メディア業界などの調査分析を報告。精神障害事案が増加傾向に
 ――2023年版「過労死等防止対策白書」

スペシャルトピック

政府は10月、2023年版の「過労死等防止対策白書」を閣議決定した。過労死などをめぐる調査研究の重点業種などに指定している業種のうち、2022年度はメディア業界などを取り上げ、調査・分析の結果を報告した。過去11年間のメディア業界の労災認定事案を分析したところ、脳・心臓疾患事案は2012年をピークに減少傾向にあったが、精神障害事案は増加傾向にあることが明らかとなった。件数を職種別にみると「広告」が最も多かった。調査・分析結果を紹介する第3章に絞り、その概要を紹介する。

2022年度は公務災害認定事案なども分析

「過労死等防止対策白書」は、過労死等防止対策推進法第6条に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書。過労死などの概要や政府が過労死などの防止のために講じた施策の状況を取りまとめている。

同法と、過労死などの防止のための対策を効果的に推進するために、同法に基づき政府が定めている「過労死等の防止のための対策に関する大綱」は、国が取り組む重点対策として、過労死などの調査研究を行うことを明記している。大綱では、「自動車運転従事者」「教職員」「IT産業」「外食産業」「医療」「建設業」「メディア業界」の7業種などを調査研究の重点業種などに指定しており、政府はそれらの7業種などを中心に調査・分析を行っている。

2022年度は、2020年度に労災支給決定(認定)された事案と公務災害認定事案(国家公務員は2021年度)を加えて分析を行うとともに、2010年度~2019年度までの労災不支給決定(業務外)事案の分析、ならびに全業種、メディア業界、芸術・芸能従事者(実演家)に対してアンケート調査を実施。白書はこの結果を第3章で報告した。

1 労災事案分析

<労災支給決定事案の分析>

脳・心臓疾患事案の発症時年齢は40代、50代で7割以上を占める

労災事案分析の報告からみていくと、2010年度~2020年度までの11年分の労災支給決定(認定)事案(脳・心臓疾患事案2,928件、精神障害事案5,099件)を分析。それによると、労災支給決定(認定)された脳・心臓疾患事案の男女内訳は、男性が2,791件(95.3%)で、女性が137件(4.7%)だった。

脳・心臓疾患事案での発症時年齢は、50歳台が1,088件(37.2%)、40歳台が976件(33.3%)と、あわせて7割以上を占める。決定時の疾患名は、「脳血管疾患」が1,797件(61.4%)、「虚血性心疾患等」が1,131件(38.6%)だった。

死亡事案は1,141件(39.0%)。年齢別にみると40歳台が406件(35.6%)、50歳台が396件(34.7%)を占める。

脳・心臓疾患事案が最も多かったのは「運輸業、郵便業」

脳・心臓疾患事案の件数を業種別にみると、「運輸業、郵便業」が973件(33.2%)で最も多く、次いで、「卸売業、小売業」416件(14.2%)、「製造業」351件(12.0%)、「建設業」273件(9.3%)、「宿泊業、飲食サービス業」251件(8.6%)などの順。

脳・心臓疾患での労働時間以外の負荷要因をみると、「拘束時間の長い勤務」が844件(28.8%)で最も多くなっており、以下、「交替勤務・深夜勤務」が404件(13.8%)、「不規則な勤務」が376件(12.8%)などと続く。

発症前の時間外労働時間数は、「発症前1カ月」が98.9時間、「発症前2カ月」が95.6時間、「発症前3カ月」が92.5時間などとなっている。

精神障害事案では約3割を女性が占める

精神障害事案の5,099件を男女別にみると、男性が3,394件(66.6%)と3分の2を占め、女性が1,705件(33.4%)となっている。

精神障害事案での発症時年齢は、40歳台が1,485件(29.1%)で最も多く、30歳台が1,473件(28.9%)、29歳以下が1,134件(22.2%)などとなっている。

自殺事案(未遂を含む)は906件(17.8%)で、男女別にみると男性が864件(95.4%)、女性が42件(4.6%)と男性の割合が多くを占める。自殺事案(未遂を除く)の死亡時年齢は、40歳台が272件(31.3%)、30歳台が213件(24.5%)、50歳台が173件(19.9%)となっている。

精神障害事案が最も多い業種は「製造業」

精神障害事案の件数を業種別にみると、「製造業」が882件(17.3%)で最も多く、「医療、福祉」751件(14.7%)、「卸売業、小売業」681件(13.4%)、「運輸業、郵便業」548件(10.7%)、「建設業」418件(8.2%)などの順で続く。

男女別に、特別な出来事の上位項目をみると、男性では「極度の長時間労働」(10.3%)が、女性は「心理的負荷が極度のもの」(10.4%)が、それぞれ10%程度で特に高くなっている。

具体的な出来事の上位項目では、男性は「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(24.5%)、女性では「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(21.8%)や「セクシュアルハラスメントを受けた」(21.2%)の割合が高い。

<労災不支給決定事案の分析>

労災不支給決定事案の件数は脳・心臓疾患事案では4,129件

2010年度~2019年度までの10年分の労災認定されなかった事案(労災不支給決定(業務外)事案)は、脳・心臓疾患事案が4,129件で、精神障害事案が8,614件となっている。なお、労災不支給決定事案の収集・分析は2015年度から行っている。

労災不支給決定となった脳・心臓疾患事案4,129件を男女別にみると、男性が3,500件(84.8%)、女性が629件(15.2%)。発症時年齢は60歳以上が1,344件(32.6%)で最も多く、50歳台が1,305件(31.6%)、40歳台が1,033件(25.0%)で続く。

死亡事案は、毎年全体の30~40%前後で推移している。決定時疾患は、「脳血管疾患」が60.6%、「虚血性心疾患等」が34.2%となっている。

脳・心臓疾患事案での不支給決定件数を業種別にみると、「運輸業、郵便業」が698件(16.9%)、「建設業」が641件(15.5%)、「卸売業、小売業」が616件(14.9%)「製造業」が567件(13.7%)などとなっている。

不支給決定の精神障害事案で自殺事案が占める割合は減少傾向

労災不支給決定となった精神障害事案8,614件を男女別にみると、男性が5,103件(59.2%)、女性が3,511件(40.8%)。自殺事案(未遂を含む)が占める割合は年間10~15%程度で減少傾向にある。発症時年齢は40歳台および50歳台の割合が増加傾向となっている。

業種別に件数をみると、「製造業」が1,583件(18.4%)、「医療、福祉」が1,465件(17.0%)、「卸売業、小売業」が1,321件(15.3%)などとなっている。

<メディア業界と教育・学習支援業の労災支給決定(認定)事案の分析>

メディア業界の労災事案は精神障害で増加

白書は、大綱の重点業種の「メディア業界」の過労死等の労災支給決定(認定)事案と、同じく重点業種の「教職員」に関連して、「教育・学習支援業」の過労死等の労災支給決定(認定)事案(地方公務員等の公務災害事案は含まない)のうちの精神障害事案について分析を行った。まず、メディア業界からみる。

メディア業界の労災認定事案について、2010年度~2020年度までの推移をみると、脳・心臓疾患事案の11年間の総数は計35件だった。2012年の8件をピークに減少傾向にあり、一方、精神障害事案の総数は計113件で増加傾向にある。

11年間の総数を男女別にみると、脳・心臓疾患は男性29件(82.9%)、女性6件(17.1%)で、精神障害は男性60件(53.1%)、女性53件(46.9%)となっている。

脳・心臓疾患、精神障害事案ともに「広告」が最も多い

件数を業種別に細かくみていくと、脳・心臓疾患は「広告」(14件、40.0%)、「映像」(8件、22.9%)、「放送」(6件、17.1%)、「出版」(5件、14.3%)、「新聞」(2件、5.7%)の順で多い。精神障害事案では「広告」(46件、40.7%)、「映像」(36件、31.9%)、「放送」(19件、16.8%)、「出版」(8件、7.1%)、「新聞」(4件、3.5%)の順で多くなっている。

職種別にみると、脳・心臓疾患は「記者・編集者・アナウンサー」と「管理職」が各6件(17.1%)で最も多く、精神障害事案は「販促・広告制作」が21件(18.6%)、「画像・映像制作」が18件(15.9%)、「デザイナー」と「アシスタント」が各16件(14.2%)となっている。

教育・学習支援業での精神障害認定はこの10年、年間10件前後で推移

教育・学習支援業については、2010年度~2019年までの10年間に精神障害で労災認定された事案は計119件で、2015年の19件を除き、おおむね年間10件前後で推移している。男女別に比率をみると、男性47.1%、女性52.9%で、近年は女性の割合が男性を上回る。発症時の年齢は、30歳台(37.8%)と40歳台(26.1%)で6割以上を占める。

教員・非教員別に件数の推移をみると、2014年度までは非教員が教員を上回っていたが、それ以降は教員が非教員を上回っており、10年間の総数では、教員54件(45.4%)、非教員65件(54.6%)となっている。教員54件の内訳をみると、「高等学校教員」が17件(31.5%)、「大学教員」および「学習塾講師」が各12件(22.2%)などとなっている。

男性での具体的な出来事のトップは「上司とのトラブル」

特別な出来事の上位項目をみると、男性は「極度の長時間労働」(3件、5.4%)が、女性は「心理的負荷が極度のもの」(6件、9.5%)が比較的多い。

具体的な出来事の上位項目では、男性は「上司とのトラブルがあった」が10件(17.9%)、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が9件(16.1%)、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が7件(12.5%)などの順で多い。一方、女性では「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が13件(20.6%)で最も多く、以下「セクシュアルハラスメントを受けた」が10件(15.9%)、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」および「上司とのトラブルがあった」が各6件(9.5%)で続く。

具体的出来事の上位項目にあがったもののうち、男女計で最も件数が多かった「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の内容をみると、男女ともに上司からの「暴言」が最も多く(男性7件で100%、女性10件で76.9%)、上司からの「暴力(脅し・威嚇も含む)」が続く(男性2件で28.6%、女性2件で15.4%)。

2 労働・社会分野の調査(アンケート調査)での分析・報告

アンケート調査については、全国の就業者・事業場を対象に実施した労働・社会調査(全業種調査)と、メディア業界および、芸術・芸能従事者(実演家)の調査それぞれの結果を分析した。

〔全業種調査〕

労働時間が長くなるにつれ、うつ病・重度のうつ病疑いの割合が増加傾向に

全業種調査の結果からみていくと、就業者9,852人と3,103事業場に、2022年12月時点以降の労働時間や睡眠の状況、ストレスなどについて尋ねた。

うつ傾向・不安に関する結果をみていくと、1週間あたりの実労働時間別のうつ傾向・不安(K6)では、労働時間が長くなるにつれて「うつ病・不安障害の疑い」「重度のうつ病・不安障害の疑い」を合わせた者の割合が増加する傾向にあることが明らかとなった。なお、K6は、米国のKesslerらによって、うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発され、一般住民を対象とした調査で心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標として広く利用されている。6つの質問について5段階(「まったくない」(0点)、「少しだけ」(1点)、「ときどき」(2点)、「たいてい」(3点)、「いつも」(4点))で点数化し、合計点数が高いほど、精神的な問題がより重い可能性があるとされている。

同割合は「20時間未満」で17.0%、「20時間以上40時間未満」で17.8%、「40時間以上60時間未満」で22.7%、「60時間以上」で26.8%となっている。

労働時間が長くなるほど疲労を翌朝に持ちこす頻度が増加

疲労の持ちこし頻度についてみると、労働時間が長くなるほど翌朝に持ちこす頻度が増加している。「翌朝に前日の疲労を持ちこすことがよくある」「翌朝に前日の疲労をいつも持ちこしている」を合わせた者の割合は、「20時間未満」で14.4%、「20時間以上40時間未満」で16.5%、「40時間以上60時間未満」が21.7%、「60時間以上」が34.1%。

疲労の持ちこし頻度別にうつ傾向・不安(K6)をみると、翌朝に疲労を持ちこす頻度が高まるほど、うつ傾向・不安が高まる傾向にある。「うつ病・不安障害の疑い」「重度のうつ病・不安障害の疑い」のある人を合わせた割合は、「一晩睡眠をとればだいたい疲労は回復する」人では9.2%だが、「翌朝に前日の疲労を持ちこすことがときどきある」では21.9%、「翌朝に前日の疲労を持ちこすことがよくある」では39.0%で、「翌朝に前日の疲労をいつも持ちこしている」人では59.5%と6割近くに及ぶ。

理想の睡眠時間以上がとれている人は約3割

調査では、睡眠の状況についても詳しく聞いている。理想とする睡眠時間を尋ねた結果をみると、「7~8時間未満」とする人が45.4%で最も多く、「6~7時間未満」が28.9%で続く。一方、実際の睡眠時間は「5~6時間未満」とする人が35.5%で最も多く、「6~7時間未満」が35.2%だった。理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の差については、約3割の人が「理想の睡眠時間以上睡眠がとれている」(30.7%)とするものの、「1時間不足」が39.6%、「2時間不足」が21.3%、「3時間不足」が6.2%いた。

週あたりの実労働時間別に睡眠時間の理想と現実の差をみてみると、労働時間が長いほど差が大きくなる傾向にある。週あたりの実労働時間が「60時間以上」では、「理想の睡眠時間以上睡眠がとれている」が22.3%だが、理想の睡眠時間に比べ「1時間不足」が34.4%、「2時間不足」が27.9%、「3時間不足」が9.7%、「4時間不足」が4.8%で、「5時間不足」との回答も1.0%あった。

理想の睡眠時間が2時間足りない人は27%でうつ病・不安障害の疑い

理想と現実の睡眠時間の差と、うつ傾向・不安(K6)の関係をみたところ、理想の睡眠時間との差が大きくなるほどうつ傾向・不安の状況が強くなっている。睡眠時間が理想より2時間不足している人は、「重度のうつ病・不安障害の疑い」がある人が13.8%、「うつ病・不安障害の疑い」が13.9%で、あわせて27.7%を占める()。3時間不足ではそれぞれ20.6%、16.5%であわせて37.1%にのぼる。4時間不足では27.4%、22.4%と、あわせてほぼ半数がうつ病・重度のうつ病の疑いがある状況となっている。

図:理想と実際の睡眠時間の差と精神状態
画像:図

(公表資料から編集部で作成)

〔メディア業界の調査〕

メディア業界で週60時間以上働いている人は6.4%

全国のメディア業界(放送・映像関連業、新聞関連業、出版関連業、広告関連業)の就業者768人および424事業場を対象にした2023年2~3月の状況の調査結果によると、1週間あたりの実労働時間が「60時間以上」の就業者割合は6.4%だった。業種別にみると、「放送・映像関連業」が8.5%で最も高く、「出版関連業」が5.7%で、最も低いのは「新聞関連業」の1.3%だった。

時間外労働が生じる理由は、「業務量が多いため」(53.9%)が5割を超え最も高く、「人員が不足しているため」(38.9%)、「仕事の繁閑の差が大きいため」(30.9%)、「仕事の特性上、所定労働時間外も含めた長時間の労働を行わないとできない仕事があるため」(30.9%)などが上位を占めた。

時間外労働が生じる理由と関係する業界特有の事情に「大いに関係ある」とした項目は(複数回答)、「技能を備えたスタッフを集めることが難しい」(46.9%)、「スタッフの育成に時間がかかる」(44.9%)、「十分な人員が採用できない」(38.8%)、「育ってきたスタッフが転職してしまう」(31.0%)、「発注される時期が集中する」(24.2%)などという回答結果だった。

定期健康診断はほぼ全員に、ストレスチェックは約4割に実施されている

直近1年間の定期健康診断の状況をみると、「全員に対して実施した」が90.2%、「一部に対して実施した」が6.4%で、おおむね全員に実施されている。直近1年間のストレスチェックについては、「全員に対して実施した」(38.0%)、「一部に対して実施した」(2.6%)で、実施した事業場の割合は約4割だった。

メンタルヘルス不調を原因とする休職者の割合は、直近1年間で、「5%未満」が19.2%、「5%以上10%未満」が4.6%、「10%以上20%未満」が2.0%などとなっており、7割以上が「いない」としている。業種別にみると、「出版関連業」で「5%以上10%未満」が9.0%、「10%以上20%未満」が4.5%、「20%以上」が3.0%と、メンタル不調休職者の割合が高くなっている。

勤務間インターバルの導入状況は、導入予定・導入の検討中を含めると「放送・映像関連業」が57.3%で最も高く、次いで「広告関連業」の56.6%で高い。

メディア業界全体では睡眠時間が6時間未満の人が4割超

1日の平均的な睡眠時間は、「5時間未満」が7.2%で、「5時間以上6時間未満」が36.5%だった。メディア業界全体では睡眠時間6時間未満の就業者が4割を超える。業種別にみると「5時間未満」の割合は「新聞関連業」が10.1%で最も高く、「出版関連業」が8.8%で続く。「新聞関連業」では「5時間以上6時間未満」も45.6%と、睡眠時間が6時間未満の割合が55%を超えている。

疲労の持ちこし頻度をみると、「翌日に前日の疲労をいつも持ちこしている」としたのは、「出版関連業」(10.5%)で最も高く、「新聞関連業」(8.9%)が続く。一方、「一晩睡眠をとればだいたい疲労は回復する」の割合は、「広告関連業」(33.0%)や「放送・映像関連業」(31.7%)で高い。

うつ傾向・不安(K6)の状況をみると、「重度のうつ病・不安障害の疑い」がある割合はメディア業界全体では6.0%。業種別に高いのは「出版関連業」の8.0%、「新聞関連業」の7.6%だった。

ハラスメント等の経験を業種別にみると、「上司から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」は「出版関連業」(8.3%)、「上司とのトラブルがあった」は「新聞関連業」(5.3%)、「セクシュアルハラスメントを受けた」は「放送・映像関連業」(1.7%)、「カスタマーハラスメントを受けた」は「出版関連業」(5.5%)で、それぞれ最も割合が高くなっている。

〔芸術・芸能従事者(実演家)の調査〕

1週間で60時間以上の拘束・労働時間がある人が約17%

芸術・芸能従事者(実演家)の調査は、芸術・芸能の各分野(俳優、演劇、音楽、美術、伝統芸能等)の主要な団体に属し活動する芸術・芸能従事者(実演家)640人に、2022年10~12月の状況について聞いた。

それによると、1週間あたりの拘束時間・労働時間が「60時間以上」の人の割合は16.7%だった。同割合を職種別にみると、「美術家」(31.1%)や「俳優・スタントマン」(21.5%)で高くなっている。

拘束時間・労働時間に占める仕事の性質の割合を職種別にみると、「芸術・芸能の仕事に関する拘束時間(準備等を含む)」は、「伝統芸能」(73.1%)や「声優・アナウンサー」(69.8%)などで特に高くなっている。一方、「芸術・芸能に関係ない副業等の労働時間(アルバイト等)」の割合は「俳優・スタントマン」(37.2%)が最も高く、「美術家」(20.1%)が続く。

職種別にスケジュール上の1カ月あたりの休日数をみると、「7~10日(週2日相当)」以上の割合は、「声優・アナウンサー」が84.9%で最も高く、次いで「俳優・スタントマン」が79.8%で高い。一方、「0~3日(週1日未満相当)」は、「美術家」(24.4%)や「音楽・舞踊・演芸」(21.1%)で高くなっている。また、完全休養日数をみると、「7~10日(週2日相当)」以上の割合は、「俳優・スタントマン」が50.6%で最も高く、次いで「文筆・クリエイター」が38.5%で高くなっている。一方、「0~3日(週1日未満相当)」の割合が高いのは、「美術家」の70.4%、次いで「音楽・舞踊・演芸」の54.8%だった。

「俳優・スタントマン」の3割弱が殴られたり、蹴られた

睡眠時間の状況をみると、「5時間未満」の割合は実演家全体で9.0%だった。職種別には「俳優・スタントマン」の16.7%が最も高く、「声優・アナウンサー」が11.4%で続く。

職種別にハラスメントの経験をみると、「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」が「俳優・スタントマン」で28.7%と高く、「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」は「声優・アナウンサー」で68.6%と最も高い。「恥ずかしいと感じるほどの体の露出をさせられた」は「声優・アナウンサー」(11.4%)や「俳優・スタントマン」(9.3%)で高いのが目立つ。

職種別にうつ傾向・不安(K6)をみると、「うつ病・不安障害の疑い」「重度のうつ病・不安障害の疑い」をあわせると、「俳優・スタントマン」で35.5%、「美術家」で35.0%と高くなっている。実演家職種全体では23.4%だった。

3 公務災害の支給決定(認定)事案の分析

白書は、国家公務員と地方公務員の公務災害認定事案についても取りまとめている。2010年度~2021年度までの12年間に一般職の国家公務員について公務災害として認定された事案は、脳・心臓疾患事案が32件、精神疾患等事案が111件だった。

脳・心臓疾患事案は40~59歳が全体の75%を占める

脳・心臓疾患事案32件を発症時年齢別にみると、「40~49歳」が14件、「50~59歳」が10件であわせて全体の75.0%を占める。組織区分別には、「地方出先機関等」が15件(46.9%)で最も多く、「本府省」が11件(34.4%)で続く。死亡事案は17件(53.1%)だった。

一方、精神疾患等事案をみると、「29歳以下」が34件(30.7%)、「30~39歳」が33件(29.7%)、「40~49歳」が27件(24.3%)だった。男女別では男性71人(64.0%)、女性40人(36.0%)となっている。組織区分別にみると、「地方出先機関等」が73件(65.8%)で最も多く、「本府省」が21件(18.9%)で続く。精神疾患等事案のうち、自殺事案は28件(25.2%)だった。

「義務教育学校職員」の脳・心臓疾患事案が67件

2010年1月~2021年3月までに地方公務員の公務災害認定として認定された事案は、脳・心臓疾患事案が204件、精神疾患等事案が346件だった。

脳・心臓疾患事案204件を発症時年齢別にみると、「50~59歳」が79件(38.7%)で最も多く、「40~49歳」が74件(36.3%)で続く。疾患別には、「心・血管疾患」は74件で「脳血管疾患」が130件だった。男女別では、男性が173件(84.8%)、女性が31件(15.2%)だった。

職員区分別の内訳をみると、「義務教育学校職員」が67件、「その他の職員(一般職員等)」が61件、「警察職員」が36件、「義務教育学校職員以外の教員職員」が29件などとなっている。職務従事状況の内訳は、「日常の職務に比較して特に過重な職務に従事(長時間労働)」が178件と最も多く、男女別には男性148件、女性30件だった。「精神的緊張を伴う職務」が68件、「異常な出来事・突発的事態に遭遇」が18件などで続く。

時間外勤務時間の状況は、発症前1カ月の平均で92.5時間、発症前2カ月は78.5時間、発症前3カ月は71.0時間、発症前4カ月は65.2時間と、4カ月以内では軒並み高くなっている。

精神疾患等事案の件数が最も多い職員区分は「その他の職員(一般職員等)」

精神疾患等事案346件をみると、発症時年齢は「40~49歳」が105件(30.3%)で最も多く、次いで「30~39歳」が93件(26.9%)。男女別では男性が217件(62.7%)、女性が129件(37.3%)だった。自殺事案は107件(30.9%)となっている。

職員区分別の内訳は、「その他の職員(一般職員等)」が174件、「義務教育学校職員」が58件、「義務教育学校職員以外の教育職員」が41件、「消防職員」が34件、「警察職員」が27件など。

職員区分別の主な業務負荷状況をみると、義務教育学校職員では「住民等との関係」、義務教育学校職員以外の教育職員では「仕事の量」、警察職員は「仕事の量」や「対人関係等」、消防職員では「対人関係等」、その他の職員(一般職員等)では「仕事の量」との回答が、それぞれ最も多くなっている。

(調査部)