プロフェッショナル人材が副業で地方企業を支援するプラットフォームを展開。45都道府県で副業人材を募集
 ――みらいワークスの「Skill Shift(スキルシフト)」

企業取材

地方創生に向けて、経営改革や新規事業の創出などを試みる地方企業は少なくない。だが、その際に最もネックとなるのが、専門的なスキルを持った人材の確保だ。みらいワークスが展開する「Skill Shift(スキルシフト)」は、そんな地方が抱える課題を解決する。プロフェッショナル人材が東京都心など都市部に偏在していることに着目し、都市部のプロフェッショナル人材と地方企業とをマッチング。しかも、副業という形態で企業の事業にかかわることができるため、人材側の参画のハードルが低くなるとともに、人材受け入れ企業や地域にとっても、高額な報酬を伴う雇用という手段に縛られないで済む。どのような人材が活躍し、双方にどういった効果をもたらしているのか、同社を取材した。

プロフェッショナル人材が自由に選択して働ける社会創りがビジョン

みらいワークスは、主にフリーランスのプロフェッショナル人材向けに業務委託の仕事を紹介したり、転職支援などを行っている。プロフェッショナル人材が人生100年時代を生き抜くために、ライフステージに応じて、独立・起業・副業・転職を自由に選択して働ける社会創りを目指すことをビジョンに掲げており、雇用形態や働くエリアにかかわらず活躍・挑戦するための「マッチングプラットフォーム」を複数運営している。

プロフェッショナル人材の登録者数は、Skill Shiftも含む同社のマッチングサービス全体で約3万8,000人に及ぶ。

Skill Shift」には2022年4月時点で8,400人以上が登録

Skill Shiftは、同社が提供するサービスの1つで、地方企業に興味を持つプロフェッショナル人材に特化して、地方企業の抱える経営課題の解決をサポートするために、副業という就業形態でマッチングを行う。

様々なスキルやノウハウを持った副業人材を必要とする企業が、一定期間、求人情報を登録。求人の内容に興味をもったSkill Shiftの登録者がその求人に応募するという仕組み。副業なので、基本的に契約は業務委託契約だ。応募者に対する選考・面談や、採用後の打ち合わせ、事業推進等は各企業と応募者・採用者が直接行うため、自社の経営課題解決に適した人材を選び、活用することができる。

2017年12月からサービスを開始し、2022年4月時点で約8,400人のプロフェッショナル人材が登録者となっている。登録者の属性は、東京を中心とした都心部の企業に属する20~40代の人材で、その8割が男性だ。また、クライアント企業・掲載案件数は約1,100件にのぼる。

移住・転職にとらわれず地方企業の経営課題の解決をサポートできる

Skill Shiftのメリットの1つが、副業という形なので、登録者が地方への移住や転職などを前提として業務を行うのではなく、現在の居住地に住んだまま、地方企業の仕事に従事できるという点だ。

従来の雇用中心の考え方であれば、地方企業で働く場合、採用後はその地域に移住、転職をすることが前提だったため、そのタイミングでの働き方やライフスタイルと折り合いをつけることが難しい場合は、気軽に踏み込めないものだった。しかしSkill Shiftを活用した副業では、企業の要望によっては現地で直接対話や作業を行う機会も出てくるものの、たとえばオンラインツールなどを併用してリモートで副業を行う機会も設けるなど、企業側と相談のうえ、自分自身の本業やライフスタイルに合わせて業務に従事することができる。

なお、同社では、地方企業に興味を持つプロフェッショナルなフリーランス人材に地方企業の幹部候補として活躍してもらうため、移住や転職を前提に人材紹介する「Glocal Mission Jobs」(GMJ)も運営している。このGMJでも、副業によるマッチングを展開している。

Skill Shiftはどのように使い分けているのか。Skill Shiftチーム・Skill Shift事業責任者の岩本大輔氏は「企業のフェーズによってSkill ShiftとGMJのどちらを提案するか分けている」と説明。「経営課題を抱えて事業が安定していない企業、正社員を採用する余裕がない企業にはSkill Shiftで副業人材の活用を勧めている。一方、課題が改善されて事業が安定し、会社全体でより高みを目指して成長していきたいというフェーズに入った企業にはGMJを通して、経営幹部候補生を採用してもらっている」そうだ。

比較的安価に知見を持つ人材を確保できる

Skill Shiftは、登録者側に費用が発生せず、企業側も比較的安価な金額で、都市部に勤めるハイクラスな人材を副業者として活用できる点もサービスの特徴だ。登録者側は無料で登録・求人に応募ができる。

企業側は、求人掲載料として1カ月9万8,000円(税別)を支払う必要はあるものの、その他の仲介手数料や月額料金などは発生しない。さらに、「通常であれば2週間で10人以上の応募が集まり、平均応募数は18人にのぼる」(岩本氏)ことから、1カ月を超える求人掲載料は発生しにくい。

また、企業から副業者に対しては、業務委託料である謝礼金を支払うこととなっているが、これも副業者1人あたり月額3~5万円が基準となっており、この幅で各企業が好きな金額を決めることができる。実際の平均謝礼は3.4万円となっており、交通費を別途支払う場合もあるが、全体として比較的安価に、特別な知見をもつ人材を活用することができる。

岩本氏は、「Skill Shiftに登録してくる人は、謝礼を大きな目的として副業をしていないことがポイント」と話す。「持ち前のスキルを試してみたいと考える人や、地元に貢献できることをしたい、趣味に携わるビジネスをやってみたいという人が登録者となっている。副業者としての謝礼は少ないかもしれないが、地域をより良くしていきたいという強い思いで取り組んでいる」と感じているという。誰もが知る大企業の中核人材が登録して、実際にマッチングが成立することも珍しくないそうだ。

副業者の多彩なアイデアが地方企業にも好影響に

それでは、実際にどういった業務で多く人材が必要とされているのだろうか。岩本氏に尋ねると、「マーケティングや営業企画、新規事業企画、広報・PR、人事組織開発、DX推進事業といった経営課題領域の求人が多い」という。ただし、同社は登録者に対する保有スキルなどの基準や、登録企業の求人条件に特別な制限を設けていない。これは副業者の多彩なアイデアを活かすためでもあるという。

「応募をみた登録者が、どうすればその企業に貢献できるか、自分ならどういったプランを思いつくか、アイデアを膨らませてくれる。そのアイデアの可能性を減らさないように、企業側には応募要項に細かい経営課題領域の指定はしないよう依頼している」

この結果、Skill Shiftで採用された副業者は、いろいろなジャンルの仕事の経営課題領域で様々な成果を出している。短期間でのかかわりであっても、地方企業に良い影響を及ぼすケースも少なくない。「効率化のプロセスやそれに適したツール、新しい知見などを提供してくれている。副業者と企業の社員がコミュニケーションを取ることで、社員の考え方・視座が変わったというコメントもあった」(岩本氏)。

なかには、副業者自身が自分の持つスキルを勉強会という形で地方企業の社員に提供し、その副業者がいなくなった後も、社員が自ら動かしていけるような環境を整えたという事例もあったという。

1カ月の契約からはじめることで気軽にチャレンジを

企業と副業者が業務委託契約を締結する際、企業には、契約期間を1カ月ごとの自動更新に設定することを勧めているという。

「企業と副業者の双方が『合わない』と感じることもあるので、そういった場合は契約を終了できるという気軽さを持って取り組んでもらっている。なかには、本業で人事部に勤める副業者が、本業の年度末業務で多忙となり、副業先の企業と話し合いのうえ、一定期間副業を休んだという事例もある」(広報・マネージャーの石井まゆみ氏)。副業者と事業を進めるなかで、企業がさらに契約を更新したいと考えれば相談できるようにするなど柔軟にすることで、企業が気軽に、副業人材の活用にチャレンジできる仕組みをつくっている。

また、副業人材の活用経験がない企業が圧倒的に多いことから、選考や面談の方法、設定報酬の相場観など、企業側が疑問点を持つポイントなどをまとめた「副業人材活用ハンドブック」も提供している。

地方自治体・地元の金融機関や商工会議所・地方企業が連携して副業人材の活用を推進

同社は、移住や転職を伴わない方法での副業が、その地域とかかわりを持つきっかけとなり、関係人口が創出されることに期待を寄せる。実際に地方自治体から、「地域企業を盛り上げたい、地域にかかわる人を増やしたいといった問い合わせも来るようになった」(石井氏)といい、これまでに7県1府、29市町村と連携して、Skill Shiftを利用した副業人材活用を実施している。

こうした取り組みを通してさらに、地方自治体・地元の金融機関や商工会議所・地方企業の3者が一体となって連携する地方創生スキームの確立も推進している。

たとえば、地方自治体から事業予算をもらい、その予算を使用して求人掲載料を無償としたうえで、その地域の企業にSkill Shiftを開放。それと同時に、開放しただけでは副業人材の活用が地方企業に浸透しないため、同社から地元の金融機関や商工会議所などに副業人材の活用ノウハウを提供し、地方企業に向けた副業人材活用のセミナーの開催や相談窓口を担ってもらう仕組みを整えている。こうすることで、地方企業はセミナーを通して、副業人材の活用方法や注意点を認識することになり、活用が促されるという。

「このスキームを2、3年継続することで、地域が盛り上がるという成功体験が蓄積されれば、9万8,000円の求人掲載料を支払ってでも募集したいと考える企業が出てくる可能性がある。伝えたノウハウは地元の金融機関や商工会議所が持っているので、自走化する環境ができると考えている」(岩本氏)。

地方企業への副業人材活用に対する理解促進が課題に

Skill Shiftへの登録者数は、2021年4月時点の約6,000人から、2022年4月時点には約8,400人に増加。これは新型コロナウイルス感染症の拡大によって、オンラインツールの普及や、通勤時間・飲み会がなくなったことで自分の時間を副業に使う人が増えてきたことが推測される。

しかしその一方で、今後の課題を石井氏は、「企業側への副業人材活用に対する理解促進だ」と指摘。「企業側が経営課題解決のための人材確保の手段として、副業人材を活用するイメージを持っていないため、選択肢から排除されてしまう。まだ需要に供給が伴っていないため、企業に副業人材の活用に対する理解を促し、掲載案件を増やしていくことで、副業人材もさらに増えていくと考えている」と話す。

副業人材活用の企業への浸透に向け、岩本氏は「地方創生スキームが最も効果的。成功体験はその地域に共有されやすい」と強調する。今後の事業展開について、「地域とかかわった副業者を企業との接点だけで終わらせるのではなく、地域コミュニティや観光、特産、ワーケーションなどと組み合わせていき、地域を好きになってもらう仕掛けを作っていきたい。そうすれば将来的に移住などにもつながるのではないか」と見据える。

(田中瑞穂、荒川創太)

企業プロフィール

株式会社みらいワークス新しいウィンドウ

所在地:
東京都港区
設立:
2012年3月
代表者:
代表取締役社長 岡本祥治
従業員数:
従業員75人、臨時雇用者32人(2021年12月末時点)
事業内容:
プロフェッショナルに特化した人材サービスとソリューションの提供

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