就労ニーズの多様化を踏まえ、障がい者の雇用率の対象に、週10時間以上20時間未満の労働者の一部も加えることなどを提言
 ――労働政策審議会障害者雇用分科会が意見書をまとめる

スペシャルトピック

障がい者の就労については、障がい者の就労意欲が高まるとともに、積極的に障がい者雇用に取り組む民間企業が増加する一方で、「障害者雇用率」の達成が目的となり、質の確保が不十分となっている側面が出てきていることや、雇用施策と福祉施策との連携強化などの課題も生じてきている。こうした課題も含め、障がい者雇用施策の全般について議論してきた厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会(座長:山川隆一・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は6月17日、意見書(「今後の障害者雇用施策の充実強化について」)をまとめた。就労ニーズが多様化していることもあり、企業に義務付けている障がい者の雇用率の算定方法について、算定の対象となる障がい者の所定内労働時間は現行では週20時間以上だが、10時間以上20時間未満でも重度身体障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者を特例的に対象とすることなどを提言している。

<多様な就労ニーズを踏まえた働き方の推進>

現状では週20時間未満の就労は、雇用率の算定対象外

意見書は、①雇用の質の向上に向けた事業主の責務の明確化②障がい者雇用と障がい者福祉の連携③多様な就労ニーズを踏まえた働き方の推進④雇用の質の向上――などに大きく分けて、今後強化すべき施策を提言した。このうち、多様な就労ニーズを踏まえた働き方の推進では、「障害者雇用率制度」における障がい者の範囲について触れている。

現行の障害者雇用促進法は、43.5人以上の従業員を雇用する企業に対して、従業員の2.3%以上の障がい者の雇用を義務付けている(障害者雇用率制度)。障がい者のカウントの方法は、所定内労働時間が週30時間以上では1人分だが、20時間以上30時間未満なら0.5人分の「ハーフカウント」となる()。

表:雇用率制度における算定方法(赤枠が今般の措置)
画像:表

※一定の要件を満たす場合は1人

出所:第117回労働政策審議会障害者雇用分科会資料を基に編集部作成

重度身体障がい者と重度知的障がい者は、30時間以上は2人分、20時間以上30時間未満は1人分の「ダブルカウント」となる。また、精神障がい者で20時間以上30時間未満の者は0.5人分だが、2022年度末までの特例として、一定の要件を満たす場合は1人分となっている。このように20時間以上の場合は、いずれかの形で雇用率の算定対象になっているが、20時間未満は算定の対象外だ。

10時間以上20時間未満の障がい者を雇用する事業主には、障がい者の人数に応じて1月あたり7,000円(従業員数100人超の事業主)または5,000円(同100人以下)の「特例給付金」を支払っているものの、従業員の2.3%以上という水準を達成するためには、あくまでも20時間以上働く障がい者をどれだけ雇用するかが問題となる。

未達成の場合、どうなるかというと、常用労働者数100人超で雇用率が未達成の企業は、納付金として不足1人あたり月額5万円が徴収される(100人以下からは徴収しない)。反対に雇用率を達成した企業には、調整金として超過1人あたり2万7,000円が支給される。常用労働者数100人以下の企業にも、一定の条件を満たすと報奨金として1人あたり2万1,000円が支給される。納付金および調整金・報奨金を通して、事業主の経済的負担の調整を行っている。

多様な就労ニーズを踏まえた働き方の推進を強調

こうした現況のなか、障害者雇用分科会における議論では、障がい者の就労を支援する団体から、短時間勤務について「身体障がい者の中には体調や病状、障がいの状態により週20時間以上の勤務ができない人もおり、カウントの対象とすべきではないか」といった声もあがっていた。

分科会で事務局が提示した統計をみても、特に精神障がい者では、週20時間未満の者の割合が近年増加傾向にある。障がい者に対して、週20時間未満の就職を希望する理由を尋ねたアンケート調査によると、いずれの障がい種別でも「体調の変動・維持」が最も多く、次いで「症状・障がいの進行」が多くなっている。

こうしたことから、意見書は、「近年、精神障害者である労働者が著しく増加するとともに、これまで就業が想定されにくかった重度障がい者などの就業ニーズが高まっており、多様な障害者の就労ニーズを踏まえた働き方を推進する」として、必要な措置を提言。「週20時間未満での雇用を希望する障害者や、週20時間以上での雇用が困難である障害者について、その雇用機会を確保することが重要」だとし、「特にニーズが多い精神障害者とその雇用に多くの負担を伴うことから従来から雇用率制度の適用上配慮している重度身体障害者及び重度知的障害者について、雇用率制度において特例を設けることが適当である」と意見した。

週10時間以上20時間未満の精神障がい者などは1人を0.5人分でカウント

具体的な方法としては、「週10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者は、その障害によって特に短い労働時間以外での労働が困難な状態にあると認められるため、特例的な取扱いとして、その雇用を実雇用率の算定対象に加える」ことを提案。また、そうした雇用の雇用率制度での算定について、1人を0.5人分でカウントすることを提起し、この取り扱いについて「一律に適用期限を区切ることはしないことが適当」とした。

また雇用義務の対象を現行で週20時間以上の障がい者としている点について、意見書は、今般、この取扱いは変更しないとし、新たな実雇用率の算定の対象には週20時間未満の障がい者は含めないことをすすめている。

なお、10時間以上20時間未満の就労をする障がい者を雇用する企業への支援は、現状は特例給付金によるものとなっているが、これについて意見書は、今後は調整金の算定対象となり、就業機会の拡大を直接的に図ることが可能となるとして、「特例給付金は廃止することが適当」とした。

20時間以上30時間未満の精神障がい者を1人分とカウントする特例は継続

精神障がい者に対する障害者雇用率の算定については、特例措置によって2022年度末まで、20時間以上30時間未満の短時間労働者を1人分とカウントしている。この点について意見書は、「精神障害者の職場定着率は週20時間以上30時間未満勤務の場合が相対的に高くなって」いると述べて、職場定着を進める観点で特例措置を継続することが適当とした。

意見書はまた、「社会全体が高齢化していく中で、中高年齢者等、長期継続雇用されている障害者のキャリア形成を支援し、その活躍を推進していくことが重要である」として、障がい者の長期継続雇用を評価していく方向性を提起。中高年で継続して雇用されている障がい者の活躍や雇用の継続のため、「個々の障害者の状況に応じて事業主が実施する取組を支援することが適用」と提言した。

<雇用の質を高めるための事業主の責務の明確化>

職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用促進を

意見書は、障がい者の雇用は着実に進んでいるとする一方、「障害者が能力を発揮して活躍することよりも、雇用率の達成に向け障害者雇用の数の確保を優先するような動きもみられる」として、今後は、「障害者本人、事業主、関係機関が協力して障害者雇用の質を向上させることが求められる」と強調。

障がい者雇用の質を高める観点から、「障害者の定着支援を図ることが重要」としたうえで、助成金による支援の充実を含め、職場内外の支援環境を整える職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用を促進することを求めた。

<障がい者雇用と障がい者福祉の連携>

アセスメントの必要性を判断する考え方や実施方法などについて改めて整理

2021年6月にとりまとめられた「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書」に盛り込まれた雇用施策と福祉施策の連携強化について、とるべき措置を示した。

まずあげたのは「アセスメントの機能強化」。本人の就労能力や適性の客観的な評価、およびニーズ実現のための必要な支援や配慮の整理といった「アセスメント」について、「ハローワークにおいては現在でも一定のアセスメントが行われている」としつつも、「実施の必要性の判断等が個々の担当者に任せられている側面がある」と指摘。「アセスメントの必要性を判断する考え方や実施方法、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターとの連携が必要な場合の考え方等について改めて整理する」などの対応を提言した。

アセスメントの強化に取り組むべきタイミングについては、「ハローワークが職業指導や職業紹介を行う」場合や「障害福祉サービスも含めた関係機関への誘導等の支援を行う」場合をあげたほか、就職後についても「必要に応じて適時アセスメントを実施し、定着やキャリアアップに向けた障害者と事業主双方への支援に活用する」としている。ハローワークでの、新たな障害福祉サービス(就労選択支援(仮称))を利用しての支援も求めた。

就労を支える人材のための基礎研修で雇用・福祉の横断的知識を習得

障がい者の就労を支える人材の育成・確保に関しても提言している。障がい者の就労を支える人材のための基礎的研修を確立するため、その水準を、「雇用・福祉分野の横断的な知識等について一定レベルを習得し、障害者本人や企業に対して基本的な支援を開始できるレベルの人材を目指す」ものとするよう提案。基礎的研修の実施期間は3日以内(おおむね900分以内)とし、一部はオンラインの活用も可能としている。

当面のあいだ受講を必須とすべき者としては、「就労移行支援事業所の就労支援員」「就労定着支援事業の就労定着支援員」「障害者就業・生活支援センターの就業支援担当者」「生活支援担当者」の4者をあげた。

<雇用の質の向上>

調整金・報奨金を人数に応じて減額

雇用の質の向上に向けては、意見書は、納付金制度の限られた財源を効果的に運用することが重要だと指摘。調整金・報奨金について「一定の場合の減額等を行うことが適当」と言及した。

一方、納付金制度について、現在は、常用労働者100人超の事業主にまで対象が拡大されているが、100人以下はノウハウの不足などから障がい者の雇用数が0人であるところも多いと指摘。ただ、経営環境や雇用環境を考慮し、100人以下の事業主への適用拡大は「これらの事業主における障害者雇用が進展した上で、実施することが適当」と意見。まずは、雇用が進むよう、特に雇用ゼロの企業が抱えるノウハウ不足の課題に対して支援することを促し、ハローワークにおいて、企業ごとの属性やニーズを踏まえたチーム支援を積極的に実施することを求めた。

<その他の課題>

在宅でのテレワークにも言及

その他の課題については、在宅での就労支援などに言及した。在宅就労支援について意見書は、「通勤等に困難を抱える障害者の就労機会の選択の幅を拡げるとともに、そうした障害者の雇用への円滑な移行を進めていくことが重要」と強調。コロナ禍で特にニーズが高まっているテレワークについて、「環境整備等必要な支援策を積極的に進めていくことが適当」とした。

除外率は一律に10ポイントの引き下げへ

除外率の引き下げも盛り込んだ。雇用率は業種によらず一定だが、機械的な一律の雇用率の適用がなじまない性質の職務もあることから、障がい者の就業が一般的に困難であると認められる業種については、雇用する労働者数を計算する際に、一定の労働者数を控除する「除外率制度」が設けられている。2002年の法改正で廃止となったものの、現在は経過措置として段階的な引き下げ、縮小の状況にある。2004年と2010年に一律に10ポイントの引き下げが実施された。

意見書は除外率について、「廃止の方向で段階的に引き下げ、縮小することとされているが、10年以上引き下げが行われていないことは重大な問題」と指摘。「廃止に向けてピッチを上げるべきという意見があった」などとし、「これらを踏まえ、除外率を一律に10ポイント引き下げることが適当」と更なる引き下げを提言した。

(調査部)

2022年7月号 スペシャルトピックの記事一覧