人員不足やコロナによる業務負荷は増加し、離職者やメンタル不全・差別的対応に苦しむ職員も
 ――日本医労連のコロナに関する2つの実態調査結果より

スペシャルトピック

新型コロナウイルス感染症の流行は終息をみせず、2022年1月からは「オミクロン株」の発生により、日本全国に「第6波」といわれる感染拡大が進んだ。この間、医療機関や介護・福祉施設の職場ではどのような状況にあり、どのような対応がとられたのか。日本医労連(佐々木悦子委員長)は職場実態を明らかにするためアンケート調査を行い、4月に公立・公的病院等を対象とした調査結果、5月に高齢福祉、障がい福祉、児童福祉の事業所を対象とした調査結果を発表。両調査からは、急速な感染拡大により院内クラスターの発生や事業休止を余儀なくされる施設・事業所もみられ、人員不足やコロナによる業務負荷が増加するなか、一定数の離職者や、メンタル不全、差別的対応などに苦しむ職員がいる状況が明らかとなった。日本医労連は増員も含めた医療体制、介護・福祉体制の充実強化や財政保障などの必要性を求めている。両調査結果の概要を紹介する。

【公立・公的病院等の職場の状況】
離職者数15人以上の施設は3割を超え前回の約4倍に――第6次「新型コロナ感染症」に関する緊急実態調査

第6次「新型コロナ感染症」に関する緊急実態調査は、2020年4月に公表された第1次調査から数えて、今回で6回目となる。2022年3月14日~4月6日に実施し、加盟組織を経由して各単組・支部(事業所ごとの労働組合)に送付。42都道府県の合計176施設(公立・公的病院145施設、地場民間31施設)から回答を得た。

政府要請後も重症病床の増床率は1割にとどまる

第5波の状況を踏まえて、岸田首相が2021年10月の「新型コロナウイルス感染症対策本部」で第6波の感染力が第5波の2倍になった場合にも対処できる医療提供体制の整備について要請していたことを受け、調査ははじめに、新型コロナ患者の入院受け入れ体制について尋ねた。

全回答施設中、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている施設(n=141施設)に対し、岸田首相の要請以降、重症病床を増やしたかどうか尋ねた結果をみると、増やした施設は約1割(9.9%)にとどまった。増床数は平均5.8床で、ベッド使用率(最高)は平均78.9%だなった。

一方、中・軽症用病床数については約3割(27.3%)が増床しており、増床数は平均9.7床、ベッド使用率(最高)は平均85.6%に及んでいる。これについて日本医労連は、第5波までの期間ですでに病床は拡大されており、「第6波に備えてさらなる受け入れ体制拡大を要請されても、それに対応できる人員体制もなく、応じられなかった状況があるのではないか」と指摘している。

また、全回答施設において、2022年1月以降に救急搬送(コロナ以外も含む)の受け入れを断わった事例があったかをみると、34.7%が「はい」と回答。1日に断わった件数(最高)は平均4.6件で、特に第6波の影響が大きかった1月~2月間の合計件数は平均51.9件にのぼった。

第6波の院内クラスターの発生は3割以上の施設が経験

調査では続いて、感染対策や人員体制、労働条件の状況について、職員のPCR検査や陽性者発生時の対応、離職者数の変化などを尋ねている。

職員のPCR検査(抗原検査は除く)の状況をみると、55.7%と半数以上の施設が実施。2021年10月~11月に実施された第5次調査(以下、前回調査)では実施率が44.2%となっていたが、今回調査では11.5ポイント増加する結果となった。ただし、職員のPCR検査を実施している施設のうち、定期的に行っている施設は5.1%にとどまっている。

今回調査では新たに、院内クラスターの状況についても確認。2022年1月以降、病院内でクラスター発生があったかをみると、35.2%が「はい」と回答した。このうち、66.1%では病棟閉鎖を余儀なくされ、6.5%では陽性者になった職員が陽性者の患者を看護する状況に陥っている。

なお、厚生労働省は2021年8月に、医療従事者に条件付きで濃厚接触者の認定を緩和する措置を示した事務連絡「医療従事者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について」を都道府県等に発出している。今回調査ではこの通知以降に、従事者の出勤停止の取り扱いを変更したかも尋ねたが、約半数(47.7%)で取り扱いを変更した一方、変更していない施設も約4割(41.5%)に及び、緩和措置の切り替えに慎重な施設が多いことがうかがえた。

現場実習がほぼ受けられずに入職した新卒者の離職者数が増加傾向

離職者数の状況について、2020年度と比較して、2021年4月以降(2021年度)がどうなっているかをみると、28.4%が「増加」と回答し、前回調査(28.2%)とほぼ同割合となった。その一方で、離職者数が増加した施設のうち、離職者数が15人以上となったのは32.0%と、前回調査(8.7%)の約4倍にのぼった。離職の多い職種(2つまで回答)は、看護師(77.8%)の割合が突出して高くなっており、看護補助者(12.5%)が次いで高い。

2020年度に入職した新卒者と比較して、コロナ禍で現場での実習をほぼ受けられずに入職した2021年度の新卒者の離職者数がどうなっているかをみると、13.1%が「増加」と回答。日本医労連は、「通常時でも、新卒者の離職率は年間で10%を超えることが常態であるのに、さらに離職者が増加している深刻な事態となっている」と危機感を募らせている。

2019年(コロナ前)と比べて、この2年でメンタル不全が増えているかをみると、38.1%が「増加」と回答。メンタル不全で離職した職員がいた施設も39.8%と、約4割にのぼっている。

補助金等の対象か否かが職員同士の不平不満につながる

2021年11月以降、新型コロナウイルス感染症に関連した職員への差別的対応やハラスメントがあったかをみると、「あり」と回答したのは14.8%。前回調査(20.2%)より減少したものの、いまだに1割以上が差別的対応やハラスメントに苦しんでいる。

自由記述による回答をみると、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ医療機関のみへの補助金や賃上げ補助事業が行われていることに対し、保健所や一般病棟職員から冷たい言葉をかけられるなどの記述がみられた。日本医労連は、「同じ病院内や法人内で分断が起こり、それによる不平不満が生じ、結果として職員同士で傷つけ合うハラスメントにつながってしまっている」と現状を推測する。

新型コロナウイルス感染症以外の患者も面会制限や手術・検査の延期等を余儀なくされる

調査ではほかにも、患者への影響を確認。2022年1月以降に新型コロナウイルス感染症以外の患者にどのような影響があったか(複数回答)を尋ねている。

結果をみると、「面会制限」(85.8%)が8割を超え、突出して高くなっており、次いで、「一般入院の制限や延期」(44.3%)、「手術の延期」(39.2%)、「検査の延期」(31.8%)、「救急車の受入困難」(29.0%)などの順となっている(図表1)。

図表1:新型コロナウイルス感染症以外の患者にどのような影響があったか(複数回答)
画像:図表1

(日本医労連「第6次『新型コロナウイルス感染症』に関する緊急実態調査」を基に編集部作成)

自由記述による回答では、「使用病床の制限」や「デイケアの受け入れ中止」といった病床やサービスの制限・中止・延期などに関する意見が寄せられた。なかには、入院面会の制限のため、本来なら入院して行う抗がん剤治療を外来で実施する患者が増加したといった回答もみられ、新型コロナウイルス感染症以外の患者にも確実に影響が及んでいる様子もうかがえた。

医療機関では基礎疾患のある患者・要介助患者が増加、クラスターによる人手不足も

2022年1月以降で、特に大変だった状況や問題点では、主に「医療機関」「自施設内の訪問看護」「精神科病院」――の3点について、多くの意見が寄せられた。

「医療機関」では、「基礎疾患のある高齢者が多く、コロナ自体は軽快してもなかなか退院できない」、「第5波に比べて患者層が違い介護量も増えた」など、第5波よりも基礎疾患や介助が必要な事例が増えたといった声が挙がった。また、院内クラスターの発生に関する声も多く、人手不足に陥り厳しい状況であったことがうかがえた。

「自施設内の訪問看護」では、コロナ疑いの利用者を訪問・対応した職員が濃厚接触者となるなど、利用者の予期しない発熱に対する感染リスクや、個人用防護具の装着場所、レッドゾーンの区切りが難しいといった課題があることが読み取れた。また、コロナ陽性者の自宅療養が増えるなか、「同居家族への感染対策の指導が行き届いていない場合がある」など、感染対策にも課題があったことがうかがえた。

「精神科病院」では、コロナ病棟を立ち上げ、既存の病棟から人員を出すも「既存の病棟には人員の補充がないためかなり忙しい状態が続いている」という声や、自分の名前を言えない患者が多く患者の顔と名前を一致することが難しいことなど、一般病棟とは別の大変さがあることが読み取れた。

増員や賃上げを政府に求める回答が上位に

次の感染拡大に備えて、政府に特に要求したいこと(5つまで回答)をみると、「職員の増員」が65.9%で最も割合が高くなっている。次いで「賃金の引き上げ」(59.7%)、「診療報酬・介護報酬の引き上げ」(54.0%)、「医療機関への減収補填」(38.1%)などとなっており、厳しい人員体制や経営状況の改善を求める選択肢の回答割合が高くなっている。

日本医労連は、こうした調査結果を受けて、「離職に歯止めがかからず、人手不足に拍車がかかり、現場は困難を極めている状況を読み取ることができた。二度と医療崩壊を起こさないために、日ごろから余力ある人員体制とした医療提供体制を構築することが求められる」として、医療従事者の増員も含めた医療体制の充実強化の必要性を訴えた。

【高齢・障がい・児童福祉事業所の職場の状況】
8割でコロナ関連の休業制度がある一方、賃金保障されるケースは前回より減少――「新型コロナウイルス対策」に関するアンケート調査結果

「新型コロナウイルス対策」に関するアンケート調査は、2020年から毎年行っており、3回目となる今回は、4月1日~5月12日に実施(調査対象期間は2022年1月1日~3月31日)。加盟組織を経由して各単組・支部(事業所ごとの労働組合)に送付し、合計182事業所(高齢者福祉165件、障がい福祉14件、児童福祉3件)から回答を得た。

職員で新型コロナウイルス感染者・感染疑いのいた時期があった事業所は7割超に

調査ではまず、新型コロナウイルス感染状況や陽性者が出た場合の対応、労働環境や賃金の状況について尋ねている。

新型コロナウイルス感染状況について、職員、利用者に新型コロナウイルス感染者または感染疑いがいる・いた時期があったかどうかをみると、職員では、いる・いた時期について71%が「有」と回答。2021年4月~5月に実施された第2回調査(以下、前回調査)では同項目の該当者は22%となっていたが、今回調査では49ポイント増加して、より感染拡大が職員に広がっていることがうかがえた。利用者では、「有」とする割合が62%となり、前回調査(31%)に比べ31ポイント増加している。

今回の調査では新たに、クラスターの発生状況を確認した。結果をみると4%でクラスターが発生しており、収束までは平均17.6日、最低でも14日間を要している。

陽性者(職員含む)が発生した場合にどのような対応をするか(複数回答)をみると、「サービス削減」と「面会制限」がともに35%で最も割合が高く、「利用・入所制限」(33%)、「事業休止」(25%)などの割合も高くなった。

約9割の事業所で新型コロナウイルス対策による業務負荷が増加

新型コロナウイルスに起因する理由で休業できるかについてみると、93%が「休業できる」と回答。そのうち、新型コロナウイルスに関わる休業制度があるかをみると、「有」とする割合は80%となり、前回調査(70%)と比べて高くなっている。

休業制度のある事業所に、賃金保障されるケースを尋ねたところ(複数回答)、「新型コロナウイルス感染」では82%、「新型コロナウイルス感染疑い」では68%、「子の休園・休校」では55%が賃金を保障されると回答。しかし、いずれも前回調査(新型コロナウイルス感染:99%、新型コロナウイルス感染疑い:84%、子の休園・休校:60%)を下回っている。

また新たに、新型コロナウイルス対策による業務負荷の増減を尋ねた。結果をみると、「増えた」と回答した事業所は87%にのぼり、約9割が業務負荷の増加を感じていた。自由記述でも、消毒業務の増加や窓口での荷物の受け渡し、面会対応など、コロナ禍により実施機会が増えた項目を挙げる声が多く寄せられた。

2021年4月1日~2022年3月31日までの年収(賞与を含む)について、2020年4月1日~2021年3月31日までの年収と比較した増減状況をみると、「増えた」が36%、「変わらない」が52%、「減った」が9%となっており、半数近くの事業所で年収が変わらなかったとしている。

3割以上の事業所がメンタル不全の増加を感じる

調査では続いて、前回調査の記述回答の項目で、精神的負担に関する回答が多く寄せられたことを受け、メンタル不全の状況を確認。職員のメンタル不全がコロナ前(2019年)と比較して増えているかを尋ねた。

結果をみると、6割以上(61%)が「変わらない」と回答する一方、「増えた」も34%にのぼっており、心理的な負担がかかっている職員が少なくない状況が読み取れた。

労働者、事業所、利用者に対して保障・補償を

現在の事業所で不足しているものをみると(複数回答)、「体制(人手)」が63%で最も割合が高くなっている。ほかにも、「補償」(49%)、「感染対策物品」(23%)、「設備」(18%)、「PCR検査」(13%)などが高い(図表2)。

図表2:現在の事業所で不足しているもの(複数回答)
画像:図表2

(日本医労連「2022年『新型コロナウイルス対策』に関するアンケート調査結果」を基に編集部作成)

政府や自治体に求めたいことについて、主に「保健所・医療機関の連携強化」「職員の増員」「経営補填・必要な物品の補助」「コロナ対応にあたる職員の処遇」の4点に対しての意見に集約して結果をみると、「保健所・医療機関の連携強化」については、保健所の体制の充実や、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れてくれる医療機関との連携を求める声が挙がり、「職員の増員」については、業務負荷改善のための人員増加が求められた。

「経営の補填・必要な物品の強化」については、介護報酬改定や感染対策に必要な資材購入の補助金の増額など、サービスを維持するための支援が必要とされており、「コロナ対応にあたる職員の処遇」については、補助金の増額やワクチン接種の手当などに関する意見が寄せられた。

日本医労連は調査結果を受け、あらためて感染対策物品や人員体制の強化、感染対策のための情報共有・医療連携などの必要性を強調したうえで、「新型コロナに起因して、労働者、事業所、利用者のそれぞれの立場にあった“ほしょう”が求められる」と指摘。職員がやむなく休業する場合の休業・収入保障や、事業所が事業休止・利用制限を行った場合の減収分への補償、利用者に安全・安心なサービスを提供するための検査や、利用者のサービス利用控えによるフレイル(機能低下)予防への保障の重要性を訴えた。

(調査部)

2022年7月号 スペシャルトピックの記事一覧