タイトル:ワークシェアリングに関する調査研究報告書



発  表:平成13年4月26日(木)

担  当:厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室

                  電 話 03-5253-1111(内線7720)

                      03-3502-6726(夜間直通)

I.調査研究の概要



 ワークシェアリングについては、現下の厳しい雇用情勢の中、雇用の維持・創出と

いう観点から、社会的関心が高まっているところであり、また、少子高齢化の進展や

勤労者の価値観の変化が進む中、多様な働き方の実現手法の一つとして位置付ける動

きもある。

 このため、ワークシェアリングの導入実態と企業や勤労者の意識の把握を行うとと

もに、今後の課題等について分析を行うべく、「ワークシェアリングに関する研究会」

(座長:今野浩一郎学習院大学経済学部教授、別紙参照)を開催し、調査研究を行っ

た。調査研究に当たっては、ワークシェアリングが様々な定義のもとで議論されてい

ることに鑑み、まず、その類型についての整理を行った上、企業及び勤労者を対象に

アンケート調査を行うとともに、企業及び労使団体に対しヒアリング調査を実施した。



(備考)本調査研究は三井情報開発(株)への委託により実施した。





II.報告書の概要



1.本調査研究の目的等



【目的】



 ワークシェアリングについて、その類型整理を行うとともに企業における導入実態

及び企業・勤労者の意識調査を行うことにより、ワークシェアリングを導入する場合

における今後の課題等を整理し、労働行政としての今後の対応の方向について検討す

る。



【実施した調査】



  (1) 全上場、店頭公開企業(3,375社)及び調査対象企業から無作為抽出した

  200社に勤務する従業員(4,000名)に対しアンケート調査を実施。【平成12年

  11月実施、企業回答数867社(回収率25.7%)、勤労者回答数607名(同15.2%)】



  (2) ワークシェアリングを導入している企業(4社)及び労使団体(6団体)に

  対し、ワークシェアリングの導入状況や基本的認識等に関してヒアリング調査

  を実施。

  

2.ワークシェアリングの類型図表1)



  ・ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み

  合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分

  かち合うことを意味する。



  ・ワークシェアリングは、その目的からみて、以下の4タイプに類型化すること

  ができる。



  (1)雇用維持型(緊急避難型):一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急

  避難措置として、従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多く

  の雇用を維持する。



  (2)雇用維持型(中高年対策型):中高年層の雇用を確保するために、中高年

  層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内で

  より多くの雇用を維持する。



  (3)雇用創出型:失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国また

  は企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。



  (4)多様就業対応型:正社員について、短時間勤務を導入するなど勤務の仕方を

  多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。



3.ワークシェアリングの導入・検討状況



(1)内外の導入事例



  (1)雇用維持型(緊急避難型)

   海外の事例では、所定内労働時間短縮に伴う賃金低下をできるだけ緩和するよ

  う企業による諸手当の支給等が実施されている。国内の事例では、所定内労働時

  間短縮相当の賃金削減を実施した事例があるが、ここでも従業員の抵抗感を和ら

  げるため、対象者を限定するなどの措置がとられている。



  (2)雇用維持型(中高年対策型)

   国内の事例では、主に、定年延長や再雇用等による60歳以降の雇用延長対策と

  しての取組が見られる。







  (3)雇用創出型

   海外では、欧州諸国において国家単位での取組がなされているが、企業負担や

  労働者の賃金低下を緩和するため、政府による助成が実施されている。一方、企

  業では、高齢者の労働時間を短縮し、その分で若年者を雇用するという制度が見

  られる。



  (4)多様就業対応型

   オランダでは、政労使の合意によりパートタイム労働者の均等待遇を実現し、

  積極的にパートタイムへのシフトを推進した。また、海外の企業の取組として、

  ジョブシェアリング(※)がみられる。



  ※フルタイム労働者1人分の職務を特定の2人で労働時間を分担しつつ行い、職

  務の成果について共同で責任を負うとともに評価・処遇についても2人セットで

  受ける制度。



(2)アンケート調査でみた類型別導入・検討状況

  

  (1)雇用維持型(緊急避難型)図表2)



  ・現在実施している企業は2.1%であり、また、「現在検討している」または「今

  後検討したい」とするものは合わせて19.5%となっている。



  ・一方、「実施するつもりはない」と回答する企業は77.3%を占め、企業の姿勢

  は極めて慎重である。

  

  (2)雇用維持型(中高年対策型)図表3)



  現在実施している企業は1.7%であるが、「現在検討している」または「今後検討

  したい」とするものは合わせて41.5%と多く、企業の取組意向は高い。



  (3)多様就業対応型

  

  ・現在実施している企業は4.8%であるが、「現在検討している」または「今後検

  討したい」と回答するものは合わせて36.7%と多く、企業の取組意向は高い。

  (図表4)



  ・ジョブシェアリングについては、「ほとんど導入できる可能性はない」(61.2

  %)との回答に対し、「職種によっては導入できる可能性がある」(34.5%)とする

  ものも多く、企業の見解は分れている。



4.ワークシェアリングに対する企業並びに勤労者の考え方



(1)アンケート調査結果



【ワークシェアリングに対する認識】

  

  ・企業・勤労者とも多様就業対応型を重視し、次いで雇用維持型(中高年対策型)

  を重視している。(図表5図表6  

  ・ワークシェアリングに対する関心の有無では、「関心がある」または「どちら

  かといえば関心がある」との回答が、企業の49.5%に対し、勤労者が59.5%と、勤

  労者の関心度の方が高い。(図表7図表8【ワークシェアリングの類型別にみた考え方】



  (1)雇用維持型(緊急避難型)



  ・企業の賛意は27.0%にとどまるが、勤労者は52.9%が賛意を示している。

  

  ・長所として、企業は「雇用を確保し企業としての社会的責任が果たせる」

  (50.6%)を挙げ、勤労者は「余暇時間が増える」(56.0%)、「雇用保障により安心

  感が得られる」(50.1%)との回答が多い。(図表9図表10  

  ・一方、短所として、企業は「労働時間短縮ほど人件費は低下しない」(63.8%)

  を、勤労者は「賃金の低下が心配である」(63.8%)を指摘しており、双方とも賃

  金面の問題を最も重視している。(図表11図表12)



  ・現在検討中あるいは今後検討したいとする企業では「本人の能力の違いに関わ

  らず一律の扱いを行うことの不公平感」を指摘する回答が多い。

  

  (2)雇用維持型(中高年対策型)図表13図表14)



   企業、勤労者とも賛意を示す回答が多く(企業:48.4%、勤労者:66.0%)、企

  業では、特に、従業員規模5,000人以上で導入に前向きである。



  (3)雇用創出型



   法定労働時間短縮によるワークシェアリングの効果について、「効果がある」

  とする回答は、企業が14.9%、勤労者は27.5%となっており、「効果はない」とす

  るものよりも少ない。



  (4)多様就業対応型

  ・企業、勤労者とも賛意を示す回答が多く、特に、勤労者では75.3%に上っている。

  

  ・長所として、企業は「有能な人材の確保や、退職・流出の防止につながる」

  (46.8%)を最も重視しており、「会社のイメージアップにつながる」(22.4%)との

  回答も多い。一方、勤労者は、「育児・介護と仕事との両立」(55.8%)、「余暇

  活動の時間が増える」(46.6%)、「能力開発の時間が増える」(36.2%)を挙げる回

  答が多い。(図表15図表16  

  ・短所としては、企業は「責任の所在が曖昧になる」(36.9%)、「生産性が低下

  する」(33.9%)、「人件費が上昇する」(32.5%)を指摘している。一方、勤労者は

  「賃金や退職金の取扱いに不安を感じる」とする回答が72.7%と非常に多い。

  (図表17図表18  

  ・実際に導入する場合の問題点として、現在導入している企業で「適用者の昇進

  や昇格の取扱い」(45.2%)を挙げるものが多い。(図表19)



(2)労使団体へのヒアリング結果



  (1)経営者団体



  ・多様就業対応型のような「柔軟なワークシェアリング」に関して、具体策を検

  討・実施していくことが必要であり、そのためには時間給賃金を含め、仕事の性

  格・価値や労働時間、雇用形態に即した賃金処遇を実現することが重要。(日経

  連)



  ・定型的な業務を行う職種にはワークシェアリングは適用しやすいが、創造的な

  業務を行う職種には、適用できるかどうか疑問。(関西経営者協会)



  (2)労働組合



  ・短時間就業者等への雇用のシフトによる人件費抑制策はワークシェアリングと

  はいえない。(連合)



  ・ワークシェアリングの導入に当たっては、労働時間の違いによる処遇格差や雇

  用形態の区別を解消することが必要。(連合、ゼンセン同盟)



  ・ワークシェアリング導入の前提として、時間外労働を前提とした生産計画の改

  善、年次有給休暇取得の徹底、サービス残業の解消が必要。(連合、電機連合)



  ・時間あたり賃金の概念の確立が必要。(電機連合、鉄鋼労連)



  ・雇用維持型(中高年対策型)と多様就業対応型が今後重要。(ゼンセン同盟)



  ・多様就業対応型を推進するに当たっては、時間あたり賃金の概念を確立すると

  ともに、その結果、生み出される雇用の質への留意も必要。(鉄鋼労連)



5.ワークシェアリングの現状と課題



(1)ワークシェアリングの意義



 ワークシェアリングには、(1)雇用過剰感がある場合において雇用を維持・創出し、

雇用不安を解消すること、(2)これまで様々な制約により就業機会を奪われていた労

働者に就業機会を提供すると同時に、多様な働き方を認めることにより労働者の所得

−余暇−労働を総合した効用を高めること、などの効果があると考えられる。



(2)我が国におけるワークシェアリングの現状



  (1)雇用維持型(緊急避難型)



   企業は時間あたり賃金の上昇や全員一律の措置を行うことについての不公平感

  を指摘しており、一方、勤労者には、賃金が低下するのであれば実施すべきでは

  ないとする意見が多い。これまで本施策の進展が見られていないのは、労使間で

  の賃金に対する考え方の相違が障害になっていると考えられる。



  (2)雇用維持型(中高年対策型)



   企業は、年金支給開始年齢の引上げ開始を控え、主に60歳台前半の雇用延長対

  策として、検討していると考えられる。



  (3)雇用創出型



   労使とも、法定労働時間短縮により雇用を創出する施策については、労使の合

  意形成を根拠にする我が国の労働事情に合わないと指摘しており、積極的に評価

  する意見は少ない。



  (4)多様就業対応型



   少子高齢化の進展や勤労者の就業意識が多様化する中で、本施策は今後ますま

  す重要になると労使とも認識している。企業は、有能人材の確保や企業イメージ

  の向上などを、勤労者は、育児・介護との両立などを挙げ、双方とも積極的な姿

  勢を見せている。また、導入に際しての問題点については、労使とも、賃金や退

  職金の取扱いをあげている。



(3)ワークシェアリングを導入する場合における課題



  (1)労使の合意形成の必要性



   我が国における終身雇用制を軸とした日本的雇用慣行は、徐々に見直しの動き

  が広がりつつあり、労使間で雇用管理のあり方等についての合意形成が必要とな

  っている。

   こうした中、ワークシェアリングの導入を検討する場合においては、負担の分

  かち合いが必要であり、その目的・効果について労使で十分な議論を尽くし、共

  通認識に立つことが重要である。



  (2)労働生産性の維持・向上



   ワークシェアリングが導入された場合、業務の引継等の問題から労働生産性が

  低下する場合も考えられるが、こうした労働生産性低下をできるだけ解消するよ

  う業務手法等の見直しを行っていく必要がある。



  (3)時間を考慮した賃金設定に対する検討と理解



   ワークシェアリングがその類型に係らず、これまでの労働時間と賃金の組み合

  わせを変化させるものである以上、導入に当たっては、労働時間と賃金との関係

  を明確にする必要がある。

   しかし、我が国の場合、多くの企業が月給制を採るなど、必ずしも時間を考慮

  した賃金設定がなされていないのが実状であり、ワークシェアリングを導入する

  場合には、労使において時間を考慮した賃金設定のあり方について検討を行い、

  理解を深めることが必要である。



  (4)職種による差の考慮



   定型的な業務を繰り返すような職種(生産・現業職、事務職等)では、時間を

  考慮した賃金の設定が比較的容易であるが、創造性や判断力が重視される職種

  (専門・技術・研究職、管理職等)においては、時間を考慮した賃金設定は困難

  であり、個別の業績を基準にするなど他の方法を検討する必要がある。

   時間を考慮した賃金設定の検討に当たっては、こうした職種による差を十分考

  慮する必要がある。



  (5)パートタイムとフルタイムの処遇格差の解消



   ワークシェアリング導入の結果、生み出されるパートタイム労働者については、

  勤務時間数が異なるのみでフルタイム労働者との間には職務内容に違いはない。

  このため処遇の決定方式や水準について両者の間のバランスをとることが必要で

  ある。

   また、現在、パートタイム労働者については、一定以下の短時間勤務となる場

  合には社会保険等の取扱いが異なることから、このような制度についての検討も

  重要となる。

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