ポストコロナの令和時代に求められる「つながり・支え合い」のあり方を提言
 ――2023年版厚生労働白書

スペシャルトピック

厚生労働省が8月に公表した「2023年版厚生労働白書」は、「つながり・支え合いのある地域共生社会」をテーマに、ポストコロナの令和時代に求められる「つながり・支え合い」のあり方を提示している。多様なチャネルを通した全ての人を包摂する「つながり・支え合い」の推進や、人々の意欲・能力が十分発揮できる新たな「つながり・支え合い」の創出の必要性を強調し、具体策を提言した。

少子高齢化などで多様化、複雑化した課題が顕在化

今回の白書は、わが国の社会保障制度はライフステージの各段階において典型的と考えられる不確実性に対し、各リスクの「分野別」に制度を創設し運用してきたものの、「複合的な要因による課題、分野の境界線上、あるいは制度の狭間にあるため対応が難しい課題が、年々存在感を増している」と指摘。

こうした制度の狭間の課題、複雑化・複合化した課題は、従来は、地域の紐帯と交流をベースとしたインフォーマルなケアが提供されて対応してきたものの、少子高齢化が進展し、単身世帯の増加や世帯規模の縮小が進むとともに、地域における交流意識も弱まったことで、「これまでのフォーマル又はインフォーマルなケアでは対応が難しい、多様化、複雑化した課題が顕在化している」と問題提起した。

そのため、「つながり・支え合いのある地域共生社会」をテーマに掲げ、全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会の実現に向けた展望を論じた。

家族や地域社会の支え合い機能は弱体化

具体的な内容をみていくと、まず白書は、社会保障を取り巻く環境と人々の意識の変化について整理した。

それによると、日本の人口は、2008年(1億2,808万人)をピークに減少に転じ、2070年には9,000万人を割り込むと推計され、本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎える。未婚率が上昇し、単身世帯の割合も4割に達し、一世帯当たりの人数も1990年の2.99人から2020年には2.21人に減少するなど、世帯規模は長期的に縮小傾向にある。こうした状況から白書は、「家族が担うことができる支え合い機能も弱体化していくことは避けられないだろう」と指摘した。

人口減少を地域別にみると、今後、人口5,000人未満の市町村が増加する傾向がみられる。また、2045年に向け、15歳~64歳の人口はほぼ全ての市区町村で減少し、一方で65歳以上の人口は約4割の市区町村で増加すると見込まれている。雇用の場の確保や、若者の減少という問題を背景に、人口20万人未満の市町村では、「地域の担い手(若者、町内会など)の育成・確保」を求める割合が高くなっている。

交流や助け合いの意識の変化で「孤独・孤立」が深刻化

こうした環境変化のなかで、人々の交流や支え合いに対する意識についても分析する。

地域、家族や親族、勤め先といった関係性(「血縁・地縁・社縁」)で相談したり、助け合うような全面的なつきあいではなく、「形式的つきあい」を望む割合が増加。社会全体のつながりが希薄になり、さらにコロナ禍によって人と接触する機会が減少し続け、社会に内在していた「孤独・孤立」の問題が浮き彫りになり深刻化したと述べた。

「人々のつながりに関する基礎調査」(内閣官房、2021年・2022年)結果などを引用し、男性は50歳代、女性は30歳代で「孤独」と回答した割合が高く、男性では30歳代、女性では20歳代で間接的に孤独感を表すスコアが高くなっているとの結果を紹介。また、属性を詳細にみた結果、特に単身者や相談相手のいない人で、孤独を強く感じる割合が高いと指摘した。

白書は、いち早く孤独対策に取り組んだ英国の政策を取り上げ、コラムで紹介している。「孤独」という主観的要素の大きい問題に政策テーマとして取り組むと表明したこと、その推進のために2018年に「孤独担当大臣」を任命し、孤独戦略の目標を策定したことを、先進的と評価。「日本の孤独・孤立対策も、地に足の着いた、息の長い取組みとしていく必要がある」と述べた。

支え合いや社会貢献したいという意識は高い

白書は、人々の支え合いや社会貢献に対する意識についても、分析結果を引用しながら、「社会貢献や人とのつながりに対する意識は比較的高い」と指摘している。6~7割が「社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」と思っており、「社会や人の役に立ちたい」と社会参加活動を始める人が多いとし、また、自治体の人口規模が小さいほど、社会参加活動を行っている割合が高いと紹介(厚生労働省、2022年度「少子高齢社会等調査検討事業」)。環境を整備し、より多くの人が地域社会で役割を発揮できるようにすることが必要となっていると強調した。

福祉はこれまで地域の相互扶助や家族で支えられてきた

白書は次に、日本の福祉の沿革を概観した。

日本の福祉は、地域の相互扶助や家族同士の助け合いによって支えられてきたが、戦後、工業化、個人主義化や核家族化が進み、地域や家庭が果たしてきた役割の一部を補完・代替する必要が高まった。このため、高齢者、障がい者、子どもなど、対象者ごとに公的な支援制度を整備し、充実を図ってきたと述べた。

しかし、個人や世帯が抱えるリスクが多様化し、経済面のみならず、孤独や孤立など心理的な問題や住居確保など、従来の制度の狭間に落ち込んだ新たな課題が表面化していると分析。家族や地域、企業のつながりの機能が弱まり、人々の交流に対する意識も変化しているとし、さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響も、人間関係を希薄にし、問題を深めたとの見方を示した。

分野横断的な対応を求められる課題を一つひとつ紹介

そのうえで、複雑化・複合化し、分野横断的な対応が求められる新たな課題を、具体的に取り上げ、紹介した。

[ひきこもり] 早期に相談しやすい体制を整え、多様な支援の選択肢を

6カ月以上にわたり、社会参加を避け、家庭内にとどまり続けている状態を指す「ひきこもり」は、要因が様々あり家庭内だけで解決することは難しいとされる。白書は、ひきこもり状態が長期化すると、身体的、心理的、社会的な「健康」に影響を与え、社会参加が一層難しくなる可能性があるとし、当事者や家族が早期に相談しやすい体制を整え、地域の相談窓口や利用できるサービス内容を広く周知することが重要だと指摘した。

政府は、ひきこもりに特化した専門的な相談窓口「ひきこもり地域支援センター」を全国の67自治体に設置し、相談支援や居場所づくりなどを総合的に実施する。2021年度には12万件を超える相談を受け、近年増加傾向にある。白書は、支援の選択肢を増やすため、福祉関係機関のみならず、他分野の行政機関の連携が必要だとしている。

[ヤングケアラー] アウトリーチにより早期発見し支援ニーズを把握する

「ヤングケアラー」とは、本来であれば大人が担う家事や家族の世話を日常的に行っている子どものことを指す。年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を負い、本人の育ちや教育への影響が懸念されることから、「関係機関・団体などが連携し、ヤングケアラーの早期発見・支援につなげる取り組みが求められる」と白書は指摘する。

ヤングケアラーの実態調査を引用し、紹介した。それによると、小学6年生の6.5%、中学2年生の5.7%、高校2年生で4.1%(全日制。定時制では8.5%)、大学3年生で6.2%が、「世話をしている家族がいる」と回答し、世話をしているのは中学生、高校生では「きょうだい」が、大学生では「母親」が最も高い(2020・2021年度「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」)。

白書は、ヤングケアラーは家庭内のデリケートな問題で、自身がヤングケアラーという認識がない場合があるなど、支援が必要でも表面化しにくい構造となっていると指摘。ソーシャルワーカーや介護支援専門員などの専門職、学校の教職員など、様々な分野が連携し、「アウトリーチにより、潜在化しがちなヤングケアラーを早期に発見することが重要」と強調するとともに、まずは本人の気持ちに寄り添い、どのような支援が必要なのか、相談に乗ることが重要になると述べた。

2021年度には、関係機関の支援内容を整理し、参考情報をとりまとめた「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル~ケアを担う子どもを地域で支えるために~」を作成。あわせて「ヤングケアラー・コーディネーター」を地方自治体に配置し、ヤングケアラーを適切な機関へつなぐ機能を強化するとしている。

[ひとり親家庭] 母子家庭と父子家庭で状況も課題も異なる

未成年の子を育てるひとり親世帯は、母子世帯が119.5万世帯、父子世帯が14.9万世帯で、約9割が母子世帯という。ひとり親世帯の相対的貧困率は、48.1%と依然として高く、特に母子世帯の平均年間就労収入は236万円と、水準が低い。

父子世帯では496万円と母子世帯の倍以上あるものの、一方で、家事など生活面で多くの困難を抱え、母子世帯に比べ相談相手が少ない(厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」2021年度)。

白書は、ひとり親世帯が、就労や経済面の悩み、ワンオペ育児への不安など、様々な課題を抱えており、ワンストップで行政の相談窓口に確実につなぎ、支援を受けられる体制整備が重要だと指摘。

地方自治体の窓口では、母子・父子自立支援相談員が、専門家のバックアップを受けながら、養育費の確保や子育て・生活支援を行い、また就業支援専門員が、マザーズハローワークなどへの同行支援やキャリアアップに向けた助言・情報提供などの支援を実施。地方自治体に設置された母子家庭等就業・自立支援センターでは、就業相談など一貫した就業支援サービスを提供し、教育費に関する相談を行っていることを紹介した。

[様々な困難を抱える女性]  暴力が最多も社会情勢により課題は複雑化

近年の社会経済情勢の変化で、性暴力・性犯罪被害など、女性をめぐる課題は複雑・多様化している。加えて、在宅時間の増加や労働時間の減少など新型コロナウイルス感染症の影響が追い打ちをかけたと白書は指摘する。

各都道府県に設置されている来所相談の内容をみると、「夫等からの暴力」「子・親・親族からの暴力」など、暴力の相談が多く、婦人相談所の一時保護や婦人保護施設の入所理由も、全ての年代で暴力が最も多い。

こうした状況を踏まえ、政府は2022年5月、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」を制定。婦人相談所と民間団体が連携し支援体制を強化し、若年女性向けの支援を進める。また、手が届きにくい若年女性向けの支援のため、夜間見守りやICTを活用したアウトリーチ支援、SNSや電話、メールによる相談体制を行う、としている。

[セルフ・ネグレクト]  今後の増加が懸念され、予防的支援も重要

セルフ・ネグレクトとは、医療や介護サービスの利用を拒否するなど、社会から孤立し、生活や心身の健康維持ができなくなっている状態を指す。高齢者のセルフ・ネグレクトの原因は、認知症や精神疾患などの障害・疾病のほか、経済的困窮や家族・近隣住民とのトラブル、人間関係が上位を占めるという(2018年度「自治体の包括的権利擁護体制に関する調査研究報告書」)。

白書は、今後、高齢化や人間関係の希薄化が進み、さらにセルフ・ネグレクトの増加が懸念されるとし、アウトリーチによる介入的支援や多機関による支援とともに、「周囲から孤立しないなど、セルフ・ネグレクト状態に至らないような予防的な支援も重要」と指摘した。

制度からではなく必要性から課題に対応する

白書は、以上の分野横断的な対応が求められる新しい課題に対応するには、従来の「制度から人を見る」のではなく、「その人の生活を支えるために何が必要か」という視点が必要だと強調。誰もがこうした課題に直面する可能性があり、お互いに助け合えるよう、日頃から課題を共有できる地域をつくり、皆が役割を持ち、日々の生活に安心感と生きがいを得ることができる社会の仕組みが必要だとし、全ての人に「つながり・支え合い」を創り出すために必要な支援をいくつか提示した。

属性を問わず、能動型の支援を

支援策としてまず、「属性を問わない相談支援」をあげた。対象者の属性、世代、相談内容にかかわらず、包括的な支援体制を構築するため「重層的支援体制整備事業」をさらに推し進めるとともに、関係機関のネットワークを構築し、複合化した課題に対応する。

また、アウトリーチによる能動型の支援が大切だと主張。ひきこもりやヤングケアラーなど、潜在的な支援のニーズを早期に発見するため、支援が必要な人がいる場所に積極的に出向いて働きかけることを提案し、そのためには、地域住民のつながりや民生委員・専門職、水道、電気、ガス等のライフラインほか、様々な地域の社会資源との連携が大切だとした。

住まいを確保し、居場所をつくる

暮らしの基盤である「住まい」から支援を始める重要性も指摘する。独居の高齢者や生活困窮者、困難を抱える女性など、「住まい」に課題を抱える人が増加し、ネットカフェなどを転々とする不安定居住者が問題になるなど、居住支援のニーズが高まっている。住まいに課題を抱える人は、生活困窮やメンタルヘルスなど、複合的に課題を抱えている場合も多い。そのため白書は、住宅の提供のみではなく、その後の生活支援も含め、地域とつながる居住環境や見守り、相談支援ができるような環境整備が必要だとし、自治体や不動産会社と連携しながら居住支援を行う取り組み事例をコラムのなかで紹介している。

また、地域住民同士がつながりを実感するには、世代や属性を超えて、課題を抱える人もそうでない人も、気軽に集まり通えるような「居場所」づくりが大切になるとし、専門家と地域住民が一緒に地域の困りごとに対応している事例や、空き家を活用して多世代交流の場づくりを行う企業の事例などを紹介した。

地域や自宅にいながら、交流しつながりを持てる「デジタル活用のメリット」についても強調。高齢者や障がい者、ひきこもり状態の人や子育て中の人が、気軽に交流し、つながりを持つことが可能になると指摘。そのうえで、スマートフォンアプリを活用して高齢者同士が励まし合いながら生活習慣の改善・フレイル予防を実践する府中市の取り組み事業を紹介した。

人々の意欲や能力を発揮しながら「つながり・支え合う」

「つながり・支え合い」の取り組みは、市町村などの行政区域をベースにした取り組みが基本となるが、一方で、地域の様々な動きをみると、労働者協同組合やNPO法人、社会福祉法人、企業など、様々な担い手が連携し、地域活動に参加している。

白書は、行政の支援を土台に、地元住民や地元行政が地域を支え(縦糸)、様々な法人やボランティア団体などによる地域づくりの取り組み(横糸)が協働することで、地域のつながりを再構築し、住民の暮らしをより一層豊かにすることができると指摘。こうした横糸の取り組み例として、労働者協同組合、NPO法人やボランティア団体、企業など、社会福祉法人、医療機関――をあげながら、多様な主体の特性や得意分野を活かした取り組みは、福祉領域のみならず、地方創生、まちづくり、地域自治、教育など、より多くの分野に広がり、新たな「つながり・支え合い」を創出することができ、より豊かな地域共生社会が実現できる、と強調した。

(調査部)

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