青森、秋田、岩手の3県で年間所定休日に関する労働協約を地域的拡張
 ――UAゼンセン加盟労組の家電量販店2社

スペシャルトピック

UAゼンセンに加盟する「ヤマダホールディングスユニオン」と「UAゼンセン デンコードーユニオン」の2労組が会社側と締結した年間所定休日に関する労働協約が、青森、秋田、岩手の北東北3県の大型家電量販店に拡張適用されることになった。これにより、今後3県に出店する他社の社員でも、対象となる労働者には、拡張適用される協約が定める「年間所定休日日数111日以上」が適用される。労働組合法第18条にもとづく「労働協約の地域的拡張」と呼ばれる制度によるもので、拡張適用期間は今年6月1日~2025年5月31日まで。

昨年7月に厚労大臣に申し立てを行っていた

労働組合法第18条では、ある地域で働く同種の労働者の大部分が、1つ労働協約の適用を受けることになった場合、労働協約の当事者(労使)の双方または一方の申し立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣または都道府県知事がその地域の同種の労働者および使用者もその労働協約の適用を受けると決定できると定めている。

ヤマダホールディングスユニオンとデンコードーユニオンは、2022年5月13日の会社側との労働協約の締結を経て、同年7月29日に、厚生労働大臣に対して、3県の全域を適用地域として年間所定休日日数111日以上とする労働協約の拡張適用を申し立てた。拡張適用を認めるかどうか、中央労働委員会で調査・審議が行われていたが、加藤勝信厚労相は今年4月11日、協約を拡張適用することを決定した。

UAゼンセンの加盟組合における労働協約の地域的拡張の過去の取り組みは、ヤマダホールディングスユニオン、ケーズホールディングスユニオン、デンコードーユニオンが申し立て、最終的には茨城県全域で、年間所定休日日数111日以上の協約の拡張適用を2022年4月1日~2023年5月31日までの期間で適用することになって以来のこと(本誌2021年11月号トピックスにて詳報 (PDF:232KB))。

前回の茨城県全域での適用協約と内容は同じ

今回、拡張適用される協約の基本的な内容は、この前回の茨城県で適用された内容と同様となっている。具体的には、対象となる労働者は、大型家電量販店で働く、フルタイムの無期契約の労働者。大型家電量販店の条件については、①日本標準産業分類の「電気機械器具小売業(中古品を除く)」「電気事務機械器具小売業(中古品を除く)」または「写真機・写真材料小売業」のいずかに該当し、かつこれら以外の「百貨店、総合スーパー」「ホームセンター」などに該当しないこと②販売する商品のなかに、少なくとも「エアコン」「冷蔵庫」「洗濯機」の3品目が含まれていること③店舗がある建物が「大規模小売店舗立地法」における「大規模小売店舗」に該当すること④店舗面積が1,000平方メートルを超えていること――などの条件を充足する店舗が該当するとなっている。

フルタイムの無期契約の労働者の具体的な内容は、大型家電量販店を営む事業主との間で労働契約を締結していることや、労働契約に契約期間の定めがないこと、大型家電量販店を主たる就労場所として労働時間管理を受けていること、所定労働時間が1日7時間以上でありかつ、1週35時間以上であること――などを充足する労働者となっている。なお、店長や次長などの職名を持つ課長級以上の管理職で、かつ、適用対象労働者を2人以上、部下としている者は対象にならない。

UAゼンセンによると、3県にある2社の大型量販店の従業員は合わせて1,500人強。中央労働委員会の決議によると、3県にある2社の大型家電量販店の店舗数は57で、無期雇用フルタイム労働者数は485人。2社ともにユニオンショップ協定が締結されていることから、全員が組合加入者で、協約の適用を受けている。3県における「同種の労働者」に対する協約のカバー率は90.3%。

適用地域における大型家電販売店に勤務する適用対象労働者に適用される労働契約、労働協約、就業規則などの定める労働条件のうち、今回拡張適用される協約が定める労働条件を下回る部分については無効となり、無効とされた部分については、拡張適用された協約が定める内容となる。

労働協約の拡張適用の期間は、2023年6月1日~2025年5月31日まで。

「未組織の労働者の保護にもなる」(UAゼンセン・古川書記長)

UAゼンセンによると、3県で、拡張適用の対象となり得る大型家電量販店を展開している企業は他に株式会社コジマ(労組はUAゼンセン加盟で、2労組と同じ家電関連部会)がある(中労委決議によると3県内に3店舗)。ただ、同社の労使は年間所定休日日数について114日の協約を締結していることから、適用開始時点で拡張適用の影響を受ける店舗はない。今回の中央労働委員会の決定について、UAゼンセンに加盟する同社の労組も「承知しているとともに、賛同している」(西尾多聞・UAゼンセン副書記長)。

11日にUAゼンセン本部で行われた記者会見で、古川大書記長は、「今回の決定によって、より広域の複数県においても、拡張適用ができるということが明確になった。この取り組みは、ある地域内の対象となる労働者の多くを労働組合員として組織化し、健全な労使関係のもとで、企業労使の枠を越えて、連帯して労働協約を締結することが、その地域における働き方の社会的なルールづくりにもつながるものであり、組合づくりや、集団的労使関係の意義を高めるだけでなく、労働組合のない企業で働く未組織の労働者の保護にもなるものだ」と話した。

UAゼンセン流通部門の波岸孝典事務局長は、家電関連部会では過去から、春の労使交渉で年間所定休日などについて統一要求する取り組みを行ってきており、「部会全体で交渉に挑むという強みをもともと持っていた」と述べるとともに、業界内での組織率が高いことから、実現性も考慮し部会で検討を進め、申し入れに至ったと説明。決定について、「組合の思いだけではなく、経営者の理解も必須条件だった」とし、「公正労働基準を担保した公正競争という考え方に労使双方、理解と協力をいただいたことと、それにもとづいた経営者の理解に感謝したい」などと話した。

複数の県での適用は初めて

UAゼンセンによると、今回の決定の大きな特徴は、複数の県全域を1つの地域として認めた点。前回の茨城県全域を対象地域とした決定では、申し立てでは、商圏が連続することなどを理由に、茨城県全域だけでなく、隣接する千葉県、栃木県、福島県の一部の市町村を適用地域としたが、3社が全国展開企業であることや、協約に関与していない労使に対する説得性が必要であることなどを理由として、茨城県全域という最終結果となった。今回の中労委の決議は、「本件協約の当事者は全国に大型家電量販店を展開する企業であり、本件協約の適用地域のみに店舗及びその消費者が集積・分布しているものではないが、本件協約の適用地域である本件3県は、連続した地域であり、客観的に確定でき、明確性を備えた地域といえる」とした。

記者会見に同席した古川景一弁護士は、複数の県を対象地域とする決定は「今回が初めて」と説明し、西尾副書記長は、広域での拡張適用の「道を拓いた」と評価した。

家電量販店では、企業間競争の激化によって年間所定休日日数が減少しており、「2000年以降では、上新電機が年間120日に設定するなどの時期もあった」(古川弁護士)ものの、現在は業界で110日以下の企業もみられ、いまも全体的な水準は回復できていないという。古川弁護士は、1企業内での労働協約は、企業間競争で経営状況が悪くなると、労働協約を変えて全体の労働条件を下げるため、企業間競争に弱いと指摘。逆に、企業横断的な労働協約は下限を決められることから、「協約が有効なうちは労働条件の底をつくることができる」とし、地域的拡張の取り組みの重要性を訴えた。

(調査部)

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