「女性に選ばれる地方」の実現に向け、全国各地での女性の起業支援など打ち出す
――政府の「女性版骨太の方針2025」
スペシャルトピック
政府は6月10日、「第15回すべての女性が輝く社会づくり本部」と「第25回男女共同参画推進本部」の合同会議を開催し、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2025(女性版骨太の方針2025)」を決定した。女性の活躍・男女共同参画に向けた取り組みを進めるため、①女性に選ばれ、女性が活躍できる地域づくり②全ての人が希望に応じて働くことができる環境づくり③あらゆる分野の意思決定層における女性の参画拡大④個人の尊厳が守られ、安心・安全が確保される社会の実現⑤女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化――の5つを今後重点的に取り組むべき事項に設定。「女性にも選ばれる地方」を実現することが喫緊の課題だとし、全国各地における女性の起業支援などを打ち出している。
<方針の基本的な考え方>
方針は、冒頭の「基本的な考え方」の中で、女性が地方での生活を選択せず、東京一極集中の傾向があることなど、女性を取り巻く環境について言及。こうした現状をふまえ、「女性にも選ばれる地方を実現することを通じて、女性を含めた誰もが安心して住み続けられる地域を構築することは待ったなしの課題である」と指摘した。
そのうえで、「希望する仕事を選択できる環境の整備をはじめ、女性がその地域で個性と能力を十分に発揮する機会が得られ、生きがいを感じながら生活できる地域社会の実現に向けた取組を進めていかなければならない」として、①女性に選ばれ、女性が活躍できる地域づくり②全ての人が希望に応じて働くことができる環境づくり③あらゆる分野の意思決定層における女性の参画拡大④個人の尊厳が守られ、安心・安全が確保される社会の実現⑤女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化――の5つを女性の活躍・男女共同参画に向けた今後重点的に取り組むべき事項として設定した。
こうした取り組みを進め、いつでも・どこにいても誰もが自分らしく生きがいを持って生きられる社会の実現を目指し、日本全体が活力を一層向上させることができるよう、政府一丸となって取り組んでいくと強調している。
<女性に選ばれ、女性が活躍できる地域づくり>
地方における女性の起業やアンコンシャス・バイアスの解消を支援する
1つめの事項の「女性に選ばれ、女性が活躍できる地域づくり」では、方針は、女性が地方を離れる動きが加速しているなか、その原因の究明や解消に取り組むことによって「女性にも選ばれる地方」を実現してくことが急務だと指摘。
そのためには、女性がやりがいをもって取り組める仕事の創出をするため、女性の起業支援を行うことや、地域に残る固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けた取り組みを進めることが重要であるとしている。
具体的には、女性がアクセスしやすい全国各地の男女共同参画センターなどをサポートの拠点として、女性のための起業セミナーを通じた様々なロールモデルとの出会いや起業に取り組む仲間などとのネットワーク形成を促進することで、女性の起業の裾野拡大を図る。
女性起業家の割合を2033年までに20%以上とする
また、そのロールモデルとなる女性起業家の創出のため、外部有識者からの推薦に基づいて選定された企業に対して政府機関と民間が集中支援を行うプログラム(J-Startup)において、女性起業家の割合を2033年までに20%以上とすることを目指す。
こうした取り組みを支えるために、男女共同参画センターと自治体や商工会議所などの地域の関係機関との連携体制の構築を進める。国においては地方の取り組みを支えるために地域女性活躍推進交付金などの財政支援を行うことや、各地域において女性の起業を妨げるアンコンシャス・バイアスによる障壁を打破するために、企業の管理職や経営層への意識改革など広報啓発の取り組みを実施することや、女性起業家に対するハラスメント対策も実施する。
男女共同参画機構の設立でさらなる女性活躍を後押し
女性に選ばれる地方づくりを後押しするため、独立行政法人国立女性教育会館を改組し、独立行政法人男女共同参画機構(男女共同参画機構)を設立することなどを内容とする「独立行政法人男女共同参画機構法」及び「独立行政法人男女共同参画機構法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が6月20日に国会で成立した。
方針は、新たに設立される男女共同参画機構では、男女共同参画に関する施策を総合的に行う「ナショナルセンター」として、地域における諸課題の解決に取り組む男女共同参画センターを強力に支援していくとしている。
また、そのための必要な知見やノウハウを共有する情報プラットフォームの構築や地域の課題の把握に向けた統計データの整理などに取り組み、地域における女性活躍・男女共同参画の推進体制の充実を図る。
男女共同参画の視点を取り入れた災害対応にも言及
内閣府男女共同参画局の「令和6年度男女共同参画の視点からの能登半島地震対応状況調査」では、災害時には女性や子ども、脆弱な状況にある人々がより多くの影響を受けることが指摘されている。
これを受け方針は、災害時における女性と男性で異なる支援ニーズに適切かつ迅速に対応するため、国や地方公共団体の災害対応の現場への女性の参画を促進することや、男女共同参画の視点を取り入れた防災教育の推進等を盛り込んだ。
<全ての人が希望に応じて働くことができる環境づくり>
2つめの「全ての人が希望に応じて働くことができる環境づくり」では、女性が個性と能力を十分に発揮し、自分らしく生きていくための所得向上・経済的自立を実現できる環境をつくるとしている。
女性の所得向上・経済的自立をめぐっては、女性の年齢階級別正規雇用比率が25~29歳をピークに低下し、30代以降は非正規雇用が中心となる状態を表す「L字カーブ」の解消に向けて取り組む。
正社員転換や女性デジタル人材の育成で経済的自立を支援
具体的には、正規雇用の女性の就業継続の支援や、過去に妊娠等を契機に非正規雇用となった女性を正社員転換するための取り組みが重要であるとして、非正規雇用労働者の処遇改善を進める事業主に対する助成の利用を後押しする。このほか、同一労働同一賃金の遵守を徹底することや、同法の施行5年後の見直し規程に基づき、労働政策審議会において見直し検討を行う。
また、方針と同時に採択された「新・女性デジタル人材育成プラン」では、就労・キャリアアップ・起業等に直結するデジタルスキルの習得支援や、デジタル分野への就労支援を展開することで経済的自立を支えていく。
男性の育児休業取得率の向上や柔軟な働き方を推進
仕事と育児・介護の両立支援では、「共働き・共育て」の取り組みに焦点を当てる。男性の育児休業については、男性の育児休業取得が実質を伴ったものとなるよう普及・啓発を行い、さらなる取得率向上に向けて取り組む。
そのほか、改正子ども・子育て支援法により2歳未満の子を養育するために時短勤務をする場合に、時短勤務中の賃金の10%を支給する「育児時短就業給付金」の周知や、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現することなどを盛り込んだ改正育児介護休業法の周知や理解促進を図る。
方針は、月経、妊娠・出産、更年期等、女性特有の健康課題に配慮し、これらの健康課題に起因した望まない離職を防ぎ、女性の活躍を後押しすることも明記している。具体的には、プライバシーに十分配慮したうえで、健康診断の問診表に、月経随伴症状や更年期障害等の質問を追加し、これらの健康課題の早期発見につなげる。
また、労働者が女性特有の健康課題で困っている場合、事業者が産婦人科医院等の専門医の早期受診を勧奨することや、専門医の診断書をもって事業者に相談することができる事業者向けのガイドラインや健診機関向けのマニュアルを作成し、普及啓発していく。
女性の健康課題に対して取り組む中小企業を支援
女性の健康課題に取り組む企業への支援については、改正女性活躍推進法をふまえ、女性の健康課題に関して積極的に取り組む企業を評価する仕組みを検討する。あわせて、大企業に比べ資金やリソース・ノウハウが不足しがちな中小企業に対しては、健康課題解決に向けた社内体制を整備するための支援を実施することや、先進的な取り組みをすでに行っている中小企業の見える化を行う。
方針は職場におけるハラスメントについても言及している。6月11日に公布された改正労働施策総合推進法をうけ、事業主に義務づけられたカスタマーハラスメント対策や求職者等に対する就活等ハラスメント対策を強化していくことや、国の責務として、職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて国民の規範意識を醸成するために取り組んでいくことを示した。
<あらゆる分野の意思決定層における女性の参画拡大>
主な先進国では、管理職に占める女性の割合がおおむね30%以上となっている一方、わが国では役員や管理職等の意思決定過程への女性の登用は十分ではなく、国際的に遅れをとっている。そこで方針は、3つめの「あらゆる分野の意思決定層における女性の参画拡大」では、企業、政治・行政分野など様々な分野において女性の活躍の推進を強化する取り組みを進め、地方に波及していく考えを示した。
女性役員を会社内部から登用できるよう啓発
まず、企業における女性活躍の推進では、「採用から登用まで一貫したキャリア形成支援を行い、女性役員を内部から登用していけるよう支援することが重要である」と指摘した。
そのうえで、女性版骨太の方針2023で設定した、東証プライム市場上場企業における女性役員割合を2030年までに30%以上とした政府目標を達成するために、女性役員登用に向けた目標設定や行動計画策定・実行のポイント等をまとめた行動計画策定ガイド(仮称)の作成など、女性役員登用加速化に向けた取り組みを進める。
政治分野では、内閣府男女共同参画局が実施した女性の政治参画への障壁等に関する調査の結果をふまえ、関係機関と連携しながら必要な取り組みについて啓発を行う。行政分野では、各府省において、各役職段階に占める女性の割合に関する数値目標を定め、より一層の女性登用に向けた取り組みを強化することや、こうした取り組み内容について国家公務員を志望する女性等に公表することを掲げた。
女子学生が少ない学術分野への支援を幅広く展開
科学技術・学術分野では、男子に比べ女子学生が少ない理工系分野等の進学を促進するため、女子学生や保護者や教員を対象とした地域の取り組みを支援することや、国立大学や高等専門学校における女子学生の増加等に対応した施設設備の取り組みを実施することをあげた。
このほか、出産・育児等のライフイベントによる研究中断後に円滑に研究に復帰できる支援など、優れた女性研究者への個人支援のあり方を検討することを盛り込んだ。
国際的な分野では、在外公館の各役職に占める女性の割合を、2026年までに引き上げる目標(公使、参事官以上10%、特命全権大使、総領事8%)を掲げていることから、女性職員の採用拡大や適材適所の人材配置など、候補者を増やす取り組みを進める。
<個人の尊厳が守られ、安心・安全が確保される社会の実現>
4つめの「個人の尊厳が守られ、安心・安全が確保される社会の実現」では、配偶者などからの暴力や性犯罪・性暴力への対策の強化、困難な問題を抱える女性への支援、性差を考慮した健康への支援に言及。そのうち、性差を考慮した生涯にわたる健康への支援では、その具体的な取り組みや様々な分野における女性の活躍を支援する取り組みも紹介している。
性差に配慮した健康課題への研究や製品開発を支援
まず、性差を考慮した健康支援では、2024年10月1日に設立された女性の健康センターを中心として、関係省庁と協力しながら妊娠・出産など女性の健康課題に関わる研究に取り組むことや、企業における製品の研究開発においては、性差の視点を取り入れる「ジェンダード・イノベーション」を促進していくとした。
また、スポーツ分野における女性の参画・活躍の促進では、各中央競技団体における女性理事の目標割合40%の達成に向けた具体的な取り組みを進める。女性アスリートの健康課題に対しては、相談窓口を引き続き設置するともに、競技活動を継続しながらライフイベントを充実させるための妊娠期・育児期の支援プログラムの充実などを図る。
女性医師に対する支援では、短時間勤務や当直等の配慮を活用し、復職支援や勤務体制の柔軟化を進めることやチーム医療の推進、複数主治医制の導入、医療機関における院内保育や病児保育の整備など、女性医師が活躍するための取り組みを進める。
選択的夫婦別姓制度も引き続き検討
方針はさらに、夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方、いわゆる選択的夫婦別姓制度についても取り上げ、婚姻により改姓した人が不便さや不利益を感じることのないよう、国・地方一体となった行政のデジタル化・各府省間のシステムの統一的運用により旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組むとしている。あわせて、国民の意見や国会における議論の動向を注視しながら、同制度の検討をさらに進めていく考えを示した。
<女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化>
5つめの「女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化」では、これまであげてきた取組を加速させるために、男女共同参画の視点に立った、あらゆる分野の政策、事業の計画、評価において、男女別の影響やニーズの違いをふまえた検討・立案を行うことや、国連をはじめとする国際会議における情報発信を強化することを明記した。
(調査部)
2025年8・9月号 スペシャルトピックの記事一覧
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