副業者も多いスポットワーク職場での労働災害防止に向けて啓発動画を作成
 ――タイミーによるユーザーを守る安全衛生強化の取り組み

企業取材

短時間のアルバイトの求人と求職者を最短1分でマッチングするサービスを展開しているタイミーでは、バイト先で自社サービス利用者が労働災害にあわないよう、啓発動画を作成して、勤務前に見ることができるようにしている。サービス利用者の4割は会社員で、副業としてアルバイトをする人も多い。安全衛生の徹底度合いが職場で異なり、不安を感じるサービス利用者からの声に突き動かされたという。

面接も登録会も、履歴書の提出も必要ない

タイミーは、主に日雇い型のアルバイトについてのマッチングアプリ「タイミー(Timee)」を運営している。アルバイト人材を求める事業者側がアプリに、募集業務や勤務時間、必要なスキル、契約に必要な労働条件通知書などを記載して求人募集を出し、その条件に合うアプリユーザーが応募することで、マッチングを行うサービスだ。

通常のアルバイト採用のプロセスでは、履歴書や面接による選考を経て採用者を決定するが、タイミーでは、面接や登録会はなく、履歴書も必要ない。そのため、業務開始時間の直前まで求人募集をすることができ、その時間帯に働きたいユーザーとのマッチングが成立すれば、速やかに人手を確保できるのがサービスの強み。事業者が求人掲載するだけでは手数料は発生せず、実働が発生した時に初めて手数料が発生する完全成果報酬型であることが特徴だ。また、マッチングした求職者を長期で雇用することになった場合でもその料金を取ることはない。

利用者の4割は本業を持つ会社員

2022年4月時点で、利用企業数は約2万5,000社、働き手となるユーザー数は約245万人にのぼる。飲食業や物流業の求人掲載が比較的多く、このコロナ禍では飲食業から物流業への求人の転換があったが、まん延防止等重点措置が解除されてからは、飲食点の募集も盛り返してきている(図1)。タイミー上の2022年3月4週目の求人募集件数は、昨年12月2週目の水準までほぼ回復している。

図1:業種別にみた募集人数の割合
画像:図1
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求人業務の内容をみると、飲食業ではランチ帯、ディナー帯での接客業務などで1日3~4時間の仕事が多い。物流業では倉庫作業などで1日6~8時間での募集が一般的。

一方、働く側は、女性が56.9%と半数を超え、20~40代の各世代がそれぞれ3割弱にのぼるが、特にユーザー登録時に年齢の上限はない。着目すべきは職業属性で、会社員の利用が全体の4割程度を占める。副業としてのスキマバイトとして利用されているケースも多いことがうかがえる。

中央労働災害防止協会が監修の手伝い

2021年10月から、スキマバイトをするユーザーの労働災害を防止するため、中央労働災害防止協会にも支援してもらいながら、働き手の作業安全に向けた安全衛生教育をスタートした。その足がかりとして行ったのが、物流、小売、飲食・デリバリーという、求人の掲載が多い3業種で発生する可能性がある災害リスクと、それを回避するためのアクションをまとめた啓発動画の作成だ。動画をアプリ内に掲載し、勤務前のユーザーに閲覧してもらうことで、労働災害を未然に防ぐことを目指している。

ユーザーからの声をもとに労働災害防止の取り組みに着目

なぜ、労働災害防止の取り組みに着目したのか。同社はそのきっかけをこう説明する。

「当社は、一般的なギグワーク(業務委託契約による個人事業主型)とは異なり、その都度、直接雇用契約を結ぶ業務を取り扱っている。また、職業安定法上の職業紹介事業者に分類されているものの、転職成立後に求職者との関係が途切れる一般的な職業紹介とは異なり、スポットマッチングであるがゆえに、継続的に求職者の声を聴くことができる。単に人材を紹介するだけでなく、実際に働いた求職者からの通報や働いた職場への評価などを通じて、紹介した先で何が起こっているのかを把握することが可能だが、その求職者からの声のなかで、安全衛生の徹底度合いが各職場で異なっており、不安を感じることがあるという声も散見された」

幸いにも、同社が扱う業務で重大な事故は、把握している限りではまだ起こっていないが、「このままでは大きな事故が起こる可能性が高いと考え、事故防止のために何かできないかと労働災害防止に着目し始めた」という。

また、同社の立場は、あくまでサービスを提供するプラットフォーマーだが、「第3者だからユーザーの労働環境に全く責任を負わない姿勢をとるのは適切ではない」と強調。「より安心・安全にサービスを活用してもらうため、安全衛生強化の啓発活動に力を入れることとした」と説明する。

わかりやすさ・伝わりやすさから動画作成を選択

啓発動画の作成・提供という方法を選択したのはなぜかと尋ねると、「スマートフォンのアプリとの親和性があると判断したため」だという。マッチング後、ユーザーにすぐに動画を確認してもらうための導線が確保できることや、わかりやすさ・伝わりやすさという観点から、安全衛生強化の啓発動画の作成を実施するに至ったそうだ。

伝わりやすい表現を重視するなど工夫

スポットワークでの雇入時安全衛生教育についてはノウハウがない部分もあったため、厚生労働省安全衛生部から紹介してもらい、かねてから同社職場内の安全衛生教育を担当していた中央労働災害防止協会に、動画の監修も依頼した。

これまでの啓発動画の作成は、はじめにタイミー側がピックアップした物流業界、小売業界、飲食・デリバリー業界の3業種について、これまでの利用者の年代や特性を踏まえて、伝わりやすい表現を重視しながら動画の内容を考案。中央労働災害防止協会には、各業種の労働環境にはどのようなリスクがあるか、予防のためにどのようなことに気をつける必要があるかなど、専門的な知見を踏まえてコメントしてもらった。

なお、啓発動画は、当初はアプリ内のポップアップ表示を活用することでユーザーの目に付きやすくしていたが、現在は同社が展開するオウンドメディア「タイミーラボ」にも掲載している。

事業者・ユーザーからも嬉しい反応が

啓発動画の提供について、事業者からは「事前にある程度理解してから働きにきてくれるのはありがたい。もちろん雇入事業者としてそれが安全衛生教育を行わない理由にはならないので徹底していきたい」などの声が寄せられている。一方、ユーザーからは「働く際に必要な知識を教えてくれて助かった。タイミーの細やかな対応のおかげで安心して働ける」との反響が聞こえてきているという。

今後も、動画の選択肢は増やしていく考えだ。また、「事業者側の力も借りることで、ユーザーの声を踏まえた改善を行い、職場での安全衛生強化に向けた継続的な取り組みができれば」と考えている。

副業・兼業や様々な働き方にとって重要なインフラに

タイミーは、当初は学生の利用が多く、2019年11月時点では学生が30.9%と3割以上を占めていたが、近年はユーザーの属性にも変化が生じている。すでに述べたとおり、会社員が38.4%と約4割を占め、パート・アルバイト(23.3%)や学生(10.8%)を大きく上回る(図2)。

図2:利用者の属性
画像:図2
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これについて同社は、「企業による副業の解禁や柔軟な働き方の推進、失業・休業に伴うユーザー側の需要の急増などが理由として考えられる」と指摘する。

副業・兼業の今後の動向について、「柔軟な働き方が推し進められていくにつれ、副業・兼業での利用はさらに増えていくと考えられる。また、収入先を増やす、失職した際に即座に賃金を確保する、転職へのステップとするなど、様々な意味で働く人にとってのインフラとして重要になってくる」としている。

(田中瑞穂、荒川創太)

企業プロフィール

株式会社タイミー新しいウィンドウ

所在地:
東京都豊島区
設立:
2017年8月
代表者:
代表取締役 小川嶺
従業員数:
約260人(2022年4月時点、正社員のみ)
事業内容:
アプリケーションの企画・開発・運営