特別調査 地域での副業・兼業の動向

地域シンクタンク・モニター調査

大企業ほど副業・兼業の推進に慎重、地銀では行員への解禁やマッチング支援の取り組みも

コロナ禍での休業にともなう自宅待機の発生や在宅勤務の浸透を背景に、副業・兼業への関心が高まっている。そうしたなか、ギグワーカーやフリーランスなどの「雇用類似の働き方」をする人も増えている。今回調査では特別調査項目として、副業・兼業への対応での地域企業等の特徴的な事例や動向や、「雇用類似の働き方」についての地域経済での特徴的な事例や動向について尋ねた。各モニターからは企業事例のほか、副業・兼業にかかるアンケート調査の結果や自治体の取り組みが報告された。

アンケート調査の結果からは、大企業ほど副業・兼業を認めない傾向がうかがえた。一方、企業事例では副業人材の活躍で販路拡大に成功したケースのほか、地方銀行が行員の副業・兼業を解禁したり、地域企業と都市部の副業人材のマッチングに取り組む例もみられた。

小規模企業ほど副業容認の傾向に

副業・兼業にかかる各種調査結果をみると、東海地域のモニターの報告では、愛知県内で兼業・副業を「認めている」企業の割合は20.0%だった(帝国データバンク調べ、2021年3月時点、609社が回答)。4年前の調査から10ポイント増加しており、全国平均(18.1%)をやや上回っている。「現在は認められていないが、今後は認める予定(検討含む)」も4年前の調査から3.2ポイント増加している。規模別にみると、副業・兼業を「今後も認めない」とする割合は大企業ほど高く、慎重な姿勢がうかがえる。

四国地域のモニターの報告によると、香川県の企業を対象にしたアンケート調査で、副業・兼業を「認めている」と回答した企業は34%だった(百十四経済研究所調べ、2021年12月時点、268社が回答)。規模別にみると、「30人未満」では50%にのぼる一方、「200人以上」では29%にとどまっており、小規模な企業ほど副業を認める傾向にある。副業を認める理由(複数回答)は、「従業員の収入増加」が60%、「働き方改革の促進」が38%、「禁止すべきものでもない」が30%、「従業員の士気高揚」が19%など。副業・兼業を認めている企業に対して、期待した効果があったかを尋ねたところ、「あまりなかった」が49%、「ややあった」が31%、「全くなかった」が20%となっている。「かなりあった」と回答した企業はなかった。副業・兼業の課題について尋ねた(複数回答)ところ、「業務効率の低下」が41%、「業務への支障」が40%、「従業員の健康管理の問題」が38%などとなっている。

また、九州地域のモニターが企業に実施したアンケートによれば、コロナ禍を契機とした取り組みとして「副業人材の採用・副業の許可」をあげた企業は2.7%にとどまっている。業績拡大・維持・回復に対する副業の貢献も、現時点ではほとんど表れていないという。

自治体が人材確保や雇用創出を目指して副業・兼業を支援

一方、自治体による副業・兼業支援の取り組みについては、秋田県の地域モニターから、秋田県東成瀬村では人材確保と雇用創出を目指す取り組みとして、「東成瀬地域づくり事業協同組合」が雇用の受け皿となり、農業や観光業などへ人材の派遣を行っていることが報告された。農事組合法人や企業が組合員として加盟しており、春から秋にかけてはトマト農家や米農家へ、冬はスキー場へといったように、人手が必要な期間に応じて「マルチワーカー」の従業員が組合員の事業所に派遣される。「特定地域づくり事業協同組合」の認可を受けており、全国では島根県海士町に次いで2例目だという。運営費用の一部に国などから補助を受け、社会保険を整備して退職金や賞与も設けている。村内に年間を通して出来る仕事は少ないが、複数の仕事を組み合わせることで、一時的な季節労働者とは異なり、定住して一定の収入を得られる雇用を生み出す効果が期待されている。

また山形県の地域モニターによると、山形県企業振興公社内にあるプロフェッショナル人材戦略拠点では、2020年5月から「副業・兼業プロ人材」のマッチングを本格的に開始している。県内企業の求人ニーズを掘り起こし、人材紹介会社を通じて募集から契約までを支えている。2021年8月末時点で21件のマッチングが成約している。

中国地域のモニターによると、広島県福山市は2018年に自治体として全国で初めて、兼業・副業限定の「戦略推進マネージャー」制度を設けて、外部人材の活用に積極的に取り組んでいる。これまでに、AI・IoTなど先端技術の社会実装のほか、福山城築城400年記念事業といったイベントの総合プロデュース業務などで地域課題の解決を進めてきた。さらに2021年末からは、備後圏域8市町(広島・岡山両県にまたがる自治体)での外部人材の活用を効率的に進めるため、転職サイトを運営する東京の企業が無償提供するシステムを活用して人材を募集し、各市町が必要とする人材との交渉を開始した。小規模自治体では外部人材を活用しようにも、その人材を探す手間やコストが課題となっており、単独よりも圏域で取り組むことが効率的で登録者も増加が予想されるという。

働き方改革やプロフェッショナル人材活用に向けて副業・兼業を解禁する動きも

各地域の企業事例をみると、福島県のモニターから、東邦銀行が2019年から行員の副業・兼業を認めているとの報告がよせられた。同行の働き方改革の一環で、従業員の多様な働き方や生きがい向上への取り組みだという。対象はすべての行員で、個人が持っている資格や趣味、特技を生かした事業、親族が実施する事業、スポーツ少年団のコーチや審判など地域貢献につながる事業などを認めている。承認制で制度利用者は月に一度、業務内容や業務を行った時間を銀行に報告する。

山形県の地域モニターは、専門的なスキルや知識を生かしたプロフェッショナル人材の活用事例として、菓子製造会社「株式会社うろこや総本店(山形県尾花沢市)」の事例を紹介している。同社はコロナ禍で冠婚葬祭の菓子需要が減少したことを受け、県外需要も見込める自社ECサイトでのインターネット販売に活路を見出した。eコマースの専門知識を持った社員が少ないことが課題となっていたが、プロフェッショナル人材のマッチングサービスを通じて、外部の副業人材にサイト構築やウェブマーケティングを依頼した。自社サイトの改善に加えて、副業人材の助言を受けたSNSによる情報発信にも取り組んだところ、それまでは月数件だった首都圏からのネット注文が月100件ほどに増加するなどの効果があらわれたという。

北陸地域モニターによると、福井新聞社、福井銀行、みらいワークス(東京都)(今号に関連記事を掲載)の3社は2021年7月から、副業人材マッチングサービス「ふくショク」を開始した。副業解禁の動きが広がるなか、副業を希望する都市部の人材と福井県内企業をつなぎ、企業の持続的な成長を後押しするのが狙いだという。

(調査部)