「顧客等からの著しい迷惑行為」の該当事例があった企業は8割超で、「パワハラ」「セクハラ」で事例があった割合を上回る
――厚生労働省の2023年度「職場のハラスメントに関する実態調査」
政府の関連調査
厚生労働省がこのほど発表した2023年度の「職場のハラスメントに関する実態調査」結果によると、過去3年間で「顧客等からの著しい迷惑行為」に該当すると判断した事例があった企業は8割を超えた。「パワハラ」や「セクハラ」など、他の種類のハラスメントよりも事例があった企業割合が高かった。勤務先で迷惑行為を受けた労働者のその後の行動では、何もしなかった者が3割を超え、何もしなかった理由では「何をしても解決にならないと思ったから」との回答が5割以上にのぼった。
<調査の概要>
厚生労働省が同調査を実施したのは3年ぶり。企業調査と労働者調査があり、「パワハラ」「セクハラ」「妊娠・出産・育児休業等ハラスメント」「介護休業等ハラスメント」「顧客等からの著しい迷惑行為」「就活等セクハラ」の6種類のハラスメントを対象にしている。
企業調査は、全国の従業員30人以上の2万5,000企業・団体を対象とし、2023年12月1日~29日に実施。有効回答数は7,780件。労働者調査は一般サンプル(パワハラ、セクハラ、顧客等からの著しい迷惑行為)と特別サンプル(女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、男性の育児休業等ハラスメント、就活等セクハラ)に分けて行い、一般サンプルでは、全国の企業・団体に勤務する20~64歳の男女労働者(経営者(自営業を含む)、役員、公務員を除く)を対象に2024年1月11日~29日にインターネットで実施した。8,000人から回答を得た。
以下、「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する結果に絞って内容を紹介する。
<企業調査の結果>
相談があった企業割合が最も高い業種は「医療、福祉」
「顧客等からの著しい迷惑行為」について、過去3年間に相談があった企業の割合は27.9%。他の種類のハラスメントでの結果と比べると、「パワハラ」(64.2%)、「セクハラ」(39.5%)に次いで3番目に高い割合となっている。
同割合を業種別にみると、「医療、福祉」が53.9%で最も高く、次いで「宿泊業、飲食サービス業」(46.4%)、「不動産業、物品賃貸業」(43.4%)、「生活関連サービス業、娯楽業」(42.3%)、「複合サービス事業」(41.1%)、「金融業、保険業」(41.0%)、「卸売業、小売業」(40.6%)などの順で高くなっている。
従業員の規模別にみると、規模が大きいほど「相談がある」割合は高くなっており、「99人以下」では13.5%にとどまる一方、「1,000人以上」では43.9%と4割を超えた。
2割超の企業で過去3年間に相談件数が増加
過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」について相談があった企業における相談件数の推移をみると、「増加している」が23.2%、「過去3年間に相談があり、件数は変わらない」が23.6%、「減少している」が11.4%となっており、増加の企業が減少の企業を上回った。
他のハラスメントでの結果と比べると、「増加している」割合は、「パワハラ」(19.6%)、「妊娠・出産・育児休業等ハラスメント」(13.7%)、「介護休業等ハラスメント」(12.3%)、「就活等セクハラ」(11.1%)、「セクハラ」(11.0%)のいずれも1割台で、「顧客等からの著しい迷惑行為」よりも低い割合となっている。
事例があった企業の22.6%が「増加している」と回答
過去3年間で「顧客等からの著しい迷惑行為」に該当すると判断した事例があった企業は86.8%にのぼった。同割合を他のハラスメントでみると、「セクハラ」が80.9%、「パワハラ」が73.0%などとなっており、他のどのハラスメントよりも高かった。
過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」に該当すると判断した事例があった企業における件数の推移をみると、「増加している」が22.6%、「ハラスメントに該当すると判断した事例があり、件数は変わらない」が24.9%、「減少している」が12.6%で、件数が増加または変わらないとする企業が半数近くとなっている。
これを他のハラスメントでの結果と比べると、「増加している」割合は「顧客等からの著しい迷惑行為」が最も高く、2番目に高い「パワハラ」(13.4%)を10ポイント近く上回った。「減少している」割合は、他のハラスメントでは3割前後だったのに対し、「顧客等からの著しい迷惑行為」では1割程度にとどまり、最も低かった。
過去3年間で最も割合が高かった事例は「継続的・執拗な言動」
過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」に該当すると判断した事例があった企業に対し、事例の具体的な内容を尋ねたところ(複数回答)、「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」が72.1%で最も高く、以下、「威圧的な言動(大声で責める、反社会的な者とのつながりをほのめかす等)」(52.2%)、「精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の要求等)」(44.7%)などの順だった(図表1)。
図表1:迷惑行為に該当する事例の内容
(過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事例があった企業が回答。n=1,880)
(公表資料から編集部で作成)
行為者と被害者の関係(複数回答)をみると、「顧客等(患者又はその家族等を含む)から自社従業員へ」が91.6%と9割以上にのぼり、このほかでは「取引先等の他社の従業員・役員から自社の従業員へ」が10.9%など。
迷惑行為で被った損害や被害の内容をみると(複数回答)、「通常業務の遂行への悪影響」が63.4%で最も高く、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」(61.3%)もほぼ同割合となっている。
6割超の企業で予防・解決に向けた何らかの取り組みを実施
「顧客等からの著しい迷惑行為」に対して、予防・解決に向けた何らかの取り組みを実施している企業は64.5%。「パワハラ」(95.2%)、「セクハラ」(92.7%)、「妊娠・出産・育児休業・介護休業等ハラスメント」(90.0%)での同割合はそれぞれ9割を超えていることから、それと比べると実施割合の低さが目立つ。
規模別にみると、規模が大きいほど予防・解決の取り組みを実施している割合は高くなっており、「99人以下」では57.5%だったのに対し、「1,000人以上」では69.8%と7割近くにのぼった。
予防・解決の取り組みを実施している企業における具体的な実施内容は(複数回答)、「相談窓口の設置と周知」が76.1%で最も割合が高く、次いで「ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発(就業規則等への規定、社内広報誌等への記載・配布、従業員向け研修等)」(61.5%)などの順で高かった(図表2)。
図表2:迷惑行為の予防・解決に向けて実施している取り組みの内容
(顧客等からの著しい迷惑行為に対して予防・解決の取り組みを実施している企業が回答。 n=5,023)
(公表資料から編集部で作成)
取引先等への協力依頼やマニュアル作成・研修実施を行っている企業は1割台
全回答企業に、「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する取り組みとして実施しているものを聞くと(複数回答)、「特にない」が55.8%で、実施している取り組みでは「自社従業員が取引先等からハラスメント被害を受けた場合の取引先等への協力依頼(事実確認、再発防止等)」が13.9%、「顧客等からの著しい迷惑行為の対応に関するマニュアルの作成、研修の実施」が13.7%、「行為者に対する出入り禁止等」が13.1%、「警備会社、警察等の関係各所との連携(連絡体制の構築等)」が12.7%など。
これを業種別にみると、「顧客等からの著しい迷惑行為の対応に関するマニュアルの作成、研修の実施」は「金融業、保険業」が38.6%で最も高く、「医療、福祉」(29.0%)、「複合サービス事業」(29.0%)などで全体の回答割合より10ポイント以上高かった。
また、「行為者に対する出入り禁止等」は、「生活関連サービス業、娯楽業」(39.3%)や「医療、福祉」(26.4%)などで全体の回答割合より10ポイント以上高く、「警備会社、警察等の関係各所との連携(連絡体制の構築等)」は、「金融業、保険業」(30.7%)や「医療、福祉」(24.0%)などで全体の回答割合より10ポイント以上高くなっており、両選択肢については一般消費者との接触頻度の高い業種で取り組んでいる割合が比較的高くなっている。
予防・解決するための取り組みを進めるうえでの課題をみると(複数回答)、「特にない」が32.1%と3割超にのぼる一方、課題としてあげられたものでは、「迷惑行為と正当なクレームや要求とを区別する明確な判断基準を設けることが難しい」が25.9%、「迷惑行為に対応する従業員等の精神的なケアが難しい」が20.4%、「発生状況を把握することが困難」が19.8%などという結果だった。
<労働者調査の結果>
回答者の約1割が「顧客等からの著しい迷惑行為」を経験
過去3年間に勤務先で「顧客等からの著しい迷惑行為」を「経験した」労働者は10.8%で、他のハラスメントと比べると、「パワハラ」(19.3%)に次いで2番目に高かった。
同割合を業種別にみると、「生活関連サービス業、娯楽業」が16.6%で最も高く、次いで「卸売業、小売業」(16.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」(16.0%)、「複合サービス事業(郵便局、農業協同組合等)」(15.5%)、「医療、福祉」(15.1%)などの順となっている。
迷惑行為を何度も繰り返し経験した回答者は約2割に
過去3年間に勤務先で「顧客等からの著しい迷惑行為」を「経験した」労働者に対し、経験頻度を尋ねたところ、「何度も繰り返し」が20.2%、「時々」が57.7%、「一度だけ」が22.1%で、繰り返し被害にあっている労働者が約2割にのぼった。
迷惑行為の具体的な内容をみると(複数回答)、「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」が57.3%で最も割合が高く、次いで「威圧的な言動(大声で責める、反社会的な者とのつながりをほのめかす等)」(50.2%)、「精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の要求等)」(33.1%)などの順。
迷惑行為を受けた場所は(複数回答)、「通常就業している場所での顧客等への対応時」が60.7%で最も高く、「顧客等との電話やメール等での応対時」(38.1%)も4割弱にのぼった。
行為者についてみると(複数回答)、「顧客等(患者またはその家族等を含む)」が82.3%で、「取引先等の他社の従業員・役員」が22.6%などとなっている。
心身への影響では「怒りや不満、不安などを感じた」がトップ
過去3年間に勤務先で「顧客等からの著しい迷惑行為」を「経験した」労働者に対し、迷惑行為に対して行った対応を聞いたところ(複数回答)、「上司に引き継いだ」(37.4%)が最も割合が高く、「謝り続けた」(32.1%)、「顧客等からの要求等を断った」(29.0%)などが3割前後。
迷惑行為を受けたことによる心身への影響をみると(複数回答)、「怒りや不満、不安などを感じた」が63.8%と6割を超え、「仕事に対する意欲が減退した」(46.1%)も4割以上となった(図表3)。
図表3:迷惑行為を受けたことによる心身への影響
(過去3年間に勤務先で、顧客等からの著しい迷惑行為を経験した者が回答。 n=861)
(公表資料から編集部で作成)
迷惑行為に対応した後の行動についてみると(複数回答)、「何もしなかった」が35.2%に及ぶ一方、行動の内容としては「社内の上司に相談した」(38.2%)、「社内の同僚に相談した」(26.8%)などが比較的高かった。
「何もしなかった」と回答した者に対しその理由を尋ねると(複数回答)、「何をしても解決にならないと思ったから」が56.1%と5割超にのぼり、「何らかの行動をするほどのことではなかったから」(32.7%)も3割超に及んだ。
勤務先で迷惑行為に対する取り組みがないとする労働者が7割超
過去3年間に勤務先で「顧客等からの著しい迷惑行為」を「経験した」労働者の勤務先の認識状況をみると、勤務先が「認識していた」とする割合は59.2%。他のハラスメントと比べると、「パワハラ」(37.1%)、「セクハラ」(23.9%)よりは高い割合となっている。
勤務先が「認識していた」と回答した労働者に対し、勤務先の認識後の対応を尋ねると(複数回答)、「特に何もしなかった」(29.8%)との回答も3割近くあったが、「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた」が39.2%とほぼ4割にのぼり、「あなたに事実確認のためのヒアリングを行った」が23.9%などとなっている。
全回答者に、勤務先で迷惑行為に対して行われていた取り組みを聞くと(複数回答)、「特にない」が71.1%と7割超にのぼった。取り組んでいる内容としては、「顧客等からの著しい迷惑行為の対応に関するマニュアルの作成、研修の実施」が14.4%、「行為者に対する出入り禁止等」が12.7%、「顧客等への周知・啓発」が12.0%、「自社従業員が取引先等からハラスメント被害を受けた場合の取引先等への協力依頼(事実確認、再発防止等)」が12.0%などという結果だった。
勤務先が今後実施したほうが良い対策は(複数回答)、「特にない」が54.1%にのぼる一方、「ハラスメント(ハラスメントの行為者)に対する規制」(28.3%)や「企業の自主的な取り組みの促進・支援」(24.4%)、「ハラスメントを行う行為者を雇用する企業に対する規制」(23.6%)、「国による社会全体や企業に対する啓発や教育」(21.6%)をあげる人が2割以上いた。
(調査部)
2024年8・9月号 政府の関連調査の記事一覧
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