<講演1>高校中退者の中退後支援の課題
―ライフコース形成空間に着目して:第54回労働政策フォーラム

若者問題への接近:
若者政策のフォローアップと新たな展開
(2011年7月9日)

宮崎隆志(北海道大学大学院教育学研究院教授)


宮崎隆志(北海道大学大学院教育学研究院教授)

高校中退者がいかなる支援を必要とするのか、あるいは、そもそもそのような問いを立てる必要があるのか否かを検討するためには、まず彼・彼女らがどのようなライフコースを選ぶのかを確認することが必要です。しかし、今はそのようなデータは縦断的なものとして十分に整備されていません。そのため、先に内閣府が実施した中退調査、並びに私自身がこの間かかわった調査をもとに、その課題に迫ってみたいと思います。

高校中退後の状況

図表1 年齢別状態

図表1 年齢別状態/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

まず、中退者が高校中退後、どのような状況にあるのかを見ていきたいと思います。図表1は、中退経験者の年齢別の状態の推移の概要(複数回答のため)を見たものです。中退後、再び在学している人は3割前後です。他方、19歳はちょっと低くなっていますが、それを除くと、就業者に求職者も含めて3分の2前後が労働力人口になるという状況です。

年齢別にみると、年齢の進行とともにいわゆる労働力人口の比率もやや低下していきますが、それに見合って在学者が増えるかというと、必ずしもそういう動きにはなっていません。むしろ、社会との接点を失うようなリスクが高くなる「妊娠」「家事手伝い」「その他」という状況の人たちが増えていると言ってよいでしょう。20歳以上の場合は回答数が少なく、厳密な検討はできませんが、傾向が異なってくることは明らかです。就労者は増加しますが、「家事手伝い」や「その他」「特になし」が減少するどころか微増している状況です。困難な状況が持続する高校中退者が、一定の層をなしていることが確認できると思います。

高校中退者は、このような軌跡を描いていますが、それはひとまず本人たちの主体的な選択の結果ではあります。しかし、その選択は、必ずしも自由な選択とは言えず、むしろ制限された自由のなかでの選択と言った方がよい。高校中退者ならではの制約がさまざまな形で働いているわけです。では、それは一体どういう制約なのか。

親の階層・学歴の影響

まず経済資本・文化資本による制約があります。図表2は経済階層別に「苦しい」から「ゆとりあり」までをみた進路希望です。これをみると、3年後の進路希望を聞いたときに、「大学・専門学校へ進学したい」との希望は、経済階層と親の学歴に規定されていると言ってよいと思います。中・高等教育の機会の普遍的な保障は、貧困の再生産を断ち切るうえで非常に重要な課題ですが、「経済階層」および「親の学歴」が低い場合は、 そもそも進学という希望が本人から表明されていません(図表3)。もちろん、 就職も価値ある選択ですが、現実の就労状況をみると、経済的にゆとりがある場合に正社員比率が高く、逆に経済的に苦しい場合はフリーターが多くなっています。希望として正社員が志向されても、その実現の可能性には経済階層による高低の違いがあるということです。

図表2  経済階層別に見た進路希望(n=1,156)

図表2 経済階層別に見た進路希望(n=1,156)/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

資料出所:若者の意識に関する調査(高等学校中途退学者の意識に関する調査)報告書(内閣府 子ども若者・子育て施策総合推進室)

図表3 父親学歴別に見た進路希望(n=1,156)

図表3 父親学歴別に見た進路希望(n=1,156)/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

資料出所:図表2と同じ

これに関連して、職業資格の取得見込みが就職に関わる条件として効いてきますが、図表4をみると、経済階層と職業資格の取得見込みも相関しています。

図表4 経済状態別に見た職業資格取得見込み

図表4 経済状態別に見た職業資格取得見込み/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

資料出所:図表2と同じ

就労急がせる家族問題

次の規定要因は、経済資本の低さとも密接に関わる家族問題です。親の失業や病気・障がいなどの問題は、量的に確かめられているわけではありませんが、私たち(北大横井・宮﨑)の実施した面接調査では、そういった問題に対処するために進学や資格取得の希望を断念して窮迫的に就労を急ぐケースも数多くありました。そういう状況下では、「どこでもいいからとにかく働かねば」という覚悟で仕事を探すわけですが、 結果的には、あまり良い条件の仕事には就けず、短期就労を繰り返すことになり、貧困の悪循環からは抜け出せなくなるようなケースが多くありました。また、兄弟姉妹の複数名が高校中退あるいは不登校というケースも少なくありません。 これも関連性の証明はできませんが、特定の家族に問題が集中するような状況、そしてそれが社会的に見出されにくい状況が恐らく存在しているように思われます。

その次の規定要因は学力です。資格を取ることができないと思う理由を訊いたところ、「基礎的な学力に自信がない」が58%にのぼっています。中退の理由として、「勉強がわからない」とか「欠席などがたまって進級できない」も加えると、 約半数が学力不振によって学校を去っている状況ですが、 その制約は学校を離れた後も依然、資格取得の困難さとして作用している可能性があるわけです。

情報の認知度にも格差が

規定要因には、情報力の問題もあります。図表5は社会サービスの認知度を尋ねたものです。「雇用保険」「職業訓練」「仕事の相談」「生活相談」「サポートステーション」の存在をどれだけ知っているか。これをみると、社会サービスに関する認知度は、正社員とフリーター・パート、あるいは求職者との間で極めて大きな格差があることがわかります。特に、フリーター・パートおよび求職者の社会サービスに対する認知の低さが際だっていて、場合によっては高校生より低い場合もあります。この結果からは、社会的な接触をする場の違いによって情報格差が生じていると考えられます。

図表5 社会サービスの認知度

図表5 社会サービスの認知度/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

正社員の職場や高校は、 そこに関わることによって情報が蓄積される可能性がある。言い換えれば、社会的に陶冶される可能性がある場といえるわけです。けれど、フリーターやパートの職場は、そこでの経験の積み重ねが情報の蓄積につながらない場合が多いと考えられます。

それから、図表5をみると、妊娠・育児中の場合には情報が非常に多くあることもわかります。これは恐らく母子保健などを通した公的機関との接触あるいは既に生活保護を受けていれば、それを起点として社会的な支援の集中的な投下が行われ、それ故に一定の情報量が確保されているのではないかと考えます。なお、サポステは全般的に認知度が低いのですが、詳細に見れば、「家事手伝い」「全日定時の高校」「その他」で10%は超えているので、現在の支援の指向性が僅かながらでも一定程度は反映していると言えるとは思います。

仲間はずれの経験が生きづらさに

進路希望の規定要因には、 「仲間はずれにされた経験」もあります(図表6)。これをみると、仲間はずれにされた経験が一度もない人は、仲間から信頼された経験が多くあるわけですが、「ときどきある」「たまにある」「よくある」の順に低くなっていきます。そして、同じような傾向が「嫌い・苦手な人ともつきあえる」や「自分の考えを相手に伝えられる」でも出ています。

図表6 仲間はずれにされた経験

F3仲間からの信頼

図表6 仲間はずれにされた経験:F3仲間からの信頼/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

F4嫌い・苦手な人ともつきあえる

図表6 仲間はずれにされた経験:F4嫌い・苦手な人ともつきあえる/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

F5自分の考えを相手に伝えられる

図表6 仲間はずれにされた経験:F5自分の考えを相手に伝えられる/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

学校なのか職場なのかは不明ですが、仲間はずれにされた経験を持つ人は、対人関係に困難を抱えています。図表6の3つの項目は、いずれも仲間はずれにされた経験がある人が否定的な回答をしています。これは、信頼できる他者関係を持ちづらいということを意味しているわけです。その結果は「孤独感」にもつながってきます(図表7)。仲間はずれにされた経験が一度もない人は、あまり孤独感を感じていません。それから「立腹感」。我慢できないほど腹の立つことがあるか否かも、仲間はずれにされた経験が一度もない人とよくある人の間で図表7のような違いが出ています。生きづらさが生じる背景の1つに、仲間との関係があることは明らかです。

図表7 仲間はずれにされた経験

F6孤独感

図表7 仲間はずれにされた経験:F6孤独感/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

F7立腹感

図表7 仲間はずれにされた経験:F7立腹感/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

さらに、この仲間はずれの経験は将来への不安感(図表8)とも関連しています。仲間はずれにされた経験がなければ将来不安は比較的低く、経験があると高くなる。相関はやや弱いですが、関連はしています。

また、規定要因を考える時には「男女間の差異」にも留意する必要があります。全般的な傾向だけ確認すると、女性の方が仲間はずれにされた経験が高く、孤独感も立腹感も高い。逆に自己肯定感は低いといった傾向があらわれています。これはおそらく次にみる就労の場におけるジェンダーバイアスとも関連しているのだろうと思います。

図表8 仲間はずれと将来不安、男女差

F8仲間はずれと将来不安

図表8 仲間はずれと将来不安、男女差:F8仲間はずれと将来不安/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

F9他者関係・自己肯定感

図表8 仲間はずれと将来不安、男女差:F9他者関係・自己肯定感/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

職場の人間関係に男女差が

フリーターの男女比は39:61で、女性が非常に多い一方で、正社員は男性が81.4%で女性が18.6%です。図表9で雇用形態別にそれぞれの状態をみると、正社員の孤独感は低く、フリーターや求職中の場合は高い。それから、自分の家の商売をやっている人も男性が多いのですが、この層の孤独感は低くなっています。つまり、男性には職場を通じて安定した人間関係を築く可能性が僅かながらでも開かれているのに対し、女性の場合はアルバイト、家事手伝いの比率が高く、孤独感を感じる比率も高くなっています。

高校中退後の女性には、職場を通した人間関係の安定化が期待しづらい労働市場しか開かれていないと言ってよいでしょう。

図表9 就業先別孤独感

孤独感あり

図表9 就業先別孤独感/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

・男女比:休職中(46.9:53.1 ) 正社員(81.4:18.6)  フリーター(39.0:60.8)  家商売(77.5:22.5)

地域的限定性の問題

さらに、労働市場の地域的な限定性の問題があります。面接調査の結果によると、中退者が接続し得る労働市場は極めて限定されていました。第一に「距離的な制約」です。高校時代は交通手段が自転車などに限定されることもあり、自宅に近いことを優先してアルバイト先が選ばれます。そして、中退後も基本的な行動様式に変化はありません。その背後には、まず賃金が低い、それから家賃が高いために、家から離れることができないことがあります。その結果、雑業的な業務で、なおかつスポット的な労働市場に接続する場合が多くなるし、そういった情報は「掲示板を見た」とか「友人が紹介してくれた」という形で入っている場合が多い。つまり、インフォーマルな媒体に依存する場合が非常に多く、先にお話した情報の偏在性との関連で言えば、公的機関との接触を持たないまま就業先が見出されていると言ってよいと思います。

また、地理的な背景が限定される状況での選択となると、事業所が一定の密度を持って存在しているということが重要で、都市部とそれ以外の地域の選択肢の格差は非常に大きくなります。さらに、親族や知り合いが事業体を経営しているという場合は、「何もしていないのならうちで働かないか」といった誘いを受けることも結構あります。親族を含む地域的なインフォーマルネットワークが逆に資源として浮上してくることになります。

年齢や子育てとの両立も

第二に「年齢的な制約」です。高卒資格とか免許などが要らないような労働市場につながっていかざるを得ず、そのほとんどが低賃金・最低賃金です。さらに、例えばテレホンアポイントなどの変則的なシフトを組む必要のある仕事では、中退者がより柔軟な勤務対応をすることによって高校生との差異化を図っているようです。

保育・子育て支援への対応もあります。10代の女性が妊娠して親になる場合も多いのですが、その場合に就労との両立が非常に困難になっています。

狭いライフコース形成空間

こうしたさまざまな制約のなかで高校中退者たちのライフコースが選択されています。この規定性の総体からなる空間を「ライフコース形成空間」と呼びたいと思います。ライフコースは、経済的な要因などの諸要因と1対1の対応で規定されているわけではなく、ライフコースを形成する空間の構造的な特徴、つまり、いろいろな要因間の相互の関連によって規定され、また、そこでの当事者の位置によりライフコース形成のあり方は異なってくると考えられます。図表10のように、 さまざまな要因が相互に作用し合って、ライフコースが選ばれていきますが、高校中退者の場合は、この空間がそもそも狭いという特徴があります。それから、もっと大事なことは、その空間のなかに将来展望を描く手がかり、希望という要素の埋め込みが非常に弱いことがあります。言い換えれば、時間軸が非常に限定され、制限された空間編成になっています。勤務先を例にあげれば、そこでの経験がキャリアになっていかなかったり、あるいはいつでも逃げられるような資本なので簡単に倒産することもある。中退者は、そういったところにつながっていかざるを得ないわけです。

この空間の構造は2つの層を持つと考えています(図表11)。第一は家族の層、第二は仲間の階層です。社会的・文化的な規定性、あるいは労働市場などの客観的な条件は、こういった層を経由しながら本人のライフコースを決めてくると思われます。通常、家族や仲間は、経済的な規定性、外的な規定性に対する緩衝材、あるいはスプリングボードとして機能することが期待されます。しかし、中退者の場合、この層が逆におもりになり、ライフコースの形成を困難にする条件になっている場合が少なくないわけです。

図表10 ライフコース形成空間

図表10 ライフコース形成空間/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

図表11 ライフコース形成空間の構造

図表11 ライフコース形成空間の構造/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

非常に大きい学校が担う機能

図表12 不安の高低別に見た支援ニーズ(注)

図表12 不安の高低別に見た支援ニーズ(注)/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

資料出所:図表2と同じ

こういう視点でみると、学校の機能が非常に大きいことが改めてわかります。学校は、本来的には学力形成や仲間形成の機能を担ったり、先輩の軌跡を頼りに自分の未来像を考えることができる場です。つまり、客観的な規定性を相対化して、場合によってはキャンセルできる機能を持っている。それなのに、中退者はそういった保護機能(竹内常一)を持つ場から退出してしまうわけです。学校以外に学校が持っていたような保護機能が発揮されればよいのですが、残念ながら代替する可能性を持つ場は、おそらく正社員職場のようなものしかありません。学校に代わって仲間と出会い、知識や技能が高められるような職場は非常に限定されていて、それはむしろ例外的と考えたほうがよいと思います。

その結果、図表12にあるように、将来への不安感が全般的に高い数値としてあらわれていますし、この将来不安が支援ニーズの表出とも密接にかかわってきます。これは彼らが感じているライフコース形成空間の機能不全、それに対する彼らの問題意識があらわれていると考えてよいでしょうし、あるいはライフコース形成空間の機能の十全化を求める声として受けとめてよいでしょう。

年齢経過による意識の変化

それから、この点に関わって、年齢経過による時間的な変化についても指摘しておきたいと思います。まず、中退直後は、学校にいることに伴う行き詰まりから解放されたという自由な感覚が存在する場合が非常に多くなっています。図表13をみると、年齢が若いほどある種の解放感を感じる傾向が強くなっています。その段階では不安感も相対的に低く、各種の支援に対するニーズの表明も非常に低い。支援機関の側からすると、こういった段階にある高校中退者は非常に把握しづらい状況にあります。中退直後の接触の困難性はこうした理由からも生じていると考えてよいと思います。そして、公的機関や社会的な組織の側からすると、この時点で接触の機会を失うことによって非常に深刻化した段階での事後的な対応しかできないことになってしまうのです。中退後の連続的な支援のために、何らかの社会的なつながりをつくる工夫が必要です。

図表13 中退時年齢・中退後経過期間別に見た不安感

図表13 中退時年齢・中退後経過期間別に見た不安感/労働政策フォーラム開催報告(2011年7月9日)

資料出所:図表2と同じ

それから、非常に脆弱であっても、中退後の自己形成において仲間関係が作用する度合いが非常に強い。それには、直接的には接触のない同世代の若者たち、具体的には在校時の友人たちという間接的な者たちの影響まで含まれています。同世代の者たちが卒業する時点を迎え、就職や進学をする18歳という節目が、中退者の自己認識にも大きく作用しているように思われます。18歳という年齢は、免許取得や労働市場の拡大という社会的な条件面でも大きな節目ですが、 他方で彼らが生活している仲間の平面それ自体が質的に転換する年齢でもあるのです。18歳になることによって自分自身のあり方が問われるような状況にあるようです。そこで、 支援にあたっては、このような年齢進行に伴う本人の楽観とか焦りなどの意識を把握して対応する必要があると思われます。

自己肯定感回復の必要性

では中退後の支援として何が必要か。少年院の入院者の多くは高校中退者です。もとより高校中退という出来事だけで非行に結びつく必然性はまったくありませんが、中退者支援という観点からみたときに、少年院の取り組みはある意味で普遍性を持っていると考えます。

少年院では、高校卒業程度認定試験、高認試験対応も含めた基礎学力形成のための教育や、職業資格の取得にかかわる職業補導が実施されています。加えて、ハローワークの利用方法の説明など情報格差を是正する機能も備えていますし、引き受け先となる家族の支援も取り組まれています。さらに、女子少年院では、母親教育に取り組むなど、生活支援にかかわる教育実践も行われているのです。

これらの取り組みでは、少年少女たちの自己肯定感の向上の必要性が強く意識されています。少年院では、自分の罪に向き合うことが基本的な課題になるわけですが、それは自分を肯定することと同時でなければできません。罪を認めることは、自分を否定するという面がありますから、自分を肯定することがなければそれは達成できない。さらに、資格試験や高卒認定試験に合格すること、集団的な取り組みの経験を通して自信を持って希望がはぐくまれることなしには社会的な自立も困難です。

生活圏域に密着した支援

こうした機能は、ライフコースの形成空間に作用する制限を緩和するといえます。ただ、少年院の場合は、実際の生活から隔離した場でそれが展開されていますが、本来は実際生活に密着した場で展開されなければならない。サポートステーションを中心とした若者支援も、機能別にみれば少年院とおそらく同じで課題意識は共通していると思います。特徴は、やはり生活圏域に密着するということです。

通信制高校が果たす役割も大きい。ここでも高校を中退したことによるある種の逸脱感、普通ではなくなってしまったという意識を持つ若者たちを受け入れているのですが、自己肯定感は当然低いので、もう一度、その回復を教育実践の基盤に置かざるを得ないのです。一生懸命やっている通信制高校はすべてそのことを重視しているとみてよく、居場所機能の発揮に基づく仲間づくりの上に学力形成を考えていくという対応をされています。

これらは、 ライフコース形成空間の拡充としての支援と言えるでしょうし、 個々人の選択と創造の自由度を高めるうえで重要な意義を持つと考えます。若者支援といった場合、個人単位で支援を考えることが多いのですが、中退者が実に多様であることに鑑みれば、彼らのライフコース形成空間を拡充することに施策の重点を置く必要があるのではないかと思います。

中退後支援の今後の課題

こういった視点から見たときに、いくつかの課題が浮上します。第一に、経済的な規定性のキャンセルは、このような取り組みだけではできません。高校の実質無償化対応の延長線上に、18歳までの学習権保障として、教育・訓練を受ける権利を保障することが必要です。基本的には、職業訓練や専門学校の費用を無償化する、あるいは補助を出すことが必要でしょう。また、交通費に関する補助も必要になってくると思います。

第二に、支援ニーズが表明されにくい18歳未満階層への早期対応です。この点では、学校と若者支援機関の組織間連携が不可欠です。

第三に家族支援ですが、この機能はまだ不十分で特定の家族に困難が集中しているように思われます。地域に基盤を置いたソーシャルワークが必要でしょう。

第四にライフコース形成空間の柔軟性を高めることです。今いろいろな連携が始まっていますが、一人ひとりの状況に対応しうる柔軟性を高めるには、当事者を中心において、自分たちの連携のあり方を見通し、限界を自覚するという学習機能を連携組織自体が持つことが必要だと思います。

資源の拡充も依然として必要です。とりわけ教育・学習面でのサポートが求められています。また、職場実習の機会を求めている若者が非常に多いのですが、そのニーズに応えて受け入れてくれる職場はなかなかありません。そういったところとの連携という課題も、依然としてあると思います。