製造部門等で週休3日となるシフト体制を導入し、残業の大幅削減にも成功
 ――信州ビバレッジの働きやすい環境づくり

企業取材

キリンビバレッジグループで、キリン製品のペットボトル飲料を製造する信州ビバレッジは、製造部門をはじめとした交替勤務制の社員の働き方を見直し、週休3日を取得できるシフト体制を導入している。社員がワーク・ライフ・バランスを大切にしながら働ける環境をつくり出すと同時に、生産性を落とさずに残業時間を大幅に削減することに成功している。また、事務部門でもフレックスタイム制度におけるコアタイムを撤廃し、より柔軟な働き方を推進している。

「午後の紅茶」「生茶」などのペットボトル飲料を製造

信州ビバレッジは2010年に創設。前身は株式会社ナガノトマトの松本工場だったが、同年に分社化し、現在はキリンビバレッジグループとして、「午後の紅茶」「生茶」「自然が磨いた天然水」などのペットボトル飲料製品を製造している。

製造ラインは、小型サイズ(500ml等)、大型サイズ(2L等)、天然水のペットボトル飲料製品(600ml)の3つを保有しており、それぞれのラインで主に①飲料の中味をつくる「調合」②PETボトルを成型し飲料を詰める「成型・充填」③ラベルや梱包を行う「包装」――の3工程を経て、製品がつくられている。社員数は2023年時点で151人となっており、その約3分の2が製造部門に所属している。

残業時間の削減やシフト時間の見直しが必要に

同社は前身でトマトのフレッシュジュースを製造しており、原料となるトマトの収穫・準備時期と重なる6カ月間の繁忙期と、それ以外の6カ月間にあたる通常期で、拘束時間が異なっていた。通常期は1日9時間拘束(うち休憩1時間)を4班3交替で操業していたが、繁忙期は3班2交替での操業となっていたため、通常期にプラス約3時間の残業が毎日発生し、1日12時間拘束となっていた。

当時の残業時間は1人あたり年間約400時間に及んでおり、社員の健康にも影響を及ぼしかねない状態が続いていた。経営側もこの点を懸念しており、製造部門をはじめとした交替勤務制の社員の、残業時間の削減も含めた働き方の見直しが必要とされていた。

通常期のシフトについても課題があった。3交替時の一部のシフトは14時~23時まで拘束されていたが、これについて、経営企画部企画担当部長の吉田行孝氏は、「中途半端な時間に勤務が開始・終了することで、社員からは不評だった。繁忙期に2交替で、朝と夜が逆転する働き方のほうが、オンとオフの切り替えが楽だった」と話す。こうした状況から、繁忙期のシフト時間設定を活用し、通年化できないかという切り口で、現在のシフトが考案された。

班数や休憩時間を増やし週休3日制を実現

現在のシフトは2018年1月から導入。年間を通して日勤(7:30~19:30)と夜勤(19:30~翌朝7:30)の2交替制を採用しつつ、12時間の拘束による負荷の高さを考慮して休憩時間を1時間から2時間に増やし、所定労働時間を10時間に変更した。

班も3班から4班に増やし、途中に週休3日が入るシフトを設定した。基本的なシフトは12日間で1サイクルするようになっており、日勤4日間→休日2日間→夜勤3日間→夜勤3日目終了後(7:30~)から休日3日間のサイクル。これを4班が日程をずらして行っている。

1班あたりの人数は、班数を増やしたことで必要最低限に近い人数になっているものの、各製造ラインの必要人数に合わせて、約20~30人で構成している。シフトメンバーも固定化することで、班内で協力しやすく、スムーズに作業が行えるようにしている。

同日勤務になる日を設定して休暇取得やコミュニケーション醸成を促す

12日間のサイクルのなかでは月に1~2回必ず2班が同時に日勤となる日を設けており、「S(スペシャル)勤務日」としている。以前の繁忙期では取り入れられていなかったが、働き方の見直しに伴い新たに設定した。

「製造部門は稼働中に機械のそばを離れることができないので、2班体制の日を設けることで、休暇を取りやすくしたり、片方の班が機械操作をしている間に、もう片方の班が会議や人材育成など非ライン業務を行うことができる仕組みにした」(吉田氏)

また、コミュニケーションの醸成にも役立てたい考えだ。以前のシフトでは複数の班が同じ日に被ることも多かったが、現在のシフトはメンバーを固定化していることもあり、他の班の社員と交流する機会が少ない。安全点検日(非稼働日)も以前より少しゆとりをもたせるなど、生産の効率化も推進しており、そうした変化のなかで、「コミュニケーションが取りづらくなっていることが問題視されたため、日勤を重ねることを考えた」そうだ。

また、休憩時間を2時間に増やしたことに伴い、休憩室の増設やマッサージチェアの設置、防音対策を施すなど、休憩時間を快適に過ごせるようにする取り組みも実施した。ほかにも、同社には専用の入浴設備が備え付けられており、休憩時間中や勤務終了後にリラックス・リフレッシュできる環境整備が進められている。

残業代の削減分は基本給の引き上げなどで補填

現在のシフト体制を導入するにあたって、労働組合との協議も約1年かけて実施した。12時間の拘束については、繁忙期で皆が経験していたため、異論の声は出なかったものの、課題とされたのは、残業時間の減少に伴う収入の減少だった。

そこで、同社は残業代の削減分を基本給の引き上げで補い、賞与についても、毎年変動していた月数を固定化して安定させる方針に切り替えた。結果として支払い総額は以前から変動しないことになり、労使双方の合意もスムーズに進めることができたという。

年間の残業時間は1人あたり60時間まで減少も生産性は変わらず

年間の残業時間は1人あたり400時間から、なんと60時間まで減少した。総労働時間も2,320時間から1,960時間まで減少し、固定化されているが、生産性は以前と変わっていないそうだ。

シフトの変更に伴い、年間休日数も120日から169日まで増加した。当初は急に休日数が増えたことで、「こんなに休んでもよいのか」と戸惑う社員も多かったが、現在は働き方に慣れたことで、年間休日に加え有給休暇消化率も8割程度にまで上がっている。

1班あたりの人数が減少したことで、メンバーの誰かが病欠などになった場合には生産が滞る可能性もあるが、どのように対処しているのか。吉田氏に尋ねると、「会社としては、そういった時は思い切って、次の班が来るまで機械を止めてしまってもいいと伝えていた。ただ、実際は代わりに出社したいと申し出てくれる社員もいて、今まで止まったことは1回しかない」とのことだった。

連続勤務日数が減ることで社員の体力負荷も改善

新しい働き方は、社員からも好評だ。「以前の繁忙期の2交替は、5勤2休のスタイルを崩しておらず、5日連続で12時間拘束されていた。今は日勤でも4日間、夜勤でも3日間というスタイルで、連続勤務日数が減っているので、体力的にも楽になった」(吉田氏)。労働組合でも働き方・働く環境に関する社員アンケートを実施したが、不満の声はあがってきていない。

また、同社には社員が意見を投函できる目安箱が設置されており、新制度の導入時などにWebアンケートの実施・結果のフィードバックも行っている。見えてきた課題は月に1度開催される労使協議会で議論されており、いつでも社員の声をすくい上げ、改善に活かす仕組みが整えられている。

事務部門ではスーパーフレックスタイムで、より柔軟な働き方を推進

同社では交替勤務制の社員のシフト変更と同時に、事務部門のフレックスタイム制度も見直し、コアタイムを撤廃したいわゆるスーパーフレックスタイムを導入している。同社のフレックスタイム制度はフレキシブルタイムが5:00~22:00で、1日の標準労働時間8時間、休憩1時間、週休2日(土日祝日)という設定となっており、以前は11:00~15:00のコアタイムを設けていた。しかし、コアタイムの撤廃でより柔軟な働き方ができるように変更した。

「今でも、基本は8時30分から17時30分までの時間帯に出社している人が多いが、コアタイムをなくすことで自分の予定に合わせて勤務しやすくなった。以前は11時までには出社していないといけなくて、制限があると使いづらいという声があったが、撤廃されたことで使いやすくなったと感じている」(吉田氏)

事務部門ではスーパーフレックスタイム、製造部門等の交替勤務制対象者では変形労働時間制のシフトが導入されているが、各社員の勤務状況の把握や相互間の連絡方法については、「製造部門にも一部、スーパーフレックスタイムを利用して働いている社員がいるため、そこを介して社員の不在等を確認することで、スムーズに連絡を取り合っている」そうだ。

研修会など年間予定を立ててコミュニケーションの活性化を図る

新しい働き方を運用してきたなかでどのようなところに課題を感じているか。吉田氏に尋ねると、「コミュニケーション機会の増加」と「社員の増員」の2点をあげた。

「コミュニケーション機会の増加」については、「S勤務日」を通してコミュニケーションの醸成を狙ったものの、「実際はその日に休暇を取得する社員が圧倒的に多く、コミュニケーションを深めたいという当初の思惑からは少しずれてしまっている。休暇を取得してもらうことももちろん大切だが、せっかく日勤を重ねているので、もう少し有効活用していきたい」と考えている。

定期的に会議を行える事務部門と比べて、コミュニケーションの機会が少ない製造部門などを対象に、同社は2023年から、年間の「S勤務日」のうちの何日かを「コミュニケーションデー」と設定し、研修会などを開催している。2024年までの2年間、「コミュニケーションデー」はあえて生産を6時間ストップし、社員全員が参加できるようにしていたが、「そうすると生産性も下がってしまうので、『そこまでする必要はないのではないか』との意見もある。2025年からは『S勤務日』について、研修会などの予定を先に立てていく方針でいる」という。

社員増員によるライン増産で、より休暇を取得しやすい環境に

「社員の増員」については、天然水の製造需要が高まっていることから、ライン増産のためにも社員を増員し、新たなシフト勤務の働き方を模索していきたい考えだ。また、コミュニケーションの醸成を促しつつ、休暇をしっかり取ってもらうためにも増員は欠かせない。

「今は1班あたりの人数が必要最低限に近く、余力がないので、『S勤務日』に休暇の取得が増えているのではないかと思う。増員することで、ほかの勤務日でも休暇を取りやすくできるようにしていきたい」(吉田氏)

増員に向けて、同社では新卒採用の採用人数の増加や、これまであまり実施していなかった中途採用にも力を入れている。現在の働き方を取り入れたことで、製造業を希望する大学生からの反響は高く、応募人数も増加しているそうだ。

「休暇が多く柔軟に働ける点が魅力となっていて、会社としてもそこを売りに、採用活動をしている。労働人口が減少しつつある昨今、『募集をしているのに人が集まりにくい、採用に苦労している』という話を聞くことも多いなかで、我々は人材を採用できているほうだと感じている」

元気で長く働き続けてもらうための健康経営を模索

そのほか、吉田氏は新しい取り組みとして「健康経営」をあげた。現在は60歳定年制で、希望者は再雇用制度で65歳まで勤めることが可能となっている。定年者のほとんどが再雇用を希望するため、今後も増加が見込まれるなか、特に長時間労働となる製造部門などの社員がより健康に長く働けるサポートの必要性を感じている。

「働き慣れた職場・部署での継続を希望する社員が多い一方で、現在のシフトは再雇用社員にも適用されるので、ほかの社員と同様に10時間働かなければならない。今後、仮に65歳、70歳まで働いてもらう場合、体力的に元気でないと続けられないし、オペレーションできる社員がいないと我々のような会社は成り立たないので、どういったサポートができるのかを考えている」

非シフト勤務の職場も要員数に限りがあることや、その社員の特性に合わない場合もあることから、なるべく環境を変えずに働き続けられる方法を取りつつ、社員が再雇用になる前から、何かしらの対策・準備ができないか、検討しているところだ。ほかにも、日勤と夜勤を交互に繰り返す現在のシフト以外に、例えば日勤でシフトを組み続けることや、希望者がいれば反対に夜勤シフトを組み続けるなど、シフトについてもより柔軟な対応ができないか、模索を続けている。

(田中瑞穂、奧村澪)

企業プロフィール

  • 信州ビバレッジ株式会社
  • 所在地:長野県松本市今井中道6691
  • 設立:2010年9月30日
  • 代表取締役:袴田 幸一
  • 従業員数:151人(準社員、契約社員、再雇用社員、派遣社員を含む)*2023年11月時点