不合理な待遇格差解消のため4割の派遣先事業所に料金引き上げの要望あり
 ――厚生労働省の2022年「派遣労働者実態調査」

国内トピックス

厚生労働省は11月24日、2022年「派遣労働者実態調査」結果を発表した。派遣労働者の不合理な待遇格差解消のための取り組みの状況を、新規調査項目として追加。不合理な待遇差の解消のため、派遣元から派遣料金に関する配慮の要望があった事業所は38%と4割弱あり、要望があった事業所がとった対応(複数回答)をみると、「求めに応じて派遣料金を上げた」が91.4%で、大多数の事業所が求めに応じて派遣料金を上げていた。

調査は2022年10月1日現在の状況について実施し、事業所8,686所と、そこで働く派遣労働者7,119人から得た回答をとりまとめた。

<事業所調査>

2020年4月から派遣先の労働者と均等・均衡を図ることが必要に

派遣労働者の就業場所は派遣先であることから、派遣労働者の同一労働同一賃金に向けては、派遣先の労働者と均等・均衡を図ることが必要となる。そのため、現行の労働者派遣法では、派遣労働者の待遇について、派遣元事業主に対して、①派遣先均等・均衡方式②労使協定方式――のいずれかの方式をとることで、待遇を確保することを義務づけている。2018年の法改正で盛り込まれ、2020年4月1日に施行となった。

それぞれの方式を説明すると、派遣先均等・均衡方式では、派遣先が派遣元に対して、比較対象となる労働者の待遇情報を提供し、それをもとに派遣元が、派遣労働者の待遇を検討し、決定する。そのうえで派遣先との派遣料金交渉に入る。派遣先での通常の労働者と「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」が同じ場合には差別的取り扱いをすることが禁止されており(均等待遇)、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情の相違」を考慮して不合理だと判断される待遇差も禁止されている(均衡待遇)。

一方、労使協定方式は、派遣元事業主と、派遣元の過半数労働組合または過半数代表者(過半数労働組合がない場合に限る)との間で一定の事項を定めた労使協定を書面で締結し、労使協定で定めた事項を遵守しているときは、この協定にもとづいて待遇が決定される。もちろん、この方式でも均等・均衡待遇が確保されていなければならない。

「労使協定方式」対象の派遣労働者を受け入れている事業所が37%

法改正の内容をうけ、調査では、「派遣労働者の不合理な待遇格差解消のための取り組みの状況」を調査項目に新設した。その結果をみていくと、まず、派遣労働者が就業している事業所が回答した派遣労働者の待遇決定方式(複数回答)の状況は、「労使協定方式」の対象となる派遣労働者を受け入れている事業所が37.0%で、「派遣先均等・均衡方式」の対象となる派遣労働者を受け入れている事業所が29.4%、「わからない」が32.2%だった。

これを派遣労働者数別にみると、派遣労働者が多い事業所ほど、「労使協定方式」の対象となる派遣労働者を受け入れている割合が高くなっており、「100人以上」で69.6%、「30~99人」で68.7%、「10~29人」で59.1%、「5~9人」で38.8%、「1~4人」で31.0%という結果だった。

派遣元に提供した情報のトップは福利厚生施設の情報

派遣労働者が不合理な待遇格差を解消するために必要な、派遣先における労働者の待遇情報や、職務の評価情報の提供の状況をみると、派遣元から情報の提供を求められ、実際に提供したのは、「福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)」(46.1%)が最も高く、以下、「派遣先が行った派遣労働者の職務の評価情報(働きぶりや勤務態度)」(32.2%)、「業務に必要な能力を付与するための教育訓練」(27.6%)、「派遣先が行った派遣労働者の職務の評価情報(技能や能力向上に関する評価結果)」(25.9%)、「派遣先が行った派遣労働者の職務の評価情報(成果に関する評価結果)」(25.0%)、「派遣先が行った派遣労働者の職務の評価情報(評価に関するその他の情報)」(22.6%)、「派遣労働者と同種の業務に従事する労働者の賃金水準」(16.4%)の順だった。

不合理な待遇差の解消のため、派遣料金について派遣元から「要望があった」事業所は38.0%と、約4割が要望を受けており、「要望が無かった」は60.0%だった。

要望があった事業所にその対応を聞いたところ(複数回答)、「求めに応じて派遣料金を上げた」が91.4%と、大多数が要望に応じていた。「求められたが派遣料金を維持した」は20.3%で、「求められたため派遣労働者の受け入れをやめた」が1.7%だった。

ほぼ7割が派遣労働者への教育訓練・能力開発を実施

派遣労働者が就業している事業所に、過去1年間(2021年10月1日~2022年9月30日)に派遣労働者に対して教育訓練・能力開発を実施したかどうかを聞いたところ、「実施した」が69.7%で、「実施しなかった」が27.6%だった。「実施した」割合は、5年前の前回調査(2017年)の59.0%から約10ポイント上昇している。

派遣労働者数別にみると、「100人以上」の事業所で93.0%、「30~99人」で90.6%、「10~29人」で85.7%、「5~9人」で77.2%、「1~4人」で63.9%と、人数が多いほど実施割合が高い。

「実施した」事業所に教育訓練・能力開発の方法(複数回答)を聞くと、「働きながら行う教育訓練・能力開発(OJT)を行った」(85.1%)が最も高く、次いで「自社内の講師により教育訓練・能力開発(OFF-JT)を行った(eラーニングを除く)」(29.8%)、「eラーニングによる教育訓練・能力開発を行った」(24.9%)、「派遣元が実施する教育訓練・能力開発への便宜を図った」(16.9%)などの順で高かった。

14.3%の事業所で派遣労働者を正社員にする制度がある

派遣労働者を正社員に採用する制度が「ある」事業所は14.3%。このうち、過去1年間に「正社員に採用したことがある」のは1.6%だった。

一方、84.4%の事業所は正社員に採用する制度が「ない」ものの、過去1年間に「正社員に採用したことがある」のは2.2%と、制度がある事業所より割合が高かった。

実際に派遣労働者が就業している事業所についてみると、正社員に採用する制度があるのは23.9%で、うち過去1年間に「正社員に採用したことがある」のは3.8%だった。

<派遣労働者調査>

派遣労働者の平均年齢は44.3歳

派遣労働者の属性をみると、年齢は「45~49歳」と「50~54歳」がそれぞれ15.8%で最も高く、「35~39歳」(14.0%)が次いで高い。男女別にみると、男性は「35~39歳」(19.4%)が最も高く、女性は「50~54歳」(20.3%)が最も高い。平均年齢は44.3歳(男性44.1歳、女性44.5歳)で、前回調査の42.0歳より2.3歳高くなっている。

派遣の種類については、「登録型」が48.6%、「登録型以外」が51.4%でほぼ半々。男女別にみると、男性は「登録型以外」(60.8%)が「登録型」(39.2%)より割合が高くなっており、女性では「登録型」(56.3%)が「登録型以外」(43.7%)より高い。

約3割が派遣労働者として通算「10年以上」勤務

派遣労働者の通算派遣期間をみると、「10年以上」が28.2%と最も高く、前回調査時の19.3%から8.9ポイント上昇している。次いで「5年以上10年未満」が19.6%、「3年以上5年未満」が16.4%などとなっている。派遣労働者として通算勤務期間が3年以上の割合は6割以上を占める。

これまで働いてきた派遣先の数は「1カ所」が45.2%と半数近くを占め、「2カ所」が23.8%、「4~5カ所」が11.1%、「3カ所」が10.9%などとなっている。

派遣労働者の現在の業務(複数回答)を聞いたところ、「一般事務」が35.2%で最も高く、「物の製造」が19.1%、「倉庫・搬送関連業務」が9.2%、「事務用機器操作」が8.7%、「ソフトウェア開発」が5.9%など。男女別にみると、男性は「物の製造」(27.5%)、女性は「一般事務」(50.8%)の割合が最も高い。

現在派遣先で就業している業務の技術・技能を習得した主な方法(複数回答)は、「派遣先での就業中の技能蓄積」が48.4%で最も高く、「派遣先の教育訓練」が31.9%、「派遣元の教育訓練」が25.9%などとなっている。

派遣元との労働契約の期間は、「期間の定めはない」が38.4%で最も高く、「2カ月を超え3カ月以下」(17.6%)、「1年を超え3年以下」(11.3%)などと続く。

平均時給は1,510円で5年前に比べ150円ほど上昇

現在就業中の賃金(基本給、税込時給換算)の平均賃金は1,510円で、前回調査時(1,366円)より144円高い。男女別にみると、男性が1,648円、女性が1,400円。派遣の種類別にみると、登録型が1,364円、登録型以外が1,650円となっている。

賃金に「満足している」とする派遣労働者は41.1%で、「満足していない」が38.0%と、ほぼ拮抗(「どちらとも言えない」19.6%)。前回調査(「満足」34.2%、「満足していない」39.1%、「どちらとも言えない」24.2%)と比べると、満足している労働者の割合は今回のほうが高くなっている。

「満足していない」理由は、「派遣先で同一の業務を行う他の派遣労働者より賃金が低いから」が24.6%で最も高く、「業務量に見合った賃金でないから」が21.4%で続く。「派遣先で同一の業務を行う直接雇用されている労働者よりも賃金が低いから」と、派遣先の同等の直接雇用労働者との差を指摘する回答割合は18.4%だった。

諸手当や各種制度について尋ねたところ、通勤手当の「支給がある」は84.4%(前回調査51.0%)、賞与・一時金の「支給がある」は31.9%(同19.6%)、昇給は「実施されている」が28.2%(同15.2%)と、5年前に比べ待遇の充実が図られている。

6割以上の派遣労働者が過去1年間で教育訓練を受ける

教育訓練の実施状況をみると、65.5%が過去1年間に教育訓練を受けたことがあると回答。その内容(複数回答)は、「派遣先で受けた教育訓練」が37.4%、「派遣元又は派遣先で受けたeラーニング」が35.0%、「派遣元で受けた教育訓練」が31.2%、「派遣元又は派遣先で受けた社外(業界団体や学校、民間の教育訓練機関等)でのOFF-JT(eラーニングを除く)」が5.7%などの順。

派遣元でキャリアコンサルティングを受けるための相談窓口が置かれているのは46.4%、置かれていないのは7.5%、「わからない」が43.9%だった。

他の就業形態を希望する割合は37%で5年前より12ポイント低下

今後の働き方の希望を聞くと、「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」が37.0%と、前回調査(49.1%)より12.1ポイント低下した。その場合の希望する就業形態は、正社員が74.3%、パート等の正社員以外が15.9%。一方、「派遣労働者として働きたい」は34.2%で前回調査(26.7%)から7.5ポイント上昇した(前回調査26.7%)。

派遣先に「要望がある」人は38.4%。その内容(複数回答3つまで)をみると、「派遣契約期間を長くしてほしい」が25.6%と最も高く、次いで「指揮命令系統を明確にしてほしい」が17.8%などとなっている。

(調査部)