事例報告 三幸製菓の採用・人材育成における取組事例
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- 柴田 光章
- 三幸製菓株式会社人事部人事課主任
- フォーラム名
- 第99回労働政策フォーラム「中小企業の人材確保・育成─人が定着して活躍する職場をめざして─」(2018年10月30日)
当社は新潟県に本社、製造拠点を置くお煎餅メーカーです。皆さんも、「雪の宿」などご存じの方がいらっしゃると思います。
古めかしくて保守的なイメージ、というのが、採用活動における当社のポジショニングだと思っています。採用活動における悩みを、学卒にフォーカスして紹介すると、最終面接の前日などに親と相談した結果「やっぱり新潟の企業はやめておきなさい」と言われて辞退されてしまうこともあります。また、東京で採用活動をメインで行うとすると、出張や会場費などでけっこう大きな費用がかかってしまうのが悩みです。採用の定性面では、本当に必要な人材が効率的にとれているのか、という点が悩みとなっていました。
近年の採用実績は、シートのとおりとなっています。新潟に本社を置く会社ですが、全国転勤前提の採用なので、新潟出身者はあまりいません。入社後は総合職として様々な部署に配属をされていきます。
エントリー者数の推移を見ると、2012年まではナビサイトに広告を掲載していましたが、2013年からは応募者をなるべく減らしていこうと掲載を止めることにしました。それに伴い、人事課内において、そもそも採用担当の仕事とは何かということについて、改めて上層部も含めて話し合いました。
採用担当者の仕事においては、学生と語り合うことが楽しかったり、アドバイスすることに喜びを感じていたりする社員がいるように感じていました。そういったことも確かに大切ですが、採用担当は決してボランティアでしているのではなく、あくまでも会社の利益・業績に貢献するための仕事だと確認することになりました。
過去の採用方法を再検証
自社に必要な人材に関して、いまだに「優秀な学生を連れてきて欲しい」と上層部に言われるのですが、そもそも優秀な学生って何でしょう。また、優秀な学生を連れてきたのはいいけれど、優秀な学生が果たして、活躍できる社内風土や人事制度になっているのかという問題があります。こうした点を一つずつ砕きながら再検討して採用活動を進めてきました。
採用活動に関しての違和感は他にもありました。例えば、コミュニケーション能力が高い人が優秀と言われていますが、本当にそうなのか。たくさん集めればそのなかで必ずいい人が見つかるのか。面と向かって話せば相手がよくわかるのか。
確かに、ものすごい採用の経験を積んでいる人であれば、面と向かって、短時間話しただけで応募者の本質を見抜ける人がいるかもしれません。しかし、採用担当はそうした人ばかりではないので、誰が採用担当をやったとしても、一定のパフォーマンスが出せるような方法がないか、考えてきました。
応募者はミニマムでよい
たくさん応募者を集めて、その分落とす人の数も増えるという採用の仕方は、やはり生産性が低いのではないかと考えています。例年、当社は採用するのが15人前後ですが、15人とるのであれば、当社が採用したいと思う、かつご本人も入社したいと思うミニマムの15人が応募してくれたらそれでいいという思考に至りました。
ポジショニングを誤ると負け戦になることにも気づきました。お菓子メーカーなので、ライバルには大手メーカーさんもありますし、新潟県内でもよく知られた会社があります。全国でも、また、新潟県内でも決してトップメーカーではないので、ここを誤ると、レッドオーシャン(競争が激しい市場)での人の取り合いになってしまいます。そうなると、採用担当もどんどん疲弊してしまうので、そういったところからはフェードアウトしていこうとしています。
コミュニケーション能力の担保は内定後でよい
自社で必要な人材を探るため、研究機関と共同して、社員のなかで活躍している人材を分析し、データをとったことがあります。これにより、活躍している社員の特性を導き出しました。また、応募前の人に求める能力として先ほどコミュニケーション能力という話をしましたが、別の研究で、コミュニケーション能力は比較的簡単に変化させられるものだということを知りました。ならば、コミュニケーション能力が目立ってしまう「面接」という選考ではなく、選考は別の方法で行い、コミュニケーション能力の担保は内定者研修でやればよいというような考え方に変わりました。
目指している採用の形として、先ほど応募者数が減っていると言いましたが、知る人ぞ知る穴場の選考になりたいわけではなく、全ての人が知っているが受ける人がそもそも少ないというような形を目指していきたい。なるべく応募者のほうでセルフスクリーニングをしてもらい、受ける前の段階で判断をしていただきたいと思っています。それが、ここ4、5年、インターネットやニュースで紹介していただいた当社の取り組みの源泉になる考え方です。
今後は育成にも力点
今後の流れについてですが、採用で注目を浴びている反面、育成が実はまだまだ追いついていない部分が多い。そこを一生懸命変えようとしている最中です。
採用については、今までは広報と選考に重きを置いてきましたが、大事なのは本人との合意形成だと思っています。本当にこの会社でいいのか、本当にあなたでいいのか、納得感の部分を高める取り組みに変えていく。
合意形成の一つの取り組みとして、内定者研修の強化を2017年から行っています。当社では、内定者を新潟に集めて、合宿研修をしながらビジネスマナー研修や工場見学、ロジカルシンキング研修など、わざわざ4月の入社1カ月目にやる必要のないものを前倒して行い、新人の早期戦力化を図っています。