賃上げ実施企業が9割近くにのぼり、「1人平均賃金の改定額」が1993年以来の9,000円台に
 ――厚生労働省の2023年「賃金引上げ等の実態に関する調査」結果

国内トピックス

厚生労働省が11月28日に発表した2023年「賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果によると、2023年中に1人平均賃金を「引き上げた・引き上げる」と回答した企業の割合は89.1%で、前年の同割合を3.4ポイント上回るとともに、データを取り始めた1999年以降で3番目に高い割合となった。「1人平均賃金の改定額」は9,437円と前年の5,534円を大幅に上回り、1993年以来の9,000円台となり、改定率は前年比1.3ポイント増の3.2%と1994年以来の3%台となった。

調査は常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業で、今回は3,620社を抽出して7月~8月にかけて行い、1,901社から有効回答を得た。

賃上げ実施企業の割合は300人以上では9割を超す

2023年中に1人平均賃金を「引き上げた・引き上げる」とした企業(賃上げ実施企業)の割合を企業規模別にみると、「100~299人」が87.4%、「300~999人」が93.1%、「1,000~4,999人」が93.3%、「5,000人以上」が97.3%で、規模が大きくなるほど高い割合となっており、300人未満の企業以外はすべて9割以上となっている。

賃上げ実施企業の割合を産業別にみると、「建設業」が99.7%で最も割合が高く、次いで「製造業」(97.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(92.9%)、「不動産業、物品賃貸業」(92.3%)、「情報通信業」(91.8%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(91.4%)、「金融業、保険業」(91.0%)、「鉱業、採石業、砂利採取業」(90.9%)、「卸売業、小売業」(89.2%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(86.9%)などの順で高い。

賃上げ実施企業の割合を過去の調査結果と比べると、2019年の90.2%、2018年の89.7%には届かなかったが、データを取り始めた1999年以降で3番目に高い割合となっている(図表1

図表1:賃上げ実施企業の割合の推移
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

改定額は前年と比べると4,000円近く増加

2023年中に賃金の改定を実施した企業と、予定していて額も決定している企業、また、賃金の改定を実施しない企業を合わせた集計での「1人平均賃金の改定額」は9,437円で、前年の5,534円から4,000円近く増加した。なお、賃金を改定して1人平均賃金を引き上げた企業だけでみた「1人平均賃金の改定額」は9,779円(前年5,828円)となっている。

企業規模別にみると、「100~299人」が7,420円(前年4,738円)、「300~999人」が9,227円(同5,658円)、「1,000~4,999人」が9,676円(同5,393円)、「5,000人以上」が1万2,394円(同6,478円)で、300人以上の各規模では9,000円以上となり、かつ、5,000人以上の企業では1万円の大台を大きく超えた。

産業別にみると、額が最も高いのは「鉱業、採石業、砂利採取業」で1万8,507円(同5,959円)となっており、次いで「情報通信業」の1万5,402円(同7,919円)、「建設業」の1万2,752円(同8,101円)、「不動産業、物品賃貸業」の1万1,560円(同6,380円)、「学術研究、専門・技術サービス業」の1万642円(同7,588円)、「金融業、保険業」の1万637円(同5,341円)、「電気・ガス・熱供給・水道業」の1万131円(同3,670円)、「製造業」の9,774円(同5,747円)、「卸売業、小売業」の8,763円(同5,148円)などの順となっている。

5,000人以上の企業での改定率は4%台に乗る

「1人平均賃金の改定率」は3.2%で前年から1.3ポイント上昇。賃金を改定して1人平均賃金を引き上げた企業だけでみた改定率は3.4%(前年2.1%)となっている。

企業規模別にみると、「100~299人」が2.9%(同1.9%)、「300~999人」が3.2%(同2.0%)、「1,000~4,999人」が3.1%(同1.8%)、「5,000人以上」が4.0%(同2.0%)で、5,000人以上では4%台に乗った。

産業別にみると「鉱業、採石業、砂利採取業」が5.2%と5%超えとなっており、「情報通信業」(4.5%)と「宿泊業、飲食サービス業」(4.4%)が4%台。「建設業」(3.8%)、「不動産業、物品賃貸業」(3.7%)、「製造業」(3.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(3.3%)、「金融業、保険業」および「学術研究、専門・技術サービス業」(ともに3.2%)、「卸売業、小売業」(3.1%)が3%台となっている。

「1人平均賃金の改定額」と「1人平均賃金の改定率」を時系列でみると、改定額は1993年以来、30年ぶりの9,000円台。改定率は1994年以来の3%台となっている(図表2)。

図表2:「1人平均賃金の改定額」と「1人平均賃金の改定率」の推移
画像:図表2

(公表資料から編集部で作成)

ベアを実施した企業割合は一般職では約5割

2023年中に賃金の改定を実施しなかった企業も含めて、定期昇給制度がある企業のベースアップ(ベア)の実施状況をみると、管理職では、「ベアを行った・行う」企業の割合は43.4%で、前年の24.6%を大きく上回った。一般職の同割合は49.5%で、前年の29.9%をほぼ20ポイント上回っている。

2023年中に賃金の改定を実施した、または予定していて額も決定している企業について、賃金の改定の決定にあたり最も重視した要素をみると、「企業の業績」が36.0%で最も高い割合だったが、前年(40.0%)からは低下した。次いで高かったのは「労働力の確保・定着」で16.1%(同11.9%)となっており、以下は「雇用の維持」の11.6%(同10.7%)、「物価の動向」の7.9%(同1.3%)などと続く。

労働組合がある企業の割合は20.5%で、労働組合がある企業を100とした場合の、労働組合からの賃上げ要求交渉の有無をみると、「賃上げ要求交渉があった」が88.9%と9割近くにのぼり、前年の73.0%から15.9ポイント増加した。

(調査部)

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