医療・介護・福祉の現場におけるテクノロジー活用による生産性向上の取り組みを紹介
 ――厚生労働省「2026年版厚生労働白書」

スペシャルトピック

厚生労働省は9月29日、2026年版厚生労働白書を公表した。毎年、テーマを変えて論じる第1部では、「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」をテーマに設定。そのうち、第2章では、人材不足のなかで質の高いケアを持続的に提供していくには、生産性向上の視点が重要だとして、医療・介護・障害福祉それぞれの現場におけるICT、AI、ロボット等のテクノロジーの活用による生産性向上の取り組みや、今後の課題を整理した。なかでも介護の現場では、テクノロジーの導入が業務時間の削減や働きやすい職場形成などにつながっていると指摘。今後は、人材育成等と一体となった支援を継続的に実施していくことが求められるなどと提言した。第2章第2節の「2 介護分野におけるテクノロジー導入による生産性向上と現場の取組み」の内容に絞って、概要を紹介する。

1 介護分野におけるテクノロジーの導入状況・普及率

介護テクノロジー利用の重点分野を整理して普及促進を実行中

介護現場では、処遇改善などの取り組みと合わせて、見守り支援機器、介護業務支援機器、インカム等のICT機器、移乗・排泄・入浴支援機器など、介護職員の負担軽減となるようなテクノロジーの導入が段階的に進められている。厚生労働省と経済産業省では、優先的に導入を進めるべき技術領域として「介護テクノロジー利用の重点分野」を整理し、それを軸に普及促進を図っている(図表1)。

図表1:介護テクノロジー利用の重点分野
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

厚生労働省が実施した「2024年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(2025年度調査)」によると、「介護テクノロジー利用の重点分野」に該当するテクノロジー等を導入していると回答した割合は、「介護老人福祉施設」が90.5%と最も高く、次いで、「介護老人保健施設」が85.3%、「短期入所療養介護」が85.0%、「地域密着型介護老人福祉施設」が80.8%などとなり、自宅以外の施設に入所して、介護サービスをうける「施設系サービスを中心に導入が進展している」(図表2)。

図表2:介護現場におけるサービス別の介護テクノロジーの導入状況
画像:図表2
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(公表資料から編集部で作成)

一方で、導入割合が低いほうからみると、「居宅介護支援」が27.7%、「訪問リハビリテーション」が28.3%、「訪問入浴介護」が32.4%、「地域密着型通所介護」が37.1%、「訪問介護」が38.5%となっている。白書は、自宅で生活している高齢者が日帰りで施設に通いサービスを受ける通所系や、ホームヘルパー等の専門スタッフが利用者の自宅を直接訪問してサポートをする訪問系を含む居宅サービスでは「導入率は相対的に低く、サービス類型による差がみられる」と指摘する。

居住系での介護記録ソフト等の導入割合は2022年度から大きく上昇

導入状況をテクノロジーの分野別にみると、ケアの内容や利用者の健康状態等を記録する介護記録ソフト等の「介護業務支援機器」について導入していると回答した割合は、居住系・入所・泊まり系が56.4%と半数を超え、通所系が36.7%、訪問系が29.2%となった。白書は、「居住系・入所・泊まり系における介護業務支援機器の導入率は2022(令和4)年度は10.2%であったところ、2025(令和7)年度は56.4%へ大きく上昇している」としている。

センサーやカメラを活用し要介護者の状態や異変をリアルタイムで検知する「見守り支援機器」を導入していると回答した割合をみると、居住系・入所・泊まり系が47.2%、訪問系が3.1%、通所系が2.5%となり、「居住系・入所・泊まり系における見守り支援機器の導入率については、2022年度は30.0%であったところ、2025年度は47.2%へ上昇している」。職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(インカム等)の同割合は、居住系・入所・泊まり系が22.3%、訪問系が15.0%、通所系で9.3%となっている。

移動支援機器や排泄支援機器の導入率は10%に満たず

このほかのテクノロジーの導入割合をみると、介助者の移乗動作のアシストを行う「移乗支援機器」は、居住系・入所・泊まり系が15.8%、訪問系が2.4%、通所系が1.8%。高齢者等の外出をサポートする「移動支援機器」の同割合は、居住系・入所・泊まり系が4.4%、訪問系が0.3%、通所系で1.7%。排泄の予測や動作補助を支援する「排泄支援機器」の同割合は、居住系・入所・泊まり系で2.2%、訪問系が0.3%、通所系で0.4%。「コミュニケーション支援機器」の同割合は、居住系・入所・泊まり系で2.9%、訪問系が0.7%、通所系が1.5%となっている。

介護職等が行う身体機能や生活機能訓練をサポートする「機能訓練支援機器」の同割合は、居住系・入所・泊まり系が6.1%、訪問系が0.8%、通所系で10.7%。「認知症生活支援・認知症ケア支援機器」の同割合は、居住系・入所・泊まり系が1.3%、訪問系が0.3%、通所系で0.5%などとなっており、白書は「移乗支援機器や移動支援機器、排泄支援機器、機能訓練支援機器、コミュニケーション支援機器、認知症生活支援・認知症ケア支援機器の普及率は10%未満にとどまっており、導入は限定的である」としている。

2 介護分野におけるテクノロジー導入による効果

見守り支援機器を導入した施設では夜勤職員の直接介護時間等が削減

介護分野におけるICT・介護ロボット等のテクノロジーの導入の効果については、「介護ロボット等による生産性向上の取組みに関する効果測定事業」(効果測定事業)や、2025年度効果検証等調査等を通じて、一定の範囲で確認されている。

2022年度効果測定事業の結果によると、「見守り支援機器を導入した施設では、夜勤職員1人当たりの『直接介護』及び『巡回・移動』時間の合計が、1勤務当たり約17分削減(245.7分から228.3分)された」。また、「夜間の定時巡視回数についても、1人夜勤当たり約15.3回から約9.3回へ減少している」。

排泄支援機器を導入した施設では、「トイレ誘導時に排泄がなかった回数が1日当たり0.9回から0.6回へ減少するとともに、『排泄支援』に要する時間が、職員1名・1勤務当たり約3分削減(75.4分から72.5分)された」。

さらに「介護記録ソフトやスマートフォン・タブレットによる記録入力、音声入力等の活用により、『記録・文書作成・連絡調整』に要する時間が、職員1名・1勤務当たり約6分削減(49.1分から43.2分)されたとの結果も示されている」。

削減した時間を利用者とのコミュニケーション等に充てる好事例も

これらの業務時間削減によって創出された時間については、「直接的なケアや利用者とのコミュニケーションに再配分されて」おり、具体的には、「利用者1人当たりの排泄ケアに充てられる時間が、1日当たり18.3分から22.5分へ増加していることが確認された」。また、「介護業務支援機器を導入した事業所において、削減された記録・事務時間が、利用者とのコミュニケーションや直接介護の時間に充てられていた」。

導入の効果は働きやすい職場環境の形成にもつながっている

白書は「テクノロジー導入の効果は、業務時間の削減やケアの質向上に加え、介護職員の身体的・心理的負担の軽減や、働きやすい職場環境の形成にも波及している」と強調。介護テクノロジー導入後の変化について、「『職員の精神的・身体的負担が軽減した』と回答した割合が6割を超えているほか、『夜間の利用者の状況を把握しやすくなった』『職員間のコミュニケーションが円滑になった』といった効果も確認されている」としている。

また、ICT機器の活用や業務プロセスの見直しなどを通じ業務の効率化を図る取り組みを評価する加算制度である「生産性向上推進体制加算」を算定している事業所では、介護職員1人あたりの月平均残業時間が4.69時間となり、全体平均(6.80時間)と比べて相対的に低い水準に推移していた。

白書は、テクノロジーの導入は、「業務負担の軽減や業務時間の効率化を通じて、創出された時間を利用者への直接的なケアやコミュニケーションに再配分し、ケアの質や安全性の確保、職場環境の改善に一定の効果をもたらしていることが示唆されている」とし、「担い手不足が進む中にあって、テクノロジーの活用は、介護現場を支える重要な手段となりつつある」と強調した。

3 介護分野におけるテクノロジーの導入にかかる現場における課題と政府の取り組み

取り組み状況に差があることなどが課題に

白書は、介護分野でのテクノロジーの導入の今後の普及拡大と定着に向けて、課題を3点提示した。

1つめは介護サービスの種類によってテクノロジーの導入に関する取り組みの進展状況に差がみられること。その要因として、「導入・運用に係るコスト負担の問題が挙げられる」とし、特に小規模事業所にはテクノロジー導入の初期費用が大きな負担となることや、継続的な運用・更新に要する費用も導入判断に影響を与えると言及した。

2つめは、テクノロジー導入と業務改革・人材育成との連動が必ずしも十分ではない点。テクノロジーを導入しても、それによる業務オペレーションの見直しなど、業務改善を主導する人材が足りないため、導入後の運用・定着も含め、生産性向上に向けた取り組みが十分に定着していないケースもみられるとしている。

3つめは、都道府県ごとの支援体制や財政的支援の状況に差があることが、介護テクノロジー導入の取り組みの進展に影響を及ぼしている点をあげた。

今後はテクノロジーの導入と人材育成が一体となった支援を展開していく

そのうえで、白書は今後の方向性について、「テクノロジーの現場での導入を一層進めるとともに、その定着と効果的な活用に向けて、人材育成等と一体となった支援を継続的に実施していくことが求められる」とし、「その際、事業所単独での対応には限界があることから、都道府県に整備された相談窓口や伴走支援体制の活用を通じ、現場の実情に即した支援を講じながら、テクノロジー活用による生産性向上と職場環境改善の取組みを地域全体で支えていくことが重要となる」と指摘した。

政府はこうした取り組みを制度面から後押しするために、生産性向上等の取り組みの促進を図るための協議会の設置を都道府県の義務とするとともに、生産性向上や経営改善支援等の取り組みの促進について、国および都道府県の責務を盛り込んだ社会福祉法等の一部を改正する法律案を第221回特別国会に提出し、法案は2026年に成立した。また、今後の介護分野の生産性向上に向けて、AIロボティクス技術の活用も重要であることから、「AIロボティクス戦略」および「各分野のAIロボティクス実装ロードマップ」改定版を2026年6月30日に公表している。

白書は、「これに基づき、介護分野におけるAIロボティクス技術の活用に向けて検討を進めていく」と言及。また、「今後、これらの施策を通じて、介護現場における持続可能なサービス提供体制の確保と更なる質の向上が図られることが期待される」とした。

(調査部)

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