時間外・休日労働時間の上限規制は引き続き現状を注視
 ――厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書 労働時間法制の具体的課題(1)〔最長労働時間規制(実労働時間規制)〕

スペシャルトピック

厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」がまとめた報告書は、総論的課題を論じるだけでなく、労働時間法制の具体的な課題についても、大きく、(1)最長労働時間規制(実労働時間規制)(2)労働からの解放に関する規制(3)割増賃金規制――の3テーマに分けて、現行の法規制の体系的整理を念頭に置いて論じている。以下、順にその内容をみていく。

(1)最長労働時間規制(実労働時間規制)

最長労働時間規制(実労働時間規制)については、①時間外・休日労働時間の上限規制②企業による労働時間の情報開示③テレワーク等の柔軟な働き方④法定労働時間週44時間の特例措置⑤実労働時間規制が適用されない労働者に対する措置――の5点について議論している。

時間外・休日労働時間の上限規制

上限規制による労働時間短縮の効果はある程度表れている

「時間外・休日労働時間の上限規制」からみていくと、「原則:月45時間、年360時間、特別条項:単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間」を上限規制とした働き方関連法が2019年4月から施行されたことなどにより、「全体の時間外・休日労働は緩やかに減少している」が、報告書は、「上限規制による労働時間短縮の効果はある程度表れていると考えられるものの、2020年(令和2年)以降は新型コロナウイルス感染症の影響が無視できないことなどから、現時点では、上限そのものを変更するための社会的合意を得るためには引き続き上限規制の施行状況やその影響を注視することが適当ではないかと考えられる」とした。

同時に、「時間外労働の上限を36協定の原則である月45時間・年360時間に近づけられるよう努めていくべき」と言及するとともに、自動車運転者や医師などについて、2024年度から時間外・休日労働時間の上限規制が適用されるようになったものの、「なお一般より長い上限が適用されているため、健康確保措置の在り方や、一般の上限規制の適用に向けた取組をどのようにするかを議論すべきである。これらについては引き続き中長期的に検討していく必要がある」との考えを示した。

働く人を「守る」という観点からは、労働時間の情報開示等により企業による自主的な労働時間短縮を促進する取り組みや、休日等の労働からの解放に関する規制について「早期に対応可能な取組もあるのではないかと考えられる」とした。

企業による労働時間の情報開示

企業の時間外・休日労働の正確な情報開示が望ましい

2つめの「企業による労働時間の情報開示」については、企業外部への情報開示と、企業内部への情報開示・共有に分けて、検討の方向性を示した。

企業外部への情報開示からみていくと、報告書は、労働基準法の強行的な規制による労働時間の短縮のほか、労働市場の調整機能を通じて、個別企業の勤務環境を改善していくためには、「労働者が就職・転職に当たって、各企業の労働時間の長さや休暇の取りやすさといった情報を十分に得て、就職・転職先を選べることが必要」だと強調。長時間労働の是正について考えると、「特に企業の時間外・休日労働の実態について、正確な情報が開示されていることが望ましい」とした。

現行法制では、企業の時間外・休日労働の実態に関する情報について、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」や「次世代育成支援対策推進法」に基づく認定制度等の企業による自主的な取り組みを促す仕組みを含め、各制度の目的に応じて様々な情報開示の仕組みがすでに設けられているが、報告書は、これらの情報について「労働者・求職者が一覧性をもって閲覧できるようになることが望ましいと考えられる」とした。

企業内部では情報開示・共有の目的の整理を

企業内部への情報開示・共有については、労働時間の情報の開示・共有について「誰に対して、どのような目的で開示・共有し、何を改善していくのかを整理することが必要」だとした。

また、衛生委員会や労働時間等設定改善委員会等の労使の会議体への情報開示を例にあげて、「例えば衛生委員会においては長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関することが調査審議事項とされているように、実質的な議論をする上で非常に重要となる」と指摘。さらに、36協定などの労使協定を締結する際に過半数代表に対して情報を開示していくことは、「必須と考えられる」などとした。

労働者個人への開示は法違反の是正に資する

一方、労働者個人に対する情報開示によって改善を促すことについては、「自主的な行動変容によって労働時間を短縮できるのは、ある程度働き方に裁量のある労働者に限られるのではないかという懸念もある」としながら、「個別の労働者に対する情報開示は、割増賃金が適正に払われているかを確認し、労働基準法違反の状態の発生を防止し、あるいは迅速に是正することにも資するものといえる」とした。

報告書はまた、管理職が状況を把握できるようになることは、「企業による労働時間短縮の取組を強く促すという点で有効と考えられる」などとした。

テレワーク等の柔軟な働き方

フレックスタイム制度の改善やテレワーク時の新たなみなし制を検討

「テレワーク等の柔軟な働き方」については、①「テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にも活用しやすいよう、コアタイムの取扱いを含め、テレワークの実態に合わせてフレックスタイム制を見直すことが考えられるか」②「緩やかな時間管理の中でテレワークを行い、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け等もある中で、客観的な労働時間が測定できるか否か、測定できるとしてもプライバシーの観点から測定するべきか否かという観点から、実効的な健康確保措置を設けた上で、テレワーク時の新しいみなし労働時間制を設けることが考えられるか」――という2つの視点をもとに、フレックスタイム制の改善や、テレワークを行う際の新たなみなし労働時間制の導入可否について検討した。

フレックスタイム制度の改善については、在宅勤務の場合には1日の勤務のなかでも労働の時間と家事や育児等の労働以外の時間が混在しがちであり、「こうしたことへの対応等のための中抜け時間が細切れに発生する可能性があること等」もふまえると、テレワークでの柔軟な働き方に対応した労働時間制度としてフレックスタイム制を活用することが考えられると提起した。

しかし現行制度においては、フレックスタイム制を部分的に適用することはできないため、「テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にフレックスタイム制を活用しづらい状況がある」と指摘。そのため、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にも活用しやすいよう、テレワークの実態に合わせてフレックスタイム制を見直すことが考えられるとした。

在宅勤務に限定した新たなみなし労働時間制を提起

もう1つの視点であるテレワーク時のみなし労働時間制については、まず、既存の「事業場外みなし労働制」と「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」のいずれについても、要件を満たさなければみなし労働時間制を適用できないことを指摘。

また、テレワーク時の労働時間の管理について、フレックスタイム制であっても使用者による実労働時間管理が求められる以上、そのことを理由として使用者が自宅内での就労に対する過度な監視を正当化したり、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間など実労働時間数に関する労使間の紛争が生じ得るといった懸念もあると指摘した。

こうした理由から報告書は、「仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて、実労働時間を問題としないみなし労働時間がより望ましいと考える労働者が選択できる制度として、実効的な健康確保措置を設けた上で、在宅勤務に限定した新たなみなし労働時間制を設けることが考えられる」と提起。

その場合は、「その導入については集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、そして、制度の適用後も本人同意の撤回も認めることを要件とすること等が考えられる」と付言した。

新みなし労働時間制は懸念点もふまえ継続的な検討が必要

報告書はまた、在宅勤務を対象とする新たなみなし労働時間制に関しては、テレワーク中の長時間労働を防止するという観点から、「健康確保のための時間把握や健康状況を確認するための取組が必要になるのではないか」「本人同意の撤回権を設定しても、例えば撤回するとテレワークができなくなるというような制度設計の場合、事実上撤回権を行使できなくなる」などといった懸念や意見も示されていることから、実態を把握したうえで、「実効的な健康確保の在り方も含めて継続的な検討が必要であると考えられる」と述べた。

法定労働時間週44時間の特例措置

週44時間の特例措置は「おおむねその役割を終えている」

常時10人未満の労働者を使用する事業場であり、かつ商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業において法定労働時間を週44時間に緩和する特例措置について報告書は、対象となる事業場の87.2%が特例措置を使っていないという統計をもとに、「概ねその役割を終えている」と指摘し、現状のより詳細な実態把握とともに、特例措置の撤廃に向けた検討に取り組むべきとした。

実労働時間規制が適用されない労働者に対する措置

管理監督者等への健康・福祉確保措置を検討すべき

実労働時間規制が適用されない労働者に対する措置については、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度では導入過程で健康・福祉確保措置が設けられた一方、管理監督者等については、労働安全衛生法において労働時間の状況の把握が義務化され、長時間労働者への医師による面接指導の対象とされてはいるものの、労働基準法制定当時から現在に至るまで、特別な健康・福祉確保措置は設けられていないことから、「管理監督者等に関する健康・福祉確保措置について、検討に取り組むべきである」と主張した。

また、その際は、「管理監督者については、労働基準法上の要件に合致する者がそのまま管理監督者として労働時間規制の適用除外となるという制度となっており、健康・福祉確保措置を導入要件として設けている裁量労働制や高度プロフェッショナル制度とは法律上の立て付けが異なっているため、より効果的に健康・福祉確保措置を位置付けることができるよう、労働基準法以外の法令で規定することも選択肢として、その内容を検討すべきである」とした。

さらに報告書は、「本来は管理監督者等に当たらない労働者が管理監督者等と扱われている場合があると考えられる」として、「現行の管理監督者等についての制度趣旨を踏まえて、その要件を明確化することが必要と考えられる」とした。

※労働時間法制の具体的課題(2)労働からの解放に関する規制(3)割増賃金規制、の内容は別記事に続く。

(調査部)