1カ月におよぶ実習型研修などで正社員就職から定着までを後押し
 ――神奈川県の「かながわジョブテラス」などの取り組み

企業・行政取材

神奈川県では、就職氷河期世代を対象とした合同就職面接会「かながわ正社員就職フェア」に加えて、正社員就職に向けた、1カ月にわたる実習型のプログラムを提供する「かながわジョブテラス」を開講。就職活動の進め方などを学ぶだけでなく、キャリアカウンセラーも配置して、就職活動についての不安や悩みを解消できる伴走型支援の体制をつくり、求職者を支えた。かながわジョブテラスでは、受講期間終了後も3カ月間は、同じキャリアカウンセラーがフォローアップを行い、受講生の職場定着や就職活動の継続について支援した。

正社員限定の合同就職面接会、2022年度は約180社が参加

「かながわ正社員就職フェア」は、正社員として就職氷河期世代を採用することに意欲的な企業等と正社員としての就職を希望する就職氷河期世代とのマッチングを図るための正社員求人限定の合同就職面接会。

2020年度は4回(うち1回はオンライン)、2021年度は5回開催し、2022年度も、7月3日(川崎会場)、8月27日(横浜会場)、11月23日(横浜会場)、11月28日(相模原会場)、12月10日(藤沢会場)と5回開催している。

神奈川労働局が共催で、就職氷河期世代限定・歓迎求人を出す企業が出展。2022年度の5回の面接会では、各回約20~50社、合わせて約180社が参加している。

書類選考なしで面接できるよう工夫

参加した企業の顔触れをみると、製造業から情報通信業、卸売業・小売業、医療・福祉、サービス業など、多業種にわたっている。県から企業には、就職氷河期世代の積極的な採用を呼びかけるだけでなく、その業界や職種の経験の有無に関係なく人物を見てくれるようにお願いしている。

就職活動では、まず、履歴書・職務経歴書を用意して、書類選考を通過後、面接に進むことが多いが、この面接会では、書類選考がなかなか通らないという悩みの多い就職氷河期世代の求職者が参加しやすいように、「自己PRカード」だけで、書類選考なしで面接を受けられるようにしている。また、事前の参加登録を必須とせず、当日参加もできるようにしている。

会場には、出展企業の面接を受ける「企業ブース」のほか、キャリアカウンセラーやハローワーク職員が面接会での企業の回りかたや面接対策をアドバイスしたり、就職の悩みの相談に応じる「就職相談ブース」を設置。また、神奈川県の職業訓練校の職員が公的な職業訓練に関する情報提供をしたり、相談に応じる「職業訓練ブース」、ハローワーク求人票やチラシ・パンフレットなどを提供する「求人情報コーナー」も設置されている。

2022年度は、5回の面接会で延べ約680人の求職者が参加して、面接に臨んだ。3年間の延べ参加者数は1,800人以上にのぼった。

「就職氷河期世代対象の、これだけ大規模なイベントはほかにはなかなかない。就職氷河期世代の方にも自分たちのための面接会ということが伝わり、参加者の満足度は高かった」と産業労働局労働部雇用労政課は振り返る。普段の求職活動では、書類選考を通らないこともあるが、最初から企業に直接自分を見てもらえることがこのイベントの良いところだと説明する。

実習型研修の「かながわジョブテラス」は2年間で約100人が受講

「かながわジョブテラス」は、1カ月間、正社員として就職するために必要な基本的なスキルや心構えなど、働くうえで実践的な能力を身につけることができる実習型のプログラムにより、就職につなげるというもの。

2022年度は3期実施し、合計で60人が受講した(1期につき20人)。実施初年度の2021年度は、2カ月間の期間で2期実施。2年間を合わせると約100人が受講したことになる。

プログラムは、ビジネスコミュニケーションなどの「就職活動の基礎」から、キャリアデザインや市場理解といった「就職活動スキル」、ミニ企業説明会、模擬面接などの「就職活動実践」までのステップアップ方式になっている。

ステージ1「就職活動の基礎」では、オリエンテーション、ビジネスコミュニケーション、ミドル層の就活の進め方などを学ぶことにより、正社員としての仕事に対する姿勢を身につける。ステージ2「就職活動スキル」は、キャリアデザイン、応募書類作成、ミドル層の労働市場・業界職種研究、求人サイトや求人票の見方などを学ぶことで、就職活動スキルを身につけ、前向きに応募できる状態をつくる。

最後のステップであるステージ3「就職活動実践」では、ミニ企業説明会、模擬面接、モチベーション向上講座などを繰り返すことにより、就職活動のイメージを付け、就職に繋げるとともに、就職活動や就職後の職場でのモチベーションの維持、向上が図られている。

専任のキャリアカウンセラーが付いて手厚くフォローする

「かながわジョブテラス」では、受講生が毎日、決められた場所に通うというスタイルをとり、朝10時から夕方4時30分までを受講時間とし、朝礼や夕礼も毎日行うことで、実際の企業勤務のリズムがつかめるよう、工夫されている。

受講期間中は、専任の担当キャリアカウンセラーを配置し、研修プログラムについてだけでなく、就職活動などに対する不安や悩み、疑問を相談できる伴走型支援の仕組みを用意している。2022年度では、計5人のキャリアカウンセラーを配置し、1人のキャリアカウンセラーが4人の受講者をフォローするようにしている。また、就職活動を支援するため、一定の要件のもと、1日あたり3,000円の「就活支援金」を支給している。

参加者の半数以上が就職を実現

参加した受講者の半数以上が、就職に結びついているという。

正社員として就職した受講者からは、「自分の性格に合わせてフォローしてもらった。面接に恐怖心を抱いていたが、ジョブテラスの経験で克服できた」(受講まで1年半離職していた30代後半女性、情報通信業にIT関連職として正社員就職)、「カウンセラーや講師などからのアドバイスで、客観的に自分を見つめ直すことができた。自分の状況にあったアドバイスが就職につながった」(30代後半の男性、卸売業・小売業に営業サポートとして正社員就職)、「講師やカウンセラーからのアドバイスで、自分が思っているイメージと、他人が思うイメージが違うことに気づき、就職先を探すうえでの業種や職種の幅が広がった」(30代後半の女性、運輸業に一般事務として正社員就職)、「10年以上派遣社員をしていて、その後、失業。不安と焦りがあったが、『かながわジョブテラス』では、グループワークで自分の得意なこと・できることは何かが明確になり、自分のアピールポイントに気づけたことが、面接で大いに役に立った」(40代後半の女性、教育・学習支援業に一般事務として正社員就職)、「約6年間のブランクがあり、その後は短期アルバイトなどをしていたが、受講するうちに周りの目が気にならなくなり、より行動的になった」(50代男性、小売業に製造職として正社員就職)といった声が聞かれた。

就職後も3カ月間、担当のキャリアカウンセラーがフォロー

「かながわジョブテラス」では、受講後も3カ月間のフォローアップ期間を設けている。就職が決まった人に対しては、定着のための支援を行い、就職が決まっていない人には継続した就職支援を行っている。受講期間中に担当していたキャリアカウンセラーが、就職が決まった人に対しては、新たな職場や仕事などについての相談に乗っている。一方、就職活動を継続している人に対しては、応募企業が決まったあとに、その業界や職種にあった効果的な書類作成を指導したり、模擬面接に協力したりしている。

こうした手厚いサポートにより、「かながわジョブテラス」の参加者の満足度は100%を達成している。

神奈川県は、就職氷河期世代の就職支援の取り組みにおいて、県内の横浜市、川崎市、相模原市、藤沢市とも連携を図り、イベントの広報などで互いに協力しあった。前半で紹介した「かながわ正社員就職フェア」の会場も、連携を意識して、横浜市、川崎市、相模原市、藤沢市で開催した。県のこのほかの取り組みとしては、県立総合職業技術校(「かなテクカレッジ」)の募集における就職氷河期世代の募集優先枠の設定などがある。

伴走型支援だからこそ得られた成果

「かながわ正社員就職フェア」「かながわジョブテラス」を所管する雇用労政課では、これまでの取り組みについて、「かながわ正社員就職フェアではかなり多くの方に参加してもらった。これだけ多くの求職者や企業に参加いただけたのは、企業や求職者のニーズに合ったからではないか」「かながわジョブテラスでは、実際に就職に結びついた方も多く出ていて、手厚い伴走型支援は効果的だったと考える」と話す。

2023年度以降の事業予定は検討中であるものの、「合同就職面接会だけを実施するのではなく、並行して求職者が自信を持って求職活動したり、スキルアップに取り組む仕組みが重要。かながわジョブテラスは、伴走型支援だったからこそ、これだけの成果を得られた。丁寧にサポートするからこそ、対象人数を増やせないところにジレンマはあるが、できれば引き続き今の形でサポートを継続したい」としている。

(田中瑞穂、荒川創太)