一人ひとりが毎年、年間休日数を決定でき、最大で150日とすることも可能に
 ――オールコネクトの年間休日選択制

企業取材

通信販売の成長企業であるオールコネクトでは、2020年7月から「年間休日選択制」を運用しており、社員が個人のニーズに応じてワーク・ライフ・バランスを実現できる職場づくりを図っている。同制度では、年間休日数を最大で150日まで設定することが可能。また、毎年、変更できるようにしていることから、ライフステージに合わせた選択もできるようになっている。休日が増えることによる生産性の低下は、成果を客観的かつ公正に測る評価制度の運用でカバーしている。

グループ連結売上高434億円まで成長

同社は、福井県福井市に本社を置く通信販売企業。現社長の岩井宏太氏が、2005年に大学を卒業すると同時に起業し、現在は、グループ連結売上高434億円(2024年2月)にまで成長している。東京・浜松町にも、事業部が中心となる東京支店を置いており、都内と大阪にコールセンターの拠点も持つ。従業員は、グループ全体で551人を抱える。

柱となる事業は、「販売代理業」「MVNO事業」「EC/メディア事業」「地域振興事業」。「販売代理業」は創業からの事業であり、キャリア(通信事業者)と契約して、通信の販売・営業を代行している。通信のWeb販売では、国内最大級の取次件数を誇るという。

「MVNO事業」では、大手キャリアから通信回線を借りて、光回線、Wi-Fiサービスなどを販売。「EC/メディア事業」では、同社で扱う商品やサービスを、メディアやECサイトを運営して紹介し、販売している。

「地域振興事業」は2019年頃から開始した事業で、本社を構える福井を「にぎやか」にしようと、音楽フェス、アリーナ、プロバスケットボール、観光の分野で施策を展開している。プロバスケットボールの「福井ブローウィンズ」(B2東地区)は、同社が中心となって立ち上げたチームだ。

5パターンの休日数から選ぶことができる

そんな同社は、2020年7月、社員が自分で年間の休日数を選択できる「年間休日選択制」を導入した。同制度では、社員は年間休日数を、107日、120日、130日、140日、150日の5パターンから選ぶことができる。120日では、ほぼ土日と祝日がすべて休日となるレベルで、130日はそれに毎月1日の休日が加わるイメージ。140日以上となると、週休3日の週が入ってくる。

140日や150日を選べば、多くの日数をレジャー、育児や介護、学習などにあてることができる。逆に、バリバリ働きたければ、107日を選べばよい。107日では、もし、土日を休日に設定するなら、祝日はほぼ勤務日となる。

社員の選択の状況をみると、107日が約30%、120日が約60%、130日が約7%、140日と150日が合わせて2~3%程度となっている。

もともとは107日で新卒の採用力に課題

なぜ、「年間休日選択制」を導入したのか。人事部部長の小林美奈子氏に聞くと、もともと同社では年間休日数を107日に規定していた。しかし、近年は、就職活動で休日数を重視する学生やキャリア採用者も増えており、「新卒採用における採用力で課題が出てきた」と話す。ちなみに、厚生労働省の「2023年就労条件総合調査」をみると、5割以上の企業で年間休日総数が110日以上となっており、120日以上とする企業も3割以上にのぼる。

また、107日だと祝日も出勤日となるが、同社は女性が多いということもあり(社員の半数は女性)、子どもの学校行事など、どうしても休まざるを得ない日も出てきていた。「その場合は、有給休暇を使わないのなら、欠勤という形で休んでもらっていたが、欠勤では無給となるので、対外的なことを考えても、他社並みの休日制度をつくりたいという声が社内からあがっていた」と小林氏は振り返る。

年1回、変更することが可能

「年間休日選択制」の仕組みを詳しくみていくと、社員は毎年1回、どの休日数にするか選択(変更)できる。1月~12月を1年の単位としているので、前年の12月には本人に決めてもらう。この毎年変更できるという点も、社員からは好評だ。なお、新卒入社社員は、1年目は一律に120日としているが、本人が希望すれば、2年目からさっそく変更することができる。

休日をどの日に当てはめていくかについては、1月~12月の各月において、各社員が休日に設定しなければいけない日数を、会社が5パターンの休日数ごとに定めている。シフト制で動いているコールセンターなど例外の部署もあるが、通常の部署であれば、社員はその休日数にしたがい、どの日を休日とするかを決める。なお、会社のカレンダーとして、一斉に休日と定めている日は、年末年始の12月31日~1月3日しかない。

実際には、土日を休日に設定している社員が多いが、「混雑が嫌いな人があえて祝日に出社して、平日を休みにするなど、取り方はさまざま」(広報・熊谷久氏)だという。

同社は社員の平均年齢がほぼ30歳で、30代以下が8割以上を占める若い人が多い会社だが、そんななかでも、年齢の高い人ほど土日休みを基本とする傾向にあり、若い人ほど自由な設定の仕方がみられるそうだ。ちなみに、ゴールデンウィークや夏休みの特別休暇は設けていないため、例えば、社員が夏休みに長い旅行の予定がある場合は、その年だけ、年間休日を増やしたり、有給休暇を充てることになる。

休日選択制が導入されても実力主義で評価する方針を維持

社員によって休日数が違い、また、休日を多く取る社員がいることで、業務の効率が低下したり、会社にとってコストアップにならないのかという疑問も湧くが、同社はそれ以前から、成果に基づく実力主義の評価制度を取り入れており、そうした弊害を心配する必要はなかったという。

年間休日選択制を導入するにあたっても、働く日数ではなく成果に基づいて評価し、適切に報酬に反映するという方針を貫き、どの年間休日数を選択しても、評価基準を同一とすることで、コストを上げずに生産性の低下を防ぐことができた。

数値目標の達成度だけで評価する

では、どのような評価制度なのだろうか。

同制度では、個人に落とし込まれた数値目標の達成度だけで評価する。そのため、達成状況は数値で明確にでてくる。年齢や勤続年数、また、「がんばっているから」や「上司に好かれている」などの数値以外の要素は一切入ってこない。総務や人事など、たとえ数値で設定しにくい部署でも、「数値にできる指標を見つけて、それを目標に設定していく」(小林氏)という。

この評価を、毎月行うというのがまた特徴的だ。

目標数値を100%達成した場合を100点満点として、まず、ひと月の評価結果を点数化する。これを6カ月分、合計する(満点は600点ということになる)。そしてその合計点にもとづき、査定ランクを付ける。

査定ランクで、昇給(年2回)と賞与(6月と12月の年2回)が決まる。3月~8月の6カ月の査定ランクをもとにして、12月に昇給を行うとともに、12月の賞与に反映する。9月~2月の査定ランクは、6月の昇給・賞与に反映させる。

同じグレードなら同じ難易度の目標を設定

同社は、人事・処遇制度上の社員の格付けランクとして、職務・職位レベルに応じたグレードを数段階で設定している。同じグレードの社員であれば、部署が異なっていたとしても、同じ難易度の目標が設定される。さらに、休日数が多いからといって、休日数が少ない人よりも目標のハードルが低くなることもない。個人の事情に基づかず、目標レベルの横串がきちんと通っているため、評価の公平性が保たれている。

査定ランクの昇給への反映については、グレードごとに「○号俸●▲■円」(実際には具体的な数字が入っている)といった賃金テーブルがあり、査定ランクに基づいて、あらかじめルールで定められた分、号俸が上がるようになっている(下がることもある)。

賃金テーブルを休日数に応じて時間比例に

この賃金テーブルは休日数の5パターンごとに作成されている。107日用の賃金テーブルが基準になり、120日~150日の各テーブルは時間比例で減額されている。つまり、時間単価でみれば公平な金額設定になっている。

これによって、単に休日数が増えることによるコスト上昇は起きない。また、107日を選んでいる人が、自分よりも多い休日数を選択している人に対し、賃金面で「自分より得をしている」という不満を抱くことはない。

賞与については、自分が位置するグレードと査定結果で額が決まるようになっており、同じグレードで同じ査定結果の社員がいたとすれば、その額は同一となる。

複数グレードが上がったり年度途中に昇格することも

昇格についても、査定結果をもとに行っている。実力主義なので、年齢や勤続年数は関係なく、新卒入社2年目でいきなり係長に昇進することもあれば、グレードが3つ、4つ上がるケースも実際にあるという。年度途中に昇格を行うこともある。

こうした評価制度であるせいか、同社は一般的な企業に比べて女性の管理職比率がかなり高く、37.7%と40%に迫る水準にある。

上司と部下で毎週、目標の達成度を確認

各社員が目標達成に近づけるよう、もちろん、上司による部下のフォロー・指導体制も整えている。同社では、毎週、直属の上司と部下が、業務の進み具合などについて、いわゆる1on1ミーティングを行っている。

「基本的に、月間の目標に対する進捗状況や、次のアクションをどうするかを、20~30分程度話し合う。毎週なので大変ではあるが、社内ではもう習慣化しているので、時間がもったいないなどの感覚を持っている社員はいない」(小林氏)

上司や同僚の年齢を気にしない企業風土

また、休日選択制がうまくいっている土壌として、同社の企業風土もあげることができる。

休暇を取得するのに他の社員に気兼ねするような雰囲気がもともとない。また、社員どうしが年齢の上下を気にする風土がなく、若い人が多い会社であることから「年齢が下の人が上司になることは当たり前」(熊谷氏)。そのため、実力主義の評価制度もなじみやすかったとみる。

課題としてあげられるのは異動時の残業程度

年間休日選択制では特に課題はなく、あえてあげるとすれば、多い休日数を選べる環境づくりと、「多い休日数を選んでいる社員が新しい部署に異動した時に、その部署での仕事では不慣れなことから、瞬間的に残業が増えることぐらい」(小林氏)だという。ただ、制度導入前後での会社全体での残業時間数には、変化は見られなかった。といっても、同社の月あたりの平均残業時間は約8.7時間で、もともと通常時の残業は少ない。

同社では、社内のいろいろな制度について意見や要望を社員から吸い上げたいときは、10人程度の社員に参加してもらい、制度改善プロジェクトを組織するようにしている。今は在宅勤務や定期異動などについてのプロジェクトは立ち上がっているが、年間休日選択制については対象とする予定はないという。

時間単位有給休暇制度の導入でさらに柔軟な働き方に

同社は年間休日選択制以外にも、働き方改革に向けたさまざまな施策を打ち出している。2024年9月には「時間単位有給休暇制度」を導入した。

同社の1日の就業時間数は8時間で、制度導入前は、1日の前半か後半に4時間の休暇を取る「半日休暇」を採用していた。1時間単位で有給休暇を取得できる同制度の導入により、1時間や2時間で済む通院や子どもの送迎、役所仕事などで、かかる時間分の休暇を取ることができるようになった。同制度についても、社員からの評判は上々だ。

(荒川創太、田中瑞穂)

企業プロフィール

  • 株式会社ALL CONNECT(オールコネクト)
  • 代表取締役社長:岩井 宏太
  • 本社:福井県福井市栂野町第15号1番地2
  • 設立:2005年4月21日
  • 連結売上高:434億円(グループ連結)(2024年2月)
  • 従業員数:551人(グループ連結)(2024年2月)
  • 事業内容:「販売代理業」「MVNO事業」「EC/メディア事業」「地域振興事業」