業者数の見通しについて分析。少子高齢化は急速に進んでいるが、女性や高齢者の就業率は上昇し、就業者数は人口減少が始まった2008年以前の水準を維持しているとしている。

医療・福祉分野の就業者数(2021年現在891万人)は、約20年間で410万人増加。 約8人に1人が、医療・福祉分野で就業している計算となる。

だが 、今後20年間で20~64歳人口は約1,400万人減少する見込みだとしている。 経済成長と労働参加が進むと仮定しても、2040年には医療・福祉分野の就業者数が96万人不足すると推計。今後、現役世代人口が急減するなかで、女性、高齢者等をはじめとした一層の労働参加が不可欠で、社会保障の担い手である医療・福祉分野には、より多様な人材を確保することが必要となる、と白書は指摘している。

・2021年度の医学部定員は過去最大規模で増加
・依然として医師の地域偏在が根強い

以上のように、医療・福祉分野の就業状況などを概観したうえで、白書は、日本の医療・福祉サービスが医師や看護師、薬剤師をはじめ、多様な人材の活躍に支えられていることをふまえ、厚生労働省が重要課題として担い手の養成・確保に取り組んできた10職種・分野の人材を取り上げ、その取り組みの成果をまとめた。

1 医師

医師は33万9,623人(2020年12月)で、2006年度からの医学部臨時定員の増加方針などにより、2021年度の医学部定員は9,357人と、過去最大規模で増加している。

医師のうち95%以上が病院・診療所(以下「医療施設」)に従事しており、医療施設に従事している医師について、年齢階級別に多い順にみると、「50~59歳」が20.9%、「40~49歳」が20.8%、「30~39歳」が20.5%と、それぞれ2割を占める。

また、医療施設に従事する医師の地域偏在指標によると、最も多い東京都の332.8人に対して、最も少ない岩手県や新潟県は172.7人と、2倍近くの差が見られた。医師の地域偏在を是正するため、医学部定員の地域枠等の設定や、臨床研修制度の都道府県別募集定員の上限設定などの試みが効果を上げつつあるものの、依然として地域偏在が根強いという。

医療施設に従事する医師を男女別にみると、男性が24万9,878人(77.2%)、女性が7万3,822人(22.8%)だった。女性の占める割合は年齢層が低くなるほど上昇し、「29歳以下」では36.3%と3分の1を超えている。女性医師の就業率は30代後半で最低値76%まで下がるM字型カーブを描いており、子育てと勤務を両立するための必要な措置が求められる、と指摘している。

2 歯科医師

歯科医師は10万7,443人(2020年)で、このうち歯科診療所の開設者が5万8,867人、勤務者が3万2,922人と、約9割が歯科診療所で働く 。

歯科医師数の需給調整のため、新規参入歯科医師数を削減する取り組みにより、2020年度の歯科大学の入学定員は1985年に比べ約27%削減されたが、人口10万対歯科医師数は増加傾向となっている。

人口10万対歯科診療所数は、最も多い「東京都」で約76施設に対し、最も少ない「島根県」は約38施設と、医師同様、約2倍の差がみられ、無歯科医地区も777地区(人口17万8,463人)存在している。

・看護師 の求人倍率は全職業計を大きく上回る
・看護師の平均賃金は全産業平均を上回るが、 35歳~59歳では平均以下

3 看護師等

「看護職員」(就業している保健師、助産師、看護師および准看護師)は168万3,295人(2019年)で、その内訳は看護師が127万2,024人、准看護師が30万5,820人、保健師が6万4,819人、助産師は4万632人となっている。

看護師および准看護師の求人倍率は2.24倍(2020年度)と、全職業計を大きく上回って推移している。都道府県別に人口10万対看護師・准看護師数をみると、神奈川、千葉、埼玉、東京などの都市部で低くなっている。

看護師の平均勤続年数は、30歳まではおおむね全産業計と変わらないが、35歳以上になると他産業を下回る。

看護師の平均賃金は、全産業平均を上回って推移しており、2021年は月額39.9万円(全産業平均35.5万円)。ただし、年齢階級別にみると、35歳~59歳では全産業平均を下回る。こうした賃金の状況について白書は、「管理的立場にある看護師の賃金が相対的に低いこと、民間の医療施設であっても国家公務員の医療職の俸給表を参考としている場合が多いことといった指摘もある」としている。

4 薬剤師

薬剤師は32万1,982人(2020年)で、うち約6割にあたる18万8,982人が「薬局」で就業している。次いで多いのは 「医療施設」の 6万1,603人で、「医薬品製造販売業・製造業」 2万7,331人、「医薬品販売業」 1万1,713人、「大学」5,111人などと続く 。

薬剤師数は、大学薬学部数や入学定員数等の増加に伴い一貫して増え、1990年の約15.1万人から30年間で倍増したという 。

都道府県別に人口10万対薬剤師数をみると、最も多い徳島県で238.6人、次いで東京都の234.9人。一方、 最も少ない沖縄県は148.3人となっているなど、 都道府県によって差がある状況がみられる。

5 理学療法士・作業療法士

「理学療法士」の登録者数は19万2,276人(2021年12月)となっている。医師の指示のもとに治療体操などの運動を指導し、電気刺激、マッサージなどを行う理学療法士の養成校の入学定員は、制度等改定に伴い、1999年から2009年の10年間で大幅に増加し、以降は横ばいに推移している。

理学療法士の就業先は医療分野(医療施設)が8割を超え、介護分野が約1割となっている。

また、医師の指示のもと、主に応用的動作能力・社会的適応能力の回復を図るため、手芸や工作などの作業を行わせる作業療法を実施する「作業療法士」の登録者数は10万4,465人(2021年12月)。作業療法士についても、理学療法士と同様に、養成校の入学定員は1999年から2009年まで大きく増加し、その後は横ばいで推移している。

就業先は医療分野(医療施設)が約66%、介護分野が約13%などとなっている。

6 管理栄養士

管理栄養士の登録者数は26万4,181人(2021年12月) 。就業している管理栄養士の勤務先は、病院・診療所が約30%で最も多く、 保育所等(約21%)、介護保険施設(約18%)、学校(約12%)などの順で多い。

・介護保険給付対象の介護職員数は約20年で約4倍に増加
・介護関係職種の求人倍率は3倍超で 、特に都市部で人材が必要

7 介護分野の職員

介護分野の職員には、まず、専門的知識や技術を持ち福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供者等と連絡・調整・その他援助を行う「社会福祉士」があるが、 登録者数は 1998年の制度開始以降増加し、26万518人(2021年9月)にのぼるとしている。

また、専門的知識や技術を持ち心身の状況に応じた介護や 、 介護に関する指導を行う「介護福祉士」の登録者数も、1998年以降増加しており、181万3,112人(2021年9月)にのぼるという。

介護保険給付の対象となる介護福祉士等介護職員数は、常勤、非常勤を含めて211万9,000人(2020年度)。 介護サービス利用者の増加に伴い、2000年に比べ約3.9倍に増加している。

介護関係職種の有効求人倍率は、2005年の1.38倍から2021年には3.64倍と大きく上昇し依然高い水準にある。特に都市部での人材確保が必要な状況となっている。

介護職員の離職率は2019年に初めて産業計を下回る15.4%となり、低下傾向にある。離職者の約4割は他職種に転職しているという。

介護職員の賃金水準が低いことが指摘されるが、 2009年以降、介護職員全般の処遇改善の取り組みが実施され、処遇改善実績が月額7万5,000円となったことも白書は紹介している。

8 障害保健福祉分野の職員

障害福祉サービス施設・事業所で利用者の福祉・介護業務を行う職員数(「福祉・介護職員数」)は常勤・非常勤を含め約110万6,000人(2019年)で、2006年の障害者自立支援法施行当時の約59.3万人から約1.9倍に増加している。

これを施設・事業所別にみると、訪問系が約52万4,000人、通所系等は約49万3,000人、入所系は約8.9万人となっている。

専門的知識や技術を持ち、精神科病院ほかで精神障害の医療や施設を利用する人たちに地域相談支援利用や社会復帰に関する相談や助言、指導、援助などを行う「精神保健福祉士」の登録者数は9万7,339人(2022年3月)で、1998年の制度開始以降、増加しているとしている。

保健医療、福祉、教育などの分野で、心理学に関する専門知識や技術を持ち、心理状態の観察や分析、相談、助言や指導、援助や情報提供を行う「公認心理師」は5万4,248人(2022年3月)で、2017年の制度開始以降増加している。

こうした障害福祉サービス等従事者を含む関係職種の有効求人倍率は3.31倍と、全職業計の1.03倍を大きく上回る高い水準で推移しているという。

2021年現在、障害を持つ人は約965万人で、うち就労支援施策対象となる18~64歳の在宅者は約377万人となっている。一般就労に移行する障害者は毎年増加しており、白書は、職場定着の支援がますます重要となっていることを指摘している。

・保育所、利用児童の増加に伴い保育士数は1.3倍に
・低くなる 35歳以上の保育士の職場定着率

9 保育人材、放課後児童クラブ職員

保育所などで働く「保育士」の数(常勤換算)は、約52万人(2029年10月)と推計されている。

2013年度から始まった「待機児童解消加速化プラン」や2018年度からの「子育て安心プラン」などの取り組みにより、2012年に比べ保育所等の数は1.6倍、保育所等定員数は約1.3倍、利用児童数も約1.3倍に増加した。これに伴い保育士数も約1.3倍に増加し続けている。こうした取り組みの結果、待機児童数は5,634人(2021年4月)と調査開始以来、最も少なくなったが、待機児童の6割は都市部に集中していると指摘する。

保育士の有効求人倍率は、2012年は1.05倍だったが2021年には2.50倍と、依然として高い水準で推移している。

保育士の離職率をみると、2020年は8.4%と必ずしも高くはないものの、35歳以上の年齢層の職場定着率が低いことを白書は指摘している。 保育士資格を持ちながら保育所等で働いていない潜在保育士が多いことについて、「処遇や労働時間等が希望と合わないという理由のほか、『責任の重さ・事故への不安』や『ブランクがあることへの不安』が挙げられる」とまとめている。

保育人材の処遇改善については、2013年以降、全職種の処遇改善を図る取り組みを実施しており、民間の保育士等については2013年度からの9年間で約14%(月額約4万4,000円)の改善を実現している。

放課後児童クラブの職員数は、常勤・非常勤含めて17万5,583人(2021年5月)と、6年間で約1.5倍に増加している。

放課後児童クラブ数は2万6,925カ所と、この20年間で約2.4倍となり、登録児童数も134万8,275人と同3.4倍となった。待機児童数は首都圏を中心に1万3,416人いる。

10 行政機関の保健福祉担当職員

地方公共団体の福祉関係職員の数は37万9,087人(2021年4月)と、子育て支援や生活保護業務の体制充実などのため、前年比2.1%増加している。

地方公共団体の保健師数(常勤)は3万7,130人(2021年5月)と活躍分野の多様化や役割の拡大により増加している。

福祉事務所で生活保護の実務を担う職員(ケースワーカー)は1万9,140人(2021年4月)と、2009年に比べ約38%増加した。

児童相談所の職員は1万5,953人(2021年4月)で、うち相談対応を行う児童福祉司は5,168人と、児童相談所数の増加に伴い1999年に比べ約4.2倍に増加。白書は、「子ども家庭福祉に関わる専門職の体制を強化し、その資質を向上させていくことは喫緊の課題である」と強調している。

ただ、児童福祉司および児童心理司の平均勤続年数は、約半数が3年未満であるのが現状であることも紹介。 精神的・肉体的負担が大きく、専門性を有する人材の確保が求められる児童相談所の児童福祉司、児童心理司、保健師に対しては、2020年度から月額2万円の処遇改善を実施している施策についてもあわせて紹介している。

・偏在の状況や原因を踏まえた養成の在り方の検討などの必要性を指摘
・介護、福祉、保育人材では多様な人材を呼び込む総合的な対策を

10職種での人材確保の取り組み状況を踏まえて白書は、「医療・福祉分野の就業者数は、サービス利用者や人材養成施設の増加等によって増えてきている。しかし、地域間等で人材確保の状況に差が生じている医師、歯科医師、薬剤師及び看護師については、偏在状況や偏在の原因を踏まえた養成の在り方の検討、職場環境の改善等の対策が必要となる」と指摘。

また、有効求人倍率が高く、人材確保の必要性の高い介護職員、障害福祉分野の福祉・介護職員、保育人材などは、多様な人材を呼び込むための発信や処遇改善、職場環境の整備など、総合的な対策が必要だと訴えている。

設置や運営主体が市区町村や都道府県となる保育所や放課後児童クラブの一部、児童相談所等の職員については、人材確保に制約があるなかで、処遇の改善とあわせてAI等を活用した業務効率化の取り組みが必要となるとしている。

医療・福祉サービスの担い手不足の克服に向けて効率化や労働環境の改善を

第2章では、「担い手不足の克服に向けて」と題し、医療・福祉サービス提供のあり方と人材確保に関する今後の方向性を論じ、いかにして担い手不足を克服すべきか、提言した 。

方向性としては、今後も少子高齢化のなか、必要な人材を将来にわたって確保し続けることは容易ではないため、「医療・福祉サービスそのものもデータヘルス改革により効率的・効果的な提供を目指す」ことや、「医療・福祉の仕事が他の多くの仕事の中から選ばれるものとなるように、労働環境や処遇の改善に取り組む」ことの必要性を強調。

現業業務に対しては、「一定の研修等を受けた他の専門人材や有資格者以外の多様な人材に業務担当を移したり共有したりする『タスク・シフト/シェア』を行うことやロボット・センサー・ICTを活用すること」による効率化や労働環境の改善を提言した。

また、医療・福祉人材のキャリアパスの整備の重要性なども強調した。

(調査部)

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