HR部門でのAI活用に向けた対応として、安全性・公平性・透明性の確保などを提言
 ――経団連の「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」

国内トピックス

経団連(筒井義信会長)は4月14日、「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」を公表した。各業務(部門)におけるAIの活用状況をみると、「人事」で最も活用されており、「人事(HR)」部門では、応募者スクリーニングなど採用で最も多く活用されている。報告書はこうした実態をふまえ、HR部門におけるAI活用に向けた課題として、プライバシーやセキュリティの確保、AIによるバイアスの払拭などを指摘。HR分野でAIを活用する際には、人間の意思決定のサポート機能として位置づけることが肝要だとして、安全性・公平性・透明性の確保や、戦略的推進体制の構築などの対応を提言した。

経団連はHR部門(採用、人材配置、人材育成、労務管理)におけるAI活用を積極的に推進する観点から、2025年7月から2026年2月にかけて、HR部門においてAI等を活用している企業やシステム開発事業者へのヒアリングを実施した。報告書はヒアリングの結果も含めて取りまとめた。

AIなどを活用した業務の高度化・効率化は生産性向上・イノベーション創出に不可欠

報告書ははじめに、「わが国は、少子高齢化や労働力不足といった課題に直面」しており、「限られた人材をいかに活かすかが企業存続と企業価値創造の鍵」だと指摘。そのうえで、「生成AIの登場により、職場におけるAIの活用可能性が飛躍的に増大。AIなどのテクノロジーを活用した業務の高度化・効率化は、生産性向上とイノベーション創出に不可欠」だと強調した。

また、職場でのAIの活用は徐々に浸透しつつあるものの、「とりわけ人事・労務管理を行うHR部門におけるAI活用は手探り状態」だと指摘し、その背景には、「知見が十分に蓄積されていない」こともあると言及した。

会員企業の9割以上がAIを活用

次に報告書は、企業におけるAIの活用状況を紹介した。経団連が2025年に実施した「HR部門におけるAI・テクノロジー活用に関するアンケート」(75社が回答)の結果によると、企業におけるAIの活用状況は、「複数の業務プロセスで広く活用」が46%、「一部部署・一部業務プロセスに限定して活用している」が24%、「業務プロセスには組み込んでいないが、ChatGPT・Copilot等の生成AIツール利用を会社として許可」が23%で、9割以上の企業がAIを活用していると回答した。

米国やEU諸国に比べ低いアルゴリズム管理ツールの導入割合

ただ、日本企業のアルゴリズム管理ツールの導入割合は、米国やEU諸国に比べ低い。OECD(経済協力開発機構)調査によると、何らかのアルゴリズム管理ソフトウエア(AIを含む①指示ツール②モニタリングツール③評価ツール)を導入している企業に属する管理職の割合は、アメリカが90%、フランスが81%、ドイツとスペインが78%、イタリアが76%だが、日本は40%にとどまる。

このうち米国は、日本と比べると3つのツールのいずれもAIの活用割合が高いが、特に「評価ツール」で日本を大きく上回っている。

米国はジョブ型雇用のもとでAI活用に必要なデータが蓄積

報告書は、米国で評価ツールの導入が進んでいる理由について、「ジョブ型雇用を前提とした人事制度のもとで評価基準が比較的明確であり、制度が長年運用されてきた結果、AI活用に必要なデータの蓄積が進んでいることなどが背景にあると考えられる」との見方を提示。また、採用の場面でも応募者の絞り込みなどに多くの企業がAIを活用しているが、カリフォルニア州などでは差別禁止や労働者保護の観点から規制が設けられていることを紹介した。

一方、EU各国では、日本と比べると指示ツールや一部のモニタリング分野でAIの活用割合が高い。EUではまた、「EU AI法(AI Act)」など規制整備の動きも進み、特に採用・選考や昇進などの雇用分野に関わるAIは「ハイリスク」に分類されており、厳格な規制が設けられていると紹介した。

業務別では「人事」の活用割合が最も高い

前出の経団連調査で、日本企業における各業務(部門)におけるAIの活用状況をみると、「人事」(49社)が最も多く、「IT」(44社)、「CS(カスタマーサービス)」(43社)、「研究開発」および「法務」(ともに40社)、「営業」(38社)なども40社前後に及んでおり、幅広い業務でAIが活用されている。

このうち「人事」部門の活用状況をみると、「採用」(25社)での活用が最も多く、次いで「労務管理」(22社)、「エンゲージメントサーベイ」(21社)、「人材育成」(20社)などとなっている。他方で、「報酬」(5社)、「人材配置」および「評価」(ともに13社)で活用している企業はまだ少数となっている。

「採用」で活用している25社について、その具体的内容で多いのは〈応募者スクリーニング〉(15社)で、〈面接サポート〉が13社となっている。「人材配置」(13社)では、〈人事配置〉が6社、〈ジョブディスクリプション作成サポート〉が5社。「人材育成」(20社)では〈面談サポート〉が14社、〈研修・学習のレコメンド〉が11社。「労務管理」(22社)では〈労務相談の一次対応〉が19社、〈勤務パターンからメンタル状態や離職リスクを予測〉が3社となっている。

録画面接で工数削減、空いた時間はOB・OG訪問に割り当て/金融業

報告書はヒアリング結果をもとに、企業における具体的な取り組み事例も紹介している。

金融業の企業での「採用」における〈応募者スクリーニング〉の事例では、応募者の録画面接や選考書類の内容をAI等が分析しており、行動特性などを自動的に評価・判定するツールを活用している。録画面接を採用することで、時間や場所の制約を受けずに多くの応募者の選考を行うことが可能。工数削減によって生まれた時間をOB・OG訪問への対応などに割り当てることができている。

面接の内容をAIが要約して引き継ぎ資料を自動生成、深掘り質問などのフィードバックも/BPOサービス

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの企業での「採用」における〈面接サポート〉の事例では、面接記録や評価コメントをAIが要約・整理して、面接官の意思決定を支援するツールを活用している。面接内容の要約や引き継ぎ資料を自動生成しており、オンライン面接中にAIが面接官へ質問内容や発話比率、深掘り質問などのフィードバックを提示している。なお、応募者と企業双方の同意を取得したうえで、面接の録画データの蓄積も可能としている。

こうした取り組みにより、面接官は面接に一層注力できるようになったほか、より公正で質の高い面接を実現。さらに、面接の録画データをAIで分析することで、面接内容の改善や社内での教育に活用している。

AIがメンターや異動先を提案/製造業

世界160カ国以上で医療機器や医薬品を製造販売する企業の〈人事配置(ポジションマッチング)〉の事例では、職務経験やスキル・志向、サーベイ結果などの社員データをAIに学習させており、AIが社員にメンターやキャリア、異動先などを提案しているほか、人事異動の意思決定も支援している。

これにより、国や組織の垣根を越えて、その経験やスキルが生かせるグループ内のポジションをAIがレコメンドしている。たとえば、欧米の販売データプラットフォーム構築事業をインドの専門人財が支援したり、グローバルサービス部門のHRビジネスパートナーにアジアの人財が応募したり、日本の人財がシンガポールの拠点に転籍した事例などがある。

部下からの相談に適切に回答できるよう、生成AIで対話力をトレーニング/建設業

建設業の企業における「人材育成」の〈面談サポート〉では、1on1などの面談を支援するツールとして、管理職が部下からの相談に対して適切な回答を行えるように対話力をトレーニングするツールを活用している。生成AIによる客観的な診断をもとに自身の回答内容を振り返ることで、アンコンシャス・バイアスへの気づきや解消を促し、ハラスメント防止や女性活躍に向けた意識改革、部下との対話力向上を支援するなどの狙いがある。

この取り組みにより社内コミュニケーションの質が向上したほか、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の一層の推進が可能となったとしている。

重要なプライバシー・セキュリティ確保、AIによるバイアスへの対策

報告書はこのように、企業での具体的なAI等の活用事例を紹介したうえで、AI等の活用における課題として、①プライバシーやセキュリティの確保、AIによるバイアスの払拭②経営層の理解・促進③現場社員の理解・促進④データ整備・既存のシステムとの連携――の4点をあげた。

「プライバシーやセキュリティの確保、AIによるバイアスの払拭」については、HR部門は、社員一人ひとりのキャリアや処遇など組織運営に大きな影響を与える情報を扱うことから、その判断には高い説明責任と信頼性が求められるため、プライバシーやセキュリティの確保、AIによるバイアスへの対策は重要だとした。総務省・経済産業省が公表している「AI事業者ガイドライン」や一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の「人事データ利活用原則」を参考に、自社におけるガイドライン整備や適切な運用を行うことが有効だとしている。

「経営層の理解・促進」については、AI活用は導入コストが高く、投資対効果が見えにくいため、経営層の理解や承認が得られにくいこともあるという。そのため、作業工数の削減などのデータを用いたり、効果を確認しやすい領域から段階的に導入することなどによって、効果や導入の意義を可視化することも考えられるとした。

また、採用や人材配置などの場面でのAI活用で、人材の可視化が進み、新たな人材の採用・登用が実現している事例を示すことで、HR部門の高度化や価値創出の可能性について経営層の理解を促すことも考えられるとした。

AIの利用目的や活用範囲について現場社員に丁寧な説明を

「現場社員の理解・促進」については、AI活用が進まない要因は、技術的な問題だけでなく、社員の受容や信頼に関わる側面が大きいと指摘。HR部門と社員との信頼関係の観点から、AIの利用目的や活用範囲について丁寧に説明し、理解を得ながら導入を進めていくことが重要だとした。あわせて、AI活用を推進する担い手や知見を確保していくことも必要だとしている。

「データ整備・既存のシステムとの連携」については、人事データは定性的なものが多く、十分に整備されていないケースも多い。AI技術の進展や働き方の変化にも対応できるよう、人事データの整備・蓄積を進めるとともに、既存システムとの連携やシステム基盤の整備を進め、AIによる分析や活用につなげていくことも重要としている。また、採用時の情報やサーベイなど新たに取得するデータを蓄積し、AI活用につなげることも有効だとした。

HR部門でのAI活用は「人間の意思決定のサポート機能」と位置づける

報告書は、HR部門におけるAI等の活用の基本的考え方についても示している。

まず、HR部門におけるAI等の活用の重要性について、「AIは人間の業務を代替しつつ、これまでにない付加価値を生むポテンシャルを備えている」とし、「採用、人材配置、人材育成、労務管理などのHR分野の各業務にAIを活用することで、意思決定の精度向上・業務効率化・社員への提供価値向上などHR部門全体の高度化が実現可能」などと述べた。

また、「適切な対応を前提としたAIの積極的な利活用は、今後の企業存続のカギを握る」とした。

そのうえで「大前提」として、HR部門での採用や人材の配置・育成、労務管理の分野でのAI活用はあくまで人間の意思決定のサポート機能として位置づけることが肝要だと強調。

活用の際のステップとして、①AIに行わせる内容の決定と必要なデータの用意・インプット②AIによる担当者のサポートや検討結果のアウトプット③AIの判定理由の把握と人間による責任を持った最終的な意思決定――の3つを示した。

具体的には、「採用」ではAI面接を例示。まず誤判断を回避するための客観的・具体的・明確な評価基準をAIにインプット。その後、AIが面接内容のレポートやレコメンドを作成し、最後は人間が候補者の合否を確定するとした。

「人材配置」の場面では、職務記述書の内製を例にあげて、必要となる役割・スキル・目標設定等の情報の整理・入力を行ったうえで、AIが職務記述書の原案を生成。それを基に、人間が部門間調整や必要に応じた修正を実施する。また、「人材育成」については、研修のレコメンドの例として、研修後のサーベイ結果の入力後、AIが社員一人ひとりのキャリアにあった研修を提案。これをふまえて、人間が社員とのキャリア形成に関する面談・相談を行う。

「労務管理」では、社員の問い合わせへの対応を例として示した。手順書の作成やシステム連携、関係法令を入力した後、AIが社員の質問に自動対応。そのうえで、AIが答えられない複雑で繊細な問い合わせには、人間が対応するとしている。

HR部門には高い説明責任と信頼性が求められる

報告書はさらに、求められる対応として、①AI活用における安全性・公平性・透明性の確保②戦略的推進体制の構築③現場に根付かせるための運用・定着の仕組みづくり――の3つをあげた。

「AI活用における安全性・公平性・透明性の確保」については、HR部門は、社員一人ひとりのキャリアや処遇、さらには組織全体の運営に大きな影響を与える情報を扱う部門であり、「その判断には高い説明責任と信頼性が求められる」とした。また、人事データを活用する際には、安全性、公平性、プライバシー、透明性などの確保は必須であり、企業には適切に対応するためのガバナンス体制の構築が必要とした。

AIを安全に利用していくために社内に「司令塔」を

「戦略的推進体制の構築」については、AIを安全に利用していくためには、さまざまなリスクに備え、社内外の連携が必要となるため、社内におけるAI活用の「司令塔」が必要だとした。

また、人材戦略を統括するCHRO(最高人事責任者)を設置している企業においては、CHROがHR部門へのAI活用の中心的な役割を担うことが想定されるため、CAIO(最高AI責任者)等のAI推進担当と連携しながら取り組みを進めていくことが重要だとした。

「現場に根付かせるための運用・定着の仕組みづくり」については、①現場の理解を得ること②継続的にアップデートすること③小さくはじめること――の3点が重要だと強調した。

(調査部)

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