国家公務員の月例給を平均1万1,183円引き上げるよう勧告、引き上げ幅は33年ぶりの高い水準に
 ――2024年度の人事院勧告

スペシャルトピック

人事院(川本裕子総裁)は8月8日、2024年度の国家公務員の給与改定について、月例給を平均1万1,183円(2.76%)、特別給(ボーナス)を0.10カ月引き上げるよう、国会と内閣に勧告した。月例給の引き上げは、1991年の1万1,244円以来、33年ぶりの高い水準で、2.76%の官民較差は、1992年の2.87%以来の大きさとなった。勧告はまた、初任給や若年層の俸給月額の大幅引き上げや、扶養手当の見直しなど「給与制度のアップデート」も求めた。

初任給は10%を超える大幅な引き上げ

人事院は、月例給について、公務と民間(約47万人)の4月分の給与を調査して比較。民間給与が公務の給与を平均1万1,183円(2.76%)上回ったため、その分の較差を解消するために引き上げを行うよう勧告した。1万1,183円のうち、1,267円は俸給の改定に伴い諸手当の額が増減する「はね返り分」、80円は「寒冷地手当」となるため、俸給の引き上げ分となるのは9,836円。

特に若年層が在職する号俸からおおむね30歳代後半までの職員が在職する号俸に重点を置き、すべての職員を対象に全俸給表の引き上げ改定を実施する。平均改定率は、1級(係員)で11.1%、2級(主任等)で7.6%などとなり、その他の級は改定率を逓減させつつ、引き上げ改定を行う。

さらに、初任給の大幅引き上げも勧告した。民間との給与比較を行っている行政職俸給表(一)について、具体的な改定内容をみると、総合職試験(大卒程度)で採用される職員の初任給が23万円で、引き上げ率は14.6%(引き上げ額2万9,300円)。一般職試験(大卒程度)で採用される職員の初任給が22万円で、引き上げ率は12.1%(同2万3,800円)。一般職試験(高卒程度)で採用される職員の初任給が18万8,000円で、引き上げ率は12.8%(同2万1,400円)となっている。

俸給表の改定は今年の4月1日にさかのぼって実施する。また、初任給と若年層の俸給月額の引き上げは人材確保の観点から、後述する「給与制度のアップデート」の措置内容よりも先行して実施するとしている。

ボーナスの支給月数は4.60カ月で昨年から0.10カ月引き上げ

ボーナスについては、約1万1,700民間事業所の2023年8月から今年7月までのボーナスの支給月数と国家公務員の支給月数を比較。民間の支給月数(4.60カ月)が国家公務員の支給月数(4.50カ月)を上回ったため、年間支給月数について現行の4.50カ月から0.10カ月分を引き上げ4.60カ月にするよう勧告した。引き上げ分は、期末手当と勤勉手当に均等に配分する。

また、指定職俸給表適用職員および定年前再任用短時間勤務職員の期末手当・勤勉手当と、任期付研究員および特定任期付職員の期末手当についても、同様に支給月数を引き上げる。

今年のボーナスは6月にすでに、期末手当部分として1.225カ月、勤勉手当部分として1.025カ月が支払われていることから、12月のボーナスの期末手当部分を現行より0.05カ月多い1.275カ月、勤勉手当部分を現行より0.05カ月多い1.075カ月とする。来年度以降は、6月、12月それぞれ、期末手当部分が1.25カ月、勤勉手当部分が1.05カ月となる。

寒冷地手当についても、民間の同種の手当の支給額を踏まえ、月額を11.3%引き上げる。あわせて、新たな気象データ(メッシュ平均値2020年)に基づき、支給地域を改定する。

地域手当を大くくり化し級地区分を5つに

今回の勧告では、給与制度のアップデートとして、現在の人事管理上の重点課題に対応し、包括的に給与制度の整備を図る内容も盛り込んだ。

まず、首都圏や都市部などの物価の高い地域に勤務する公務員に対して支給する地域手当について、地域の民間賃金の状況を国家公務員給与に反映させるよう、支払い地域等を見直し、級地区分の広域化と級地区分の段階数を削減する。

具体的には、現在、市町村ごととなっている支給地域の単位を都道府県に変更。加えて都道府県庁所在地および人口20万人以上の中核市については、当該地域の民間賃金を反映したうえで、都道府県の級地区分よりも高い区分となる場合には、都道府県とは別の級地区分となるように設定することとした。見直し後は、16都府県79市になる。

また、級地区分の段階数については、現行7つの級地区分を、20%、16%、12%、8%、4%の5つの級地に再編し、民間賃金が高い東京都特別区については引き続き20%に設定する(図表)。

図表:地域手当の大くくり化
画像:図表
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(公表資料から編集部で作成)

見直しの時期については、支給割合が引き下がる地域に在勤する職員への生活を考慮し、2025~2027年度の間における現行からの支給割合の引き下げは、1年に1ポイントずつ引き下げるなど段階的に行う。支給引き上げも、改正に要する原資の状況などを踏まえ、段階的に行う。

配偶者手当を廃止し、子にかかる手当を1万3,000円に引き上げ

扶養手当について、民間と公務の配偶者にかかる手当の状況の変化に応じ、配偶者にかかる手当を廃止することを求めた。2026年度に完全に廃止となる。一方で、子育てを行う職員への支援を充実させるため、配偶者にかかる手当の原資を使って、子にかかる手当(現行1人につき1万円)を2026年度までに1人につき1万3,000円へ引き上げる。

詳細をみると、配偶者にかかる手当の廃止と子にかかる手当の増額は、2年間で段階的に実施する。行政職俸給票(一)7級以下の職員については、現行6,500円支給されている配偶者手当を2025年度に3,000円に減額し、2026年度に廃止する。8級の職員については、現行3,500円支給されている配偶者手当を2025年度に廃止する。子にかかる手当については、現行1万円を2025年度に1万1,500円に増額し、2026年度に1万3,000円に増額していく。

通勤手当の支給限度額を15万円に引き上げ

通勤手当の支給について、民間の状況や長距離の通勤をする職員の経済的負担を軽減するため、現行1カ月あたり上限5.5万円(在来線運賃相当額)と上限2万円(新幹線等の特別料金2分の1相当額)から、1カ月あたり上限15万円(新幹線等の特別料金等の額を含める)に大幅に引き上げる。

また、採用時から新幹線などにかかる通勤手当や単身赴任手当の支給を可能にすることや、育児、介護などの事情で転居した職員にも、新幹線などにかかる通勤手当の支給を可能にするよう見直すことも盛り込んだ。

管理職の特別支給対象時間帯を拡大へ

管理職の特別勤務手当については、災害対処などの勤務実態に応じた適切な処遇を確保するため、平日深夜にかかる支給対象時間帯と支給対象職員を拡大することを盛り込んだ。具体的には、現行では午前0時~午前5時までとなっている支給対象時間帯を、午後10時~午前5時までとする。また、支給対象も、現行では俸給の特別調整額適用職員を対象としているが、指定職俸給表適用職員、専門スタッフ職俸給表適用職員(2級以上)等も対象とする。

さらに、定年前再任用短時間勤務職員が公務上の必要性により転居を伴う異動を行う状況を踏まえ、現在支給されていない手当を新たに支給することを盛り込んだ。具体的には、地域手当(異動保障など特例的に支給されるもの)、研究員調整手当、住居手当、特地勤務手当(同手当に準ずる手当を含む)、寒冷地手当の5手当。地域手当の異動保障および特地勤務手当に準ずる手当については、2025年4月1日以降の異動等から適用する。

高い業績をあげた職員がより良い処遇になるよう成績率等を改定

勤勉手当の成績率の上限引き上げについては、本府省課長級以下の職員の最上位の成績区分の成績率の上限を、現行の平均支給月数の2倍から平均支給月数の3倍に引き上げることを盛り込んだ。

特定任期付職員のボーナスについては、特定任期付職員業績手当を廃止し、期末手当と人事評価の結果等に応じて支給される期末手当から成る構成に改める。これにより成績優秀者は、期末手当および勤勉手当の配分が一般職員と同程度となり、より高い水準のボーナス取得が可能になる。

勧告を行った日に会見した人事院の川本総裁は、給与改定について「適切な処遇は優秀な人材の確保のために不可欠であり、今回、給与制度をアップデートし、処遇面を包括的に見直すことで、時代の要請に即した給与制度を実現する」と強調した。

公務職場で働くすべての職員の労苦に応えたもの/連合

連合は8月8日、2024年人事院勧告に対する清水秀行事務局長名の談話を公表した。

国家公務員の給与改定について、「約30年ぶりの高水準となった民間給与の改定状況を踏まえつつ、『人への投資』を重視し、高い使命感と責任感を持って公務職場で働くすべての職員の労苦に応えたもの」だと評価したうえで、勧告どおりの給与改定の実施を要請。非常勤職員の給与にも触れ、「非常勤職員の給与に関する指針に沿って、常勤職員の給与改定に準じ、適切に支給すべき」だとした。

また、給与改定と同時に勧告された、給与制度のアップデート(社会と公務の変化に応じた給与制度の整備)については、「今回の処遇面の包括的なアップデートは、決して十分と言える内容ではない」としつつも、「公務職場の実態や組合員の声も踏まえながら、2年にわたり労働組合と真摯な交渉・協議が行われた結果」だとして、継続的な協議を求めている。

引き上げ額は物価高騰に及ばず不十分/全労連

全労連も8月9日、「2024年人事院勧告にあたって」と題する黒澤幸一事務局長の談話を公表した。

給与に関する勧告については、「昨年を上回るベア勧告であると同時に、俸給表は初任給・若年層だけでなく、再任用職員も含む全体の改善となったことや期末手当を含む一時金の引上げは、公務・民間共同のたたかいが反映されたもの」だと一定の評価を示した一方で、「引き上げ額は、この間の物価高騰には到底及ばず、極めて不十分」などと表明した。

さらに、給与勧告とあわせて勧告された給与制度のアップデートに関しても、「『優秀な人材確保』のためとして、公務職場を分断する『能力・実績主義の強化』が強く押し出されている点については、看過できるものではない」と指摘したうえで、地域手当や寒冷地手当、扶養手当の見直しの内容が示されている点に言及して、「十分な労使協議もないままに勧告されたことは決して許されるものではない」と批判している。

(調査部)

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