建設業などでフリーランス法の浸透の遅れが明らかに
 ――公正取引委員会と厚生労働省が「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)」の結果を公表

国内トピックス

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が11月1日に施行された。公正取引委員会と厚生労働省は10月18日、同法施行直前での取引の実態把握などを目的として共同で実施した「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)」の結果を公表した。それによると、同法の内容を知らないとする委託者の割合が、「建設業」では80.2%にのぼった。「建設業」はまた、取引条件を明示しなかったことがあるとする委託者の割合が最も高く、明示されなかったことがあるとするフリーランスの割合も最も高かった。

調査は、フリーランスと関連がある業界の事業者団体として関係府省庁から登録された事業者団体等の会員等事業者を対象に、2024年5月27日~6月19日に実施。5,300件(委託者:3,761件、フリーランス:1,539件)の回答を得た。

取引実態を浮き彫りにして、自己点検を促す

11月1日に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」では、フリーランスが取引先との関係の中で弱い立場に置かれやすいことをふまえ、取引適正化や就業環境の整備を図るため、業務委託事業者(委託者)に対し、募集内容の的確表示などを義務づけている。

同法の施行を前に周知などの取り組みを進めてきた公正取引委員会と厚生労働省は、その一環として同調査を共同で実施した。調査によって実態を浮き彫りにすることで、当事者に自己点検を促すとともに、現状の取引実態を確認することや、問題となっている行為が行われている可能性がある業種を把握することなどが狙い(図表1)。

図表1:調査の対象となった業種と具体的な業務内容(主なもの)
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

調査では、法の認知度のほか、取引の適正化を定めた第3条~第5条、就業環境の整備を定めた第12条~第16条に関して、同法が制定する義務や禁止行為について委託者とフリーランス双方に尋ねている。調査結果をふまえ、問題事例の多い業種については、2024年度内に集中調査を実施することを予定している。

<フリーランス新法の認知度>

7割以上のフリーランスが法律の内容を知らないと回答

調査ではまず、法の認知度について尋ねている。結果によると、法の内容を「知らない」(『内容はよく知らないが、名前は知っている』+『知らない』)と回答した割合は委託者で54.5%。一方、フリーランスでは7割を超える76.3%にのぼった。11月の施行直前では、特にフリーランスで認知度が低いことが見受けられる結果となった。

「知らない」と回答した委託者の割合を業種別にみると、「建設業」(80.2%)が最も高く、次いで「医療、福祉」(77.4%)、「農業、林業」(69.7%)などとなっている。一方、フリーランスでは、「医療、福祉」(96.6%)が最も高く、次いで「建設業」(90.9%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(80.6%)などの順だった。

<取引の適正化の実態>

4割以上のフリーランスが取引条件が明示されなかったと回答

同法第3条では、委託者がフリーランスに業務委託をした場合、報酬額や支払期日等を書面やメールなどの方法によって明示しなければならないとしている。取引条件の明示の有無についての結果をみると、「明示しなかったことがある」(『明示しなかったことがある』+『明示したことがない』)と回答した委託者は17.4%となっている。一方、フリーランスでの「明示されなかったことがある」(『明示されなかったことがある』+『明示されたことがない』)の割合は、44.6%と4割を超える結果となった。

「明示しなかったことがある」と回答した委託者を業種別にみると、「建設業」が41.7%と最も高く、次いで「生活関連サービス業、娯楽業」が26.5%、「サービス業(他に分類されないもの)」が24.3%など。一方、フリーランスでの「明示されなかったことがある」の割合は、「建設業」が72.7%と7割を超える高さとなっており、「生活関連サービス業、娯楽業」が56.5%、「学術研究、専門・技術サービス業」が47.5%などとなっている。

調査に寄せられた声をみると、フリーランスからは「事前に契約書を作成するのは稀で多くは口約束。メール等の文字で証拠を残すことを嫌がる傾向がある」(情報通信業)、「サイン・捺印がある契約書を交わすことが、業務終了時にくる」(学術研究、専門・技術サービス業)などの声があがった。

60日以内に支払われなかったと回答するフリーランスが3割近くに

第4条では、フリーランスの給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を設定し、当該期日までに支払わなければならないとしている。報酬を60日以内に支払わなかったことがあるか聞いた結果をみると、「60日以内に支払わなかったことがある」(『60日以内に支払わないことがある』+『60日以内に支払ったことがない』)と回答した委託者は4.8%。しかし、フリーランスの回答をみると、60日以内に支払われなかったことがある割合は28.1%と3割近くにのぼった。

「60日以内に支払わなかったことがある」の割合を業種別にみると、委託者では「製造業」が9.1%と最も高く、次いで「生活関連サービス業、娯楽業」が8.8%、「サービス業(他に分類されないもの)」が7.2%など。一方、フリーランスでは、「生活関連サービス業、娯楽業」が56.5%と半数を超え、「学術研究、専門・技術サービス業」が32.3%、「情報通信業」が31.3%などとなった。

半数以上のフリーランスが誤解を生じさせる内容があったと回答

第12条では、広告等に募集情報を掲載する際は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示等はしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないとしている。掲載内容が誤っている表示や誤解を生じさせる表示かあったかどうか聞いた結果をみると、「内容が誤っている表示があった」「誤解を生じさせる内容があった」と回答した委託者はあわせて2.6%で、フリーランスでは53.1%と半数を超えた。

「内容が誤っている表示があった」「誤解を生じさせる内容があった」と回答した委託者の割合を業種別にみると、「宿泊業、飲食サービス業」が8.3%と最も高く、次いで「建設業」で6.3%、「卸売業、小売業」で5.9%などとなっている。フリーランスでは、「生活関連サービス業、娯楽業」が78.6%と最も高く、8割近くにのぼり、次いで「情報通信業」が51.4%、「学術研究、専門・技術サービス」が46.4%などとなった。

また、募集内容の最新の表示に関する結果をみると、掲載内容が正確かつ最新の表示となっていないとした委託者は0.3%で、フリーランスは10.6%だった。同割合を業種別にみると、委託者では「医療・福祉」が4.5%、フリーランスでは「生活関連サービス業、娯楽業」が23.1%、「情報通信業」が17.6%などとなっている。

<就業環境の整備の実態>

育児介護との両立への配慮を求めるフリーランスは7割超

第13条では、妊娠、出産、育児、介護等と両立して業務遂行ができるよう、申し出に応じて必要な配慮をしなければならないと定めている。まず、これらの事情があるフリーランスとの契約の有無をみると、「ある」と回答した委託者は16.9%だった。一方、「両立のため求めたい配慮がある」(『これまで、妊娠・出産・育児・介護の経験はないが、将来、そのような状況になった際には、配慮を求めたいと思う』+『(現在を含め)妊娠・出産・育児・介護の経験があり、配慮を求めたいと思ったことがある』)と回答したフリーランスは、70.7%と7割を超えた。

「ある」と回答した委託者の割合を業種別にみると、「宿泊業、飲食サービス業」が35.3%と最も高く、次いで「生活関連サービス業、娯楽業」で29.4%、「医療、福祉」で29.0%などとなっている。一方、求めたい配慮があると回答したフリーランスの割合を業種別にみると、「生活関連サービス業、娯楽業」では91.3%と9割を超え、「情報通信業」が80.7%、「教育、学習支援業」が76.1%などとなっている(図表2)。

図表2:育児介護等と業務の両立に対する配慮
画像:図表2

(公表資料から編集部で作成)

妊娠・出産・育児・介護の事情があるフリーランスからの業務との両立のための配慮について、相談があったが応じなかった・相談したが応じてくれなかったとの回答割合をみると、委託者で「相談があったが応じなかった」との割合は0.0%だった。一方、フリーランスで「相談したが応じてくれなかった」とした割合は6.8%だった。

ハラスメントの方針を周知・明確化している委託者は5割程度

第14条では、フリーランスに対するハラスメント行為に対する相談対応など、必要な体制整備等の措置を講じなければならないと定めている。フリーランスに対するハラスメントの方針の周知の有無をみると、「方針は明確化しているが、社内に周知していない」「方針を明確化していない」と回答した委託者は半数を超える51.0%。業種別にみると、「農業、林業」が69.7%と最も高く、次いで「製造業」が63.6%、「建設業」が63.5%などとなった。

次にフリーランスが利用できる相談窓口の設置の有無をみると、「フリーランスが利用できる相談窓口を設置していない」と回答した委託者は62.6%。同割合を業種別にみると、「建設業」が88.5%と最も高く、次いで「農業、林業」が84.4%、「サービス業(他に分類されないもの)」が71.2%などとなっている。

一方、相談窓口の有無についてフリーランスに尋ねると、「全ての契約で、相談窓口等が設置されていなかった」「相談窓口等が設置されていた契約の方が少なかった」と回答した割合が85.3%と8割を超えた。同割合を業種別にみると、「建設業」は100.0%で、「サービス業(他に分類されないもの)」(92.9%)や「学術研究、専門・技術サービス業」(89.6%)なども高い割合となっている。

仕事を失うことを恐れてハラスメントを訴えられないといった声も

調査に寄せられた声をみると、フリーランスからは、ハラスメントなどの現状に対して「パワハラで精神を病んでも、仕事を失うことを恐れて訴えでることができない」(映画・画像・音楽制作、編集)、「今後の仕事量・報酬額・パワハラなど、常にストレスと共に生きています」(ライティング、記事等執筆業務)などの声があった。

(調査部)

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