不妊治療中の従業員が受けられる支援に取り組んでいる企業の割合は26.5%
 ――厚生労働省が「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」結果を公表

国内トピックス

不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度の運営や取り組みを行っている企業の割合は26.5%と3割以下で、約7割の企業が不妊治療中の従業員の有無の把握を課題と捉えていることが、厚生労働省が3月29日に発表した「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」結果でわかった。労働者に対する調査結果では、1割超が不妊治療を経験したり、予定していることが明らかとなる一方、半数近くが不妊治療をしていることを職場に伝えていない(伝える予定がない)と答えていることもわかった。

調査は、不妊治療と仕事との両立についての最新の実態やニーズを把握することを目的に実施。企業調査は、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」でデータ公表を行っている企業のうち、従業員規模10人以上の企業6,000社を対象に、不妊治療に取り組む従業員が活用できる制度・支援の導入状況や面談・相談の実施状況などについて尋ね、1,859社(31.0%)から回答を得た。労働者調査は、不妊治療と仕事の両立状況や職場への公表状況などについて、同調査委託先が保有する登録モニターを用いて男女労働者2,000人(以前就労しており、現在離職中も含む)から回答を回収した。

企業調査の結果

不妊治療を行っている従業員がいる企業は約12%

不妊治療を行っている従業員がいるかどうか尋ねると、「いる」が12.2%、「いない」が22.5%、「過去にいたが退職した」が3.0%。残りの62.3%は「わからない」と回答しており、6割以上の企業が不妊治療を行っている従業員がいるかどうか、把握できていない状況となっている。

不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度の運用や取り組みを行っているかどうかをみると、「制度化して行っている」企業が10.6%、「制度化されていないが個別に対応している」が15.9%で、計26.5%の企業が支援制度の運用や支援の取り組みを実施している。

「制度化して行っている」「制度化されていないが個別に対応している」と回答した企業に、不妊治療に利用可能な制度(「不妊治療」が利用条件として規定化等されているもの)としてどのような制度を導入しているか尋ねたところ(複数回答)、特化した制度を持っていない企業(37.2%)を除けば、「不妊治療に利用可能な休暇制度」が47.8%で最も高く、次いで「不妊治療に利用可能な勤務時間や場所等の柔軟性を高める制度(テレワークを含む)」(19.4%)、「不妊治療に利用可能な通院や休息時間を認める制度」(14.3%)などの順で高くなっている(図表1)。

図表1:不妊治療に利用可能な制度(「不妊治療」が利用条件として規定化等されているもの)としてどのような制度を導入しているか(複数回答)
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

また、目的が不妊治療に特定されていないものを含んだ、不妊治療に利用可能な制度の導入状況もみると(複数回答)、「半日単位・時間単位の休暇制度」が82.9%と、8割以上で導入されており、「テレワーク(在宅勤務)」(52.0%)、「短時間勤務」(41.3%)などの割合も高くなっている。

95.7%の企業が普及啓発の取り組みを実施していない

全回答企業の不妊治療と仕事の両立に関する従業員への普及啓発の実施状況をみると(複数回答)、95.7%が「実施していない」と回答。実施している企業の割合はわずかだが、「普及啓発資料の整備・公表」(3.0%)などが取り組み内容となっている。

不妊治療を行っている従業員を対象とした面談・相談の実施状況をみると(複数回答)、「実施していない」と回答する企業が78.9%にのぼり、「上司、人事部門との面談機会の提供」が12.8%、「相談窓口の設置」が8.9%などとなっている。

従業員の不妊治療と仕事との両立を図るうえでの困難・課題では(複数回答)、「不妊治療を行っている従業員の有無を把握できない」が71.2%で最も割合が高く、次いで「プライバシー保護の問題」(61.8%)、「代替要員の確保など、人的問題」(35.2%)などが続いた。後述する労働者調査結果によると、不妊治療者のなかには周囲からの気遣いや職場に居づらくなることを避けるため、治療中であることを職場内で公表していない場合もあることから、企業側も把握が難しくなっている状況がうかがい知れる。

労働者調査の結果

不妊治療の実態を知らない労働者は8割超

労働者の不妊治療経験の有無をみると、不妊治療をしたことがある、または近い将来予定している割合は合わせて14.5%だった。14.5%の内訳を治療時期別にみると、最も多いのは「10年以上前」(3.5%)で、「1年未満」(3.0%)が次いで多かった。 経験者・予定者の割合を男女別にみると、男性が11.0%で、女性が18.4%となっている。

不妊治療についての実態を知っているか尋ねたところ、知っていると答えた人の割合(「全て知っている」4.8%と「概ね知っている」9.7%の合計)は14.5%だったのに対し、知らないと答えた人の割合(「ほとんど知らない」24.3%と「全く知らない」61.3%の合計)は85.6%に及んだ。

不妊治療との両立が難しいと感じる理由のトップは通院回数の多さ

不妊治療をしたことがある労働者(治療中含む)に仕事と不妊治療の両立状況を尋ねると、「両立している(していた)」が55.3%と半数以上にのぼったが、「両立できず仕事を辞めた」(10.9%)や「両立できず不妊治療を辞めた」(7.8%)、「両立できず雇用形態を変えた」(7.4%)など、両立できなかった労働者も一定数存在する。

男女別にみると、「両立している(していた)」割合は、男性(61.8%)に比べ女性(51.0%)は約10ポイント低くなっている。

不妊治療と仕事の両立が難しいと感じる理由をみると(複数回答)、「通院回数が多い」が53.5%で最も高く、次いで「精神面で負担が大きい」(51.4%)、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」(35.9%)、「仕事がストレスとなり不妊治療に影響が出る」(30.3%)などの順で高くなっている(図表2)。

図表2:不妊治療と仕事の両立が難しいと感じる理由(複数回答)
画像:図表2

(公表資料から編集部で作成)

「両立できず仕事を辞めた」「両立できず不妊治療を辞めた」「両立できず雇用形態を変えた」と回答した労働者に対し、仕事と治療を両立できなかった理由を尋ねると(複数回答)、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しいため」が49.3%で最も割合が高い。「精神面で負担が大きいため」(44.8%)、「体調、体力面で負担が大きいため」(40.3%)なども割合の高さが目立ち、仕事との調整の難しさや精神面・体力面の負担が影響していることがうかがえた。

4割近くが職場でオープンにしない理由として「支障がない」と回答

不妊治療をしたことがある、または近い将来予定している労働者に、治療していることを職場で伝えているか(伝える予定か)を尋ねたところ(複数回答)、「上司に伝えている(伝える予定)」が26.6%で最も高く、次いで「同僚に伝えている(伝える予定)」(23.5%)、「人事に伝えている(伝える予定)」(11.8%)、「職場ではオープンにしている(する予定)」(7.6%)などとなる一方、「一切伝えていない(伝えない予定)」も47.1%にのぼった。

「職場ではオープンにしている(する予定)」を選択した労働者を除いて、その理由を尋ねると(複数回答)、「伝えなくても支障がないから」が37.1%で最も高く、次いで「周囲に気遣いをしてほしくないから」(33.0%)、「不妊治療がうまくいかなかった時に職場に居づらいから」(27.7%)、「不妊治療をしていることを知られたくないから」(24.7%)の順で高くなった。

職場での嫌がらせの内容では、上司からの嫌がらせの発言がトップ

不妊治療をしたことがある労働者に、不妊治療をしている(していた)ことにより職場でどのような嫌がらせ・不利益な取り扱いを受けたかを尋ねると(複数回答)、「嫌がらせを受けたことはない」が62.3%と、6割以上を占める一方、「上司からの嫌がらせの発言」(11.3%)、「同僚からの嫌がらせの発言」(10.5%)、「休暇取得や制度の利用を認めない」(10.1%)など、何らかの嫌がらせ・不利益な取り扱いを受けた労働者も一定数いた。

嫌がらせや不利益な取り扱いを受けて行った対応をみると、「異動した」が24.7%で最も割合が高く、「休職した」(15.5%)、「仕事を辞めた」(12.4%)、「上司に相談した」(12.4%)、「転職した」(10.3%)などが続いた。

両立するうえで利用した制度のトップは年次有給休暇

不妊治療をしたことがある、または近い将来予定している労働者に、不妊治療と仕事を両立するうえで利用した(利用する予定の)制度を尋ねたところ(複数回答)、「年次有給休暇」が31.5%で最も高く、次いで「短時間勤務、テレワークなど柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」(18.7%)、「通院・休息時間を認める制度」(16.3%)などの順で高かった。

不妊治療と仕事を両立するうえで会社や組織に希望することをみると(2つまで)、「不妊治療に利用可能な休暇制度」が20.8%で最も高く、次いで「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」(20.1%)、「通院・休息時間を認める制度」(17.6%)などとなっている。

これを男女別にみると、男性は「不妊治療に利用可能な休暇制度」と「通院・休息時間を認める制度」がともに16.2%で最も高い。女性は「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」(24.4%)、「不妊治療に利用可能な休暇制度」(23.8%)などが高くなった。

そのほか、不妊治療の経験がない労働者に、不妊治療をしている人と一緒に働くうえでどのような情報があれば配慮しやすいかを尋ねると(複数回答)、「どの程度の休みが必要か(時期、頻度)」が33.1%で最も高く、以下、「現在の業務に支障があるか」(25.8%)、「不妊治療をしている人の体調について」(25.7%)、「個人的なことなので詳細を聞きにくい場合にどのように業務上の調整を行えばよいか」(24.6%)などが続いた。

(調査部)