職場における熱中症による死傷者数が1,257人となり過去最多に
――厚生労働省が2024年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)の結果を公表
国内トピックス
熱中症による重篤化を防ぐため、熱中症のおそれがある労働者を早期に発見するための体制整備などを事業主に義務づけた改正労働安全衛生規則が、6月1日に施行された。それに先立ち、厚生労働省は5月30日に2024年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」を公表した。集計によると、死傷者数は前年から151人増加した1,257人となり、統計をとり始めた2005年以降から最も多い数となった。
2015年と比較すると死傷者数は約800人増加
職場での熱中症による死亡者と休業4日以上の業務上疾病者数をあわせた数(以下、死傷者数)をみると、2024年は1,257人となり、前年の1,106人から151人増加した。このうち死亡者数は31人で、前年と同数だった。
死傷者数を2015年以降の10年間でみると、「2015年」464人、「2016年」462人、「2017年」544人、「2018年」1,178人、「2019年」829人、「2020年」959人、「2021年」561人、「2022年」827人、「2023年」1,106人、「2024年」1,257人となり、この10年間で800人程度増加している(図表)。
図表:職場における熱中症による死傷者数・死亡者数(人)の推移
(公表資料から編集部で作成)
「製造業」と「建設業」で多い死傷者数
業種別死傷者数をみると、「製造業」(235人)が最も多く、次いで「その他」(232人)、「建設業」(228人)、「運送業」(186人)、「警備業」(142人)、「商業」(116人)、「清掃・と畜業」(76人)、「農業」(32人)、「林業」(10人)の順となっている。
業種別の死傷者数を2020年以降の5年間の合計でみると、「建設業」(961人)が最も多く、次いで、「製造業」(897人)、「その他」(798人)、「運送業」(659人)、「警備業」(497人)、「商業」(464人)、「清掃・と畜業」(287人)、「農業」(108人)、「林業」(39人)となっている。
2020年以降のいずれの年も、「建設業」と「製造業」が全体の約4割を占めている。
「7月」と「8月」の発生が突出して多い
死傷者数を月別の状況でみると、「7月」(588人)が最も多く、次いで「8月」(431人)、「9月」(156人)、「6月」(57人)、「5月」(18人)、「10月以降」(4人)、「4月以前」(3人)となり、死傷者数の約8割が7月~8月の夏場に集中している。
死傷者数の月別の状況を2020年以降の5年間の合計でみると、「8月」(2,124人)が最も多く、次いで「7月」(1,638人)、「6月」(430人)、「9月」(392人)、「5月」(76人)、「10月以降」(34人)、「4月以前」(3人)の順となっている。
死傷者数を時間帯別発生状況でみると、「9時台以前」(167人)と最も多く、次いで「15時台」(160人)、「14時台」(143人)、「11時台」(137人)、「10時台」(126人)、「16時台」(125人)、「18時台以降」(115人)、「17時台」(99人)、「12時台」(93人)、「13時台」(92人)となり、いずれの時間帯でも発生している。
死傷者数の時間帯の状況を2020年以降の5年間の合計でみると、最も多いのが「15時台」(586人)で、次いで「11時台」(572人)、「9時台以前」(562人)、「14時台」(561人)、「10時台」(480人)、「16時台」(475人)、「18時台以降」(398人)、「12時台」(389人)、「13時台」(358人)、「17時台」(329人)となっている。
「50歳以上」が死傷者数の約56%を占める
死傷者数を年齢別発生状況でみると、「65歳以上」(227人)が最も多く、次いで「55~59歳」(177人)、「50~54歳」(164人)、「60~64歳」(139人)、「45~49歳」(113人)、「40~44歳」(105人)、「25~29歳」(89人)、「35~39歳」(88人)、「30~34歳」(70人)、「20~24歳」(68人)、「19歳以下」(17人)となり、50歳以上が全体の約56%を占めている。
死傷者数の年齢別の状況を2020年以降の5年間の合計でみると、「65歳以上」(787人)が最も多く、次いで「50~54歳」(581人)、「55~59歳」(579人)、「45~49歳」(541人)、「60~64歳」(497人)、「40~44歳」(407人)、「35~39歳」(363人)、「25~29歳」(308人)、「20~24歳」(287人)、「30~34歳」(277人)、「19歳以下」(83人)の順となり、過去5年間でみても全体の半数程度が50歳以上となっている。
WBGTの確認ができなかった事例は24件
このほか、調査結果は、2024年の熱中症による死亡災害の事例を紹介している。被災者の男女内訳は男性が28人、女性が3人で、発症時・緊急時の措置の確認や、周知をしていたことを確認できなかった事例が20件あった。また、熱中症の予防を目的として、気温、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さ指数(WBGT)の把握が確認できなかった事例が24件あった。
事業主に熱中症対策を課した改正労働安全衛生規則が施行
6月1日から、改正労働安全衛生規則が施行された。改正規則では、①見つける②判断する③対処する――を基本的な考え方とし、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制整備をしたうえで、熱中症の重篤化を防止するための措置手順の作成や、それらの体制や手順等を関係作業者へ周知することを事業主に義務づけた。
対象となるのは、暑さ指数(WBGT)が28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業としている。
対策の具体例をみると、職場巡視やバディ制の採用、ウェアラブルデバイス等の活用や双方向での定期連絡などにより、熱中症の症状がある作業者を積極的に把握するよう努めることや、緊急連絡網・緊急搬送先の連絡先や所在地の把握、作業離脱・身体冷却、医療機関への搬送等、必要な措置の実施手順の作成をしたうえで、その手順を関係者へ周知することなどを提示している。
厚生労働省はWBGTの把握や労働衛生教育などを事業主に呼びかける
厚生労働省は「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」をふまえ、①暑さ指数(WBGT)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を適切に実施すること②作業を管理する者及び労働者に対してあらかじめ労働衛生教育を行うこと③糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見をふまえた配慮を行うこと――を重点的に実施するよう、改正法とあわせて事業主に呼びかけている。
(調査部)
2025年7月号 国内トピックスの記事一覧
- 職場における熱中症による死傷者数が1,257人となり過去最多に ――厚生労働省が2024年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)の結果を公表
- 昨年の春闘で妥結した労働者1,000人以上の企業の85.8%がベースアップを実施し、ベア額は1万3,000円を超える ――中央労働委員会「2024年賃金事情等総合調査」の集計結果