33兆1,686億円で過去最大規模。「人への投資」を柱に据えて、賃上げや人材育成を積極的に支援
 ――厚生労働省の2023年度予算案

スペシャルトピック

政府が2022年12月23日に閣議決定した2023年度予算案では、一般会計総額が過去最高の114兆3,812億円となった。厚生労働省の予算額は33兆1,686億円で、2022年度予算(32兆6,304億円)を5,382億円(1.6%)上回り、こちらも過去最大。岸田政権の掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、物価上昇に負けない中長期にわたる構造的な賃上げを推進するため、「人への投資」を抜本的に強化する。政府は「人への投資」に2022年度からの5年間で総額1兆円を投入するとしているが、2023年度は厚生労働省予算として1,510億円を計上。労働者の学び直しやスキルアップを支援し、デジタル分野など成長産業の生産性を高め、賃金上昇の好循環をめざす。

成長と分配の好循環に向けた「人への投資」などが事業の柱

厚労省予算案は、①コロナ禍からの経済社会活動の回復を支える保健・医療・介護の構築②成長と分配の好循環に向けた「人への投資」③安心できる暮らしと包摂社会の実現――が3本柱。雇用関連の施策は主に②に盛り込まれている。

成長と分配の好循環に向けた「人への投資」に向けた予算では、①「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージ②多様な人材の活躍促進③多様な働き方への支援――の3分野に分けて予算計上した(図表)。

図表:成長と分配の好循環に向けた「人への投資」の主な事業
画像:図表

(公表資料から編集部で作成)

「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージでは、「物価上昇に負けない継続的な賃上げを強力に推進する」と強調。中長期の構造的な賃上げを実現するため、「人材の育成・活性化と賃金上昇を伴う労働移動の円滑化の一体的な取組を推進する観点から『人への投資』の抜本強化を図る」とした。多様な人材の活躍促進では、女性活躍推進や高齢者の就労・社会参加、就職氷河期世代の活躍支援などを図ると打ち出している。多様な働き方への支援では、個々の希望に応じた多様な働き方の選択とその活躍が可能な環境の整備を行うとしている。

「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージ

中小向けの業務改善助成金など「労働者の賃上げ支援」に107億円

具体的な事業内容を「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージの分野からみていくと、労働者の賃上げ支援に合計107億円を計上。主なものを紹介すると、事業場内で最も低い時給を引き上げ、生産性向上のための設備投資を行った中小企業事業主に「業務改善助成金」で支援(10億円)。また、19億円を付け、非正規雇用労働者の基本給を3%以上増額改定した事業主に、キャリアアップ助成金による支援を行う。

同一労働同一賃金の徹底もはかる。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が労働基準監督署と連携を強め雇用均等指導員を増員するなどし、事業主に対する助言指導を強化する(7.5億円)。

「人材の育成・活性化」には1,000億円を超える予算を計上

「人材の育成・活性化」に1,138億円を計上した。なかでも柱は、658億円を充てた「人材開発支援助成金」事業。企業におけるデジタル人材の育成や事業展開に伴う労働者のスキル習得支援のため、職業訓練を実施する事業主に、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する。企業内の人材育成を効果的かつ柔軟に支援し、雇用者の職業能力や労働生産性の向上をはかる。

産業雇用安定助成金事業に計182億円を投入し、新たに「スキルアップ支援コース」と「事業再構築支援コース」を設ける。スキルアップ支援コースは、スキルアップを目的とした在籍型出向を支援し、雇用機会の増大と雇用安定をはかる。在籍型出向により、自社では得られない経験や技術を習得し復帰した労働者の賃金を上げた事業主に、1,000万円を限度に助成する。事業再構築支援コースでは、新型コロナウイルス感染症の影響などで事業再構築を余儀なくされた事業主が、必要な人材を雇うにあたり、1人280万円を限度に助成する。

経済社会の変化に応じた労働者の学び直しの支援にも注力する。「教育訓練給付」の充実と支援の拡大に117億円を投じる。デジタル分野など成長分野の講座を拡大するとともに、習熟状況に応じてカリキュラムを一部選択制にするなど、柔軟に受講できるようにする。また、オンラインや土日・夜間対応の講座を増やし、働きながら受講しやすい環境を整備する。

また、働く人の学び直しやキャリア形成の支援を総合的に支援するため、22億円を充て、新たに「キャリア形成・学び直し支援センター(仮称)」を創設する。全国の各拠点にキャリアコンサルタントを配置し、ジョブカードを活用してキャリアコンサルティングを行い、働く人の学び直しとキャリア形成を後押しする。

「賃金上昇を伴う労働移動の円滑化」に747億円

個人の意識や社会構造が大きく変化するなか、自律的なキャリア選択やライフステージに応じた多様な働き方へのニーズが高まっている。労働市場を強化・見える化し、賃金上昇を伴う労働移動が円滑に行えるよう、賃金上昇を伴う労働移動の円滑化には総額で747億円を盛り込んだ。

内訳をみると、事業規模縮小などで離職する労働者の移動を支援する助成金(早期雇入れ支援コース)に167億円を計上。コロナ禍で不安定な経済情勢が続くなか、賃金を上昇させながらの労働移動を支援する。離職後3カ月以内に、期間の定めのない労働者として雇い入れた企業に、1人あたり原則30万円、賃金を上昇させた場合にはさらに20万円を助成する。採用後に訓練を実施した場合にはその費用を一部支給する。

「特定求職者雇用開発助成金」(成長分野等人材確保・育成コース)には155億円を計上。高年齢者や障害者、就職氷河期世代などの、いわゆる就職が特に困難になっている人をデジタル分野やグリーン分野で雇い入れた事業主に、通常の1.5倍の助成を行う。

多様な人材の活躍促進

深刻な労働力不足が続くなか、全ての人々が意欲・能力を活かして活躍できる環境の整備が強く求められている。女性(45億円)や高齢者(235億円)、障害者(186億円)、外国人(104億円)、就職氷河期世代や若年者・新規学卒者(726億円)の活躍支援にそれぞれ予算を計上し、多様な人材、特に比較的就労が困難とされる人々の支援を充実させる。

マザーズハローワークでは専用窓口で子連れ来所を支援

具体的な内容をみると、「マザーズハローワーク事業」に40億円を計上。専用支援窓口を設け、子連れで来所しやすい環境を整備し、求職者の状況に応じた個別支援を行い、子育て中の女性の就職支援を強化する。

高齢者の就労支援としては、シルバー人材センター等補助金に141億円を積むほか、「生涯現役支援窓口事業」に28億円を充て、60歳以上の高年齢求職者に、職業生活の再設計の支援や、個別ニーズや就労経験に応じた専門の支援チームによる就労支援などを行う。

障害者雇用の経験や雇用ノウハウが不足している企業に、ハローワーク中心に一貫して支援する「障害者雇用ゼロ企業等に対する企業向けチーム支援の実施等」事業には10億円を組む。また、通常の職場で勤務が困難な障害者の雇用機会を確保するためのテレワーク推進事業には7,500万円を盛り込んだ。

外国人雇用支援には、外国人技能実習機構交付金に前年と同水準の62億円を計上するほか、企業での外国人労働者の適正な雇用管理の推進に12億円を充てる。年々増加する外国人労働者の職場定着に向け、助言・指導や就業状況の的確な把握、事業主への講習などを通じて適正な雇用管理を図る。

全国の地域若者サポステでキャリコンが個別相談に応じる

就職氷河期世代など、働くにあたって困難な課題を抱えている若者(15~49歳の無業者)が職業的に自立できるよう、就労自立支援を行う地域若者サポートステーション事業には48億円を投入する。全国およそ180カ所のステーションでキャリアコンサルタントが個別相談に応じ支援計画を作成し、ニーズに応じたプログラムを提供する。

新型コロナウイルス感染症の影響などで多くの課題を抱える新規学卒者の支援には、86億円を割り当てる。全国55カ所の「新卒応援ハローワーク」に就職支援ナビゲーター1,200人あまりを配置し、きめ細かな個別支援を行い新規学卒者等への支援をはかる。

多様な働き方への支援

誰もが働きやすい社会を実現するため、労働者個々の希望に応じた多様な働き方を選ぶことができる環境の整備が重要となっていることから、働き方改革を着実に実行し、多様な働き方を支え、人々が個々の能力を発揮して活躍できる環境を整備するとして、「多様な働き方への支援」に、両立支援等助成金の拡充(100億円)など、計132億円を計上した。

ワンスポット相談でテレワークの普及・定着をはかる

内訳をみると、テレワークを適正な労務管理のもと実行するためのテレワーク・ワンスポット・サポート事業に1.2億円を計上。労務管理とICT(情報通信技術)双方についてワンスポットで相談に応じる。特に、テレワークの普及が進んでいない業種に積極的に働きかけコンサルティングを拡充し、導入・定着推進をはかる。

男性が育児休業を取得しやすい環境の整備を進めるイクメンプロジェクト(1.3億円)や、中小企業の育児・介護休業の円滑な取得・復帰に向けた支援事業(3億円)にも予算を充てる。

「働き方改革の推進、ハラスメント対策」には182億円を組む。具体的には、新規事業として、「働き方改革推進支援助成金」(適用猶予業種等対応コース)に42億円を計上。2024年4月には、時間外・休日労働の上限規制の猶予事業・業務への適用が予定されているが、特に建設業など一部業種では著しい長時間労働の実態にあり、こうした業種・業務の労働時間短縮等に向けた支援を行う。

また、職場のハラスメント(就活ハラスメント、カスタマーハラスメントを含む)撲滅のため、事例収集、周知・啓発、相談支援などの総合的ハラスメント防止対策事業には6.4億円を計上する。職場のハラスメントは複合的に生じることも多く、総合的・一体的な対策で効果を上げたい考えだ。

キャリアアップ助成金事業に829億円を充て正社員化を支援

「非正規雇用労働者への支援、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、働く人の相談支援の充実、働く環境改善等」には1,179億円を盛り込んだ。

非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主に、包括的に助成する「キャリアアップ助成金」事業に829億円を計上。有期雇用から正規雇用にキャリアアップした従業員1人につき、57万円を支給するなどが主な内容。

ステップアップをめざす非正規雇用労働者を支援するための「求職者支援制度」には268億円を充てた。雇用保険を受給できない求職者を対象に、雇用保険と生活保護の間をつなぐ第2のセーフティネットとして、無料の職業訓練や月10万円の生活支援給付金を支給するなどして再就職を支援する。

働く人のメンタルヘルスに関する総合的な情報提供や相談等を行う働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」による相談支援等の充実に3億円を充てる。労働時間や健康・ストレスチェックを管理する健康管理アプリのサービス対象を個人事業主等にも拡大する。

(調査部)

2023年3月号 スペシャルトピックの記事一覧