「女性の経済的自立」に向け、男女間賃金格差の情報開示やデジタル人材の育成などに取り組む
 ――「⼥性活躍・男⼥共同参画の重点⽅針2022(女性版骨太の方針2022)」を政府決定

岸田政権の当面の政策方針

「すべての⼥性が輝く社会づくり本部」と「男⼥共同参画推進本部」は6月3日、合同会議を開き、政府として「⼥性活躍・男⼥共同参画の重点⽅針2022(女性版骨太の方針2022)」を決定した。政権が進める「新しい資本主義」の実現に向けて、「女性の経済的自立」を中心に据えた。男女間賃金格差に対応するため、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」にも盛り込んだ格差の情報開示や、女性デジタル人材の育成などに重点的に取り組む。

5次計画に加え、新たに取り組む事項を掲げる

女性版骨太方針は、女性活躍・男女共同参画の取り組みを加速するために、毎年6月をめどに政府決定し、各府省の概算要求に反映するもの。男女共同参画推進については、政府は2020年12月に「第5次男女共同参画基本計画」を閣議決定して、実行しているところであり、来年度の2023年度が計画の中間年にあたる。

今回の女性版骨太方針は、「女性の経済的自立」を、岸田政権が目指す「新しい資本主義」の中核と位置付け、「女性が直面する課題を1つ1つ解決し、令和の時代において女性が経済的に自立して生きられる社会を実現する必要がある」と強調しているのが特徴。

第5次計画に盛り込まれた取り組みについて「着実に実施する」とし、そのうえで、新たに取り組む事項として、①女性の経済的自立②女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現③男性の家庭・地域社会における活躍④女性の登用目標達成(第5次男女共同参画基本計画の着実な実行)――を掲げた。今後、各事項について「政府全体として今後重点的に取り組むべき事項を定める」とし、政府は今回の方針にもとづき、「横断的視点を持って、速やかに各取組を進める」としている。

賃金格差の開示は企業単体ごとに求める

具体的な内容を「女性の経済的自立」に関するものからみていくと、まず、男女間賃金格差への対応をあげる。社内格差と職種間格差に分けて対応を記述し、社内格差については、「男性と女性が同じ組織で働いていても、職務や職責が異なること等から、女性はより低賃金となる傾向がある」と指摘。今後講じるべき取り組みとして、「男女間賃金格差に係る情報の開示」を掲げた。

方針は、わが国の男女間賃金格差の現状を「正規・非正規雇用の日本の労働者の男女間賃金格差は、他の先進国と比較して大きい」「日本の女性のパートタイム労働者比率は高い」と指摘。そのため、女性活躍推進法に基づき、開示の義務化を行う、と強調。

開示の方法などについては、「連結ベースではなく、企業単体ごとに求める」「賃金の差異は、全労働者について、絶対額ではなく、男性の賃金に対する女性の賃金の割合で開示を求める」「対象事業主は、常時雇用する労働者301人以上の事業主とする。101人~300人の事業主については、その施行後の状況等を踏まえ、検討を行う」「有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基づく開示の記載と同様のものを開示するよう求める」「本年夏に、制度(省令)改正を実施し、施行する」などと具体的に示した。

社内格差への対応としてはまた、非正規雇用労働者の賃金の引き上げ(同一労働同一賃金の徹底)を掲げている。同一労働同一賃金について、企業に対して、労務管理の専門家による無料相談や先進的な取り組み事例を周知するなど、きめ細やかな支援を実施するなどとしている。

デジタル分野への就労支援を3年間集中的に進める

一方、職種間格差への対応では、「女性がより多く占めるサービス業や看護・介護・保育は、比較的低賃金であることが多い。女性がより多く働く業種の賃金を引き上げるとともに、高賃金が見込まれる成長分野への労働移動を支援することが有効」だと述べて、取り組みの1つ目として「女性デジタル人材の育成」を掲げた。

2022年4月に男女共同参画会議で決定した「女性デジタル人材育成プラン」にもとづき、就労に直結するデジタルスキルの取得支援や、デジタル分野への就労支援を今後3年間、集中的に推進するとしている。

2つ目には、「看護、介護、保育などの分野の現場で働く方々の収入の引き上げ」を掲げている。2022年2月から実施している賃金の引き上げ措置について、2022年10月以降も継続して実施するとしている。

最後に、「リカレント教育の推進」を掲げた。大学などで、都道府県労働局や地方公共団体、企業などと連携し、産業界の人材ニーズなどに応じてデジタルリテラシーの育成やDX推進のためのリスキリングを目的としたリカレント講座を、2022年度に開発・実施するなどとしている。

ひとり親の訓練支援対象をデジタル分野の資格にも拡大

「女性の経済的自立」の事項で盛り込んだのはこのほか、固定的な性別役割分担意識・無意識の思い込みの解消、女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討、ひとり親支援、ジェンダー統計の充実に向けた男女別データの的確な把握に関する取り組み。

女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討では、有配偶者の非正規雇用女性の4割程度が就業調整を選択しており、また、離婚した女性の年金額が低い傾向にある状況を踏まえ、①現行の制度は就業調整を選択する人を増やしているのではないか②配偶者の経済力に依存しやすい制度は、男女間賃金格差も相まって、女性の経済的困窮に陥るリスクを高める結果となっているのではないか③現行の制度は分配の観点から公平な仕組みとなっていないのではないか――という主に3つの観点から検討すると明記。

ひとり親支援では、ひとり親に対する職業訓練の支援について、支援対象をデジタル分野の資格などに拡大し、訓練期間を6カ月以上に緩和している高等職業訓練促進給付金や(2022年度も継続)、2022年度に給付割合と上限額の引き上げを実施した自立支援教育訓練給付金の拡大・緩和措置について、「成果や課題を検証した上で継続的な実施について検討する」としている。訓練後から就業までの企業との連携のあり方についても総合的に検討する。

ハローワークで育児休業中の代替要員確保の相談支援を実施

「男性の家庭・地域社会における活躍」の事項では、男性の育児休業取得の推進に向け、「産後パパ育休」の創設などを内容とする改正育児・介護休業法が2022年4月から段階的に施行されていることを踏まえ、ハローワークにおける育児休業中の代替要員確保に関する相談支援や両立支援等助成金の周知等を実施することを盛り込んだ。

また、コロナ下で広まったテレワークを定着させるため、2022年度は、中小企業におけるテレワークの導入を引き続き支援するとともに、テレワークに関する労務管理やICT活用をワンストップで相談できる窓口を設置する。

男性の育児参画を阻む壁の解消策も盛り込み、男性が子育てに参画しやすくするため、公共交通機関や公共施設において、ベビーベッドやベビーチェアなどの男性トイレへの設置を進めるなどとしている。

女性役員がいない企業の状況や女性役員比率ランキングを掲載

「女性の登用目標達成」の事項では、経済分野において、女性役員比率を向上させるため、女性リーダー人材バンクについて、利用者のニーズ調査を行うとともに、その結果を踏まえ、さらなる活用の拡大を図るとしている。また、新たに「女性役員情報サイト」において、プライム市場上場企業をはじめ、市場ごとの女性役員がいない企業の状況や女性役員比率ランキングを掲載することなどを通じて、企業における役員への女性登用に関する取り組みを促す。

コース別雇用管理を行っている企業に対して、女性活躍推進の観点から、より柔軟な運用に向けた見直しを行うよう周知啓発を行うとし、特に、コース転換制度を設けていない企業(2017年度で20.3%)に対し、制度を設けるよう働きかけるとしている。