4割超の会員企業がカスハラ対策を実施済もしくは検討中
 ――経団連「ハラスメント防止対策に関するアンケート調査結果」

ハラスメントを巡る動向

カスハラ対策への認識が社会に浸透しつつあるとともに、企業にとっても対応の必要性が高まるなか、経団連(十倉雅和会長)は1月21日、会員企業を対象に実施した「ハラスメント防止対策に関するアンケート調査結果」を発表した。それによると、顧客・取引先などからのカスハラ防止対策では、43.2%の企業が対策に前向きな姿勢を示した。就活等ハラスメントでも、約6割の企業が積極的に取り組むと回答。いわゆる「自爆営業」についても、取り組みを推進・検討している企業が約2割あることもわかった。

調査は2024年8月7日~9月6日、会員企業1,621社を対象に実施し、222社(製造業102社、非製造業120社)からの回答をまとめた。回答率は13.7%。調査では、カスハラや就活時などのハラスメント防止対策に関する取り組みと、自爆営業防止に関する方針・規定等の状況を聞いている。

73.3%の企業が従業員を対象とした相談窓口を設置

カスハラへの防止対策の状況をみると、24.3%の企業が「対策を取りまとめて実施している」と回答。「現在、対策を取りまとめるべく検討している」(18.9%)とした企業と合わせて、4割超(43.2%)の企業が対策に前向きなことがわかった。その一方で、「対策が必要と認識」していながら、特に対応をしていない企業が3割弱(27.5%)。「対策が必要とは認識しておらず、特に対応していない」企業も2割強(22.1%)あった。

カスハラ防止の具体的な対策(複数選択)としては、「従業員を対象とした相談窓口の設置(ハラスメント対応部署等の社内窓口)」が73.3%で最も多く、次いで、「社内向けの対応マニュアルの策定」(61.7%)、「顧問弁護士や警察等との連携」(60.0%)、「カスハラ発生時の社内体制の構築」(58.3%)などとなった。

企業は基準の策定や判断の難しさに苦慮

また、調査が「カスハラ対応で苦慮している点」を自由記述で尋ねたところ、「カスハラと一般的なクレームの線引きや判断基準の策定・運用することが困難」「顧客という関係性があるため、強く指摘ができない。また情報収集も顧客側にはしづらく、判断が曖昧になる」「犯罪行為とまではいえない『不当要求』や『迷惑行為』の定義や基準について、社会的なコンセンサスがない」「カスハラに対し毅然とした対応を行う基準を策定した場合、従業員に誤った伝わり方をすれば、『自身の行為の正当化』や『カスハラ撲滅ムードへ悪質な便乗』の発生リスクがある」などといった基準の策定や判断の難しさをあげる意見が目立った。

現場の負担増や従業員のケアを心配する声も

さらに、「マニュアルの策定や研修を実施しているもののカスハラの態様は様々であるため、現場の対応力に依拠せざるを得ない」「カスハラに対する対応者が、(メンタル含め)対応ができる能力のある一部の社員に偏ってしまう」「2024年問題により人手不足が深刻な課題となり、顧客(取引先)からの過剰な要求や無理な納期の押し付けが増加し、精神不調に陥る事態が発生している」といった現場の負担を懸念する声も少なくなく、なかには、実際に「カスハラを受けた従業員のケア(実際にカスハラを受けた社員が退職したケースもある)」を指摘する声や、「SNS等で拡散されてしまうリスクがある」ことを不安視する意見も寄せられていた。

定義・基準の明確化に加え何らかの規制も必要

こうした意見もふまえ、政府への要望を尋ねた問いでは、「カスハラに関する法制面の整備」「カスハラの定義および判断基準の明確化、浸透」「消費者に対する意識啓発・教育の強化」などのルール化とその浸透を求める意見があがったほか、「第三者機関などから確認、指導が入る仕組みの構築」「SNS等への根拠のない情報流布に対し、発信元を公表することの義務化」「警察の対応強化」といった何らかの規制を求める意見も寄せられていた。

広がりつつある就活等ハラスメント

就活等ハラスメントについては、「対策を取りまとめて実施している」(48.2%)と「現在、対策を取りまとめるべく検討している」(11.7%)を合わせて、約6割(59.9%)の企業が積極的に取り組みを推進・検討中。今は特に対応していないものの、「対策が必要と認識している」企業も約2割(20.7%)あるなど、取り組みが広がりつつある様子がうかがえる。

そのうち、就職活動中の者(学生や経験者採用応募者等)を対象に実施している取り組みは、「リクルーターや採用担当者等を対象とする面談時等のルールの策定」(73.6%)が最も多く、次いで「リクルーターや採用担当者等向けの研修の実施」(69.1%)、「ハラスメント行為者に対する処罰の明確化」(45.5%)などの順。インターンシップ中の者を対象に実施している取り組みとしては、「インターンシップ受入れ部署の担当者等を対象とするルールの策定」(60.2%)が最多で、これに「インターンシップ受入れ部署の担当者等向けの研修の実施」(58.2%)、「ハラスメント行為者に対する処罰の明確化」(42.9%)などが続く。

自爆営業には、約2割の企業が能動的な取り組みを推進・検討

最後に、使用者が労働者に対して労働者の自由な意思に反して使用者の商品・サービスを購入させる行為である「自爆営業」の防止に関しては、「取組みが必要とは認識しておらず、特に対応していない」企業が4割強(44.1%)を占めたが、約2割(19.8%)の企業では、能動的な取り組み(営業推進に関する方針・規定や研修などに自爆営業を行ってはならない旨の内容を「盛り込んでいる」(15.3%)と「盛り込むべく検討している」(4.5%)の合計)を推進・検討していることが判明。「取組みが必要と認識」している企業も約1割(13.1%)あった。

(調査部)