繁忙期に利用できる企業内学童保育を導入し、忙しい時期だからこそ社員が子育てと仕事を両立できる環境を整備
 ――LEGOLAND Japan合同会社が推進する社員が働きやすい職場づくり

企業取材

屋外型テーマパーク「レゴランド・ジャパン」などを運営するLEGOLAND Japan合同会社は、夏休みやゴールデンウィークに利用できる無償の企業内学童保育を導入し、社員が繁忙時期でも子育てと仕事を両立しやすい環境を整備している。子どもを預けている社員以外も子どもと交流する機会が生まれ、また、子どもの声が社内に聞こえてくることで、会社全体が明るい雰囲気になったという。また、育児・介護を目的とした選択的週休3日制の導入や身だしなみ基準の改訂も行うなど、全社員が働きやすい職場づくりも推進している。

「レゴランド・ジャパン」をはじめ3施設を運営

LEGOLAND Japan合同会社は、全世界で約140カ所のアトラクション施設や15のホテルなどを展開するヨーロッパ1位、世界2位の企業「マリーン・エンターテインメンツ」(英国)の傘下として、2013年に創設。2017年に世界で8番目のレゴランドとして開業した屋外型テーマパーク「レゴランド・ジャパン」(以下パーク)や、2018年に開業したパーク併設のリゾートホテル「レゴランド・ジャパン・ホテル」(以下ホテル)、水族館「シーライフ名古屋」(以下水族館)も合わせたレゴランド・ジャパン・リゾートを運営している。

従業員数はパーク、ホテル、水族館とオフィスを合わせて約1,600人。うち正社員は約360人で、残りはパート社員となっている。パート社員まで含めると社員の年齢層は15歳(高校生)~70歳以上までと幅広い。男女比は全体で1:2と女性のほうが多く、正社員に絞るとおおよそ1:1となっている。

パーク、ホテル、水族館で働く正社員の勤務形態は、働く分野や職種にもよるが、基本的に週休2日のシフト制勤務となっており、1カ月の変形労働時間制(週の実働時間は平均40時間)が採用されている。オフィスは週休2日の9時~18時勤務が基本となり、休日は一律土日の固定ではなく、部署や各社員の業務をふまえてそれぞれ設定されている。

企業内学童保育はオフィス内に新設し、無償で利用できる

同社は働きやすい環境づくりの一環として、パークに隣接するオフィス内に専用キッズルーム「にこにこハウス」を新設し、2024年3月から、春休みや夏休みなどの長期休暇期間の繁忙時期限定で、無償の企業内学童保育を導入した。預けることができるのは、同社の正社員やパート社員の子どものうち、小学校1年生~6年生までの子どもとなっている。

「にこにこハウス」は、名古屋市の小学校の長期休暇(春・夏・冬)や、ゴールデンウィークに合わせて、毎日おおむね8時~19時まで開所している(開所時間はリゾート開園スケジュールに合わせる)。

定員は1日15名までで、利用を希望する社員は、専用のLINEアカウントを通じて、子どもを預けたい日を予約することができる。なお、運営は、委託業者の保育士や小学校教諭経験者など専門スタッフが担当している。

「にこにこハウス」にはレゴブロックがいっぱいに入ったプールや、壁にレゴブロックを貼り付けられるエリアなどが用意され、子どもたちが自由に遊ぶことができるようになっている。そのほか、絵本や本が置いてある自習スペースや、親子でお弁当・おやつを食べることができるお食事スペースも完備されている。

シフト制社員が繁忙時期でも勤務しやすくすることが狙い

「にこにこハウス」を導入した背景について、ピープル(人事部)ピープルディレクターの川瀬広行氏は、「特にパークやホテル、水族館で働く社員はシフト制で、忙しい時期ほど現場にいてもらわないといけなくなり、子育てと仕事の両立が難しい状況だった。子どもを預けてもらいながら、繁忙時期となる長期休暇期間等でもシフトに入ってもらいやすくすることが狙いだった」と話す。

2歳から12歳の子どもたちとその家族に向けたテーマパークを運営している観点から、会社としても、子育てをしている自社の社員に対して何かできないかという問題意識を持っていた。「働きやすい職場にしていきたい」とのメッセージを社内で発信しており、その1つの取り組みとして、この企業内学童保育が実現している。

アンケートやインタビューを行い具体的なニーズを把握

かねてより子ども連れの出勤や、学校の長期休暇中の社内の預かり場所の導入については、現場の社員からも要望の声はあがっていたが、正確なニーズを把握していなかった。そこで同社は、2023年5月末~6月初頭に、子育て中の社員および子育て予定の社員を対象に「育児と仕事の両立支援に関するアンケート」を実施。預けたい子どもの年齢層や、預けたい時期など、細かく尋ね、ニーズを絞り込んでいった。

また並行して、社員約10人を対象にインタビューを行い、アンケートだけでは把握しきれない生の声や思いを拾い上げたり、同じサービス業界で先行して同様の取り組みを行う企業との意見交換や、愛知県が実施する子育て支援員研修の受講を通して、どのような環境が必要なのかを学んだ。

同社のピープル(人事部)ラーニング&ディベロップメント、エンゲージメントの伊藤智子氏は、「セキュリティ面や安全衛生面を不安視する意見も寄せられたので、委託会社と情報を共有しながら、社員が安心して預けられる施設を整備した。ほかにも、準備過程では子育て中の社員からその都度具体的な意見を取り入れ、足りない部分を補っていった」と話す。

「にこにこハウス」は、川瀬氏や伊藤氏が所属するピープル(人事部)があった部屋をリノベーションして設置することとなり、運営・工事のための予算準備や室内の改装なども急ピッチで進め、約9カ月という早いスピードで導入に至った。

パーク内散策や社員が講師となって子どもたちに教えるプログラムも実施

「にこにこハウス」では、日替わりで子どもたちが遊べるプログラムも用意。一般的なプログラムのほか、「せっかく当社でやるので、うちらしさを体験してもらうような内容も組み込みたい」(川瀬氏)との考えから、委託会社と連携し、週に2~3回、パークやホテル、水族館を散策するプログラムを組み込んだ。

各施設の業務の繁忙時期と重なるため、「『どの時間帯であれば子どもたちが訪れても対応できるのか』をそれぞれのエリアに確認しながら調整することがとても大変だった」そうだが、子どもたちにとってはテーマパークを楽しめたり、現場で働く親の姿を間近で見られたりと、貴重な機会になった。

また、現場の社員に講師になってもらうプログラムも企画。例えば、パーク内のアトラクションなどをメンテナンスする技術部門の社員が電気の仕組みについて説明したり、パーク内の植栽担当と一緒になって子どもたちがバックオフィス近辺で野菜を育てたりするプログラムを実施した。

ほかにも、季節に合わせたイベントとして、子どもたちが段ボールや新聞紙などを使い、手作りの夏祭りやお化け屋敷を開催している。準備段階から子どもたちが時間を忘れて夢中になってくれたほか、社員も業務の合間に立ち寄って交流することができ、子どもも大人も楽しむことができるイベントとなった。

子どもたちの保護者だけでなく、ほかの社員にも好評に

「にこにこハウス」は導入以降、ゴールデンウィークや夏休みに実施されてきたが、「夏休みの約3割の日程は満室で、キャンセル待ちが出るような状況」(伊藤氏)で、全日程を平均すると1日10人程度と、高い利用率になっている。

子どもを預けている社員は全体のなかでも少数であり、当初は反発があるのではないかと考えていた。「にこにこハウス」もオフィス内の執務エリアの近くにあることから、「子どもたちの声が漏れ聞こえてくるので、社員から仕事の邪魔になると思われるのではないかと心配していた」(川瀬氏)が、実際に運営すると、子どもを預けている社員に限らずほかの社員も、仕事の合間に子どもたちの様子を見に来るなど、交流しに来てくれたという。

「社内に子どもたちが楽しんでいる声が聞こえてくると会社全体が明るくなり、社員も楽しんでくれていた。『レゴランド・ジャパンは子どものためのテーマパーク』ということをあらためて社員が認識することにもつながり、会社に対する誇りや、『自分がここで働いていて良かった』という思いになったのではないかと感じる」(伊藤氏)

夏休み期間の実施後に行ったアンケートでは、保護者である社員から、「子どもたちが喜んでくれた」「『明日も来たい!』と楽しそうだった」などの声が寄せられた。それ以外の社員からも、「子どもたちと交流できたことがありがたかった」などのポジティブな反応があり、社内全体で好評な取り組みとなっている。

育児・介護を目的として希望者が利用できる選択的週休3日制も導入

同社では企業内学童保育以外にも、社員が働きやすい職場づくりの取り組みを推進。その1つが、2023年9月から導入している育児・介護を目的として希望する社員向けの、選択的週休3日制だ。

対象となるのは、小学校卒業までの子を養育する正社員、および要介護状態にある家族を持つ正社員で、希望すると、年間休日数が通常の120日から156日に増え、毎月所定分の休日が付与される。

制度は、①「総労働時間維持型」(同じ月内で週40時間の労働時間を維持しながら週休3日を取得することで給与を減額しない)②「報酬削減型」(勤務実態に応じて給与等が減額される)――の2種類があり、適用したい時に好きなタイミングで選択することができる。

同制度は、社員へのアンケートを通じてニーズを確認するなど、経営陣からの意見もふまえ、積極的に取り入れたもの。導入以降、利用者は若干名にとどまっているが、今後、育児・介護に従事する社員が必要に応じて柔軟に働き方を選択できるよう、制度の見直し・充実を継続的に行っていく考えだ。

身だしなみ基準「グルーミングスタンダード」も改訂

同社はほかにも、2022年4月末から、レゴランド・ジャパン・リゾートの全施設(オフィスも含む)の正社員・パート社員全員を対象としている身だしなみ基準「グルーミングスタンダード」のルールを改訂。以前は髪の毛の色味やひげの禁止など、男女別で細かくルール化していたが、性別による区別もなくし、「安全・衛生・異物混入に配慮すること」「きれいに整え、清潔にすること」「不快感や威圧感を与えないこと」などを考慮したうえで、各社員の裁量に委ねる形式を取った。

改訂は、「『社員の自主性、多様性を重んじる社内風土を表現したい、社員のマインドセットを変えていきたい』との考えのもと、本多社長の後押しを受け、現場の若手社員がプロジェクトリーダーとなって推進した」と川瀬氏は話す。

社内でも、細かいルール設定を変えたいとの意見は上がっていた一方、「明確に決まっているほうが守っていない社員がいた時に注意しやすい」「これまでと同様にサービスのクオリティが保たれるのか」「ゲストがどう思うのか」など、不安な声は少なからず寄せられていた。

しかし、実際に導入してみると、社員たちはのびのびと個性を表現できるようになり、大きな問題も発生していない。採用活動においても、学生からグルーミングスタンダードを好意的に捉えてもらうことが多く、「当社の自由な社風に共感し、入社したいと言ってくれる人が増えた」(伊藤氏)そうだ。

企業内学童保育は実施日程・時間の拡大や未就学児の預かりが課題

社員が働きやすい環境づくりの取り組みについて、課題を尋ねると、「企業内学童保育は、通年で土日に預かってほしいという要望や、ホテルの早い時間帯・遅い時間帯のシフトに合わせて開所時間を広げてほしいという声がある」(伊藤氏)そうで、限られた予算のなかでどこまで実施日程・時間を拡大できるか、検討している。

また、未就学児の預かりを要望する声も根強く、「小学生と幼稚園の兄弟がいる親だと、両方預かってもらえないと出社できないという状況がある」ことから、今後対応できないか、模索していく考えだ。

社員の要望を拾い上げ実現させる取り組みを推進

また同社では、社員の声を徹底的に聞き、改善する取り組みに注力しており、より推進していきたいと考えている。各部署の社員の代表に職場環境や働き方について意見を出してもらう取り組みや、社員の提案を拾い上げられるように、いわゆる目安箱にあたる入力システムを、社内に複数箇所配置している。

入力システムでは、社員が好きなタイミングで提案や改善アイデアを入力することができる。そこに寄せられた内容は毎週、社長、ゲストサービス、オペレーション、ピープルの責任者などで構成された会議で議論され、すぐに実施するもの、見送るものなどと選別される。2023年には数百件の入力があり、そのうちおよそ100件の提案を採用、うち8割が実現されている。企業内学童保育、選択的週休3日制、グルーミングスタンダードも、ここを原点として議論されてきたものだ。

社長が会議に出席していることもポイントで、「小さな提案も含めて社長が1つずつ目を通し、その場で『すぐやろう』と決断してくれる」(伊藤氏)ため、実現までのスピードも早いそうだ。会議で議論された結果は社内情報共有のためのSNSや社内掲示板に貼られ、社員全員で共有している。

「社員は、『会社が自分たちの意見をしっかり聞いて、実現してくれる』と感じている。こうした取り組みをさらに推進させて、社員が一緒になって考えたり、意見を言ったりしながら、よりよい会社にしていきたい」と川瀬氏は話す。

(田中瑞穂、奧村澪)

企業プロフィール

  • LEGOLAND Japan合同会社
  • 所在地:愛知県名古屋市港区金城ふ頭2丁目2番地1
  • 設立:2013年6月17日
  • 代表取締役:本多 良行
  • 従業員数:約1,600人(パート社員を含む)*取材時点(2024年11月)

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