養成講習・更新講習のアップデートや企業での利用促進に向けた周知を
 ――厚生労働省の「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会」が報告書をとりまとめ

国内トピックス

厚生労働省の「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会」(座長:花田光世・慶應義塾大学名誉教授)は昨年12月、キャリアコンサルタント登録制度の運用上に関する見直しについて、報告書をとりまとめ、公表した。報告書は、リ・スキリングの支援や転職相談などに向け、キャリアコンサルタントが期待される社会的役割を果たすため、養成講習・更新講習のアップデートや、更新講習の受講者が適切に必要な科目を選択できる仕組みづくりの必要性を指摘。また、企業などでの普及促進に向け、キャリアコンサルティングの実態や効果の把握・周知を徹底することを求めている。

国家資格登録者は7割以上に及ぶも、相談利用者は約2割にとどまる

国家資格キャリアコンサルタント制度は2016年に創設。厚生労働大臣の認定を受けた養成講習の150時間以上の受講、または3年以上の実務経験を経ることで受験資格を得ることができ、試験に合格した場合は、登録を受けたうえでキャリアコンサルタントとなることができる。登録は5年ごとの更新が必須で、指定の更新講習(知識講習8時間以上および技能講習30時間以上)の受講が基本的な要件となる。国家資格登録者は2023年3月末時点で6万5,879人おり、更新率は2022年度で70.6%となっている。

こうしたなか、2022年度能力開発基本調査によると、前年度にキャリアに関する相談を利用した労働者は10.5%と1割程度。また、相談した相手について、キャリアコンサルタントなどのキャリアに関する専門家への相談は約2割にとどまるなど、課題も浮き彫りとなっている。

養成・試験・更新制度の見直しや誰でも気軽に利用できる環境整備を提起

報告書ははじめに、こうした状況をふまえ、キャリアコンサルタントのニーズに関する課題と、供給上の課題をまとめている。

ニーズに関する課題についてはまず、リ・スキリングの選択にかかわる支援やキャリアアップ・転職の相談など、キャリアコンサルタントの社会的な役割に対する期待が高まるなか、キャリアコンサルタントの専門的な知識・技能の継続的な質保証を目的に創設されたキャリアコンサルタント登録制度の機能が有効に働き続けるよう、「能力要件に基づく養成と試験、更新制度の適時適切な見直しを行うことが必要」と指摘。

また、活動していない者や登録更新を行わない者が一定数いること、キャリアに関する相談を利用する労働者やそれを支援する仕組みを導入する企業もいまだ少ないことにも言及したうえで、キャリアについて労働者に自律的・主体的に考えることの必要性やキャリアコンサルティングの有用性を積極的に示すことで、「キャリアコンサルティングの利用促進を図ること、併せて、キャリアコンサルタントを誰でも気軽に利用できる機会が提供される環境を整備することが必要」と提言した。

供給上の課題としては、現状約7割にとどまっている更新率について、「引き上げを目指すとともに、登録者のキャリアコンサルタントとしての活動を促進するための取り組みが求められる」と指摘。経験を積んでいるキャリアコンサルタントがさらなる能力向上を目指す仕組みや、経験が不十分な者が知識や技能の維持・向上のための学びを継続しやすい仕組みなどの整備を求めた。

また、これらの課題をふまえ、キャリアコンサルタントが、内部労働市場、外部労働市場の双方においてその社会的な役割を果たせるよう、能力向上や活用促進のための制度・環境整備の必要性を提示。「現行制度の枠組みの下で可能な対応を速やかに進めるとともに、今後、キャリアコンサルタント登録制度がキャリアコンサルタントの知識・技能の質の保証の仕組みとしてより効果的に機能するよう、制度の見直しについても検討していく必要がある」とした。

更新講習のうち知識講習についてはオンラインも活用し定員上限の撤廃を

報告書では続いて、早急に進めるべき取り組みとして、①キャリアコンサルタントの能力向上、活動促進②キャリアコンサルティングの普及促進――の2点に整理している。

「キャリアコンサルタントの能力向上、活動促進」については、はじめに講習の適切・効果的な提供の徹底に向けた対応をまとめている。それによると、養成講習や更新講習の内容について、キャリアコンサルタントに経済社会情勢の変化に対応して適切な助言を行う能力が求められることから「養成講習および更新講習の内容が適切にアップデートされることが不可欠」と指摘。講習の科目の1つである「労働市場の知識」や「労働政策及び労働関係法令ならびに社会保障制度の知識」など、最新の労働市場や制度等に関する必要事項が適切に盛り込まれた講習が実施されるよう、徹底すること、としている。

また、更新講習の指定に関連した定員要件についても言及。現行では原則、講義によって行う場合は1回あたり30人、演習によって行う場合は1回あたり20人が上限となっているが、コロナ禍を経てオンラインやオンデマンドでの講習が一般的となっていることをふまえ、知識講習について、カリキュラムや教材などの内容が対象科目に関する知識の習得のために適切なものであることについても確実に担保することを前提に、「定員上限を撤廃し、各講習実施機関がその実情に応じて柔軟に講習規模を設定することを認めることが適当」としている。

一方、技能講習については、知識講習に比べて相手の状態を相互に認識しながら講義または演習を行うことの重要性が高いことから、「オンラインによる実施の普及に伴う講習効果への影響について分析を進めたうえで、適切な定員上限の在り方(見直しの可能性)について今後検討することが必要」との考えを示した。

技能講習は受講者が判断しやすいような科目名や検索しやすい仕組みに

報告書ではそのほか、技能講習の明示方法についても言及した。

現行では、受講者のキャリアコンサルタントとしての経験、活動分野や能力水準などに応じて、補うべき分野やさらに伸ばすべき分野が異なることから、厚生労働省が定める一定の科目の範囲内から受講者がキャリアコンサルタントとしての経験に応じて必要な科目を選択して受講することとされている。ただし、各技能講習で定められた科目のうち、どの範囲を取り扱うかは、講習実施機関に委ねられている。そのため、必要な科目が提供され、受講者が適切に選択できるよう、「政策課題や技法の改善等の状況、指定されている講習の内容別の状況を踏まえて、指定申請が推奨される科目や内容を厚生労働省が示すような仕組みを設けることが有効」とした。

また、各講習を通じて習得が可能な技能や想定される受講者の技能・経験レベルについて、「受講者の判断を容易にするような分かりやすい講座名とするよう講習実施機関に促す」ことをすすめるとともに、キャリアコンサルタント講習検索サイトなどで分類を表示したり検索を可能にすることで、「受講を希望する者の選択を支援する仕組みを設けることが効果的」だとしている。

スーパービジョンの機会拡充や指導者の養成も重要視

更新講習以外の学びの機会の確保としては、スーパービジョン(上級のキャリアコンサルタントからのキャリアコンサルティングの実務に関する指導)の機会の拡充と指導者(スーパーバイザー)の養成を提起している。

現行では、更新講習において1級技能士により行われるスーパービジョン・キャリアコンサルティングに関する実務については合わせて10時間以内に限り、技能講習の受講と見なされ、更新講習時間が控除されることとなっている。しかし、1級技能士によるスーパービジョン受講による更新講習時間控除の利用は1%に満たず、キャリアコンサルタントとしての能力の維持・向上のためにスーパーバイザーによる助言・指導を受ける者も約1割にとどまっていることから、報告書は、2級技能士に対し、1級取得への取り組みを促すことや、技能士資格取得後のスーパーバイザーとしての指導力向上のための養成・育成の取り組みなどの必要性を強調した。

気軽に相談できる窓口としてハローワークでの相談支援強化も

もう1つの「キャリアコンサルティングの普及促進」については、まず企業でキャリアコンサルティングの利用が進まない要因として、キャリアコンサルタントがどのような支援を行っているのか、支援を通じて労働者がどのようなメリットを得られるのかといった内容が、十分に認識されていないと指摘。分かりやすく発信するため、厚生労働省・関係機関でキャリアコンサルティングの実態や効果の把握、とりまとめ、周知に努めるほか、各キャリアコンサルタントが自身の実践の中で、「キャリアコンサルティングの利用によるメリットやリ・スキリングの必要性・重要性についての発信に積極的に取り組むことが求められる」としている。

また、「利用のメリットの周知・理解促進と併せて、誰でも気軽に利用できる環境の整備が不可欠」とし、ハローワークにおけるキャリアコンサルタントによる相談支援機能の一層の強化、民間の職業紹介事業者・労働者派遣事業者での対応の検討を強調。

そのほか、企業では設置が努力義務として課せられている職業能力開発推進者の役割をキャリアコンサルタントが務めることで、「事業内職業能力開発計画の策定や労働者に対する相談・指導、組織課題の改善・ 解決に向けた関係者との調整の役割等を担っていくことが期待される」として、引き続きの周知や適切な選任の促進が必要だとしている。

求められる役割に対応するための能力要件や更新要件の見直しも課題に

報告書は最後に、今後の検討課題として、①能力要件・能力体系の見直し②更新要件の見直し――の2点をあげた。

1つめの能力要件・能力体系の見直しでは、現行の能力要件が検討から5年、施行から3年が経過していることや、コロナ禍などで労働者の働き方や企業にとってのビジネス環境も変化し、労働者のリ・スキリングの重要性が一層高まっていることを指摘しながら、「求められる役割に的確に対応できるキャリアコンサルタントの能力を担保する観点から、改めて能力要件の検証・見直しを検討すべき」として、キャリアコンサルタントとして共通して求められる能力要件だけでなく、領域や多様な支援対象者に応じて求められる専門的な知識・技能の内容・水準を整理し、それらも含めた能力体系としてあらためて整理する必要性を強調した。

2つめの更新要件の見直しでは、スーパービジョンを受けることの普及促進として、「技能講習の受講を原則とした上でスーパービジョンや実務を通じた実践力向上の取り組みをその代替として位置づける現行の仕組みを維持することが最適かどうかを含めた検討が必要」だと主張。

また、更新講習のうち知識講習は、定められた科目のすべてについて行うこととしている一方、技能講習は受講者がその経験に応じて選択する科目について行うこととしている枠組みを今後も継続すべきかどうかなど、現状の能力向上の取り組みの実態をふまえ、あらためて検討することを提案した。

(調査部)