保育士の働き方・処遇の改善に向けた取り組み
――自治労社会福祉評議会、東京都内の公立保育所の例をもとに
労働組合取材
保育士の処遇については、人事院勧告をふまえた改善や、政策としての近年の加算措置により、この10年ほどで改善がみられる。とはいえ、平均賃金はいまだ産業全体の平均を下回っており、こども家庭庁が2024年に打ち出した「保育政策の新たな方向性」では、「質の高い保育」を今後も持続させていくため、処遇改善を含めた「保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善」が政策の3本柱の1つに掲げられている。働き方では、休憩が取りづらいなどの声が現場からはあがっている。実際に保育の労働現場はどのような現状にあるのか。自治労(石上千博委員長、68万9,000人)・社会福祉評議会の副議長であり、東京都内の公立保育所の現役保育士でもある徳田武史氏に、自らの勤務先での現状と取り組みを中心に解説してもらった。
<保育士の数、保育所の設置状況>
公立・私立保育所のほかに、近年は「認定こども園」も設置
最初に、公表されている資料やデータをもとに、保育業界の全体概況を眺めていく。
保育所には、市町村が運営する公立保育所、社会福祉法人などが運営する私立保育所のほか、幼稚園と保育所の両方の機能を持つ「幼保連携型認定こども園」などがある。
私立保育所でも、児童福祉法に基づいて国が定めた基準(保育士の人数や施設の広さなど)を満たし、市区町村の自治体から認可を受けると認可保育園の扱いとなり、国の補助金が得られる。また、東京都などの自治体では、民間事業者などが設置するが、自治体が独自の認証基準にしたがって認証して設ける「認証保育所」もある。
保育士として働くためには、「保育士資格」が必要になる。資格を取得する方法は2通りあり、1つは、都道府県知事が指定する「指定保育士養成施設」(学校その他の施設(大学・短大・専門学校など))で学んで卒業をする。もう1つは、年2回実施される保育士試験を受験し、合格するという方法だ。
保育士資格が取得できたら、各都道府県の保育士登録簿に登録することで、保育士として働くことができる。なお、資格を保有していても保育士として働いていない人を「潜在保育士」と呼ぶことがある。
働いている保育士の数は推計で約52万人
2022年版厚生労働白書によると、保育所などで働く保育士の数(常勤換算)は、2020年10月1日時点で約52万人と推計されている。待機児童を解消する国の政策が打ち出されてきたことで、幼保連携型認定こども園の創設などもあって保育所等の受け皿は拡大している。
「保育所」の定員自体はこの10年あまりでは大きな変化はないが、認定こども園などを含めた全体の定員数は急ピッチで増加しており、2021年の定員数は2012年の約1.3倍(約300万人)まで伸びている。
保育士の有効求人倍率については、2025年10月実績で3.10倍と全職業計の1.20倍を大きく上回っており、人材確保の必要性が高い職業の1つとなっている(こども家庭庁の資料)。
処遇の状況をみると、2013年度以降、2025年度補正予算措置までで、累計で39%の処遇改善が行われてきた。2024年度の国が定める「公定価格」(保育分野では、保育事業の運営にかかる単価を規定)などでは、保育士等の人件費について、過去最大の10.7%の改善が補正予算に計上された(2025年度は5.3%の改善だった)。ただ、保育士の平均賃金(役職者除く、月収換算)は2025年で34.3万円と、全産業平均の39.6万円を5万円以上下回っている(こども家庭庁の資料)。
こども家庭庁は保育士の処遇改善を政策の柱の1つに設定
こうしたなかこども家庭庁は、2024年12月に、2025年度~2028年度末を見据えた保育政策「保育政策の新たな方向性」を策定した。
政策は、①地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実②全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進③保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善――の3本を軸に推進すると表明し、保育人材の確保を軸の1つに据えた。「保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善」では、処遇改善や働きやすい職場環境づくりなどに向けた具体策を盛り込んだ。
具体的には、処遇改善については、民間給与動向をふまえた改善やモデル賃金の作成、人件費比率の見える化などに取り組むとし、処遇改善以外の取り組みでは、ICT化の推進による業務改善や、保育補助者や保育支援者の活用促進による働きやすい職場環境づくりなどを進めるとしている。
<保育現場の状況~東京都内の公立保育所の例を中心に>
自治労では社会福祉評議会が保育労働の改善に向けて運動
では、実際の保育現場での保育士の働き方や処遇はどうなっているのか。
地方自治体の職員などが加盟する産業別労働組合の自治労では、保育業界については社会福祉評議会(門﨑正樹議長)が産業レベルでの政策要求や処遇改善などの運動体となっている。同評議会の副議長(前保育部会長)を務めながら、勤続約30年のベテラン現役保育士でもある徳田氏が、自らの勤務先の現状を例にあげながら解説してくれた。
徳田氏が勤務している保育所では、70人程度の子どもを保育している。正規職員は、園長のほか、保育士、看護師、栄養士、調理員という構成で、合計で20人程度いる。また、会計年度任用職員としての保育士、調理員、用務員が25人程度働いている。徳田氏は、3人いる係長職の1人として、保育所の施設・人材の管理業務も担っている。なお、保育所で働く正規職員は全員、労働組合の組合員になっている。
徳田氏によると、昔に比べれば、公立園が受け入れる子どもの数が減ったことで、「働きやすくはなった」という。そのなかで、現在の働き方の課題の1つとしてまずあげたのが、「休憩の取り方」だ。
休憩時間中も保育・事務が続く
徳田氏の保育所では、定められている1日の勤務時間数は7時間45分で、最も早いシフトでの勤務は午前7時~午後3時45分まで、最も遅い勤務は午前10時30分~午後7時15分までとなっている(標準は午前8時30分~午後5時15分)。そのなかで、制度としての休憩時間が1時間設定されているが、1時間すべてを休憩に充てるのはなかなか難しいという。
保育士は、給食を指導食として子どもたちと一緒に食べている。つまり、制度上は、1時間をすべて昼食時間以外の休憩に充てることも可能だ。だが、「日誌や保護者連絡をはじめとする事務作業、子どもの寝かしつけと見守り、製作や行事など保育準備の時間に充てることが多い」と話す。
昨年の自主調査の結果では平均でわずか1日20分だった
徳田氏は昨年、自分の保育所の職員がどれだけの時間、労働から解放された休憩を取ることができているのか、調査した。すると、1日あたりの平均休憩時間はわずか20分だった。
今年は「積極的に休憩を取るように各職員に呼びかけている」ことに加え、休憩を取りやすい職場の雰囲気をつくるために、係長職レベルが外出するなど率先して休憩をとっているそうだ。
こうした取り組みの効果はさっそく出てきており、平均の休憩時間は30分まで増えた。「とはいえ、今年の目標は40分。取るのがあたりまえだという意識改革とともに、なぜ取れないのかを個人面談しながら、業務改善にも取りかかっていく」と徳田氏は話す。
「奉仕精神」ゆえにサービス残業も受け入れがち
残業についても聞いてみると、同じような現象があるという。保育士はどうしても「子どものため」という自己犠牲が強く、「あたりまえ」という同調圧力が強い職場環境にある。たとえサービス残業であっても、その状況に対して「おかしい」と言えない人が多いという。
加えて、法律や予算といった保育を支える仕組みについて疎い場合もある。時間外労働について定める労働基準法第36条に基づく「36(サブロク)協定」について、自治労が主催する保育集会で問うと、「それって何ですか」という反応を示す人が多かったそうだ。
徳田氏は、講師として赴いた富山県でこんな話を聞いたことがあるという。冬は雪が積もり、朝は保育所の前を雪かきをする必要があるため、職員は勤務開始の1時間前に来て、雪かきをする。本来であれば当然、業務命令に基づく時間外労働となるが、長年の慣習で行われてきたこともあり、残業として記録しないで済ませられていた。
仕事の分量が明確でないことも残業発生の要因
残業について難しい問題のもう1つは、保育士の仕事の特殊性だと徳田氏は指摘する。仕事の分量が明確でない面があり、残業につながってしまうことがあるという。
例えば、保育に用いる製作物をつくったり、部屋の壁面の飾りをつくったりするなどの業務は、「どこまでやったらいいのかが特に決まっているわけではなく、本人の裁量に任されている部分が大きい」。なかには、そういう仕事を好む職員もいて、「抱え過ぎてない?」と声をかけないといけない場合もあると徳田氏は言う。
また、自分の子どもを保育園にお迎えに行かなければならない育児中の職員が他の通常勤務の職員に気兼ねしてしまい、自宅に持ち帰って業務をするケースもある。
持ち帰り残業を不払い残業とさせない好事例として、愛知県豊田市の取り組みを紹介してくれた。同市では、職員が業務のために例えば自宅でピアノの練習を行った場合でも、必要があれば時間外労働と認めて残業代を支払う制度を整備しているという。
年次有給休暇の取得は目標を立てて消化を促す
徳田氏の保育所では、年間の有給休暇付与日数は20日だが、シフトや行事・会議・研修などで、完全消化するのはさすがに難しいという。ただ、昨年、取得日数10日という目標を立てたところ、ほぼ全員が目標をクリアした。今年は、取得日数12日以上という目標に向け取り組んでいる。取得日数が大きく増えない要因には、夏期休暇、看護休暇という制度が別にあることや、土曜日に出勤した場合は時間外手当をもらうのではなく、原則として振替休日を取得するようになっていることなどもあるという。
公立保育所の場合は自治体の行政職の俸給表が適用
給与については、徳田氏の保育所は公立であることから、保育士にも自治体行政職の俸給表が適用されている。そのため他の行政職と格差があるわけではないが、自治体ごとに保育所で働く労働者の給与水準は異なっており、「近隣の自治体の保育職員の水準は労働組合としても意識はしている」と言う。なお、給与水準は公立より民間のほうが低位に置かれている。現在、一部の保育士が民間運営の認可保育所に一時的に派遣されており、民間との給与水準の差を実感しているという。
人員配置に関しては、2024年度に「こども未来戦略」(加速プラン)に基づき、3歳児の職員配置基準が20対1から15対1へ、4・5歳児の基準が30対1から25対1へ改善されることになったが、徳田氏が勤める保育所では、もともと基準を上回る配置人数だったこともあり、変更による大きな影響はなかった。
ICTの導入は業務負担を軽減させていると実感
働き方では、ICTの導入は保育士の負担を確実に軽減させつつあるという。タブレット端末の多数導入がカギではあるが、若手の職員は効果的に利用しており、監査に対応する業務負担も大幅に軽減されている。また、保育中の写真を見せての活動報告など保護者の満足度も高い。
朝・夕の子どもの登降園の記録は、昔は職員が、誰がいつ来たか帰ったかの記録を紙上に記載し、それをもとに人数を数えてというような作業を行っていた。今では、保護者が登降園時にQRコードでの読み込みをすれば自動的に人数計算まで行われるようになっている。
徳田氏は「長期的にみれば、ICT導入は働き方改革につながる。全国レベルでみれば小さい自治体ではICTの導入がまだ進んでいないところも多いと聞く。次世代を担う保育士のためにも、ICT導入は積極的に進めてほしい」と要望する。
多様な形態の会計年度任用職員は増加
現場での会計年度任用職員の活用は増えているという。常勤職員の働き方改革を進めることを背景にして、朝と夕のコアタイム以外の時間帯に働く人や、子どもの午睡のための要員として配置される会計年度任用職員もいる。ただ、マネジメント業務の観点で言えば、多くの人数がさまざまな時間働くことから、配置や休暇の調整などの仕事は複雑化して「かなりたいへん」だという。
<社会福祉評議会として政策に求めること>
評議会は今年3月に処遇改善などを大臣要請
社会福祉評議会では、年に1回、「全国保育集会」を開催して、保育を取り巻く課題や各職場の取り組みを共有している。この現場実態をもとに、今年は、3月に内閣府特命担当大臣に対して要請書を提出した。
要請書は、「地域において子どもが健やかに育つためには、幼児教育・保育の質の向上が極めて重要であり、その基盤として保育従事者の労働環境の改善および資質の向上が不可欠」だとしつつ、「しかしながら、保育現場においては、人員不足や配置基準の規制緩和などにより、保育士の休憩時間の確保や代替要員の配置、代休の取得が困難な状況が続き、時間外労働が常態化している」と主張して、①保育士などの配置基準②こども誰でも通園制度③保育士などの処遇改善④保育所における食育の充実――の4項目にわたって要請を行った。
このうち処遇改善については、「保育士などの慢性的な人員不足の要因の一つとして、保育士・幼稚園教諭の平均年収および平均勤続年数が全産業平均に比べ著しく低い状況にある」として、「さらなる処遇改善」を求めた。人員不足の状況への対応については、「引き続き保育職場の魅力向上に資する施策を講じるとともに、保育現場の働き方改革を踏まえた労働環境などの改善をはかる」ことを要望した。
引き続きICT化に必要な予算を
職場のICT化については、「保育業務において書類作成が占める負担が大きい現状を踏まえ、引き続き業務のICT化に必要な予算を拡充すること。さらに、今後の保育現場でのDX推進にあたり、現場への負担を生じさせないよう、既存のICT化との整合性および継続性を十分に確保すること」とした。
処遇改善ではこのほか、「公立施設における会計年度任用職員保育士の賃金水準が低く抑えられている」として、「公立施設における保育の質を確保する観点から、総務省へ改善を働きかけること」を要望した。
処遇改善以外では、配置基準について、「保育士などの人員不足対策のための配置基準の緩和や保育補助者の業務範囲拡大など、保育の質の低下につながる規制緩和を行わないこと」や、保育士が保育業務以外の事務・用務を求められたり、医療的ケア児への対応が求められるなか、特に地方では用務員や看護師を抱えていない保育所もあることから、「配置基準および公定価格上の人件費に事務員、用務員、看護師を加えること」などを盛り込んでいる。
(荒川創太)
2026年10月号 労働組合取材の記事一覧
- 保育士の働き方・処遇の改善に向けた取り組み ――自治労社会福祉評議会、東京都内の公立保育所の例をもとに
- 適正な教員数と授業時数の実現で、持続可能な教育現場を ――日教組の取り組み


