パネルディスカッション──今後の高齢者の働き方に求めること

パネリスト
眞野 義昭、菊岡 大輔、緒形 憲、中山 明広
コーディネーター
濱口 桂一郎
フォーラム名
第101回労働政策フォーラム「高齢者の多様な就労のあり方─OECD高齢者就労レビューの報告を踏まえ─」(2019年1月23日)

濱口 本日のフォーラムでは、前半部分は、どちらかと言えば、マクロ的な視点から報告が行われました。一方、後半部分においては、現在、ご登壇いただいている4人の方々にミクロ的な視点でご報告いただいたところです。そこで、この場では、この4人の方々から、今後の高齢者の働き方や行政に対して求めることなど、マクロ的な視点でご意見をいただきたいと思います。

眞野 先ほどの繰り返しになりますが、高齢者の就業を促進するうえで、一番重要なのは「機会の提供とマッチング」だと思います。当社として取り組みを行うなかで感じたことは、「働きたいと考えているシニアは、実は大勢いらっしゃるんだな」ということです。しかし、一方、雇う側、雇われる側、双方の誤解、認識不足が結果的に雇用の妨げになっているということも強く感じています。

また、今後、技術の進展により省人化が進むことで、シニアが活躍できる場面も増えてくるのではないかと考えております。このような環境整備を、行政や財界と連携して進めていくことが重要と考えています。

加盟店でシニアを雇用するにあたり、重荷になるのが社会保険の部分です。行政の方々にはシニアの雇用が進むほど、ハッピーになるような仕組みをご検討いただきたいと思います。

菊岡 Keese氏の提言にもあった「処遇の適正化」については、企業の立場からすると悩ましい部分です。当社では65歳定年制の導入後、処遇を引き上げていますが、社員の満足を十分に得られるかという点ではまだ課題があると感じています。経営の観点とのせめぎ合いという部分もありますが、今後、社内で適正な水準について検討していく必要があると考えています。一番重要なのは、シニアのパフォーマンスを高めるような取り組みに対して、社員も高い付加価値を発揮してくれる、会社側もそれに見合う処遇を用意する、という好循環を作り出すことが求められているということです。そのため人事部門には、いかにシニアの活躍の場を創り出し、社員とマッチングするかが求められていると思います。

緒形 先程の報告の繰り返しになりますが、シニアの方は本当に一生懸命働きます。仕事に対して前向きですし、自身の働きぶりに対する評価も気にします。そういった方々を信じて、就業の機会を与えていただければと思います。

シニアにも個人差があって、わがままだったり、健康面に不安がある方もいます。こうした場合、当社のスタッフは派遣先に赴いて、問題を解決していますが、こうしたフォローもシニア雇用において重要だと思います。

当社としては、多様なシニアを必要としています。というのは、企業側と働く側のニーズが異なることから、マッチングにおいてかみ合わない部分がまだまだ生じています。例えば、企業側が求める資格をシニア側が持っていなかったり、一方で、シニア側には、「早朝勤務は困る」、「自宅近くで働きたい」といった要望を持っている方もいますので、多様な人材がいれば、マッチングも行いやすくなります。

現役時代からの準備も重要です。若い方にとっては、シニアになってからの働き方は想像しにくいと思いますが、資格を取得することや、人脈を広げておくと、後々役に立ちます。

最後に、当社は首都圏で業務を行っていますが、今後は地方への進出も考える必要があります。北海道から沖縄まで、全国各地のシニアが当社にいらっしゃいます。こうした方々が働きやすいよう仕事の輪を全国に広げていきたいと思います。

中山 企業の方々からの報告では、個人の成果を処遇に反映するというお話がありました。モチベーションを維持する上で、こうした取り組みは非常に重要な要素なのではないかと改めて感じました。

行政に対する要望としては、個々人の過去の知識・経験が役に立つような仕組みづくりを進めて欲しいということです。労働者にとって、定年後、過去の業績や地位をいったんリセットすることは辛いことです。確かにそのような意識改革は必要ですが、なかなかそれができない方がいるのも事実です。そこで、個人が持つ能力を普遍化・共通化するための評価システムや資格制度を整備することで、こうした問題はある程度カバーできるのではないでしょうか。

労働者自身も高齢期に向けて、「武装」することが求められるとすれば、行政と企業が連携して、中長期的な視点に立って、リカレント教育を推進していくことも必要です。

先ごろ、外国人材の受け入れ拡大に向けて、改正入管法が成立したところです。しかし、外国人材の受け入れを想定している14業種のうち、外食、宿泊、介護、農業といった分野はまさに今後、高齢者の活躍が見込まれる分野です。外国人材が増えることによって、高齢者の就労拡大に向けた企業の取り組みが後退することのないように配慮していただきたいと思います。

将来的には十分な資産形成ができずに高齢期を迎える方も徐々に増えていく可能性があります。そのような場合、「せっぱ詰まっているから、あれこれ条件にこだわらずに働いてもらえるのではないか」と考えてしまいがちです。しかし、むしろ、そういう時だからこそ、「生きがい」の観点が抜け落ちることがないよう、高齢者のニーズに配慮した健康でやる気を出して働けるような就労機会をつくっていただきたいと思います。