カスタマーハラスメント対策を事業主の雇用管理上の措置義務に
 ――今後予定される女性活躍の推進と職場におけるハラスメント防止対策の強化の内容

ハラスメントを巡る動向

厚生労働省は、昨年末に労働政策審議会雇用環境・均等分科会がとりまとめた報告「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」をうけ、カスタマーハラスメント対策や就職活動におけるセクシュアルハラスメント対策などを強化するため、法改正などに向けた作業を進めている。1月27日には、カスタマーハラスメント対策を事業主の雇用管理上の措置義務とすることや、女性活躍推進法の期限の延長などを盛り込んだ「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」が労働政策審議会で了承された。分科会報告の内容から、今後、措置が予定される主な制度改正の内容を眺める。

国が社会における規範意識の醸成に取り組むことを法律で規定

職場におけるハラスメント防止対策の強化では、事業主の雇用管理上の措置義務が法律上定められているセクシュアルハラスメントなど4種類のハラスメント規定とは別に、一般に職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨の規定を、法律に設ける。

ハラスメント対策の強化は女性活躍の推進においても重要なことから、女性活躍推進法の基本方針に定めるべき事項としてハラスメント対策を法律上も明確に位置づけたうえで、基本方針に明記する。

事業主が講ずべき具体的な雇用管理上の措置は指針で明確化

ハラスメントのうち、カスタマーハラスメントに関する対策については、労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とする。対象となる行為の具体例や、事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容は、指針で明確化する。

取り組みにあたっては、中小企業を含め、足並みを揃えて取り組みを進める必要があることから、国が中小企業等への支援に取り組む。さらに業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様が異なるため、厚生労働省が消費者庁、警察庁、業所管省庁などと連携し、各業界の取り組みを推進する。

「正当なクレーム」との線引きは指針で明確化

カスタマーハラスメントの定義については、①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること③労働者の就業環境が害されること――の3要素をすべて満たすものであるとし、実態に即したものであると規定する。

そのほか、カスタマーハラスメントと「正当なクレーム」の線引きを指針で明確化する。客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われた「正当なクレーム」はカスタマーハラスメントにあたらないことや、消費者法制に定められた消費者の権利などを阻害しないものであることなど指針において定めるべき事項とする。

さらに、事業主が他の事業主から当該事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合は、これに応じるよう努めなければならない旨を法律で規定する。

加えて、事業主が他の事業主から雇用管理上の措置への協力を求められたことを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除するなどの不利益な取扱いを行うことは望ましくないものであることを、指針において明記する。

国は、消費者教育施策と連携を図り、カスタマーハラスメントを行ってはならない旨の周知や啓発を行う。

就活等でのセクシュアルハラスメント防止も事業主の義務に

就職活動中の学生などの求職者に対するセクシュアルハラスメントの防止について、職場における雇用管理の延長として捉えたうえで、事業主の雇用管理上の措置義務とする。措置の内容については、セクシュアルハラスメント防止指針の内容を参考とする。

就職活動中の学生などの求職者に対するパワーハラスメントについては、どこまでがそれに該当する行為なのか社会的共通認識が形成されていない現状をふまえて、パワーハラスメント防止指針などにおいて記載の明確化を図りつつ、周知や防止に向けた取り組みを推進しながら、社会的認識の深化を促していく。

パワーハラスメントではまた、使用者がノルマ達成などを理由に労働者に自社製品の購入を強いる「自爆営業」に関して、職場におけるパワーハラスメントの3要件を満たす場合にはパワーハラスメントに該当することについて、パワーハラスメント防止指針に明記する。

女性活躍推進法の期限を10年間延長

女性活躍推進法については、時限立法のため、2026年3月末に期限を迎えるが、男女間賃金格差などの課題が依然として存在していることをふまえ、期限をさらに10年間延長したうえで見直しを行う。

男女間賃金差異の情報公表については、指標の大小それ自体のみに着目するのではなく、改善に向けて取り組むことが重要であることから、支援策の充実等を通じて、改善に向けた企業による一連の取り組みを促すとともに、「説明欄」のさらなる活用を促す。

現在、常用雇用労働者数301人以上の企業に義務づけられている男女間賃金差異の情報公表については、その対象を拡大し、常用雇用労働者数101人以上300人以下の企業においても、男女間賃金差異の情報公表を義務化する。

女性管理職比率の公表を101人以上の企業で義務化

女性管理職比率については、男女間賃金差異の大きな要因の1つであることや、女性のロールモデルなどキャリア形成の実態を表す指標であることから、常用雇用労働者数101人以上の企業において、新たに公表を義務化する。

そのうえで、新たに「説明欄」を設け、追加的情報公表や男女別管理職比率を参考値として記載することを促す。

情報公表を行うにあたっては、企業における女性の活躍状況に関する情報を一元的に集約した厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」を利用することが適切であることを示すとともに、その認知度が高くないことをふまえて、国は課題の解消に取り組む。

行動計画策定時に女性の健康支援を盛り込む

職場における女性の健康支援の推進のため、事業主行動計画策定指針を改正し、企業が一般事業主行動計画を策定する際に女性の健康支援に取り組むことを盛り込む。あわせて、女性の健康支援について、法律の理念などに位置づけを与える。

女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定や届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が一定の要件を満たした事業主が認定される「えるぼし認定」については、3段階あるうちの認定1段目の要件について、認定制度は実績を評価するものであるということに留意しつつ、見直しを行う。

そのうえで、職場における女性の健康支援に積極的に取り組む企業のインセンティブになるよう、「えるぼし認定制度」において、女性の健康支援に関するプラス認定の仕組みを設ける。

(調査部)

2025年3月号 ハラスメントを巡る動向の記事一覧