1992年の制定以降で初めて改定。配慮した夜勤体制やICT化による業務効率化の推進を打ち出す
 ――厚生労働省が「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を改定

国内トピックス

厚生労働省は「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を1992年の制定以降で初めて改定し、10月26日に告示した。「看護師等」(保健師、助産師、看護師および准看護師)の確保に向け、処遇改善策では、配慮した夜勤体制の構築や病院などでのICT化による業務効率化が重要だと指摘したほか、仕事と育児の両立支援に向けた環境整備などを提起。資質向上策に向け、専門領域に応じた研修の実施なども打ち出している。

人材不足・需要増加の見込みから人材確保推進が必要に

指針は、国民に良質かつ適切な医療の提供を図るとして1992年12月に制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(看護人材確保法)の第3条に基づいて策定するもの。これまで一度も改定されていなかったが、看護の担い手が急減するなかでの看護ニーズの増大や、コロナ禍をうけて新興感染症などの発生に備えた看護師等確保対策を実施する必要があることなどから、約30年ぶりに改定することとなった。

指針ははじめに、看護師等の就業動向に言及。看護師等の就業者数は、看護人材確保法の施行後に取り組みが進められ、1990年の約83.4万人から、2020年には約173.4万人と大きく増加。一方、少子高齢化の進行で生産年齢人口は2040年に向けて急減していくことや、看護師等の需要数が今後増加することが推測されることから、「看護師等の確保を推進していくことが必要」と指摘している。

仕事と育児の両立支援に向けた環境整備の推進を提示

指針は続いて、病院などに勤務する看護師等の処遇改善や、研修などによる資質向上、就業促進などのポイントをまとめている。

病院などに勤務する看護師等の処遇の改善については、はじめに、「労働時間の短縮や業務負担の軽減を図っていくことが必要」として、特に夜勤負担を軽減し、働きやすい職場づくりを進めるうえで、看護師等の負担に配慮した夜勤体制を構築することを提示。そのほか、改定前には記述がなかった勤務間インターバルの確保や、病院などにおけるICT化の積極的な推進による業務の効率化などを新たに盛り込んだ。

また、勤務環境の改善として、「看護師等の定着を促進していくためには、ライフステージに対応した働き方を可能にする相談体制や環境の整備を進めていくことが重要」だと指摘。事業所内保育事業といった看護師等の仕事と育児の両立支援に向けた環境整備の推進や、2014年度から各都道府県に創設された地域医療介護総合確保基金などの支援の活用も図りつつ、看護師等の勤務環境改善のための体制整備を進めるよう努めることとしている。

そのほか、職場におけるハラスメント対策の適切な実施や、専門性が異なる多種多様な医療スタッフで患者に合わせた医療を提供する「チーム医療」を推進するために、業務の移管や共同化(タスク・シフト/シェア)を進めていくことなども新たに記載している。

生涯にわたる資質の向上の基礎を修得できる体制整備を

研修などによる看護師等の資質の向上について、看護師等がライフイベントによるキャリア中断が多いことから、「新人世代から高齢世代までを通じたキャリアの継続支援が重要」と指摘。

改定前には記述がなかった新人看護師等の育成については、多くの病院で実施されている新人看護職員研修で基本的な臨床実践能力を獲得することをはじめ、効果的な研修の企画・運営や指導者の指導力向上・負担軽減など、「生涯にわたる資質の向上の基礎を修得することができる体制の整備を行っていく」としている。

また、新人看護職員研修以降は、個々の看護師等が置かれた状況の複雑化や対象者の多様化により、例えば特定行為研修の受講など、「看護師等の就業場所、専門領域、役職等に応じた知識・技術・能力の向上が求められる」として、実施機関、実施方法などについて工夫した研修の実施などを新たに盛り込んだ。

都道府県ナースセンターでの職業紹介・相談対応の充実を

看護師等の就業促進については、新規養成、復職支援、定着促進を三本柱とした取り組みを推進していく重要性を提示。現在看護職に就いていない潜在看護師等の復職支援などを強化するため、都道府県ナースセンターにおける職業紹介や就業に関する相談対応などの充実を図ることや、公共職業安定所と都道府県ナースセンターでの緊密な連携などを通じてマッチングの強化を図ることなどを新たに提示した。

また、就業継続促進のため、2024年度から運用開始予定の「デジタル改革関連法を踏まえた看護職の人材活用システム」により看護師等のスキルアップの推進を図ることや、領域別の今後の看護師等の需給を踏まえ、訪問看護における看護師等を確保していくことを強調している。

新興感染症や災害等に迅速・的確に対応できる看護師等の養成も

指針ではそのほか、看護師等の養成や、新興感染症や災害等への対応にかかる人材確保についても言及。看護師等の養成については、ニーズに応じた看護師等の新規養成を図るため、地域医療介護総合確保基金による看護師等養成所の整備・運営の支援や、看護関係資格の取得を目指す社会人経験者の教育訓練の受講支援などの重要性を指摘している。

新興感染症や災害などへの対応に向けた看護師等の確保については、新興感染症および災害への支援に迅速かつ的確に対応できる「災害支援ナース」の養成・応援派遣を行う仕組みの構築などが必要だとしている。

(調査部)

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