13日超の連続勤務の禁止を規定すべき
 ――厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書 労働時間法制の具体的課題(2)〔労働からの解放に関する規制〕および(3)〔割増賃金規制〕

スペシャルトピック

(2)労働からの解放に関する規制

労働者が労働からの回復の時間や私生活の時間等がどれくらい確保されるべきかという「労働からの解放の時間」に関する議論では、①休憩②休日③勤務間インターバル④つながらない権利⑤年次有給休暇制度――の5テーマについて整理した。

休憩

休憩時間については現行法から改正の必要はなしと判断

休憩について労働基準法は、第34条第1項で、使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないと定めている。また、同条第2項で、過半数代表との労使協定がある場合を除き、休憩は一斉に与えなければならないとしている。

研究会では、休憩について検討すべき論点を、「1日8時間を大幅に超えて長時間労働する場合であっても、労働基準法に基づき付与すべき休憩時間は1時間であることについてどのように考えるか」「労働時間が同一であっても、1労働日の扱いか、2労働日の扱いかによって休憩時間が異なることについてどのように考えるか」と設定した。

報告書は、これらの問題に対する改善案として、「時間外労働であっても6時間を超える場合には少なくとも45分間、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与えるべき」とすることが考えられるが、「その日の時間外労働の長さは事前に把握できないことが多く、事前に把握できていなければ、まとまった休憩の付与を有効に運用することができないこと。そのため、時間外労働が生じる場合には適宜休憩を取りながら勤務することが多いこと」「あくまでも時間外労働であり、休憩を取るよりもその分早く業務を終わらせて帰りたいと考える労働者もいると考えられること」を理由にあげ、「このような改正は必要ないと考えられる」と結論づけた。

休憩の一斉の付与についても見直さず

研究会ではまた、第2項の休憩の一斉の付与について、その原則は工場労働を前提としたものであることから、この原則を見直すべきかどうか、また、その場合に必要となる手続きがあるか議論し、報告書は「休憩の実効性の確保の観点も踏まえると、労働基準法34条第2項の原則を直ちに見直すべきとの結論には至らなかった」とした。

休日

現行では理論上、休日労働の扱いをせずに最大48連勤が可能

休日については、「定期的な休日の確保」と「法定休日の特定」について論じた。

「定期的な休日の確保」について、現行制度では、法定休日として、労働者に毎週少なくとも1回の休日を付与することを原則としつつ、4週間を通じ4日以上の休日を与える変形休日制(4週4休制)を可能としている。一方、業務の繁忙や業種・職種の特性によっては、長期間の連続勤務を余儀なくされている例もある。

報告書は、現行の法定休日のもとでは、4週4休が認められていることから、「付与する法定休日を偏らせ、長期間の連続勤務が生じる場合であっても、そのことをもって労働基準法違反となるわけではない」、つまり、理論上、休日労働の扱いをせずに最大48連勤が可能となっていることを指摘し、「連続勤務の最大日数をなるべく減らしていく措置の検討に取り組むべきであると考えられる」とした。

36協定で可能になる連続勤務にも一定の制限をかけるべき

また、36協定に休日労働の条項を設けることによって、割増賃金を支払うことで法定休日に労働させることが労働基準法上可能になるとともに、この回数には制限がなく、割増賃金を支払えば、協定の範囲内で理論上無制限に連続勤務させることが可能となることについて、「労使協定を経るとはいえ、このような連続勤務は健康上望ましくなく、時間外労働の上限と同様、休日労働にも一定の制限をかけるべきではないかと考えられる」との見方を示した。

そのうえで、報告書は、「これらの点を総合的に考慮すると、36協定に休日労働の条項を設けた場合も含め、精神障害の労災認定基準も踏まえると、2週間以上の連続勤務を防ぐという観点から、『13日を超える連続勤務をさせてはならない』旨の規定を労働基準法上に設けるべきであると考えられる」と提案した。

法定休日をあらかじめ法律上で特定すべき

「法定休日の特定」については、現行では法定休日の特定について法律上の定めがなく、通達で「具体的に一定の日を休日と定める方法を規定するよう指導」すると示されている。

報告書は、週休2日制が普及している現状では、1週の中に法定休日と所定休日が混在している場合が多く、使用者が就業規則等で法定休日を指定したとしても、法律上の規律によるものではないため、法的な予見可能性に問題があるとの指摘があると紹介。

そのため、「法定休日は、労働者の健康を確保するための休息であるとともに、労働者の私的生活を尊重し、そのリズムを保つためのものであり、また、法定休日に関する法律関係が当事者間でも明確に認識されるべきであることから、あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に規定することを取り組むべきと考える」と主張した。

そのうえで、考慮すべき論点として、(1)労働基準法第35条で保護すべき法益が、「①週1回の休日が確保されること」から「②あらかじめ特定した法的休日が確保されること」に変わることによる罰則適用の変化(2)法定休日の振替を行う場合の手続きおよび振替の期間(3)使用者が法定休日を指定する際の手続き――などが考えられるとし、「実態を十分踏まえた上で、これらの論点に対する考え方を明確化していくべきである」とした。

勤務間インターバル制度

抜本的な導入促進と義務化を視野に入れた検討が必要

1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保する「勤務間インターバル制度」については、現行制度では、労働時間等設定改善法第2条においてその導入は企業の努力義務とされている。また、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入にあたっての留意事項は法令上示されていない。

わが国では、導入企業の割合がそれほど高くなく、一方、諸外国ではさまざまな適用除外が設けられたうえで制度が運用されていることから、報告書は「本研究会としては、抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があると考える」とするとともに、「いずれにしても、多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる」とした。

また、義務化の度合いについて、労働基準法による強行的な義務、労働時間等設定改善法等における義務付けの規定など、「様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる」とした。

つながらない権利

話し合いを促進するガイドライン作成などの検討を

勤務時間外や休日に仕事上のメールなどへの対応を拒否できる「つながらない権利」については、欧州などでの同権利の取り扱いを例示し、「つながらない権利」を行使したことに対する不利益取り扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限などの制度があることを紹介。

そのうえで、わが国で同権利の導入を検討するにあたっては、連絡をとる必要がある要因や連絡内容などを整理したうえで、「勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる」とし、「このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる」とした。

年次有給休暇制度

年次有給休暇の時季指定義務・時間単位は変更の必要なし

「年次有給休暇制度」については、「使用者の時季指定義務の日数(現行5日間)や時間単位の年次有給休暇の日数(現行5日間)の変更等」などについて論じた。

使用者が年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について毎年時季を指定して与えなければならないとされている年次有給休暇制度の「時季指定義務」について、報告書は、年次有給休暇取得率が政府目標に達していないことから、「現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われない」とした。時間単位の年次有給休暇についても、「現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われない」とした。

1年間の付与期間の途中に育児休業から復帰した労働者や、退職する労働者に関する、残りの期間における労働日と時季指定義務の関係については、「残りの労働日が著しく少なくなっている労働者に対してまで、他の労働者と同じ日数の時季指定義務を課すことは、使用者や労働者にとって不合理な制約になる場合があることからも、取扱いを検討することが必要である」とした。

(3)割増賃金規制

割増賃金規制については、①割増賃金の趣旨・目的等②副業・兼業の場合の割増賃金――の2点について検討した。

割増賃金の趣旨・目的等

十分なエビデンスを基にした検討が必要

1つめの「割増賃金の趣旨・目的等」については、時間外労働・休日労働の割増賃金の「①通常の勤務時間とは異なる時間外・休日・深夜労働をした場合の労働者への補償と、②使用者に対して経済的負担を課すことによる、これらの労働の抑制」という趣旨・目的を基礎に、現在の経済情勢や働き方の多様化を踏まえ、割増賃金がどのように機能しているか、どのような課題があるかについて議論した結果を記載している。

報告書は、研究会のなかで、「企業が時間外労働等を抑制する効果が期待される一方、労働者に対しては割増賃金を目的とした長時間労働のインセンティブを生んでしまうのではないか」「深夜労働の割増賃金は、労働強度が高いものに対する補償的な性質があるが、健康管理の観点からは、危険手当のような位置付けではないか」「我が国の割増賃金率は諸外国と比較して低い水準となっており、長時間労働を抑制する機能を十分に果たしていないのではないか」「深夜労働の割増賃金について、使用者の命令ではなく、働く時間の選択に裁量のある労働者(管理監督者、裁量労働制適用労働者等)が自ら深夜帯に働くことを選んだ場合には、割増賃金は必ずしも求められないのではないか」などの意見があったと紹介。

そのうえで、「割増賃金の意義や見直しの方向性については様々な意見が出ているところである」とし、「どのような方策をとるにしても十分なエビデンスを基に検討される必要がある。割増賃金に係る実態把握を含めた情報収集を進め、中長期的に検討していく必要がある」とした。

副業・兼業の場合の割増賃金

現行は労働時間を通算して割増賃金を支払う

2つめの「副業・兼業の場合の割増賃金」については、労働者が副業・兼業を行う場合の労働時間の算定のありかたについて言及した。

現行では、労働基準法第38条に基づき、労働者が副業・兼業を行う場合、事業主が異なる場合でも、労働時間を通算して割増賃金を支払うことになっている。そのため、厚生労働省のガイドラインに基づき、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって割増賃金を計算するか、あらかじめ設定したそれぞれの事業場における労働時間の範囲内で労働させる管理モデルを利用するかのいずれかとされている。

本業先、副業先それぞれの管理で複雑な制度運用に

報告書は、この取り扱いについて、「割増賃金の計算のために本業先と副業・兼業先の労働時間を1日単位で細かく管理しなければならないこと(その過程で、労働者自身も細かく自己申告する等の負担が生じること)など、複雑な制度運用が日々求められるものとなっている。このことが、企業が雇用型の副業・兼業を自社の労働者に許可することや、副業・兼業を希望する他社の労働者を雇用することを難しくしていたり、労働者が企業に申告せずに副業・兼業を行う要因の一つになったりしているのではないか、また、企業が雇用型の副業・兼業を自社の労働者に許可しないことで、労働者が副業・兼業を行うことを諦めることにつながっているのではないかとの指摘もある」と言及。

そのため、「副業・兼業が使用者の命令ではなく労働者の自発的な選択・判断により行われるものであることからすると、使用者が労働者に時間外労働をさせることに伴う労働者への補償や、時間外労働の抑制といった割増賃金の趣旨は、副業・兼業の場合に、労働時間を通算した上で本業先と副業・兼業先の使用者にそれぞれ及ぶというものではないという整理が可能であると考えられる」との考え方を示すとともに、「副業・兼業の場合に割増賃金の支払いに係る労働時間の通算が必要であることが、企業が自社の労働者に副業・兼業を許可したり、副業・兼業を希望する他社の労働者を雇用することを困難にしているとも考えられる」と現行制度での課題を指摘した。

また、あわせて、「労働者は使用者の指揮命令下で働く者であり、使用者が異なる場合であっても労働者の健康確保は大前提であり、労働者が副業・兼業を行う場合において、賃金計算上の労働時間管理と、健康確保のための労働時間管理は分けるべきと考えられる」との考え方も示した。

割増賃金の支払いでは通算を要しない制度改正を

報告書は、こうした現状を踏まえ、「労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられる」と制度の見直しを提言しつつ、「その場合、法適用に当たって労働時間を通算すべき場合とそうでない場合とが生じることとなるため、現行の労働基準法第38条の解釈変更ではなく、法制度の整備が求められることとなる」と述べた。

また、報告書は、「あわせて、割増賃金の支払いに係る通算対応を必要としなくする分、副業・兼業を行う労働者の健康確保については、これまで以上に万全を尽くす必要がある。また、同一の使用者の命令に基づき複数の事業者の下で働いているような場合に、割増賃金規制を逃れるような行為がなされないように制度設計する必要がある」と、制度見直しを行う際の留意点も指摘した。

(調査部)