迷惑行為の被害にあった人の割合は46.8%に低下したものの、勤務先の4割で対策が見えず
 ――UAゼンセンが3回目となるカスタマーハラスメント対策アンケート調査の結果を公表

労働組合の取り組み

流通業、サービス業の組合が加盟組合の半数以上を占め、業務上、顧客と直接応対する組合員も多いUAゼンセン(松浦昭彦会長)は、2015年から本格的にカスタマーハラスメント(悪質クレーム)対策に取り組んでいる。実態を把握するためにアンケート調査も数年おきに実施しており、このほど、今年1月~3月に実施した最新の調査結果(「カスタマーハラスメント対策アンケート調査結果」)を発表した。直近2年以内で迷惑行為の被害にあった人の割合は46.8%で、前回調査(2020年)の56.7%からは低下したものの、勤務先の企業での対策の状況には大きな改善がみられなかった。UAゼンセンでは、業種により内容や対策も異なることから、まずは業種ごとに事例を積み上げて、定義化することが必要だと主張。最終的には、事業主に対策を義務付ける法制化を図るべきだと訴える。

<アンケート調査の結果>

社会喚起や労使の取り組みにより被害にあった人の割合は低下

UAゼンセンは、これまで2017年と2020年にアンケート調査実施した。今回発表した最新の調査は、サービス業に従事しているUAゼンセン所属組合員を対象に、今年1月18日~3月18日に実施したもの。210組合から、3万3,133件の有効回答を得た。

調査結果によると、直近2年以内で迷惑行為の被害にあった人は46.8%で、なかった人が53.2%。

被害にあった人の割合は4割以上にのぼったが、2020年に実施した第2回調査(以下「2020年調査」)と比べれば9.9ポイント低下した。UAゼンセンでは、低下要因を「この間の社会喚起や企業労使の取り組みの成果と推測できる」としている。

直近2年以内での迷惑行為の被害の回数をみると、「1~5回」が63.9%、「6~10回」が20.0%、「11~15回」は5.9%で、「16回以上」(10.2%)と回答する人もほぼ1割いた。

暴言、威嚇・脅迫、繰り返しのクレームが全体の5割以上を占める

回答者に最も印象に残っている顧客からの迷惑行為を1つ選んでもらったところ、「暴言」が39.8%(2020年調査39.3%)で最も割合が高く、「威嚇・脅迫」が14.7%(同15.0%)、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」が13.8%(同17.1%)、「長時間拘束」が11.1%(同7.8%)、「権威的(説教)態度」が10.2%(同11.2%)、「セクハラ行為」が3.7%(同2.3%)、「金品の要求」が1.2%(同2.1%)、「暴力行為」が1.1%(同1.4%)、「SNS・インターネット上での誹謗中傷」が0.8%(同0.3%)、「土下座の強要」が0.4%(同0.6%)、「その他」が3.2%(同2.9%)という結果だった(図表1)。

図表1:最も印象に残っている顧客からの迷惑行為
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

2020年調査と比べると、「暴言」「威嚇・脅迫」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」で5割以上を占める状況は変わっていない。「長時間拘束」「セクハラ行為」「SNS・インターネット上での誹謗中傷」が2020年調査から増加した点は今回の特徴といえる。

きっかけは「顧客の不満のはけ口・嫌がらせ」が前回調査と同様にトップ

迷惑行為をしていた顧客の性別は「男性」が70.6%と多く、「女性」が27.1%。

顧客の推定年齢は「10歳代」が0.1%、「20歳代」が1.8%、「30歳代」が6.8%、「40歳代」が15.6%、「50歳代」が27.2%、「60歳代」が29.4%、「70歳代以上」が19.1%で、全体の比率としては50歳代以上が多くを占めた。

迷惑行為のきっかけとなった具体的な理由を1つ選択してもらうと、「顧客の不満のはけ口・嫌がらせ」が26.7%(2020年調査33.1%)で最も割合が高く、「その他」(10.7%)を除くと、次いで「接客やサービス提供のミス」の19.3%(同21.8%)、「わからない」の17.3%(同9.9%)、「消費者の勘違い」の15.1%(同15.2%)、「商品の欠陥」の6.8%(同9.4%)、「システムの不備」の4.0%(同3.0%)の順となっている(図表2)。

図表2:迷惑行為のきっかけとなった具体的な理由
画像:図表2

(公表資料から編集部で作成)

2020年調査と比べると、「顧客の不満のはけ口・嫌がらせ」の割合が最も高かった点は変わらなかったが、「わからない」との回答割合が2020年調査から7.4ポイント増加した。UAゼンセンは、「理由がわからないと、対処のしようがない」と現場組合員の苦労を訴える。

対応時間で1カ月以上、半年以上と答える人も

迷惑行為における顧客からの要求として、最も近いものを1つ選んでもらうと、「不手際などに関する謝罪の要求」が29.2%で最も割合が高く、「その他」(24.6%)を除くと、次いで「商品取り換え・再サービスを要求」(16.3%)、「上司・上長による謝罪の要求」(15.1%)、「商品・サービスに見合った現金の要求」(5.0%)、「商品・サービスへの支払い拒否」(4.0%)、「迷惑料・お詫びとしての現金の要求」(3.3%)、「景品や購入希望以外の他の商品の要求」(2.4%)の順だった。

迷惑行為に対応した所要時間を1つ選んでもらったところ、「1時間以内」が62.7%と約6割を占め、「1~2時間以内」が19.4%で次いで割合が高かった。割合自体は低かったものの、「1カ月~半年以内」(1.8%)、「半年以上」(1.9%)と回答する人もいた。

迷惑行為を行っていた顧客の話し方や言葉がどのようなものであったか聞くと(3つまで回答)、「大声をあげる時があった」が51.3%で最も割合が高く、次いで「攻撃的な話し方や言葉があった」(38.5%)、「一方的に話をしていた」(38.0%)、「威圧的に話をしていた」(26.7%)、「お店や担当者に対し人格を否定する発言があった」(23.7%)、「こちら側の上げ足を取る時があった」(20.6%)、「理詰めに話を進めた」(8.7%)、「冷静に静かに話した」(6.3%)などという結果だった。

300人を超える人が寝不足が続いたり、心療内科に行くことに

迷惑行為を体験した後に、心身の状態に何か変化があったか聞くと、「特になかった」という人は5.8%しかおらず、「嫌な思いや不快感が続いた」が50.5%で最も割合が高かった。これ以外では、「腹立たしい思いが続いた」が15.1%、「すっきりしない気持ちが続いた」が8.9%、「同じような事が起こりそうで怖かった」が8.0%、「不安な気持ちが続いた」が7.0%、「寝不足が続いた」が1.2%、「心療内科などに行った」が0.8%など(図表3)。

図表3:迷惑行為を体験した後に起きた心身の状態の変化
画像:図表3

(公表資料から編集部で作成)

「寝不足が続いた」「心療内科などに行った」との回答は、割合としては低いものの、回答者数でみれば「寝不足が続いた」が193人、「心療内科などに行った」が123人と合計で300人を超える人数であり、UAゼンセンでは、「精神疾患ぎりぎりの状況であり、軽視できない」としている。

迷惑行為にあった時の対応をみると(複数回答)、「謝り続けた」(35.9%)、「毅然と対応した」(35.3%)、「上司に引き継いだ」(34.2%)がそれぞれ30%以上で、「複数人で対応した」が13.8%、「何もできなかった」が7.3%、「危険を感じて退避した」が3.8%などだった。

勤め先企業の約4割で対策がなされていない状況は前回から変わらず

勤め先の企業で実施されている迷惑行為への対策について尋ねた結果をみると(複数回答)、「特に対策はなされていない」が42.2%(2020年調査43.4%)と4割以上にのぼり、また、2020年調査から約1%しか低下しなかった。このほかの回答割合は「マニュアルの整備」が28.6%(同27.9%)、「専門部署の設置」が23.4%(同23.5%)、「迷惑行為対策への教育」が21.0%(同19.7%)、「被害者のケア」が9.2%(同8.8%)など。

「マニュアルの整備」「専門部署の設置」「迷惑行為対策への教育」はそれぞれ2020年調査から大きな進展が見られず、UAゼンセンでは、企業側の取り組みとしても、現場の最前線での対応としてはまだ不十分だと説明した。

直近2年以内で迷惑行為が増えていると感じているか尋ねると、「増えている」が33.7%(2020年調査46.5%)、「減っている」が6.7%(同3.3%)、「変わらない」が34.7%(同25.7%)、「わからない」が24.9%(同24.6%)で、「増えている」と感じている人の割合は大きく低下したが、「変わらない」とする人が増加した。

<迷惑行為の事例>

夜9時に呼び出され1時間半拘束

調査では、自由記述方式で、迷惑行為の事例を記述してもらっている。UAゼンセンによれば、自由記述は回答必須としなかったにもかかわらず、約1万人の回答者が何らかの記述を行ったという。

主なものを紹介すると、流通部門では、「従業員の伝達ミスでこちら側にも非はあるが、ミスにつけ込み無理難題を要求。その場は社員と副店長が対応を代わり、自らは一度帰宅したにも関わらず夜9時に呼び出され1時間半拘束された。また、社員と副店長は夜中12時まで拘束された」「『女のくせに』と暴言を吐かれ、後日、木刀を持って再来店され、非常に恐怖を覚えた」「セルフレジで会計が終わっていないのに帰ろうとしたので声をかけたら、クレジットカードを投げつけられ、『何様のつもりだ』と暴言を吐かれた」「謝罪はしたものの、謝罪がないとSNSで名指しで投稿された」といったケースがあった。

総合サービス部門では、「冬の屋外で2時間以上、謝罪をさせられた」「歯を食いしばれと言われ、殴ろうとしたり、車でひこうとしてきた」「勝手に写真を撮られたり、テーブルに行く度に腕を触られたり、常連さんだと思って話しかけたら腰に手を回されたりした」などの深刻な被害も報告があった。

<今後の対策についての考え方>

業種ごとにカスハラの定義化を

UAゼンセンでは、カスハラは、業種により内容や、必要な対策が異なることが想定されることから、「業種ごとにカスハラの事例を積み上げて定義化するとともに、業界の標準かつ適正な取引慣行に向け、経営者団体や事業者に対する業所管府省庁による支援強化が必要」だと主張。さらに、総合的な対策の推進を目的として、「労使の代表者や有識者等も含めた協議会等の設置を求めていく」としている。

また、「対策を事業主の努力に委ねるのではなく、カスハラは許されないという社会的な合意形成に向け、周知活動の強化とあわせて、消費者教育の強化が必要」だとも強調する。

対策を義務付ける法制化を求める

法制化に関しては、「企業規模を問わず、労働者が働きやすい環境の構築へは、法的な根拠が後押しになると考える」として、「事業主に対し、カスハラを受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するための体制整備や、カスハラを受けた労働者の心身の不調への相談対応、対応マニュアル策定、研修実施など、被害を防止するための対策を義務付ける法制化を求める」としている。

また、将来的には、ILO(国際労働機関)第190号条約(仕事の世界における暴力及びハラスメントに関する条約)の批准を目指す必要があるとしている。

(調査部)

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