育児・介護などとの両立が必要なフリーランスに対し、発注者側が配慮すべき内容などを例示
――厚生労働省「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」が報告書をとりまとめ
スペシャルトピック
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が11月1日に施行されることをうけ、同法に盛り込まれた「特定受託事業者の就業環境の整備」の具体的な内容について検討していた厚生労働省の「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」は5月22日、報告書をとりまとめた。報告書は、同法が第12条で規定する募集情報の的確な表示について、具体的な情報の提供方法として、書面やFAX、電子メールなどを提示。表示する事項は、業務内容、業務場所、期間、時間、報酬などを列挙した。特定受託事業者が妊娠・育児などと両立して業務に従事できるよう配慮することを定めた第13条関係では、配慮が必要になる場合の業務委託期間を「6カ月」が適当だと明記し、配慮の具体的な内容なども例示した。
11月1日に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行
昨年5月に公布され、11月1日に施行が予定されている「フリーランス・事業者間取引適正化等法」、いわゆるフリーランス新法は、フリーランスが取引先との関係の中で弱い立場に置かれやすいことをふまえ、特定受託事業者の取引適正化や就業環境の整備を図るため、特定受託事業者に業務委託する事業者に対し、給付の内容やその他の事項の明示を義務づけた。なお、同法では、特定受託事業者の範囲を、フリーランスのなかでも企業と業務委託契約を結ぶ「事業者間(B to B)」の取引を行う者と定めている。
特定受託事業者の就業環境の整備について同法は、募集情報の的確な表示を促すため、第12条で、広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないものとするとした。また、妊娠、出産や育児・介護との両立に配慮するため、第13条では、特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託された業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないものとするとした。
第14条では、ハラスメント対策として、特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に関する相談対応など、必要な体制整備等の措置を講じなければならないものとすると規定。解除等の予告に関する第16条では、政令で定める期間以上の業務委託を中途解除する場合などには、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないことを明確にした。
同法はまた第15条で、第12~14条に定める事項に関しては、厚生労働大臣が、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するとした。
募集情報の提供方法は書面、FAX、電子メールなどが適当
同法における特定受託事業者の就業環境の整備に関する具体的な内容については、政令、省令、告示で定めることになっている。これに関連して、「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」がその内容について検討を行い、このほど、その結論を報告書としてとりまとめた。
それによると、まず、募集情報の的確な表示を定めた第12条の関係では、厚生労働省令で定める、的確表示義務の対象となる募集情報の提供方法について、①書面の交付の方法②ファクシミリを利用してする送信の方法③電子メールその他のその受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法――などが適当だとした。
政令で定める的確表示義務の対象となる募集情報の事項については、①業務の内容②業務に従事する場所、期間および時間に関する事項③報酬に関する事項④契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)に関する事項⑤特定受託事業者の募集を行う者に関する事項――と整理した。
6カ月の継続的業務委託で出産などに対する配慮を義務化
妊娠、出産、育児・介護との両立の配慮を定めた第13条関係では、発注者側に配慮が必要となる場合の、政令で定める「継続的業務委託」の期間について、「6カ月」とすることを適当とした。なお、期間の算定にあたっては、業務委託にかかる契約を締結した日を始期、業務委託にかかる契約が終了する日を終期とするなどの考え方もあわせて示した。
ハラスメント対策に関する体制整備に関しての第14条関係では、厚生労働省令で定める妊娠、出産等に関するハラスメントとなる言動の対象事由の内容について、①妊娠したこと②出産したこと③妊娠または出産に起因する症状により業務委託に係る業務を行えないこともしくは行えなかったこと、または当該業務の能率が低下したこと――などとすることが適当だとした。
中途解除の予告方法も書面やFAX、電子メールなどが適当
中途解除等の事前予告・理由開示に関する第16条関係では、厚生労働省令で定める予告の方法について、①書面を交付する方法②ファクシミリを利用してする送信の方法③電子メール等の送信の方法(記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)――が適当だとした。
厚生労働省令で定める事前予告の例外事由の内容については、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合などを例示した。
理由開示の方法については、①書面を交付する方法②ファクシミリを利用してする送信の方法③電子メール等の送信の方法(記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)――が適当だとした。
理由開示の例外事由については、①第三者の利益を害するおそれがある場合②他の法令に違反することとなる場合――とすることが適当だとした。
このほか、一定の事由がある場合に事前予告なく解除することができるとあらかじめ定めていても、直ちに事前予告が不要となるものではなく、法に規定する事前予告の例外事由に該当するか否かの判断が必要となることとする、などの解除の考え方について、解釈通達やリーフレットなどに記載し、周知を行うことが適当だとした。
具体的な配慮や措置の例を指針で提示
報告は、同法の第15条で公表することが規定された指針の内容もあわせて検討した。
その内容をみると、第12条関係の募集情報の的確な表示では、的確表示の対象となる募集情報の提供方法について、さらに踏み込んで、①新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告②文書の掲出または頒布③書面の交付④ファクシミリ⑤電子メール等――などを例示した。
募集情報にかかる虚偽の表示の禁止では、特定受託事業者の募集情報を提供するときに意図して募集情報と実際の就業に関する条件を異ならせた場合や、実際には存在しない業務に関する募集情報を提供した場合などには、虚偽の表示に該当することなどを例示し、虚偽ではなくとも、実際に業務委託を行う事業者とは別の事業者の名称で業務委託にかかる募集を行う場合や、契約期間について実際の期間とは大幅に異なる期間を表示している場合なども「誤解を生じさせる表示に該当する」とした。
育児・介護等との両立を配慮すべき事業者には申出内容の把握や選択肢の検討を
妊娠、出産、育児・介護に対する配慮に関しての第13条関係では、特定受託事業者が育児・介護等の両立に配慮すべき事業者である場合には、①配慮の申出の内容等の把握②配慮の内容または取り得る選択肢の検討③配慮の内容の伝達および実施④配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明――の配慮をするよう努めなければならないとした。
そのうえで、特定受託事業者からの配慮の申出に対し、特定業務委託事業者が配慮を実施する場合の具体例として、①妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整してほしいとの申出に対し、調整したうえで特定受給事業者が打ち合わせに参加できるようにすること②妊娠に起因する症状により急に業務に対応できなくなる場合について相談したいとの申出に対し、そのような場合の対応についてあらかじめ取り決めをしておくこと③出産のため一時的に特定業務委託事業者の事業所から離れた地域に居住することとなったため、成果物の納入方法を対面での手渡しから宅配便での郵送に切り替えてほしいとの申出に対し、納入方法を変更すること④子の急病等により作業時間を予定どおり確保することができなくなったことから、納期を短期間繰り下げることが可能かとの申出に対し、納期を変更すること⑤特定受託事業者からの介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること――を列挙した。
指針はまた、これらの配慮を申し出ようとする特定受託事業者に対する特定業務委託事業者による望ましくない取り扱いも盛り込んでいる。例えば、申出の阻害の例としては、膨大な書類を提出させるような手続きなどをあげた。不利益な取り扱いの例としては、契約の解除や報酬を支払わないことや減額、取り引きの数量の削減などをあげた。
ハラスメントはセクハラ、妊娠等に関するハラスメント、パワハラの3種類
指針は業務委託におけるハラスメントの内容も示している。
業務委託におけるハラスメントとは、①業務委託におけるセクシュアルハラスメント②業務委託における妊娠、出産等に関するハラスメント③業務委託におけるパワーハラスメント――の3種類と説明。「業務委託におけるセクシュアルハラスメント」には、「対価型セクシュアルハラスメント」と「環境型セクシュアルハラスメント」があるとし、「対価型セクシュアルハラスメント」とは、性的な言動に対する対応により特定受託事業者が不利益を受けることとし、具体的な例として、特定受託事業者に対して性的な関係を要求したが拒否されたため、契約を解除することなどをあげた。
「環境型セクシュアルハラスメント」とは、性的な言動により就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じることと説明し、具体的な例として、特定受託事業者への身体的接触が行われたことで、その就業意欲が低下していることをあげた。
妊娠等に関するハラスメントは「状態への嫌がらせ」と「配慮申出への嫌がらせ」に分類
「業務委託における妊娠、出産等に関するハラスメント」については、「状態への嫌がらせ型」と配慮の申出等への「配慮申出等への嫌がらせ型」の2つに分類。「状態への嫌がらせ型」とは、妊娠などに起因する症状により業務を行えないことに関する言動により就業環境が害されるものと定義し、具体例として、妊娠したことを理由に嫌がらせを行うものをあげた。
「配慮申出等への嫌がらせ型」は、配慮を申し出たことに関する言動により就業環境が害されることとし、具体例として、配慮の申出を取り下げるよう指示することなどをあげた。
「業務委託におけるパワーハラスメント」については、業務委託に関して行われる取引上の優越的な関係を背景とした言動であって、業務委託にかかる業務を遂行するうえで必要かつ相当な範囲を超えたものにより、特定受託事業者の就業環境が害されるものであり、これらをすべて満たすものと定義。具体的な例として、暴行・傷害、人間関係からの切り離し、業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる過大な要求などを示した。
特定受託事業者へのハラスメント対策を明確にして周知を
指針はこれらの業務受託におけるハラスメントを防止するため、特定業務委託事業者は、①特定業務委託事業者の方針等の明確化およびその周知・啓発②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備③業務委託におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応――などの措置を講じなければならないと明記。
具体的な措置の例として、就業規則において業務委託におけるハラスメント防止の方針を明確化し、ハラスメント内容や規定を労働者に周知・啓発することや、ハラスメント言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発することなどを示した。
また、特定受託事業者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するための窓口を設置し特定受託事業者に周知することや、その相談窓口の担当者が適切に対応できるようにすることも示した。さらに、内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門などの関係課が連携を図ることなども盛り込んだ。
(調査部)
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