1年単位の変形労働時間制での勤務シフトの確定・変更ルールの柔軟化を要望
 ――政府の規制改革推進会議が答申をまとめる

政府の方針

「強い経済の実現」と「地方を伸ばし、暮らしを守る」の2つの目標に向けた規制改革について議論してきた政府の規制改革推進会議(議長:冨田哲郎・東日本旅客鉄道株式会社相談役)は6月29日、規制改革推進に関する答申をとりまとめ、高市早苗首相に提出した。労働に関するものでは、①1年単位の変形労働時間制における労働日等の特定の在り方②裁量労働制の適用対象業務の在り方――などが言及されており、1年単位の変形労働時間については、使用者による勤務シフトの確定・変更ルールの柔軟化に向けた検討を促している。ともに2026年に検討を開始し、早期に結論を出すことを求めている。

「強い経済の実現」と「地方を伸ばし、暮らしを守る」の二本柱を掲げて議論

推進会議は、人口減少・少子高齢化等の課題を克服し、日本経済の成長と地方の活性化につなげるため、「強い経済の実現」と「地方を伸ばし、暮らしを守る」を二本柱に掲げて、必要な規制改革の内容を議論。約7カ月かけて答申をまとめた。労働に関するものについては、それぞれの柱で「働き方・人への投資」という項目を設け、具体策を盛り込んでいる。

「強い経済の実現」に盛り込まれた内容に絞ってみていくと、答申は、①1年単位の変形労働時間制における労働日等の特定の在り方②裁量労働制の適用対象業務の在り方――の2点について言及している。

対象期間における労働日等をあらかじめ特定する必要がある

「1年単位の変形労働時間制における労働日等の特定の在り方」からみていくと、答申は検討から実施までのスケジュールを、【令和8年検討開始、早期に結論、結論を得次第速やかに措置】と設定。建設業や運輸業など季節によって繁閑の差が大きい業界で活用が推進されている1年単位の変形労働時間制について、使用者による勤務シフトの確定・変更ルールを柔軟化し、悪天候や工期遅延など突発的な事象に対応しやすくすることを提起している。

1年単位の変形労働時間制とは、「事業場において、1か月を超え、1年以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で業務の繁閑に応じた労働時間の効率的な配分等を可能とする制度」。これを導入するには、1カ月を超え1年以内の一定期間(対象期間)における労働日・当該労働日ごとの労働時間(労働日等)をあらかじめ特定しなければならない。

また、対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分することとした場合は、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間を除く各期間における労働日数・総労働時間を定め、各期間の初日の少なくとも30日前に当該期間における労働日等を特定する必要がある。

30日前に労働日を特定することが難しい場合もある

ただ、答申によれば、こうした規定について民間経済団体や業界団体、企業などからは、天候などを予測したうえで30日前までに労働日等を特定することが難しく、特定後に急な悪天候や取引先都合による前工程・納期の遅延など突発的事象が発生したとしても、労働基準局長通達によって「一旦特定した労働日等は原則変更できないとされている」ことが、導入の障壁になっているなどの指摘がある。

また、特に建設業は、他業種と比べて年間の総実労働時間が長く、4週8休(週休2日)を確保できていない場合が多いなかで、猛暑日の増加や積雪等の気候要因によって労働者が安全かつ効率的に働ける日数が減少するなど一律の労働時間削減が困難なため、「好天時にはまとまった労働時間を確保しつつ、夏季や冬季には労働者がまとまった休日を確保できる1年単位の変形労働時間制の導入促進が労使双方にとって望ましい」が、厚生労働省ガイドラインなどをふまえて作業を中止することが望ましい場合でも「労働日等の事後変更ができず、同制度の導入や導入後の支障となっているため、柔軟かつ円滑な対応が必要」との声もある。

労働者保護の観点からは要件緩和を行うべきでないとの声

一方、労働者保護の観点からは、「1年単位の変形労働時間制は、法定労働時間の例外を認める制度であり、労働日等の特定を含む必要な各種の要件は、労働者の健康確保や生活時間の設計への配慮のために設けられていることから、要件緩和は行うべきではない」との声がある。また、「1年単位の変形労働時間制について検討する際は、例外を認めるとしても、あくまでも限定的で客観的な条件に基づくものとする必要があり、労働者の予見可能性や健康確保を最優先に考えるべき」といった指摘もある。

そのため答申は、こうした声や指摘をふまえ、「心身の健康維持を前提に柔軟で多様な働き方を実現する観点から、1年単位の変形労働時間制について、厚生労働省は、規制改革推進会議での議論や制度運用状況等の実態も踏まえ、予期しなかった事情にも柔軟に対応できるようにすることについて、労働者の予見可能性の確保についても十分留意しつつ、労働政策審議会において検討し、結論を得次第、速やかに所要の措置を講ずる」ことを求めた。

対象業務と非対象業務の混在が認められていないので適用が困難との声も

一方、「裁量労働制の適用対象業務の在り方」については、【令和8年検討開始、早期に結論、結論を得次第速やかに措置】とスケジュールを設定した。

裁量労働制の対象業務については、「労働基準局労働条件政策課長及び監督課長連名通達」で、対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、企画、立案、調査及び分析の業務とは別に、たとえ非対象業務が短時間であっても、それが予定されている場合は、企画業務型裁量労働制を適用することはできない」こととされているが、答申は、一部の企業や民間経済団体から、「我が国の企業においては、企画業務型裁量労働制の対象業務に従事する労働者に全社横断的なプロジェクト型業務への参加や安全衛生委員会への出席といった非対象業務も担当させる場合があることから、対象業務と非対象業務の混在が認められていない企画業務型裁量労働制を適用することが困難」との声があると紹介。

また、「スタートアップにおいては一人の労働者が複数の業務を担当することが一般的であることから、対象業務と非対象業務の混在が認められていない裁量労働制を適用することが困難」「特定の顧客向けの商品・サービスの企画、立案、調査及び分析を行った上で、それに基づき開発・提案まで行う業務に対しても裁量労働制を適用するニーズがあるが、現行制度では適用が困難」といった指摘もあるとした。

適用労働者の約2割は適用に対し「不満」または「やや不満」

他方、厚生労働省の調査をみると、みなし労働時間と実際の労働時間との間に差がみられることや、専門業務型裁量労働制および企画業務型裁量労働制の適用労働者の約2割が適用への満足度について「不満である」または「やや不満である」と回答している結果も紹介。また答申は、「長時間労働や概日リズムの乱れ、心理的に仕事から距離を置けないこと、裁量のない労働者への制度の適用、努力に見合わない報酬や評価等が生じた場合には、健康上のリスクとなりやすい」ことなどにも言及した。

そのうえで答申は、「以上の声や指摘などを踏まえ、心身の健康維持と労働者の選択を前提に柔軟で多様な働き方を実現する観点から、厚生労働省は、健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に、裁量労働制の対象の在り方について労働政策審議会において見直しの検討を開始し、結論を得次第、必要な措置を講ずる」ことを求めた。

なお答申は、「地方を伸ばし、暮らしを守る」分野での労働に関連する規制改革では、シフト制における適正な年次有給休暇の取得等、オンラインによる労働条件の明示方法の見直し、育成就労制度を見据えた技能実習制度の試験内容の見直しなどを盛り込んだ。

(調査部)

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