「勤労者皆保険」の実現に向け、女性就労における制約の解消やフリーランスへの社会保険適用の検討などを提言
 ――全世代型社会保障構築会議が中間整理をまとめる

岸田政権の当面の政策方針

政府の「全世代型社会保障構築会議」(座長:清家篤・慶應義塾大学名誉教授)は5月17日、議論の中間整理を取りまとめた。厚生年金や健康保険の加入者を拡大する「勤労者皆保険」の実現に向け、女性就労における制約の解消や、フリーランス・ギグワーカーなどへの社会保険適用の検討の開始のほか、企業の配偶者手当の改廃・縮小に関する労使議論などを提言。内容は6月7日に閣議決定した2022骨太方針にも盛り込まれた。

今回の中間整理では「子育て・若者世代」に焦点を当てる

「全世代型社会保障構築会議」は、全ての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指すとして、2019年9月に設置。2020年12月には、待機児童の解消や、男性の育児休業の取得促進を掲げる最終報告を取りまとめた(同月に閣議決定)。この際、今後について「フォローアップを行いつつ、持続可能な社会保障制度の確立を図るため、総合的な検討を進め、更なる改革を推進する」として、議論を継続してきた。

今回の中間整理は、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっているこれまでの社会保障の構造を見直し、将来世代へ負担を先送りせずに、能力に応じて皆が支え合うことを基本としながら、それぞれの人生のステージに応じて必要な保障をバランスよく確保することが重要」との基本的な考え方を、世代間の対立に陥ることなく全世代で共有し、国民的議論を進めながら対策を進めていくことが重要だとして、これらの観点を踏まえ、まずは「子育て・若者世代」に焦点を当てて議論した結果を整理した。

中間整理の内容は、岸田政権が目指す「成長と分配の好循環」に向け、「2022骨太方針」のなかにも盛り込まれている。なお、骨太方針は、方針に盛り込んだ全世代型社会保障構築に向けた取り組みについて、高齢者人口がピークを迎えて減少に転ずる 2040 年頃を視野に入れつつ、コロナ禍で顕在化した課題を含め、「2023 年、2024 年を見据えた短期的課題及び中長期的な各種の課題を全世代型社会保障構築会議において整理し、中長期的な改革事項を工程化した上で、政府全体として取組を進める」としている。

社会づくり・子育て支援では包括的な一元体制を要望

中間整理の内容を具体的にみていくと、①男女が希望どおり働ける社会づくり・子育て支援②勤労者皆保険の実現・女性就労の制約となっている制度の見直し③家庭における介護の負担軽減④「地域共生社会」づくり⑤医療・介護・福祉サービス――について提言を行っている。

男女が希望どおり働ける社会づくり・子育て支援では、「今なお、子どもを持つことにより所得が低下するか、または、それを避けるために子どもを持つことを断念するか、といった『仕事か、子育てか』の二者択一を迫られる状況が多く見られる」とし、妊娠・出産・育児を通じて切れ目のない支援が包括的に提供される一元的な体制・制度を構築し、ライフスタイルに応じて選択できる環境を整備することが望ましいと強調。

「産後パパ育休制度」など、すでに決定された取り組みを着実に進めていくことを求めるとともに、短時間労働者などが保育を利用しづらい状況の改善や男性の家事・育児参加に向けた取り組みのさらなる推進を要望した。

また、「子育て・若者世代が子どもを持つことによって収入や生活、キャリア形成に不安を抱くことなく、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境を整備するために必要となる更なる対応策について、国民的な議論を進めていくことが望まれる」として、就業継続している人だけではなく、一度離職して出産・育児後に再び就労していくケースも含めて検討することが重要と指摘した。

「制度からこぼれ落ちるケースの解消を」

勤労者皆保険の実現・女性就労の制約となっている制度の見直しについては、「働き方の多様化が進む中で、それに対応し、働き方に対して『中立』な社会保障制度の構築を進める必要がある」と強調。現状では、制度からこぼれ落ちるケースがあることや、制度が労働市場に歪みをもたらしていることを指摘して、勤労者皆保険の実現に向け、「こうした状況を解消していく必要がある」と訴えた。

具体的な取り組みとしては、企業規模要件の段階的引き下げなどを内容とする2020年の年金制度改正法に基づき、厚生年金、健康保険の適用拡大を着実に実施するとしている。また検討すべき事項として、企業規模要件の撤廃も含めた見直しや非適用業種の見直しなどをあげた。

さらに、フリーランス・ギグワーカーなどへの社会保険の適用について、「まずは被用者性等をどう捉えるかの検討を行うべき」とし、「その上で、労働環境の変化等を念頭に置きながら、より幅広い社会保険の適用の在り方について総合的な検討を進めていくことが考えられる」としている。

女性就労の制約となっている社会保障や税制を中立的にすべき

女性就労の制約となっていると指摘されている社会保障制度や税制について、「働き方に中立的なものにしていくことが重要である」とも指摘した。さらに、「多様な働き方に中立的でない扱いは、企業の諸手当の中にも見られる」とも言及。配偶者の収入要件がある企業の配偶者手当は、女性の就労にも影響を与えているとし、「労働条件であり強制はできないが、こうした点を認識した上で労使において改廃・縮小に向けた議論が進められるべき」との考えを示した。

仕事との両立の観点でも介護離職の防止は重要な課題

家庭における介護の負担軽減については、仕事との両立の観点で、介護も「重要な課題」だと指摘。休業期間中に仕事と介護を両立できる体制を整えるための介護休業制度について、より一層の周知を行うことを含め、男女ともに介護離職を防ぐための対応が必要としている。

また、近年問題視されているヤングケアラーへの支援については、ICTも活用しながら実態を把握するとともに、モデル事業の検証も踏まえた上で効果的な支援策が必要とした。

「地域共生社会」づくり、医療・介護・福祉サービスに関しては、サービスの質の向上、人材配置の効率化、働き方改革などの観点から、「看護、介護、保育などの現場で働く人の処遇改善を進めるに際して事業報告書等を活用した費用の見える化などの促進策のパッケージ」「処遇改善も勘案したタスクシェア・タスクシフティングや経営の大規模化・協働化」などを進めることなどを盛り込んだ。