専門業務型裁量労働制の対象に銀行などでの合併・買収助言業務を追加へ
 ――労働政策審議会労働条件分科会が今後の労働契約・労働時間法制に関する報告をとりまとめ

スペシャルトピック

今後の労働契約法制と労働時間法制のあり方について検討していた労働政策審議会の労働条件分科会(座長:荒木尚志・東京大学大学院教授)は昨年末、最終報告(「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」)をまとめ、公表した。有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合に、労働者が無期契約への転換を申し込むことができるとする、いわゆる「無期転換ルール」において、無期転換申込権が発生する契約更新時に労働条件などについて明示することを労働基準法の明示事項に追加することを提言。労働時間法制では、専門業務型裁量労働制の対象業務に、銀行や証券会社で顧客に対して合併、買収に関する考案・助言をする業務を追加することなどを求めた。これらをうけて厚生労働省は、施行規則などの改正作業を進めている。

<検討の経緯>

法改正時から施行状況をふまえた必要な措置を予定

労働契約法にもとづく「無期転換ルール」は2013年4月から全面施行された。ただ、改正法成立時に、「その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」とされており、また、2019年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」が、多様な正社員の雇用ルールの明確化の検討開始を盛り込んだことを踏まえ、厚生労働省では2021年3月に「多様化する労働契約のルールに関する検討会」を設置。同検討会は実態調査の結果なども踏まえながら2022年3月に報告をまとめた。

一方、労働時間法制では、働き方関連法が整備されたものの、裁量労働制における健康確保の方策などの課題があったことから、「これからの労働時間制度に関する検討会」を2021年7月に設置。裁量労働制など各労働時間制度の課題などを整理して2022年7月に最終報告をまとめた。

今回公表された報告は、これらの2つの検討会の報告がベースになっている。無期転換ルールに関する見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化などについては、労働条件分科会で2022年5月から議論をスタート。一方、労働時間法制については同年8月から議論を始め、それぞれ9回にわたって議論を積み重ねた。

<労働契約法制>

〔無期転換ルール〕

無期転換ルールが適切に活用されるよう、さらに取り組みを

具体的な内容について、まず無期転換ルールからみていくと、報告は「制度の活用状況を踏まえると、無期転換ルールの導入目的である有期契約労働者の雇用の安定に一定の効果が見られる」と、同ルールの雇用安定効果を評価しながらも、「制度が適切に活用されるよう必要な取り組みを更に進めることが適当である」と述べ、一層の適切な制度活用を求めた。

個別事項としてまず触れたのは、無期転換を希望する労働者の転換申込機会の確保について。無期転換ルールの内容や名称について何らか「知っていることがある」とする割合が企業では85%だったのに対し、有期契約労働者では56%となっている(※分科会での参考資料から)労使の認知状況を踏まえ、報告は、「無期転換ルールの趣旨や内容、活用事例について、一層の周知徹底に取り組むことが適当」だとした。

また、無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件について、労働基準法の労働条件明示の明示事項に追加することが適当だとも指摘した。なお、この場合、労働基準法が書面で明示するとしているものについては、「無期転換後の労働条件明示にあたっても書面事項とすることが適当」だとした。

更新上限の有無とその内容を労働基準法の労働条件明示事項に追加

無期転換前の雇い止めなどについても言及した。無期転換前に雇い止めすることや、無期転換申込みを行ったことなどを理由とする不利益取扱いなどについて、「法令や裁判例に基づく考え方を整理し、周知するとともに、個別紛争解決制度による助言・指導にも活用していくことが適当」と指摘。また、紛争を未然に防止したり、解決を促進するため、更新上限の有無とその内容を、労働基準法の労働条件明示事項に追加するとともに、労働基準法第14条に基づく告示のなかで、「最初の契約締結より後に、更新上限を新たに設ける場合又は更新上限を短縮する場合には、その理由を労働者に事前説明するものとすることが適当である」とした。

「クーリング期間」については、悪用を防ぐため、「法の趣旨に照らして望ましいとは言えない事例等について、一層の周知徹底に取り組むことが適当である」とした。現行のルールでは、以前の契約期間といまの契約期間の間に無契約期間があり、以前の契約の通算期間が1年以上の場合、無期契約期間が6カ月以上あるときは以前の契約は通算期間に含めず、無契約期間が6カ月未満のときは通算期間に含めることになっている。また、無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合は、無契約期間の前の通算契約期間に応じて、通算期間に含めないとする場合の無契約期間を定めている(例えば、無契約期間の前の通算契約期間が2カ月以下の場合、無契約期間が1カ月以上なら通算期間に含めない、など)。

〔労働契約関係の明確化〕

労働者全般の労働条件明示に場所・業務の変更の範囲を追加

労働契約関係の明確化に関する内容では、まず、多様な正社員に限らず労働者全般について、「労働基準法の労働条件明示事項に就業場所・業務の変更の範囲を追加すること」を求めた。

また、使用者が労働者に提示する労働条件・労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするとの労働契約法第4条の趣旨を踏まえ、多様な正社員に限らず労働者全般について、「労働契約の内容の変更のタイミングで、労働契約締結時に書面で明示することとされている事項については、変更の内容をできる限り書面等により明示するよう促していくことが適当」とした。さらに、労働基準法の労働条件明示のタイミングに、労働条件の変更時を追加することを引き続き検討することも求めた。

労使の紛争を未然に防止するため、「多様な正社員等の労働契約関係の明確化に関する裁判例等を幅広く整理して明らかにし、周知徹底に取り組むこと」を促すとともに、就業規則を備え付けている場所などを労働者に示すことなど、「就業規則を必要なときに容易に確認できるようにする必要があることを明らかにすること」も盛り込んだ。

〔労使コミュニケーション〕

各企業の取り組み事例の周知を

労使コミュニケーションについては、「労使コミュニケーションに当たっての留意点や、適切に労使コミュニケーションを図りながら、無期転換や多様な正社員等について制度の設計や運用を行った各企業の取組事例を把握して周知することが適当」と述べるとともに、「過半数代表者の適正な運用の確保や多様な労働者全体の意見を反映した労使コミュニケーションの更なる促進を図る方策について引き続き検討を行うこと」を提言した。

<労働時間法制>

〔裁量労働制〕

連合は対象業務の追加に遺憾の表明

労働時間法制では、裁量労働制についてまず、対象業務について言及した。企画業務型裁量労働制や専門業務型裁量労働制の「現行の対象業務の明確化」を行うこととともに、「銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務」を専門型の対象とすることが適当だとした。なお、この対象業務の追加について、労働組合のナショナルセンターである連合は、清水秀行事務局長の談話(12月27日)のなかで、遺憾の意を表明している。

労働者が理解・納得したうえでの制度の適用と裁量の確保に向け、報告は、対象労働者の要件について言及。専門型について「対象労働者の属性について、労使で十分協議・決定することが望ましいことを明らかにすることが適当」とした。また、対象労働者を定めるに当たっての適切な協議を促すため、「使用者が当該事業場における労働者の賃金水準を労使協議の当事者に提示することが望ましいことを示すこと」や、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更しようとする場合に、「使用者が労使委員会に変更内容について説明を行うこととすること」が適当だと指摘した。

本人同意しない場合に不利益取り扱いしないことを明示

本人同意・同意の撤回について、現行の専門業務型裁量労働制では企画業務型と異なり、本人同意が法定化されていないことを踏まえ、「専門型について、本人同意を得ることや同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないこととすること」「本人同意を得る際に、使用者が労働者に対し制度概要等について説明することが適当であること等を示すこと」のほか、「同意の撤回の手続を定めることとすること」も適当だと述べた。

さらに、同意を撤回した場合に不利益取り扱いをしてはならないことを示すことや、撤回後の配置や処遇等についてあらかじめ定めることが望ましいことを示すことも求めた。

業務量のコントロール等を通じた裁量を確保するため、「裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを示すこと」や、「労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われた場合には、労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することを示すこと」も求めた。

健康・福祉確保措置に勤務間インターバルの確保などの追加を

労働者の健康と処遇の確保に向けては、まず、健康・福祉確保措置について、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の適用解除)、医師の面接指導といった「健康・福祉確保措置の追加」などを行うことが適当だとした。

さらに、健康・福祉確保措置の内容を「事業場における制度的な措置」と「個々の対象労働者に対する措置」に分類したうえで、「それぞれから1つずつ以上を実施することが望ましいことを示すことが適当」と、新たな仕組みを提言した。

みなし労働時間の設定と処遇の確保についても触れ、みなし労働時間の設定にあたって「対象業務の内容、賃金・評価制度を考慮して適切な水準とする必要があること」や「対象労働者に適用される賃金・評価制度において相応の処遇を確保する必要があることを示すこと等が適当」だと述べた。

決議に先立ち使用者が労使委員会に賃金などを説明すべき

労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保に向け、労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上について言及した。

まず、「決議に先立って、使用者が労使委員会に対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明する」ようにすることが適当だとし、「労使委員会が制度の実施状況の把握及び運用の改善等を行う」ことを求めた。

また、「労使委員会の委員が制度の実施状況に関する情報を十分に把握するため、賃金・評価制度の運用状況の開示を行うことが望ましいことを示すこと」「労使委員会の開催頻度を6カ月以内ごとに1回とするとともに、労働者側委員の選出手続の適正化を図ることとすること」「専門型についても労使委員会を活用することが望ましいことを明らかにすること」も提案した。

苦情処理については、「本人同意の事前説明時に苦情の申出方法等を対象労働者に伝えることが望ましいことを示すこと」や「労使委員会が苦情の内容を確実に把握できるようにすること」、「苦情に至らないような運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいことを示すこと」を促している。

〔年次有給休暇〕

時間単位取得は年5日を超えて取得したいとのニーズに応えるべき

年次有給休暇については、2025年までに「年次有給休暇の取得率を70%以上とする」という政府目標があることから、「年次有給休暇の取得率の向上に向け、好事例の収集・普及等の一層の取組を検討することが適当」とするとともに、年5日以内とされている年次有給休暇の時間単位での取得について、「年5日を超えて取得したいという労働者のニーズに応えるような各企業独自の取組を促すことが適当」と、見直しを求めた。

〔今後の労働時間制度についての検討〕

今後の労働時間制度についての検討にあたっては、働き方改革関連法で導入または改正された時間外労働の上限規制、フレックスタイム制、高度プロフェッショナル制度、年次有給休暇制度などが「同法の施行5年後に施行状況等を踏まえて検討を加え、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずること」とされていることから、「今後、施行状況等を把握した上で、検討を加えることが適当」とした。

検討の際には、「働く方の健康確保という原初的使命を念頭に置きながら、経済社会の変化や働き方の多様化等を踏まえ、働き方やキャリアに関する労働者のニーズを把握した上で、労働時間制度の在り方の検証・検討を行うことが適当」だとした。

報告をうけ厚生労働省は、無期転換ルール、裁量労働制、有期労働契約の締結などについて、施行規則などの改正作業を現在進めている。

(調査部)

2023年3月号 スペシャルトピックの記事一覧